【 アムトラックはどこへ行く その2 】 [鉄道]
【 アムトラックはどこへ行く その2 】
私がシカゴにいた頃です。同僚のAさん夫婦のお母様が日本から訪ねてくるのに、飛行機ではなくアムトラックを利用される・・と聞いて、不思議に感じました。勿論、日本から鉄道で来られるはずもなく、西海岸まで飛行機で、そこからシカゴまでは鉄道の旅・・という訳です。外交官夫人として、諸外国を経験され、某国の大使夫人も勤められた方ですから、外国での移動には慣れたもので、今回は車窓から眺めるロッキー山脈の風景を楽しまれるとのこと・・。アムトラックの展望車輛にはガラス張りの天井があって、一大パノラマが眺められるのだそうです。
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「はあ、なるほど鉄道の旅というのも優雅なものだ」と思っていると、日系人秘書のおばあさんが、「私が強制収容所を出て、シカゴに来た時の鉄道の旅は全く楽しくなかったけれど、今は汽車の旅は優雅で楽しいものなのね」と言います。なるほど・・。
その頃、米国大陸の旅は、ぜいたくなものから順番に言うと、
1.自家用機、チャーター機
2.鉄道
3.エアラインの飛行機
4.自家用車
5.乗合の長距離バス ということになりました。
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自家用機やチャーター機は論外として、鉄道の方が飛行機より贅沢というのが、よく分かりませんでしたが、長距離を移動する時間のコストも考えると、飛行機は、案外割安な移動手段となります。 そして、その頃、米国社会でおこった現象は10年遅れで日本でも起こる・・と理由も無く考えていました。 今考えると、結構あたっています。
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今、日本では、格安航空会社LCCが充実し、新幹線より安い料金で利用できます。私が鹿嶋と広島間の移動にもっぱら格安航空会社を利用していることは、このブログの読者ならご存知のはずです。
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しかし、アムトラックの経営陣は、鉄道の旅を飛行機より高価で優雅なものとすることを認めているのか?長距離の旅客搬送で飛行機より割高な鉄道というのは、不自然ではないのか? 私はそんな疑問を持ちましたが、実はその前からアムトラックの迷走は始まっていました。
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旅客鉄道の存在意義は、下記の3点のどれかです。
1.長距離の旅客の搬送のための交通機関
2.通勤通学のための輸送手段(コミューター)
3.観光客やリゾート客を対象とした観光設備(リゾート・観光鉄道)
この3つは、本来経営効率からは、分離する必要があるのですが、アムトラックは1と3を混同しました。というよりも2匹のウサギを追おうとしました。
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アムトラックをAさんのお母様が利用した観光列車として考えた場合、シカゴから西側でのみ成立すると言えます。一方、シカゴから東側では観光列車はなかなか成立しません。 さらに言えば、シカゴから東とシカゴから西では鉄道のゲージ(軌道幅)は同じですが、鉄道としては全く別ものです。
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米国で初期に発達した東側の鉄道は、アパラチア山脈をトンネルで通りました。従って、車輌の大きさはトンネルポータル(つまりトンネルの間口)で制約されます。
一方、西側の鉄道は、ロッキー山脈をトンネルではなく、湾曲した迂回路で通過します。だからロッキー山脈の雄大な景色を車窓から眺められます。またトンネルを通らないため、車輌はどんどん大きくできます。昔の蒸気機関車(SL)は動輪の直径で最高速度が決まり、大型の機関車ほど高速になりました。だからWesternと名前が付く鉄道の機関車はひたすら大きいのです。 寝台車や客車も大きくでき、乗客はその分、快適になります。 そして東と西の列車が出会い、乗り換えたのがシカゴのユニオンステーションです。
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シカゴ郊外のイリノイ鉄道博物館に行けば、両方の機関車を見る事ができ、その対比の面白さに気づきます。
ヒッチコックの映画「北北西に進路を取れ」で、主人公はニューヨークからシカゴまで、飛行機ではなく寝台列車で移動します。その間にヒロインと出会う訳で、ここは列車でなければならないのですが、美しい車窓の景色は映画に登場しません(当たり前ですが)。そしてシカゴのミッドウェイ空港からサウスダコタのラシュモア山までは飛行機での移動になります。
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話が脱線しましたが、アムトラックがリゾート・観光鉄道を志向するなら、高額な乗車券で、豪華な列車に贅沢なサービス、ゆっくり走らせて少人数を運ぶだけでいいのですが、それが通用するのは西側半分だけです。 東側は普通の長距離ビジネス客用に、速くて安くて大量に運べる鉄道を用意する必要があります。 正反対のコンセプトで、同じ鉄道会社で走らせる意味がありません。
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アムトラックは、いずれ、飛行機に対抗して、長距離ビジネス客を高速、安全、正確、安価に運ぶ事に集中することになるでしょう。その場合は新幹線のように高速鉄道の新線を建設するしかありません。 問題はそれが日本方式の導入なのか、他の国の方式なのか・・ですが。
観光に特化した豪華なリゾート列車はスイスや北欧などにまかせておけばよく、交通の大動脈を担う鉄道は、安全、正確、高速、安価を第一番に考えるべきです。アムトラックはその方向に進もうとしています。
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これは、アムトラックだけの問題ではありません。日本でも同じことです。最近JR九州では、豪華列車「ななつぼし」の運行を開始し、話題を呼んでいます・・というよりJR側がマスコミに盛んにPRし、マスコミもそれに乗っています。 オリエント急行などを知った人が、日本にも豪華な列車があってもよかろう・・と考えたのか、九州新幹線以外に何か話題が欲しかったのか・・、「ななつぼし」のプロジェクトの旗振りをしたのは、今のJR九州の社長だとか・・。
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しかし、この手のプロジェクトは本来JRが行うべきことなのか? JR九州はJR東海やJR東日本と違い、ドル箱を持たず、常に経営は厳しい状態です。いかに「ななつぼし」の人気が高く、料金が高くでも、一編成30億円の車輛に対して、一度に28人の旅客しか乗車できず、1週間に1回の運行では採算がとれるか微妙です。 一部のお金持ちだけが感動を味わう、話題性のみがあるリゾート列車を酔狂で走らせてはしゃいでいる余裕はないはずです。本州のJR各社は、結局、豪華寝台列車を全て中止しました。
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意地悪な言い方ですが、今、マスコミは「ななつぼし」を持ち上げ、囃していますが、もしどこかで事故でも起ころうものなら、一転して「ななつぼし」などで浮かれているからだ・・と非難の材料に使います。実際のところ、JR九州もJR北海道と本質的な差はあまりなく、いつ事故が起こっても仕方ない状況であると私は危惧します。
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今から30年ほど前、日本航空は国内線の優等席であるスーパーシートの導入を準備していました。しかし、その矢先に御巣鷹山のジャンボ機墜落事故が発生し、スーパーシートで浮かれている場合か?という議論が湧き、導入は大幅に遅れ、全日空に先を越されました。
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もし私がアムトラックの経営責任者であれば、どんなにお金がかかっても、新幹線のシステムを導入し、安全運行に全ての労力を費やします。ロッキー山脈の展望列車は犠牲になってもしかたありません。そして、日本のJR各社に対しても一言進言したい。豪華でスマートな列車を導入して話題作りするより、地味であっても運行の安全に労力とお金を使え。安全はこれで充分ということはないのです。常に謙虚でなくては・・。社長が得意になって酒井田柿右衛門の美術品を装備した車輛を自慢するようでは、危ういのです。
【 アムトラックはどこへ行く その1】 [鉄道]
【 アムトラックはどこへ行く その1】
先日、米国の東海岸で起こった列車事故はやはり、カーブでのスピードの出し過ぎが原因のようです。
http://www.yomiuri.co.jp/world/20150515-OYT1T50053.html?from=ytop_ylist
制限速度が時速80Kmの緩やかなカーブに、その倍以上の時速171Kmで進入して、遠心力のために、外側に膨らんで脱線したようです。そうすると、日本で発生した福知山線の脱線事故と似た現象かな?と思いますが、かなり違う部分もありそうです。フィラデルフィアの場合は、先頭車両(機関車)がほとんど壊れず、原形をとどめています。速度もかなり違います。ATSの有無については不明ですが、多分、その手の装置は無かったはずです。ロイター電では、”高度な安全装置”が無い区間・・という奇妙な表現で説明していますが、要は進化型のATSが無かったということです。
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Chicago Tribune紙によれば、事故調査にあたるNTSBは、自動速度制御装置の設置を要請していた区間なのに、設置されていなかった・・と、苦言を呈しています。同紙は社説でも、もし速度制御装置があったなら事故を防げていたかも知れない・・と語っています。
http://www.chicagotribune.com/news/nationworld/ct-amtrak-crash-safety-20150514-story.html
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非常ブレーキがかかったのは、脱線する直前で間に合わなかったそうですが、その非常ブレーキが運転士によってかけられたものか、列車が装備している一種のリミッターなのかは不明です。Chicago Tribune紙によれば、運転士は事故の瞬間の記憶を喪失しているそうです。 話が脱線しますが、この運転士は10代の頃から鉄道に憧れ、アムトラックに乗務することが夢だったそうです。 このあたりも、福知山線の脱線事故の高見運転士に似ています。
http://www.chicagotribune.com/news/nationworld/ct-amtrak-engineer-20150514-story.html
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私は、ATSは、あるに越した事はないけれど、アムトラックの安全確保を考える上での優先順位は低いと思います。
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本来、ATSが重要な役割を果たすのは、ダイヤが混み合っている区間です。具体的には、先行列車への追突の危険がある場合、一つの事故の箇所に後続列車がぶつかり、複合事故が起こりうる場合、ターミナル駅の終点で止まれない場合などでATSは非常に有効です。 例えば日本の首都圏がその代表です。 かつて日本では三河島事故や鶴見事故を経験し、ATSの重要度が強く認識されました。 (ただし、福知山線の事故で遺族が重要視している速度制御型のATSは別物です)。
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そしてATSは閉塞型信号システムと連動して、効果を発揮します。 中国の福州の近郊で発生した高速鉄道の追突事故はATSと閉塞信号システムが有効に機能していれば防げたものです。ちなみに日本の新幹線はその進化形であるATCを装備しています。
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アムトラックの場合、ダイヤはそれほど稠密ではなく、ATSの効果は限定的です。むしろ問題は全く別のところにあります。今回事故があったフィラデルフィアを含む東北回廊と呼ばれる区間はアムトラックが保有する自社路線ですが、大陸全体をみると、他の鉄道会社の路線を借りて旅客列車を走らせる方式です。 そこに問題があります。
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日本は社会の多くのシステムを米国から導入して、いろいろなものが米国のそれに似ていますが、鉄道は全く別です。むしろ鉄道のシステムは正反対と言うべきです。
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日本では経営が成り立たなくなった国鉄を解体して、分割民営化しましたが、米国は逆に経営不振の民間鉄道の旅客部門を統合して全米規模の鉄道公社を作りました。それがアムトラックです。そして日本は旅客列車中心ですが、米国は貨物列車主体で、旅客列車は、貨物鉄道の線路を借りて運行する形です。そして、日本ではなるべく旅客線と貨物線を分離する方針ですが、米国では通勤電車を除けば、同じ線路を走ります。そしてこれが問題なのです。
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旅客列車と貨物列車では走行速度が全く異なります。車輛の重量も編成も異なり、線路への負荷も違います。だから、安全を考えれば旅客線と貨物線は分離するのが適当なのです。 時速170Kmでカーブに進入したから脱線したと、マスコミは言いますが、これは貨物線のカーブだからです。日本の新幹線の場合、品川=新横浜間や、名古屋駅付近には曲率の大きなカーブがたくさんあります。そこを時速200km以上でのぞみは通過しますが脱線しません。
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それは線路に高速通過を前提としたカントを付けているからです。カントとはカーブで外側のレールを高くして車体を傾け、遠心力の影響を相殺するものです。つまり、カーブには最適の通過速度がある訳で、貨物列車用のカントを設定した線路を高速で旅客列車が通過すれば、脱線の危険があります。
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対策は3つあります。
1.高速旅客列車専用の線路を建設し、貨客分離を図る。つまり新幹線の建設です。
2.低速の貨物列車用のカントを設定したカーブを、高速で通過できるように、振り子型台車を付けた振り子車輛を採用する。
3.設定以上の速度が出ない様に機関車のスピードリミッターを厳格化する。または日本の新幹線方式のATCを導入する。
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理想は、上記の3つを全て採用することですが、当然ながらお金が必要です。米国政府がアムトラックを作った時は、個々の民間の鉄道会社では、もはやインフラ整備の費用が賄えないと判断したからですが、公社になった後も費用をケチっています。
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日本のTV東京の番組ワールドサテライトニュースでは、アムトラックの車輛の老朽化を問題視していました。「アムトラックの平均の車輛年数が28年、最も古い車両は60年以上使用されている。日本の新幹線が平均15年で更新されるのに比べて、これは古過ぎる。(事故が起こってもしかたない・・)」というトーンでまとめていましたが、これは全くナンセンスです。
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クレーンなどの輸送機械の寿命は法律などで厳格に規定され、必要なメンテナンスが定められています。逆に言えば、その法規に従って、適切に部品交換や点検修理を行えば、機械寿命は大きく伸びます。日本でも比較的最近まで0系の新幹線が走っていましたし、西日本ではあの500系の新幹線がまだ現役で活躍しています。
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それに車輛の老朽化は、個々の個体について論じる必要があり、事故を起こした車両が、製造後何年経過したものか、そして過去に適切な点検と修理・部品交換がなされていたかが重要です。それなしに、全車両の平均値の話をしても、専門家に笑われるだけです。 ああっ、ちょっと自慢をしますが、オヒョウの学校時代の専門は機械工学科の安全工学です。今となっては、誰も信用しませんが・・・トホホ。
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TV東京のニューヨーク駐在員の説明は、例えて言えば、広島市の土砂崩れの災害を年間平均降水量の値から議論するようなものです。どうしてもインフラの老朽化に言及したければ、車輛よりも線路、レールの方が重要です。それも、線路側に問題があることが明らかになってからでも遅くはないでしょう。
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しかし、アムトラックの問題の本質は、カントの値でも、車輛の老朽化でもATSの有無でもありません。 高速鉄道という、乗客が安全ベルトをしないで時速200Kmで移動できる、唯一の交通機関を、米国政府と米国の利用者がどう考え、どう育てていこうか・・という方針がはっきりしていないことです。 その問題点については次号で申し上げます。
【1992年12月7日】 [鉄道]
これは、10年前に、福知山線脱線事故について書いた雑文です。
始まりはさらにその13年前にさかのぼります。
【1992年12月7日】
私の欠点の一つですが、少し外国語が話せるようになるとやたらに饒舌になる事があります。 外国語の会話で、特に難しいのは交渉事、相手に苦情を言ったり、それを受ける事であると、私は考えますが、少し言葉が話せる様になるとそれを外国語で言ってみたくなるのです。
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1992年12月7日、午後8時、私は、勤務先のシカゴ事務所から郊外のGlenviewにある自宅へ帰ろうと急いでいました。北向きの郊外列車は8時10分に発車するのを逃すと、次は夜の10時迄待たなければなりません。
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シカゴユニオンステーションで、通勤列車の切符の回数券を買おうと、切符売り場に並ぶと、前にはウィスコンシン州へ向かう学生らしい青年がいて、出札係の人と、なにやら揉めています。私は後ろでイライラするばかりです。
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どうやら、学生は学生割引を使いたいらしいのですが、係員は、それは長距離鉄道(アムトラック)用で、近距離の郊外列車には使えないと言っている様です。数分間も押し問答した挙げ句、漸く学生はあきらめて、窓口を離れ、やっと私が切符を買った時は、8時15分になっていました。定刻を5分も過ぎています。
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列車はもう発車しただろうな・・・と思いながらも、急いで、あの、映画アンタッチャブルで乳母車が落ちていった階段を駆け上り、ホームに出ると、案の定、列車の姿はありません。やはり間に合わなかったか・・
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しかし小雪の舞い散るホームには多くの乗客がオーバーの襟を立てて立って居るではありませんか。気温はマイナス5℃です。乗客の一人に尋ねてみると、8時10分の列車はまだ到着していないとの事。ちょっと安堵感を覚えて、ホームで列車の到着を待っていると、今度はなかなか列車が来ないので、イライラします。
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何せ、氷点下の気温で立っているのですから。ちょっと苦痛です。駅からは、何の放送も案内もありません。多分、北の方の降雪が原因で列車が遅れているのだろうと、先程の乗客が言いますが、さだかではありません。
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結局、列車がホームに到着したのは8時30分で、20分の遅れ。私がホームで、震えていたのは15分間です。列車に乗り込むと、暖房の快適さで、気が緩むと同時に、むしょうに、話したくなりました。
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シカゴに来て3ヶ月が経ち、私は、漸く自分の言いたい事が、英語で少し表現できるようになって、内心はしゃいでいたのです。しかし発音は典型的なカタカナ発音でした。
私の隣には、サラリーマンとおぼしき、中年の白人男性が座りました。彼は、ホームで私が少し会話を交わした乗客です。私は彼に話しかけました。
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私は(列車が遅れたお陰で、自分が乗車できた幸運など、すっかり忘れ)、
「連絡もなく、何十分も鉄道が遅れるとは、全くひどい話だ。おかげで、こちらは危うく凍死するところだった」と話すと、相手の男性は、
「しかし、鉄道の遅れなどは、何時でもどこでもあるでしょう。」
そこで私は
「とんでもない。日本の鉄道は正確だ。理由もなく遅れる事はありえない。もし5分でも遅れたりしたら、責任を取って、コンダクターかステーションマスターがハラキリスーサイドだぜ!」 (私の表現の下品な雰囲気を出すためにカタカナで書きました)。
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すると、男性は、ちょっと驚いた表情をして、少しだまってからこう言いました。
「それで、ノムラとクルスはどちらがハラキリしたのかね?」
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一瞬、理解できませんでしたが、すぐに思い出しました。思い出したのは、2つの項目です。
1.そういえば、昨日TVで映画「トラトラトラ」をやっていたな。
今日は真珠湾攻撃の日だ。(日本では12月8日だけど、米国では12月7日です)。
2.シカゴ赴任時に同僚が私に忠告していたな。
・日本と米国を比較する形で、米国を貶すな。つまらん事で刺激するな。
特に真珠湾攻撃の日や終戦記念日は・・・。
・日本とは違う、昨日の日付けの国で生活している事を忘れるな。
米国では、日本の宣戦布告(正式には交渉断念を伝えるもので宣戦布告ではありませんが)が真珠湾攻撃より2時間も後だったことに、憤慨している人が今でも多いのです。そして、それが日本人のルーズさによるものか、狡さによる意図的なものかを悩む人がいるのです。
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その後、グレンビューで下車するまで、私はずっと沈黙を保ちました。
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それから13年が経過し、JR西日本の福知山線脱線事故が発生しました。その時、私は中国に単身赴任していました。 脱線事故をTV報道で知った、息子が、Skype電話で私に話しました。
「お父さんの言った通り、脱線したのはボルスタレス台車の車輌だったよ」。
→ ご不明の方は拙稿【中国の鉄道2】をご参照願います。
私は、
「ボルスタレス台車で脱線が発生するのは、ポイント付近など、線路の曲率が大きく変化する場所だけだ。地下鉄日比谷線の脱線事故は該当するが、今回の福知山線の現場は違う。緩い湾曲部で脱線したなら、単なるスピードの出し過ぎだと思うぞ」
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やがて、この事故は第一報が紹介された後に、その事故の規模の大きさだけでなく、その原因が運転手の不可解な運転操作にあった事から、注目を浴び、「偏執狂的なpunctualityの追求がもたらした、日本特有の異常な事故」として中国でも続報されました。 定時出発と定時到着に、なぜそれほど、拘るのか?その為にスピードを出し過ぎて脱線するなんてありうるのか?
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中国の鉄道の感覚からみれば、確かに信じられない事故だったのです。
(信じられない事象・・・ということだけで考えた場合、中国の方が遙かに多いのですが)。
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この事件が、シカゴで報道されたかどうかは判りません。犠牲者の数を考えると、報道はされたでしょうが、その原因、あるいはその背景にある事情を分析して報道されたかは不明です。
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でも、1992年の12月7日に、シカゴで一緒に列車を待ち、Glenviewで降りたあのおじさんが、福知山線事故の原因を報道するTVを見たとしたら、私の事を思い出したかも知れません。
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あの変な発音の日本人が言っていた、正確無比なダイヤ運行を求める日本の鉄道の事も、全くの誇張ではないのだな・・・と、思ったかも知れません(明日の日付の列車事故のニュースを見ながら)。
【 シンデレラ・エクスプレス その3 】 [鉄道]
【 シンデレラ・エクスプレス その3 】
日本国内の長距離の旅客輸送手段は、棲み分けが進みつつあります。具体的には路線延長が進む新幹線、高速道路網の充実で路線が増えた高速バス、LCC参入で存在感を増す国内航空の3者が棲み分けをしています。その一方で在来線の鉄道は、長距離輸送では姿を消しつつあります。新幹線が走らない夜間の時間帯が、在来線長距離列車の生き残る場所だったのですが、夜行列車は姿を消し、そのお客は高速バスに奪われつつあります。
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JR自体も、夜は保線作業と貨物列車に割り当てたい・・という思いがあって、在来線の夜行列車には冷淡です。だからその分、JRにとって新幹線が重要なのですが、しかしその頼みの新幹線も夜12時から朝6時まで走れないというのでは、他の交通機関にお客を取られかねません。人々の生活はどんどん夜更かしになり、都市は24時間化が進んでいます。JRだけが、夜更かしをしませんというのでは、取り残されるのです。
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東京駅発の新大阪行きの「のぞみ」の終電は、9時20分発です。 しかし羽田空港に行けば、もっと遅い最終便があります。羽田発関空行の最終便は9時30発です。
私が、航空会社のCMを作るなら、東京駅で、シンデレラ・エクスプレスに乗車した恋人を見送った後、羽田空港で、また別の恋人を見送る・・というCMを作って差別化します。 東京駅のホームで流れるのが山下達郎なら、霧の羽田空港では映画「カサブランカ」で使われたアズタイムゴーズバイを流します。
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では、新幹線の空白の6時間を短縮する方法は無いのか?と考えると、これはあります。今、6時間かけている保線作業の時間を短縮するには、作業にあたる人を増やせばいいのです。単純に、人の数を倍にすれば時間が半分になるという訳ではありませんが、保線作業は人手を増やせば、時間短縮が可能な仕事です。そして今の新幹線には、財務的に余力があり、保線に従事する人の数を増やす事は可能です。
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私なら、保線作業に従事する人を2倍にして、毎日の保線作業時間を半分の3時間にします。そして終電を1時間半遅らせ、始発電車を1時間半早めます。その結果、大阪行きの「のぞみ」の終電の発車時刻を11時頃にして、新大阪駅到着時刻を午前1時30分にできます。 一方新大阪始発の一番電車の発車時刻を午前4時30分にすれば、午前7時に東京駅に到着します。 都内のオフィスには、普段の出勤と同じ時刻に出社できます。東北上越、山陽九州、北陸の各新幹線もそうすることで、旅客の利便性は増すと同時に、新幹線網の輸送能力は10%以上向上し、航空機や高速バスに対して非常に優位にたてます。
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それを実現するには、1日3時間の保線で充分かという検証が必要ですが、そのデータは溜まりつつあります。
世界の高速鉄道をみると、専用線だけでなく在来線を走っている例が多くあります。フランスのTGVも、韓国のKTXも在来線を走ります。 無論、専用線を走る時に比べて速度を落としますが、かなりの高速で走ります。 しかし、専用線と異なり、在来線は夜行列車も走り、毎日一定時間を保線作業に当てることができません。専用線に比べて乏しい保線環境の中で、安全がどこまで担保されているか・・・、フランスや韓国、ドイツ等ではデータに注目する必要があります。
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これまで高速鉄道の先進国であった日本は、外国の高速鉄道にあまり注目してこなかったかも知れません。でも、これからは各国で有益な技術情報を共有するべき時代だと私は思います。
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外国の状況を調査した結果、日本の新幹線でも、保線作業に毎日6時間も割く必要はない・・という結論が、いずれ発表される可能性があります。しかし保線に従事する「車輪の下」の人々が、自ら首を絞めるような結論を出すか? 「車輪の上」の人々に対して譲歩する結論を出すか、かなり微妙です。
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何といっても、保全屋は、何も問題が無くて当たり前、もし少しでもトラブルがあれば、責任を追及される立場です。 飛行機や高速バスとの競争に負けるとなっても保線時間の短縮には抵抗するかも知れません。 しかし何時か、午前1時過ぎの終電が東京駅から新大阪駅に向かって出発するでしょう。 その時の、CMのバックに流れるのは、イルカの「なごり雪」がいいかも知れません。
【 シンデレラ・エクスプレス その2 】 [鉄道]
【 シンデレラ・エクスプレス その2 】
日本の新幹線は、開業当初から深夜のダイヤは組まないという規則を貫いてきました。現在、午前0時から、午前6時までの6時間は、お客を乗せる電車は走りません。
実際、始発電車が6時発だったお陰で、その10数分前に発生した阪神大震災では、新幹線の橋が落ちるという大災害だったのに、死傷者はゼロでした。一部のマスコミは「神様がくれた13分」という表現でその幸運を表しています。
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深夜に電車を走らせないという方針は、保線サイドと運行サイドが協議した結果です。保線作業にどこまで時間を割けるかというのは、重要な問題であり、JR各社が悩むところです。 そして新幹線だけでなく、鉄道だけでなく、普通の工場でも、操業サイドと設備・保全サイドは、しばしば利害が対立して、葛藤があります。
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例えば、製鉄所の場合、設備の点検や修理のための停止時間は極力短くしたいという考えがあります。設備のメンテナンス中は、何も生産せず、コストだけがかかるから、業績にはマイナスとなります。 製鉄所の設備には、常時高温を維持しなければいけない設備もあり、長時間の停止は、技術的にも大変です。しかし、必要なメンテナンスを怠れば、どこかで突発の故障や予測できない事故が発生し、大きな損害を出すことになります。
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だから生産実績を上げたい操業サイドは、極力点検整備の時間を短くしたいし、設備故障や停止を恐れる設備・保全サイドは、必要な点検整備の時間を要求します。両者の立場は対立します。
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では設備・保全部門は、毎回必要な時間を確保して点検整備するだけで、進歩や改善はないのか?と・・なりますが決してそうではありません。 保全・設備部隊には、それなりにコスト合理化の課題があり、保全作業時間の短縮と、交換対象の絞込みなど、全体でのコストミニマム化を進めています。
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実はこの30年間で設備故障と予防保全の理論と技術は大幅に進歩しています。製鉄所の各工場ではかつては月に2回、保全日を設けていましたが、今は月に1回、工場によっては隔月になっています。 しかも1回の保全日当たりのライン休止時間はどんどん短くなっています。
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保全技術は近年長足の進歩を遂げていますが、それは設備診断技術、寿命予測技術、材料の疲労評価技術等が進んだからです。もっと言えば、故障してから修理する事後保全から、故障する前に部品交換することで全体のコストを下げる予防保全の思想に転換しつつあるのです。
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疲労したり磨耗する、設備や部品の寿命を正確に予測して、ギリギリのタイミングで交換したり手入れする訳ですが、事後保全の修理と異なり、計画的に、かつ短時間で実行できるので、全体の作業時間も短縮できます。
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それでも工場の現場では、操業部隊と設備保全部隊の主導権争いは残ります。優秀な経営者あるいは優秀な製鉄所長とは、操業部隊と設備保全部隊の意見をよく聞き、そのバランスをとれる人だ・・と私は思います。
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しかし、鉄道の場合は違います。工場設備のように、運行を停止して保全日を設けるということはできません。 また事故は絶対にあってはいけませんから、安全は経済合理性とは別の観点から考えなくてはなりません。
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そして、もうひとつ考えるべき問題があります。 内部の格差の問題です。実は誰も言いませんが、鉄道とはヒエラルキーの世界です。もっと言えば、「車輪の下」と「車輪の上」で分かれた世界です。別にヘルマン・ヘッセは関係ありません。
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「車輪の上」で列車の運行にあたる人達は、お客と接する、陽のあたる職場です。綺麗で格好いい制服を着て、エアコンのある場所で仕事をします。 一方、保線に従事する人つまり「車輪の下の人たち」は言わば裏方です。3Kを絵に描いたような仕事で危険もあり、時間に追われます。決められた作業を時間内に終えて、始発電車が遅れないようにする必要があるのです。時間内に作業を完了しなければ、「車輪の上」の人たちに責められる立場です。
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「車輪の下」は3Kの世界で、かつ人手を要しますから、下請けを使います。さらに下請けは、孫請けを使います。 鉄道の世界のヒエラルキーは多層化し、対立も深くなります。
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余談ですが、昨年JR北海道で脱線事故が相次ぎ、調べてみたらレール間隔(ゲージ)がデタラメだったという事件がありました。 私はこの事件の根底には、「車輪の上」と「車輪の下」の暗い対立があったのではないか?と想像します。
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話が脱線しましたが、旧国鉄の選良を集めてスタートした新幹線は、運行と保線の対立を避けることも経営上の課題だったはずです。 その結果、夜は電車を走らせず、保線の時間を確保する・・というルールができたのです。実際、新幹線に夜行列車を走らせようとか、夜間は貨物列車を走らせよう・・というアイデアはあったのですが、夜は保線のための時間という考えで却下されています。
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開業以来、乗客の死亡事故ゼロという実績も、そのお陰だと考える人もいるようです。
だから、シンデレラ・エクスプレスも午後9時20分には発車してしまうのですが・・・、それでいいのか? 実はこれからはそうはいきません。
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新幹線は、どんどん延びています。これから北海道まで延長すれば、終着駅到着までの時間はどんどん長くなります。 そうすると終電車の始発駅発車時刻は早くなるのです。せっかく線路を延ばしても、東京から終着駅まで1本の電車で行けないのではつまりません。
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そして東海道新幹線の輸送能力は限界に近づいているという問題があります。
(こちらは景気が良くなったり悪くなったりで、かなり変化しますが・・・)。
これ以上、列車の本数を増やそうとすれば、禁断の時間帯(午前0時~午前6時)を活用するしかありません。
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そしてもうひとつは競合する他の交通機関との競争の問題です。
それについては次号で
【 シンデレラ・エクスプレス その1 】 [鉄道]
【 シンデレラ・エクスプレス その1 】
仕事のことを書くのはご法度のブログですが、今回は少しだけ書きます。
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そうです。私が悪かったのです。冗長なスケジュールを組んだのも、会議が終わらず、だらだらと続いたのも、私の配慮が足りなかったからです。その日、呉の工場の会議室での打合せは、夕方まで続いていました。東京からの出張者は2人、営業のH部長と、某商社のFさんです。 2人とも帰りの電車の時間を気にしてイライラしているはずです。
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ようやく会議がお開きになったのは、夕暮れが迫った時刻です。広島駅で東京行きの最終の新幹線のぞみに接続する、最後の呉線の電車が広駅を発車する5分前です。もはや逆立ちしても電車には間に合いません。 H部長は駅の方角を見ながら苦笑いしています。Fさんの方は、スマホを取り出し、東京の本社の同僚に、出張がもう1泊伸びることになった旨を報告しています。 翌日の予定をいろいろと調整しているみたいです。ひょっとしたら心の中で「不好!」と罵っているかも知れません。
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私は・・と言えば
「これはもうどうしようもありませんね。あきらめてもう1泊していただくしかありません。そうと決まればジタバタしても仕方ありません。 『毒を食らわば皿まで』と言うではありませんか。 観念してゆっくりと晩御飯でも食べに行きませんか?」とひらきなおって呑気なものです。
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トラブルに遭遇して、しかもそれが自分の責任である場合、できる限り快活に振るまい、そして無責任を装うことが生き残る道です。 長年のサラリーマン生活で体得した術で、昭和生まれの私は、これを「植木等型の対応」と呼びます。
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H部長の方は、オヒョウのアレンジだから、こんなこともあるだろうと、広島のホテルを早々と手配したみたいです。 しかしFさんの方は何か考えています。
夕食へ向かう車の中で、スマホをとりだし、Fさんは「ああっ!」と悲しそうな声を出しました。 「東京行きの最終便が出発してしまいました。飛行機にも間に合いませんでした」。 広島空港は、かなり遠くです。 どう考えても最終便には乗れなかったのですが、Fさんはその可能性まで追求していたのです。
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「うーむ。最後まであきらめないで、可能性を探るとは根性のある人だ」
しかし、Fさんは飛行機がダメとなると、すぐに頭を切り替え、その晩のホテルと翌日のフライトの予約を、テキパキとスマホで済ませました。
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「うーむ。何と切り替えの早いひとだ。 プロの商社員とはこういうものか」とオヒョウは感心するばかりです。 私自身も商社マンの真似事をしたことがありますが、そうはいきません。アマチュアの商社マンでした。 「やはり本物は違う・・」
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二人と別れた後、私は運転しながら、自分をFさんに置き換えてシミュレーションをしてみました。
全く、自慢になりませんが、私はこれまでの人生で乗り物に乗り遅れたり、突然キャンセルされたり、乗る便を間違えて慌てたことは、たくさんあります。
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外国でその種のトラブルにあった時は、まず携帯電話で旅行代理店の担当者を呼び出してアドバイスを求めます。日本でその種のトラブルにあったら、まず家内を携帯で呼び出します。(このブログの長年の読者であれば、言わなくてもご存知ですが)。
家内は大抵パソコンかアイパッドの前に移動してネットを使って、進むべき方向、乗るべき交通機関、予約すべきホテルをアドバイスしてくれます。
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しかし、これからはそううまくいくとは限りません。 試しに頭の中で会話を予想します。
私 「 終電を逃してしまった。どうすればいいかナビゲートしてくれ 」
家内 「 自分で探せば?せっかくその為にスマホにしたのだから、試してみたら?」
私 「 しかし、そのスマホでこうやって君に電話している訳だから、今スマホは使えないよ 」
家内 「 だからぁ、私への電話なんてしなくていいから、自分でスマホの機能を使って探す方が先でしょ 」
( ああ、だめだこりゃ )
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そこで、はた!と私は気づきました。 ここで問題なのは、スマホを使いこなせるか否かではなくて、東京行きの新幹線の終電が何でこんなに早いのか・・という事ではないのか? 私は自分が会議をグズグズと長引かせたことはすっかり忘れてJRの責任を考えました。 唐突に私はシンデレラ・エクスプレスのCMを思い出しました。
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昭和の方ならご記憶でしょう。 JR東海の傑作CMで、夜9時に発車する大阪行きの最終ののぞみが登場します。 遠距離恋愛をする若い男女が、ホームで笑顔で別れ、そして9時ちょうどに電車は発車します。 バックの曲は山下達郎でした。
JR東海の新幹線は、遠距離恋愛を応援します・・とのことです。
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私はこのCMが全く理解できませんでした。 どうしてこのカップルは、午後9時に別れなければならないのか? 午後9時と言えば、これから大人の時間じゃないか?
清く正しい高校生の男女交際ならいざ知らず、大人の男女を午後9時に引き裂いておいて、何が遠距離恋愛を応援だよ。 どちらかというと恋愛を邪魔する「イケズ」じゃないか? JR東海は、山下達郎じゃなくて、「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ」という都都逸の方がふさわしいのではないか?
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補足説明をしますと、当時JRは新幹線の速度を上げ、東京=新大阪間を3時間以内で走る様になりました。 だから、東京発新大阪行きの終電は午後9時に発車するのです。それでも何とか新大阪には夜の12時直前に到着します。
以前より大阪行きの終電が遅くなったことで、恋人達の東京での時間はこれまでより長くなる・・とJR東海はPRしたかったのです。
12時前に到着する必要があるのは、馬車がカボチャになるからではありません。新大阪に遅く着いても、地下鉄や在来線の終電がないと困るからですが、もうひとつ理由はあります。 それは、新幹線は深夜12時から午前6時までは、列車運行を止め、保線作業に当てるからなのです。
12時迄に到着しなければいけないシンデレラは乗客ではなく、電車そのものだったのです。 しかし、これには多くの重要な問題があります。
それについては次号で申し上げます。
【 カリフォルニア高速鉄道 その2 】 [鉄道]
【 カリフォルニア高速鉄道 その2 】
時速200Km以上で走行する高速鉄道で、一番の老舗といえば、日本の新幹線ですが、開業から50年経った今、世界には高速鉄道が乱立しています。そして、それらはそれぞれに特長を持っています。
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日本の新幹線といえば、超過密ダイヤの中で驚異的な定時運行性を誇り、かつ乗客死亡事故ゼロの金字塔を打ち立てたシステムですが、これがカリフォルニア州の求めるシステムかといえば、そうでもありません。
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カリフォルニアには、サンディエゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコといった大都市が並びますが、一つ一つの都市の人口は、東京、横浜、名古屋、京都、大阪にはとても及びません。当然、その間を移動する人の数も東海道新幹線の乗客より少なくなります。過密ダイヤと大量輸送を特長とする日本の新幹線方式は当地では必ずしも必要でないのです。
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余談ですが、大都市が接近して並び、新幹線型のシステムがふさわしいのは、中国なら、上海=蘇州=無錫=南京、或いは北京=唐山=天津、北米で言えば、東海岸のボストン=ニューヨーク=フィラデルフィア=ボルチモア=ワシントンから滝線都市へと連なる都市群ぐらいです。 ご承知の通り、上海=南京間、北京=天津間は中国版新幹線が走り、米国東海岸の路線にはフランスのTGVが採用されました。
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一方 フランスのTGVが売り物とするのは、大量輸送能力ではありません。飛行機に優る快適な乗り心地と時速300kmに及ぶ高速走行です。ライバルは飛行機です。
スェーデンのSJ2000/(X2000)、スペインのAVE、ユーロスターやタリスも同じコンセプトです。 ただ、SJ2000は独自の振り子電車にしていることや、スペインのAVEはTGVに似ているけれど、独自のタルガ式台車を使用している点など、国によって微妙に違います。
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それらとは違う、イタリアのペンドリーノは曲率の大きい山岳地帯のカーブを高速で走りぬけるのが特長ですが、カリフォルニアにはこの特長は必ずしも必要ありません。
そうなると、カリフォルニアの高速鉄道は、TGV方式がいい・・ということになってしまいます。 東海岸と同じように西海岸もフランスに取られる・・・事になるかもしれません。
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しかし、そこで考えるべきは中国の存在です。 中国には独自の車輌設計技術などはほとんどありませんが、安価に製造する技術や、驚異的な短納期で土木工事を仕上げる技術はあります。
実は新幹線のプロジェクトというのはハイテク技術の結集であると同時に、ローテクである土木建設工事の塊でもあります。 費用面でも、車輌やシステムの費用と同様に土木工事の費用が馬鹿にならないのです。
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広くて長いカリフォルニアで、全線を高架化したり、全てを立体交差にして、踏み切りをなくすには莫大な費用がかかります。しかし踏み切りを残したままでは高速鉄道になりえません。 そうすると、中国の鉄建公団のような組織の出番になります。無論、おから工事にならないように監督する必要はありますが、中国が持つ、青海=西蔵鉄道工事で発揮したような高度の土木技術を活用することには意味があります。
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中国のゼネコン(厳密には中国にはゼネコンと呼ぶべき会社はありませんが類似した業態はあります)を土木工事に活用し、レールの上の設備はフランスが請け負うというのが、もっとも良い選択でしょう。 それなら中国の鉄道が持つ知的財産面での懸念もありません。
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しかし、それだけで良いのか?
実はそう簡単ではありません。カリフォルニアは、日本同様、あるいは日本以上に地震の多い地域です。過去に何度も大地震で大きな被害を出しています。
そして、TGVもICEも中国版新幹線も地震に対する備えは全くありません。世界で唯一、大地震でも怪我人を出さなかったという実績があるのは日本の新幹線だけです。
阪神淡路の大震災では、始発電車の発車前だったので参考になりませんが、新潟の中越地震でも怪我人を出さず、東日本大震災でも犠牲者を出していません。
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特に東日本大震災では、沖合いの地震計から緊急地震速報を感知して自動で急ブレーキをかけ、東北新幹線は急停止したのです。
あの大震災では、甚大な被害を出し、あまつさえ原発の爆発までが発生し、日本の科学技術が全て敗北したかのようなみじめさを味わいましたが、東北新幹線の急停車は、隠れた快挙であり、地震対策の勝利でした。ほとんど報道されませんでしたが。
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カリフォルニアの場合、相当数の地震は、世界最大級の活断層であるサンアンドレアス断層付近で発生します。 したがってその周辺に地震計を置いて、緊急速報を出すシステムは、極めて有効です。 (サンフランシスコ大地震のようにそうでない場合もありますが・・)
このシステムは、カリフォルニア高速鉄道には不可欠であると同時に、日本だけが実績を持つものです。
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これを売り物にしたら、日本の新幹線が受注する確度は非常に高くなるのですが、なぜかその話を聞きません。 これは、日立や川重、日本車輌という車輌メーカーではなく、鉄道総研やJR各社が持つノウハウであり、日本政府やJRが売り込みを図るべきものなのですが、その動きが見えません。
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このままではフランスのTGVと中国の土建屋に、カリフォルニアの高速鉄道が取られてしまい、その挙句、地震が発生したら極めて危険な電車に人々は乗らなければならないことになります。 だから何とか日本の新幹線の地震対策技術を売り込みたい。
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でもね、多分日本人のメンタリティとして、国家の悲劇であった、東日本大震災を商売の売り込みの道具には使いたくないな・・という気持ちがあるのでしょう。
おそらくアメリカ人にもフランス人にも中国人にも分からないでしょうが・・・。
また、3月11日がやってきます。
【 カリフォルニア高速鉄道 その1 】 [鉄道]
【 カリフォルニア高速鉄道 その1 】
以前から計画があった、カリフォルニア州の高速鉄道のプロジェクトが本格化しそうです。
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昔からカリフォルニア州は公害防止や環境対策に熱心で、重工業を州から追い出し、公害企業には罰金を科し、そして内燃機関の排ガスも州法で規制してきました。
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これは、教育水準の高い住民の意識レベルによる面も多いのですが、ロサンゼルスに限れば、大気汚染ゾーンに住宅街が広がるという、この都市特有の切実な事情もあります。ロサンゼルス付近は空中に逆転層ができやすい地形です。風の無い日には高度200m以下の層に黒い排気ガスの帯ができます。LAXに着陸する飛行機はその黒い層に向かって降下していくことになるので、あまり気分がいいものではありません。もっと気分が悪いのは、郊外の高台の住宅に暮らす人々です。自分の住宅の高さに排気ガスの帯ができるのですから・・・。しかし自動車の無い生活はロサンゼルスではありえません。
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だからカリフォルニア州は、マスキー法の時代から自動車の排ガス規制が厳しく、ゼロエミッション車の一定数の販売をカーメーカーに義務付けてもいます。電気自動車のメーカーであるテスラもこの州に工場を持っています。
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しかし、その先の公害対策となると、もはやマイカーをあきらめるしかありません。それは即ち、公共交通機関の活用であり、鉄道の活用つまりモーダルシフトです。 だから、カリフォルニアで鉄道、特に電化した鉄道が流行る・・と昔から思われていました。でもそう簡単ではありません。
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以前、ロサンゼルスではマイカーを利用できない低所得者層向けに地下鉄を導入しました。 住友商事がプロジェクトを受注し、日本製の車輛を導入したのですが・・、結局、低所得者の居住地域を通る電車内と駅の構内は治安が悪くなり、一般の市民には利用しづらいものになったのです。市民のためにと、税金で作った地下鉄ですが、一般の市民にはあまり利用されていないのです。
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電車だけでなく、バスにも似た面があります。 唐突ですが、カリフォルニアが舞台の映画「卒業」には2回路線バスが登場し、最後に主人公の2人が乗り込むのもバスです。そのバスの乗客は貧しいマイノリティとお年寄りだけです。そこに花嫁衣裳のキャサリン・ロスが飛び込むのが ひとつの演出です。 やはり、どうしてもカリフォルニアに公共交通機関は似合わないのか?(サンフランシスコのケーブルカーを除いて)。
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しかし、今度の高速鉄道計画は、通勤用の都市近郊電車ではなく、ロサンゼルスとサンフランシスコを結ぶ長距離高速鉄道です。対象とする乗客は、都市近郊電車とは違います。 マイカー代替と同時に航空機の乗客の取り込みを狙っています。 飛行機も排ガスを出す元凶だからです。 だから、カリフォルニア新幹線はうまくいくかも知れない・・と思うのですが、どうも気になる点があります。
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この新幹線プロジェクトには、シーメンスやボンバルディアといった世界有数の鉄道車両メーカーが名乗りをあげています。これにフランスのアルストムが加わり、日本の日立や川重、日本車輌が参加し、さらにイタリアのフィンメカニカと、中国の南車集団と北車集団が手を挙げたら、世界の車輌メーカーが全て揃う・・・と考えていたら、なんと日立がイタリアのフィンメカニカの鉄道車両部門を買収しました。
http://www.nikkan.co.jp/news/nkx0120150225aaax.html
イタリア独自の設計の振り子式高速電車 ペンドリーノ(その名もイタリア語で振り子ですが)と、英国も採用した日立の高速電車の技術が融合するのです。
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それに加えて、中国の鉄道車両メーカーも虎視眈々と狙うことになりそうです。
但し、まだ中国のメーカーが参入するのは早いのではないかな?
中国は、日本の新幹線技術を導入する際、他の国には輸出しないという契約を結んでいますが、それを反古にしています。 中国側の言い分は、日本のオリジナルの新幹線ではなく、中国が改良を加えたものだから、問題ないというものですが、国際的には全く通りません。
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中国が加えた「改良」とは車台(ボギー)のボルスターの改造やモーターの強化ぐらいに留まっており、とても中国オリジナルとは言えないのですが、中国の言い分は少しでも手を加えれば、全ての知的財産権は中国に帰属するというものです。
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日本だけが相手なら、それで日本が泣き寝入りして片付くかも知れませんが、カリフォルニアでは、ボンバルディアやシーメンスが相手となり、しかも土俵は世界で最も知的財産権に敏感なアメリカです。 そう簡単には行きません。アメリカはレーガン大統領時代に始めたプロパテント政策以降、世界で最も知的財産権を尊重する国なのです。
一方、中国の鉄道技術は、全てシーメンスやボンバルディアの友情の元に成り立っているのです。
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世界で最も標高の高いところを通り、世界で最も長距離を走る高原鉄道として有名な、青海=西蔵鉄道の与圧式の車輌は、ボンバルディア製です。上海を縦横に走る地下鉄はシーメンスとボンバルディアの技術を元にしています。 そして上海=北京間に代表される高速電車は、シーメンスと日本の技術の双方をもとにしています。だから、中国が彼らと争って、カリフォルニア高速鉄道を受注するのは知的財産権の事情から難しいのですが・・・、いろいろなウルトラCがあり、私は中国の北車集団と南車集団が受注する可能性が一番高いと考えます。その理由は後述します。
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それにしても不可解です。受注を目指して手を挙げるのは、鉄道車両メーカーばかりです。 でも本当に重要なのは、電車などではなく、新幹線というシステムです。だから契約者は日本のJRだったり、フランス国鉄、ドイツ国鉄であるべきで、販売するのは電車ではなく、TGVという列車のシステムだったり、ICEのシステム、或いは日本の新幹線のシステムであるはずです。
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かつて、ハードウェアの車輌と、ソフトウェアである運行管理システムや列車制御システムを別の国から買って、大混乱した例があります。 ご存知、台湾の新幹線です。
政治的な理由で、フランスのTGVと日本の新幹線の折衷型となったこの国の新幹線は、営業開始まで大変な苦労があったそうです。 そのお陰か、開業後は大きなトラブルは起きていません。もっとも経営はまさに文字通り火の車ですが・・・(この駄洒落は中国語でご理解ください)。
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米国がその轍を踏むとは思えないので、彼らはシステムとしての高速鉄道をひとつの国から購入するはずです。 それなら実績のある日本の新幹線だろう・・という考えはかなり甘いと思います。 その理由は次号で申し上げます。
【 新幹線と飛行機 】 [鉄道]
【 新幹線と飛行機 】
いよいよ、私の郷里である金沢まで新幹線がのびます。既に金沢を離れてから40年が経過し、時々、帰省するだけですから、実際には北陸新幹線を利用する機会もそれほどある訳ではないのですが、それなりにウキウキします。
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話は飛躍しますが、岐阜県高山市の出身であった母方の祖父は、昭和8年の高山線の全通をとても喜んだそうです。その時、既に高山には家もなく、家族もいない故郷だったのですが、それでも鉄道ができると嬉しかったとのこと。なんとなく、その気持ちが理解できます。
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そして、面白い事に、新幹線の開通は新幹線を利用しない人にとっても、メリットをもたらします。JRは新幹線の運賃を飛行機の正規運賃より、わずかに低く設定しましたが、それをみて、早速、JALとANAは新しい運賃割引を設定して対抗策をとりました。
北陸地方でも飛行機と新幹線の競争が始まったのです。これは飛行機を利用する人々にも福音です。
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北陸新幹線の開通で、富山空港=羽田線の飛行機は全滅するかも知れません。小松空港、およびのと空港と羽田空港を結ぶ路線は生き残るでしょうが、それなりに打撃を受けるはずです。でも、そういう現象は50年前からあり、北陸地方で今起こるというのはいささか遅いのです。
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新幹線の歴史は飛行機の国内線との戦いの歴史でもあります。
東海道新幹線ができた時、名古屋(小牧)=羽田の航空便は全滅しました。大阪(伊丹)=羽田線は生き残りました。上越新幹線ができて、新潟=羽田線は全滅しましたが、中越地震で新幹線が不通になった期間、新潟便が復活しました。一方、山陽新幹線ができても福岡(板付)=羽田線はあまり影響を受けませんでした。九州新幹線ができても、鹿児島=羽田線は殆ど影響を受けていません。一方、秋田、山形新幹線は、それなりに地方の航空便に影響を与えました。
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そして今、日本の新幹線と航空機の競争は、北陸新幹線の金沢開通で一段落し、それなりに棲み分けができそうです。 その後に完成する北海道新幹線(新函館北斗まで)は、北海道と東京を結ぶ航空便にあまり影響を与えないと思われます。九州新幹線長崎ルートもあまり影響なさそうです。
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関東地方に勤務した頃、西の方角への出張で、どこまでなら鉄道、どこから先は飛行機にするのか?という話題で同僚と話したことがあります。 皆の回答は、岡山までなら新幹線、広島から先は飛行機で・・というものでした。
「では、途中の福山は?」と尋ねると、「なんでライバル会社の製鉄所の町に出張しなければならないの?」と面白い回答でした。
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実際には、福山の近くに空港はなく、福山は新幹線出張圏でした。 その後、広島空港が移動しました。 広島市の市街地から、東広島の山奥に移転し、福山から少し近くなりました。一方で広島市からは遠く不便になり、広島市民の中には、隣県の岩国錦帯橋空港を使う人もいます。
これが小倉以西の九州への出張となると、飛行機の方がf普通になります。
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一方、北の方はどうかといえば、東海道山陽新幹線ほど明確ではありません。 釜石への出張者は、新幹線を利用する場合と、花巻空港を利用する場合の両方があります。 新幹線網の充実により、飛行機出張圏は少しずつ減っていったのですが、それが今度の北陸新幹線延伸で終止符を打つことになるのです。
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この現象は日本だけではありません。
j時速200Km/hr以上の高速鉄道が充実しつつある、ヨーロッパ、東アジアで確実に進行しています。
日本と並ぶ高速鉄道先進国のフランス、ドイツだけでなく、ベルギー、イギリス、イタリア、スペイン、スイス、スェーデン、フィンランドなどで、それまで国内便または近距離国際線の飛行機圏がどんどん鉄道移動圏に移りつつあります。
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もう10年以上前ですが、ロンドンにいた私が飛行機でパリに出張した際、「どうしてユーロスターで来なかったの?」と不思議な顔をされました。
英仏海峡トンネル(ユーロトンネル)を通る、超特急列車ユーロスターは、フランスのTGVをベースにした車輛で、確かに便利だったのですが、英国側ではいま一つ評判がよくありませんでした。
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鉄道発祥の国ながら、フランスの高速鉄道技術を受け入れることへの抵抗もあります。そしてフランス側のTGV専用線(パリ=リール=カレー)が高速で快適なのに対し、英国側の在来線が低速で乗り心地が悪かったことが、英国の旅行者に不人気だった理由です。英国は一種の意趣返しとして、ユーロスターのターミナル駅をフランス人が最も嫌う名前であるウォータールー駅(ワーテルロー駅)にしました。
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その後、英国内もユーロスター用の高速専用線ができ、ターミナル駅も変更され、高速特急ユーロスターは次第に市民権を得ていきました。
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ヨーロッパの航空会社は、近距離便の旅客の減少により、鉄道と競合しない長距離便、大陸間の国際線で儲けるしかありませんが、そちらでもLCC(低運賃の航空会社)が台頭して、収益は悪化しています。
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高速鉄道が普及しつつあるもうひとつの地域である東アジアの事情は少し違います。
中国の場合、旅行客の量が爆発的に増えつつあり、高速鉄道の完成が航空旅客需要を奪う形にはなっていないようです。
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日本の場合、JALとANAは収益力の高い国内線で稼ぎ、競争の激しい国際線で儲けないというスタイルだったのですが、新幹線網の充実でその国内線が脅かされているのです。それに加えて、国内線でLCCが台頭しつつあります。旅行者にとってはありがたい話で、航空会社にとっては厳しい話です。
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しかし、新幹線やLCCに対抗して値段を下げる余地があるということは・・これまで航空会社は国内線でかなり儲けていたのだな・・・と思わせることにつながります。
やはり規制緩和は必要だなと思います。
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日本ではこれまで、航空業界なら航空業界の内部での独占や寡占が問題視されてきました。幹線は、ダブルトラッキングやトリプルトラッキングと称して、複数のエアラインが飛行機を飛ばしてお客の争奪戦をしましたが、値下げ競争は・・・あまりありません。
しかし、今回、新幹線の参入で異業種も同じ競争に参加することになり、初めて本格的な値下げ競争が始まりそうです。
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都市間・地域間交通の手段として、今は鉄道(新幹線)、航空機、高速バスという3種類が存在し、競争する時代です。これは北米や欧州での状況に近い訳で、利用者は選択の幅が広がります。
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同じような状況が他の業界にもありそうです。 例えばマスメディアの世界です。新聞業界をみると全国紙は複数ありますが、取り上げる記事はどこもほぼ同じで論調もしばしば似ています。 いかなるカルテルがあるのか、値上げも同じタイミングですし、新聞少年の為という奇妙な理由に基づく休刊日も同じです。 電波メディアとしてラジオ・テレビが登場しても、各新聞社がTV局を系列化して同じ情報を垂れ流すだけの独占状態でした。(会社は複数あるものの、情報供給という世界で、新聞が独占していた・・という意味の独占です)。
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そこにインターネットが登場し、インタラクティブな情報発信がなされるようになって様変わりしました。 当初、既存のメディア(新聞、TV)はインターネットを蛇蝎のように嫌い、貶していましたが、最近はネットの情報を認め、融和する論調に変化しつつあります。 そして新聞が報じていた欺瞞や捏造が暴かれ始めました。
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朝日新聞の捏造事件が明らかになり、同社が非を認めるに至った経緯でもインターネットの情報や世論が大きな意味を持っています。 複数の情報収集手段があり、読者が選択できる環境というのは、ありがたいことで、ちょうど金沢から東京へ行くのに飛行機もあれば新幹線も高速バスもある・・という環境に似ています。
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社会のある機能を、ひとつの業界が独占する・・・という不都合は他にもあります。例えば、医療機関などが該当します。 大規模なインフラ投資なしに、大胆な規制改革を行うというのは、難しいことですが、いずれ社会のために必要な事だと思います。
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新幹線開通の話題から、最後は何だか話が発散してしまいましたが、お正月でもあり、お許しいただきたい・・と思います。
【 空港と新幹線 】 [鉄道]
【 空港と新幹線 】
政府は6年後の東京オリンピックに向けて首都圏の交通インフラを整備するそうです。 鉄道交通に関するだけで、幾つのも計画が発表されています。
都心を挟んで、成田空港と羽田空港を直結する標準軌の鉄道の建設は、オリンピック前から提案されていました。京成電鉄のスカイアクセス線と都営地下鉄、京浜急行の羽田空港線を結ぶものです。 現在も、成田空港と羽田空港を結ぶ電車がありますが、都営浅草線経由では時間がかかるので、並行して新しい地下鉄を作り、東京駅の地下に駅を作るというものです。
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私に言わせれば、これはもっと早く実現していてしかるべき鉄道ということになりますが、これまで京成電鉄はスカイアクセス線、京浜急行は蒲田駅の高架化に時間がかかっており、それらが完成してから地下鉄新線に着工という段取りなのかも知れません。
個人的には都営地下鉄の改善に積極的だった猪瀬都知事が、この事業を仕上げてくれればよかったと思うのですが、それはできませんでした。
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それに加えて、JRは東京駅から乗り換えなしで、羽田空港につながる在来線を考えているようです。 こちらの方はよく分かりません。 なぜなら、現在の羽田モノレールをどうするのか?という問題があるからです。浜松町で必然的に乗り換えなくてはならない現在のモノレールは、正直言って不便です。 飛行機を利用する遠距離客は荷物もそれなりに持っており、浜松町で乗り換えを強いるのは気の毒です。まして浜松町はターミナル駅ではなく、乗換可能なのは、山手線と京浜東北線だけです。さらに先で別の電車に乗り換える必要がありそうです。 だから東京駅直通の線路を敷くのでしょうが、それができると、モノレールには誰も乗らなくなります。JRは羽田モノレールを捨てるつもりでしょうか? そして、もうひとつ疑問なのは、東京駅から羽田へのアクセスについては、後述します別の提案があるからです。
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さらに実現するかどうかは分かりませんが、2020年には、中央リニア新幹線が部分開通している可能性があります。ただ国家としては、東北地方の災害復興を最優先にする必要がありますし、景気の回復で、日本中の工事現場で人手不足、車輛不足が出始めています。2020年のリニア新幹線の一部区間開通は難しいかもしれません。
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そこまで考えて私はひっかかりました。何かひとつ足りないのではないか? 東海道新幹線や東北・上越、北陸新幹線の利便性向上が提案されていないではないか?
羽田空港や成田空港の利便性向上は、外国からのお客さんを念頭に置いたものです。 一方、国内でオリンピックを見る人は新幹線を利用します。
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だから新幹線のインフラ整備を進めるべきではないか?
特に問題なのは、上越、東北、秋田、山形、北陸(長野)の新幹線が、集中するJR東日本の線路です。現在、大宮から南は、1本の線路の上を上記の全新幹線が走っているのですから、無理があります。無理やり2本の列車を連結して1本で走らせていますが、その分1本の列車は短くなります (そこで2階建てにしたりしていますが、輸送能力は足りません)。線路も東京駅のホームも足りません。
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そこで、私の提案です。大宮駅から上野駅までの間を複々線にして、東北新幹線グループと上越・北陸新幹線グループに分けて並行して走らせるのです。 そしてそれらの列車の半分は上野駅始発・終着とします。
上野駅はかつて東北・上越新幹線のターミナル駅でしたから、ホームの数は充実しています。一方、東京駅には新幹線ホームを増やす余地はありません。上野駅を再びターミナル駅として活用することで、輸送力の増大が可能です。
大宮=上野間の複々線化は、用地買収や工事期間などの問題がありますが、在来線の上の空間を利用するなどの方法もありますし、6年あれば、まだ間に合います。
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そして、もう一つの提案は、新幹線の羽田空港への延伸です。
現在、東海道新幹線の車両基地が大井にあり、その線路をわずか2,3km伸ばすだけで羽田空港のターミナルビルに到着します。用地買収の問題もありません。
車両基地への連絡線を利用して新線を作る方法は、ガーラ湯沢駅で経験済みであり、難しいものではありません。
東京=品川=羽田の新幹線ができれば、地方の人が羽田空港を利用する上で非常に便利になります。 前述したJRの東京駅直通の在来線も不要になります。
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実は新幹線と航空機がライバルであるためか、どの地域でも、新幹線の駅と空港の連絡はとても悪いのです。最も便利なのは、博多駅と福岡空港間で、それに次いで品川駅と羽田空港間になります。 でもターミナルビルの下にそのまま新幹線が入る空港はありません。
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例えば、群馬県高崎の人が海外旅行に行こうとすると、まず新幹線で東京駅に着き、それから成田空港や羽田空港に向かうことになります。 成田は遠いですし、羽田は乗換が必要になります。 もし上越新幹線が新潟空港まで伸びていれば(ほんの数kmです)、話が変わります。むしろ高崎から新潟空港へ上越新幹線で行き、飛行機に乗った方が早くなるのです。
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これから地方空港は生き残りの時代になりますが、新幹線との接続が便利な空港が生き残ることになるかも知れません。そしてそれは地方空港だけの問題ではありません。羽田、成田の両空港も新幹線またはそれに代わる高速鉄道で、都心と直結することが重要です。でも成田にも羽田にも、スカイライナーは走りますが、新幹線の計画はありません。
でも羽田の方は、東海道新幹線の車両基地の連絡線を、ほんのわずか延伸することで、新幹線の駅が手に入るのです。
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この簡単な事業が議論されないのは、空港発着の新幹線などいらない・・とする美濃部都知事以来の考え方と、新幹線と飛行機はライバルであり、手をつなぐことはできない・・というセコイ縄張り意識のせいでしょう。
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でもパリのCDG(シャルルドゴール空港)の地下には、フランスの新幹線であるTGVが入ります。そしてそのTGVはユーロスターとつながり、海底トンネルを経てロンドンに直行します。乗客はロンドンに行くのに、新幹線を取るか、飛行機を取るか、空港で選べるのです。 泉下の美濃部都知事もそのことを知れば、考えが変わったかも知れません。
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交通インフラの整備は、外国への見栄やお役人の縄張り意識で決めるべきではありません。あくまで利用者の利便性を最優先に考えるべきであり、その点ではまだまだ見直すべき点が多いと私は考えます。