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【 シンデレラ・エクスプレス その2 】 [鉄道]

【 シンデレラ・エクスプレス その2 】

 

日本の新幹線は、開業当初から深夜のダイヤは組まないという規則を貫いてきました。現在、午前0時から、午前6時までの6時間は、お客を乗せる電車は走りません。

実際、始発電車が6時発だったお陰で、その10数分前に発生した阪神大震災では、新幹線の橋が落ちるという大災害だったのに、死傷者はゼロでした。一部のマスコミは「神様がくれた13分」という表現でその幸運を表しています。

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深夜に電車を走らせないという方針は、保線サイドと運行サイドが協議した結果です。保線作業にどこまで時間を割けるかというのは、重要な問題であり、JR各社が悩むところです。 そして新幹線だけでなく、鉄道だけでなく、普通の工場でも、操業サイドと設備・保全サイドは、しばしば利害が対立して、葛藤があります。

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例えば、製鉄所の場合、設備の点検や修理のための停止時間は極力短くしたいという考えがあります。設備のメンテナンス中は、何も生産せず、コストだけがかかるから、業績にはマイナスとなります。 製鉄所の設備には、常時高温を維持しなければいけない設備もあり、長時間の停止は、技術的にも大変です。しかし、必要なメンテナンスを怠れば、どこかで突発の故障や予測できない事故が発生し、大きな損害を出すことになります。

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だから生産実績を上げたい操業サイドは、極力点検整備の時間を短くしたいし、設備故障や停止を恐れる設備・保全サイドは、必要な点検整備の時間を要求します。両者の立場は対立します。

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では設備・保全部門は、毎回必要な時間を確保して点検整備するだけで、進歩や改善はないのか?と・・なりますが決してそうではありません。 保全・設備部隊には、それなりにコスト合理化の課題があり、保全作業時間の短縮と、交換対象の絞込みなど、全体でのコストミニマム化を進めています。

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実はこの30年間で設備故障と予防保全の理論と技術は大幅に進歩しています。製鉄所の各工場ではかつては月に2回、保全日を設けていましたが、今は月に1回、工場によっては隔月になっています。 しかも1回の保全日当たりのライン休止時間はどんどん短くなっています。

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保全技術は近年長足の進歩を遂げていますが、それは設備診断技術、寿命予測技術、材料の疲労評価技術等が進んだからです。もっと言えば、故障してから修理する事後保全から、故障する前に部品交換することで全体のコストを下げる予防保全の思想に転換しつつあるのです。

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疲労したり磨耗する、設備や部品の寿命を正確に予測して、ギリギリのタイミングで交換したり手入れする訳ですが、事後保全の修理と異なり、計画的に、かつ短時間で実行できるので、全体の作業時間も短縮できます。

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それでも工場の現場では、操業部隊と設備保全部隊の主導権争いは残ります。優秀な経営者あるいは優秀な製鉄所長とは、操業部隊と設備保全部隊の意見をよく聞き、そのバランスをとれる人だ・・と私は思います。

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しかし、鉄道の場合は違います。工場設備のように、運行を停止して保全日を設けるということはできません。 また事故は絶対にあってはいけませんから、安全は経済合理性とは別の観点から考えなくてはなりません。

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そして、もうひとつ考えるべき問題があります。 内部の格差の問題です。実は誰も言いませんが、鉄道とはヒエラルキーの世界です。もっと言えば、「車輪の下」と「車輪の上」で分かれた世界です。別にヘルマン・ヘッセは関係ありません。

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「車輪の上」で列車の運行にあたる人達は、お客と接する、陽のあたる職場です。綺麗で格好いい制服を着て、エアコンのある場所で仕事をします。 一方、保線に従事する人つまり「車輪の下の人たち」は言わば裏方です。3Kを絵に描いたような仕事で危険もあり、時間に追われます。決められた作業を時間内に終えて、始発電車が遅れないようにする必要があるのです。時間内に作業を完了しなければ、「車輪の上」の人たちに責められる立場です。

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「車輪の下」は3Kの世界で、かつ人手を要しますから、下請けを使います。さらに下請けは、孫請けを使います。 鉄道の世界のヒエラルキーは多層化し、対立も深くなります。

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余談ですが、昨年JR北海道で脱線事故が相次ぎ、調べてみたらレール間隔(ゲージ)がデタラメだったという事件がありました。 私はこの事件の根底には、「車輪の上」と「車輪の下」の暗い対立があったのではないか?と想像します。

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話が脱線しましたが、旧国鉄の選良を集めてスタートした新幹線は、運行と保線の対立を避けることも経営上の課題だったはずです。 その結果、夜は電車を走らせず、保線の時間を確保する・・というルールができたのです。実際、新幹線に夜行列車を走らせようとか、夜間は貨物列車を走らせよう・・というアイデアはあったのですが、夜は保線のための時間という考えで却下されています。

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開業以来、乗客の死亡事故ゼロという実績も、そのお陰だと考える人もいるようです。

だから、シンデレラ・エクスプレスも午後920分には発車してしまうのですが・・・、それでいいのか? 実はこれからはそうはいきません。

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新幹線は、どんどん延びています。これから北海道まで延長すれば、終着駅到着までの時間はどんどん長くなります。 そうすると終電車の始発駅発車時刻は早くなるのです。せっかく線路を延ばしても、東京から終着駅まで1本の電車で行けないのではつまりません。

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そして東海道新幹線の輸送能力は限界に近づいているという問題があります。

(こちらは景気が良くなったり悪くなったりで、かなり変化しますが・・・)。

これ以上、列車の本数を増やそうとすれば、禁断の時間帯(午前0時~午前6時)を活用するしかありません。

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そしてもうひとつは競合する他の交通機関との競争の問題です。

 

それについては次号で


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