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【 シンデレラ・エクスプレス その1 】 [鉄道]

【 シンデレラ・エクスプレス その1 】

仕事のことを書くのはご法度のブログですが、今回は少しだけ書きます。

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そうです。私が悪かったのです。冗長なスケジュールを組んだのも、会議が終わらず、だらだらと続いたのも、私の配慮が足りなかったからです。その日、呉の工場の会議室での打合せは、夕方まで続いていました。東京からの出張者は2人、営業のH部長と、某商社のFさんです。 2人とも帰りの電車の時間を気にしてイライラしているはずです。

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ようやく会議がお開きになったのは、夕暮れが迫った時刻です。広島駅で東京行きの最終の新幹線のぞみに接続する、最後の呉線の電車が広駅を発車する5分前です。もはや逆立ちしても電車には間に合いません。 H部長は駅の方角を見ながら苦笑いしています。Fさんの方は、スマホを取り出し、東京の本社の同僚に、出張がもう1泊伸びることになった旨を報告しています。 翌日の予定をいろいろと調整しているみたいです。ひょっとしたら心の中で「不好!」と罵っているかも知れません。

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私は・・と言えば

「これはもうどうしようもありませんね。あきらめてもう1泊していただくしかありません。そうと決まればジタバタしても仕方ありません。 『毒を食らわば皿まで』と言うではありませんか。 観念してゆっくりと晩御飯でも食べに行きませんか?」とひらきなおって呑気なものです。

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トラブルに遭遇して、しかもそれが自分の責任である場合、できる限り快活に振るまい、そして無責任を装うことが生き残る道です。 長年のサラリーマン生活で体得した術で、昭和生まれの私は、これを「植木等型の対応」と呼びます。

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H部長の方は、オヒョウのアレンジだから、こんなこともあるだろうと、広島のホテルを早々と手配したみたいです。 しかしFさんの方は何か考えています。

夕食へ向かう車の中で、スマホをとりだし、Fさんは「ああっ!」と悲しそうな声を出しました。 「東京行きの最終便が出発してしまいました。飛行機にも間に合いませんでした」。 広島空港は、かなり遠くです。 どう考えても最終便には乗れなかったのですが、Fさんはその可能性まで追求していたのです。 

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「うーむ。最後まであきらめないで、可能性を探るとは根性のある人だ」

しかし、Fさんは飛行機がダメとなると、すぐに頭を切り替え、その晩のホテルと翌日のフライトの予約を、テキパキとスマホで済ませました。

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「うーむ。何と切り替えの早いひとだ。 プロの商社員とはこういうものか」とオヒョウは感心するばかりです。 私自身も商社マンの真似事をしたことがありますが、そうはいきません。アマチュアの商社マンでした。 「やはり本物は違う・・」

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二人と別れた後、私は運転しながら、自分をFさんに置き換えてシミュレーションをしてみました。

全く、自慢になりませんが、私はこれまでの人生で乗り物に乗り遅れたり、突然キャンセルされたり、乗る便を間違えて慌てたことは、たくさんあります。

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外国でその種のトラブルにあった時は、まず携帯電話で旅行代理店の担当者を呼び出してアドバイスを求めます。日本でその種のトラブルにあったら、まず家内を携帯で呼び出します。(このブログの長年の読者であれば、言わなくてもご存知ですが)。

家内は大抵パソコンかアイパッドの前に移動してネットを使って、進むべき方向、乗るべき交通機関、予約すべきホテルをアドバイスしてくれます。

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しかし、これからはそううまくいくとは限りません。 試しに頭の中で会話を予想します。

私  「 終電を逃してしまった。どうすればいいかナビゲートしてくれ 」

家内 「 自分で探せば?せっかくその為にスマホにしたのだから、試してみたら?」

私  「 しかし、そのスマホでこうやって君に電話している訳だから、今スマホは使えないよ 」

家内 「 だからぁ、私への電話なんてしなくていいから、自分でスマホの機能を使って探す方が先でしょ 」

( ああ、だめだこりゃ )

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そこで、はた!と私は気づきました。 ここで問題なのは、スマホを使いこなせるか否かではなくて、東京行きの新幹線の終電が何でこんなに早いのか・・という事ではないのか? 私は自分が会議をグズグズと長引かせたことはすっかり忘れてJRの責任を考えました。 唐突に私はシンデレラ・エクスプレスのCMを思い出しました。

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昭和の方ならご記憶でしょう。 JR東海の傑作CMで、夜9時に発車する大阪行きの最終ののぞみが登場します。 遠距離恋愛をする若い男女が、ホームで笑顔で別れ、そして9時ちょうどに電車は発車します。 バックの曲は山下達郎でした。

JR東海の新幹線は、遠距離恋愛を応援します・・とのことです。

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私はこのCMが全く理解できませんでした。 どうしてこのカップルは、午後9時に別れなければならないのか? 午後9時と言えば、これから大人の時間じゃないか?

清く正しい高校生の男女交際ならいざ知らず、大人の男女を午後9時に引き裂いておいて、何が遠距離恋愛を応援だよ。 どちらかというと恋愛を邪魔する「イケズ」じゃないか? JR東海は、山下達郎じゃなくて、「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ」という都都逸の方がふさわしいのではないか?

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補足説明をしますと、当時JRは新幹線の速度を上げ、東京=新大阪間を3時間以内で走る様になりました。 だから、東京発新大阪行きの終電は午後9時に発車するのです。それでも何とか新大阪には夜の12時直前に到着します。

以前より大阪行きの終電が遅くなったことで、恋人達の東京での時間はこれまでより長くなる・・とJR東海はPRしたかったのです。

12時前に到着する必要があるのは、馬車がカボチャになるからではありません。新大阪に遅く着いても、地下鉄や在来線の終電がないと困るからですが、もうひとつ理由はあります。 それは、新幹線は深夜12時から午前6時までは、列車運行を止め、保線作業に当てるからなのです。

12時迄に到着しなければいけないシンデレラは乗客ではなく、電車そのものだったのです。 しかし、これには多くの重要な問題があります。

それについては次号で申し上げます。


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