【 カリフォルニア高速鉄道 その1 】 [鉄道]
【 カリフォルニア高速鉄道 その1 】
以前から計画があった、カリフォルニア州の高速鉄道のプロジェクトが本格化しそうです。
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昔からカリフォルニア州は公害防止や環境対策に熱心で、重工業を州から追い出し、公害企業には罰金を科し、そして内燃機関の排ガスも州法で規制してきました。
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これは、教育水準の高い住民の意識レベルによる面も多いのですが、ロサンゼルスに限れば、大気汚染ゾーンに住宅街が広がるという、この都市特有の切実な事情もあります。ロサンゼルス付近は空中に逆転層ができやすい地形です。風の無い日には高度200m以下の層に黒い排気ガスの帯ができます。LAXに着陸する飛行機はその黒い層に向かって降下していくことになるので、あまり気分がいいものではありません。もっと気分が悪いのは、郊外の高台の住宅に暮らす人々です。自分の住宅の高さに排気ガスの帯ができるのですから・・・。しかし自動車の無い生活はロサンゼルスではありえません。
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だからカリフォルニア州は、マスキー法の時代から自動車の排ガス規制が厳しく、ゼロエミッション車の一定数の販売をカーメーカーに義務付けてもいます。電気自動車のメーカーであるテスラもこの州に工場を持っています。
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しかし、その先の公害対策となると、もはやマイカーをあきらめるしかありません。それは即ち、公共交通機関の活用であり、鉄道の活用つまりモーダルシフトです。 だから、カリフォルニアで鉄道、特に電化した鉄道が流行る・・と昔から思われていました。でもそう簡単ではありません。
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以前、ロサンゼルスではマイカーを利用できない低所得者層向けに地下鉄を導入しました。 住友商事がプロジェクトを受注し、日本製の車輛を導入したのですが・・、結局、低所得者の居住地域を通る電車内と駅の構内は治安が悪くなり、一般の市民には利用しづらいものになったのです。市民のためにと、税金で作った地下鉄ですが、一般の市民にはあまり利用されていないのです。
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電車だけでなく、バスにも似た面があります。 唐突ですが、カリフォルニアが舞台の映画「卒業」には2回路線バスが登場し、最後に主人公の2人が乗り込むのもバスです。そのバスの乗客は貧しいマイノリティとお年寄りだけです。そこに花嫁衣裳のキャサリン・ロスが飛び込むのが ひとつの演出です。 やはり、どうしてもカリフォルニアに公共交通機関は似合わないのか?(サンフランシスコのケーブルカーを除いて)。
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しかし、今度の高速鉄道計画は、通勤用の都市近郊電車ではなく、ロサンゼルスとサンフランシスコを結ぶ長距離高速鉄道です。対象とする乗客は、都市近郊電車とは違います。 マイカー代替と同時に航空機の乗客の取り込みを狙っています。 飛行機も排ガスを出す元凶だからです。 だから、カリフォルニア新幹線はうまくいくかも知れない・・と思うのですが、どうも気になる点があります。
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この新幹線プロジェクトには、シーメンスやボンバルディアといった世界有数の鉄道車両メーカーが名乗りをあげています。これにフランスのアルストムが加わり、日本の日立や川重、日本車輌が参加し、さらにイタリアのフィンメカニカと、中国の南車集団と北車集団が手を挙げたら、世界の車輌メーカーが全て揃う・・・と考えていたら、なんと日立がイタリアのフィンメカニカの鉄道車両部門を買収しました。
http://www.nikkan.co.jp/news/nkx0120150225aaax.html
イタリア独自の設計の振り子式高速電車 ペンドリーノ(その名もイタリア語で振り子ですが)と、英国も採用した日立の高速電車の技術が融合するのです。
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それに加えて、中国の鉄道車両メーカーも虎視眈々と狙うことになりそうです。
但し、まだ中国のメーカーが参入するのは早いのではないかな?
中国は、日本の新幹線技術を導入する際、他の国には輸出しないという契約を結んでいますが、それを反古にしています。 中国側の言い分は、日本のオリジナルの新幹線ではなく、中国が改良を加えたものだから、問題ないというものですが、国際的には全く通りません。
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中国が加えた「改良」とは車台(ボギー)のボルスターの改造やモーターの強化ぐらいに留まっており、とても中国オリジナルとは言えないのですが、中国の言い分は少しでも手を加えれば、全ての知的財産権は中国に帰属するというものです。
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日本だけが相手なら、それで日本が泣き寝入りして片付くかも知れませんが、カリフォルニアでは、ボンバルディアやシーメンスが相手となり、しかも土俵は世界で最も知的財産権に敏感なアメリカです。 そう簡単には行きません。アメリカはレーガン大統領時代に始めたプロパテント政策以降、世界で最も知的財産権を尊重する国なのです。
一方、中国の鉄道技術は、全てシーメンスやボンバルディアの友情の元に成り立っているのです。
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世界で最も標高の高いところを通り、世界で最も長距離を走る高原鉄道として有名な、青海=西蔵鉄道の与圧式の車輌は、ボンバルディア製です。上海を縦横に走る地下鉄はシーメンスとボンバルディアの技術を元にしています。 そして上海=北京間に代表される高速電車は、シーメンスと日本の技術の双方をもとにしています。だから、中国が彼らと争って、カリフォルニア高速鉄道を受注するのは知的財産権の事情から難しいのですが・・・、いろいろなウルトラCがあり、私は中国の北車集団と南車集団が受注する可能性が一番高いと考えます。その理由は後述します。
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それにしても不可解です。受注を目指して手を挙げるのは、鉄道車両メーカーばかりです。 でも本当に重要なのは、電車などではなく、新幹線というシステムです。だから契約者は日本のJRだったり、フランス国鉄、ドイツ国鉄であるべきで、販売するのは電車ではなく、TGVという列車のシステムだったり、ICEのシステム、或いは日本の新幹線のシステムであるはずです。
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かつて、ハードウェアの車輌と、ソフトウェアである運行管理システムや列車制御システムを別の国から買って、大混乱した例があります。 ご存知、台湾の新幹線です。
政治的な理由で、フランスのTGVと日本の新幹線の折衷型となったこの国の新幹線は、営業開始まで大変な苦労があったそうです。 そのお陰か、開業後は大きなトラブルは起きていません。もっとも経営はまさに文字通り火の車ですが・・・(この駄洒落は中国語でご理解ください)。
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米国がその轍を踏むとは思えないので、彼らはシステムとしての高速鉄道をひとつの国から購入するはずです。 それなら実績のある日本の新幹線だろう・・という考えはかなり甘いと思います。 その理由は次号で申し上げます。
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