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【 アムトラックはどこへ行く  その2 】 [鉄道]

【 アムトラックはどこへ行く  その2 】

私がシカゴにいた頃です。同僚のAさん夫婦のお母様が日本から訪ねてくるのに、飛行機ではなくアムトラックを利用される・・と聞いて、不思議に感じました。勿論、日本から鉄道で来られるはずもなく、西海岸まで飛行機で、そこからシカゴまでは鉄道の旅・・という訳です。外交官夫人として、諸外国を経験され、某国の大使夫人も勤められた方ですから、外国での移動には慣れたもので、今回は車窓から眺めるロッキー山脈の風景を楽しまれるとのこと・・。アムトラックの展望車輛にはガラス張りの天井があって、一大パノラマが眺められるのだそうです。

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「はあ、なるほど鉄道の旅というのも優雅なものだ」と思っていると、日系人秘書のおばあさんが、「私が強制収容所を出て、シカゴに来た時の鉄道の旅は全く楽しくなかったけれど、今は汽車の旅は優雅で楽しいものなのね」と言います。なるほど・・。

その頃、米国大陸の旅は、ぜいたくなものから順番に言うと、

1.自家用機、チャーター機

2.鉄道

3.エアラインの飛行機

4.自家用車

5.乗合の長距離バス  ということになりました。

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自家用機やチャーター機は論外として、鉄道の方が飛行機より贅沢というのが、よく分かりませんでしたが、長距離を移動する時間のコストも考えると、飛行機は、案外割安な移動手段となります。 そして、その頃、米国社会でおこった現象は10年遅れで日本でも起こる・・と理由も無く考えていました。 今考えると、結構あたっています。

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今、日本では、格安航空会社LCCが充実し、新幹線より安い料金で利用できます。私が鹿嶋と広島間の移動にもっぱら格安航空会社を利用していることは、このブログの読者ならご存知のはずです。

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しかし、アムトラックの経営陣は、鉄道の旅を飛行機より高価で優雅なものとすることを認めているのか?長距離の旅客搬送で飛行機より割高な鉄道というのは、不自然ではないのか? 私はそんな疑問を持ちましたが、実はその前からアムトラックの迷走は始まっていました。

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旅客鉄道の存在意義は、下記の3点のどれかです。

1.長距離の旅客の搬送のための交通機関

2.通勤通学のための輸送手段(コミューター)

3.観光客やリゾート客を対象とした観光設備(リゾート・観光鉄道)

この3つは、本来経営効率からは、分離する必要があるのですが、アムトラックは1と3を混同しました。というよりも2匹のウサギを追おうとしました。

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アムトラックをAさんのお母様が利用した観光列車として考えた場合、シカゴから西側でのみ成立すると言えます。一方、シカゴから東側では観光列車はなかなか成立しません。 さらに言えば、シカゴから東とシカゴから西では鉄道のゲージ(軌道幅)は同じですが、鉄道としては全く別ものです。

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米国で初期に発達した東側の鉄道は、アパラチア山脈をトンネルで通りました。従って、車輌の大きさはトンネルポータル(つまりトンネルの間口)で制約されます。

一方、西側の鉄道は、ロッキー山脈をトンネルではなく、湾曲した迂回路で通過します。だからロッキー山脈の雄大な景色を車窓から眺められます。またトンネルを通らないため、車輌はどんどん大きくできます。昔の蒸気機関車(SL)は動輪の直径で最高速度が決まり、大型の機関車ほど高速になりました。だからWesternと名前が付く鉄道の機関車はひたすら大きいのです。 寝台車や客車も大きくでき、乗客はその分、快適になります。 そして東と西の列車が出会い、乗り換えたのがシカゴのユニオンステーションです。

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シカゴ郊外のイリノイ鉄道博物館に行けば、両方の機関車を見る事ができ、その対比の面白さに気づきます。

ヒッチコックの映画「北北西に進路を取れ」で、主人公はニューヨークからシカゴまで、飛行機ではなく寝台列車で移動します。その間にヒロインと出会う訳で、ここは列車でなければならないのですが、美しい車窓の景色は映画に登場しません(当たり前ですが)。そしてシカゴのミッドウェイ空港からサウスダコタのラシュモア山までは飛行機での移動になります。

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話が脱線しましたが、アムトラックがリゾート・観光鉄道を志向するなら、高額な乗車券で、豪華な列車に贅沢なサービス、ゆっくり走らせて少人数を運ぶだけでいいのですが、それが通用するのは西側半分だけです。 東側は普通の長距離ビジネス客用に、速くて安くて大量に運べる鉄道を用意する必要があります。 正反対のコンセプトで、同じ鉄道会社で走らせる意味がありません。

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アムトラックは、いずれ、飛行機に対抗して、長距離ビジネス客を高速、安全、正確、安価に運ぶ事に集中することになるでしょう。その場合は新幹線のように高速鉄道の新線を建設するしかありません。 問題はそれが日本方式の導入なのか、他の国の方式なのか・・ですが。

観光に特化した豪華なリゾート列車はスイスや北欧などにまかせておけばよく、交通の大動脈を担う鉄道は、安全、正確、高速、安価を第一番に考えるべきです。アムトラックはその方向に進もうとしています。

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これは、アムトラックだけの問題ではありません。日本でも同じことです。最近JR九州では、豪華列車「ななつぼし」の運行を開始し、話題を呼んでいます・・というよりJR側がマスコミに盛んにPRし、マスコミもそれに乗っています。 オリエント急行などを知った人が、日本にも豪華な列車があってもよかろう・・と考えたのか、九州新幹線以外に何か話題が欲しかったのか・・、「ななつぼし」のプロジェクトの旗振りをしたのは、今のJR九州の社長だとか・・。

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しかし、この手のプロジェクトは本来JRが行うべきことなのか? JR九州はJR東海やJR東日本と違い、ドル箱を持たず、常に経営は厳しい状態です。いかに「ななつぼし」の人気が高く、料金が高くでも、一編成30億円の車輛に対して、一度に28人の旅客しか乗車できず、1週間に1回の運行では採算がとれるか微妙です。 一部のお金持ちだけが感動を味わう、話題性のみがあるリゾート列車を酔狂で走らせてはしゃいでいる余裕はないはずです。本州のJR各社は、結局、豪華寝台列車を全て中止しました。

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意地悪な言い方ですが、今、マスコミは「ななつぼし」を持ち上げ、囃していますが、もしどこかで事故でも起ころうものなら、一転して「ななつぼし」などで浮かれているからだ・・と非難の材料に使います。実際のところ、JR九州もJR北海道と本質的な差はあまりなく、いつ事故が起こっても仕方ない状況であると私は危惧します。

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今から30年ほど前、日本航空は国内線の優等席であるスーパーシートの導入を準備していました。しかし、その矢先に御巣鷹山のジャンボ機墜落事故が発生し、スーパーシートで浮かれている場合か?という議論が湧き、導入は大幅に遅れ、全日空に先を越されました。

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もし私がアムトラックの経営責任者であれば、どんなにお金がかかっても、新幹線のシステムを導入し、安全運行に全ての労力を費やします。ロッキー山脈の展望列車は犠牲になってもしかたありません。そして、日本のJR各社に対しても一言進言したい。豪華でスマートな列車を導入して話題作りするより、地味であっても運行の安全に労力とお金を使え。安全はこれで充分ということはないのです。常に謙虚でなくては・・。社長が得意になって酒井田柿右衛門の美術品を装備した車輛を自慢するようでは、危ういのです。


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