SSブログ

【 アムトラックはどこへ行く  その1】 [鉄道]

【 アムトラックはどこへ行く  その1】

 

先日、米国の東海岸で起こった列車事故はやはり、カーブでのスピードの出し過ぎが原因のようです。

http://www.yomiuri.co.jp/world/20150515-OYT1T50053.html?from=ytop_ylist

制限速度が時速80Kmの緩やかなカーブに、その倍以上の時速17Kmで進入して、遠心力のために、外側に膨らんで脱線したようです。そうすると、日本で発生した福知山線の脱線事故と似た現象かな?と思いますが、かなり違う部分もありそうです。フィラデルフィアの場合は、先頭車両(機関車)がほとんど壊れず、原形をとどめています。速度もかなり違います。ATSの有無については不明ですが、多分、その手の装置は無かったはずです。ロイター電では、高度な安全装置が無い区間・・という奇妙な表現で説明していますが、要は進化型のATSが無かったということです。

・・・・・・

Chicago Tribune紙によれば、事故調査にあたるNTSBは、自動速度制御装置の設置を要請していた区間なのに、設置されていなかった・・と、苦言を呈しています。同紙は社説でも、もし速度制御装置があったなら事故を防げていたかも知れない・・と語っています。

http://www.chicagotribune.com/news/nationworld/ct-amtrak-crash-safety-20150514-story.html

・・・・・・

非常ブレーキがかかったのは、脱線する直前で間に合わなかったそうですが、その非常ブレーキが運転士によってかけられたものか、列車が装備している一種のリミッターなのかは不明です。Chicago Tribune紙によれば、運転士は事故の瞬間の記憶を喪失しているそうです。 話が脱線しますが、この運転士は10代の頃から鉄道に憧れ、アムトラックに乗務することが夢だったそうです。 このあたりも、福知山線の脱線事故の高見運転士に似ています。

http://www.chicagotribune.com/news/nationworld/ct-amtrak-engineer-20150514-story.html

・・・・・・

私は、ATSは、あるに越した事はないけれど、アムトラックの安全確保を考える上での優先順位は低いと思います。

・・・・・・

本来、ATSが重要な役割を果たすのは、ダイヤが混み合っている区間です。具体的には、先行列車への追突の危険がある場合、一つの事故の箇所に後続列車がぶつかり、複合事故が起こりうる場合、ターミナル駅の終点で止まれない場合などでATSは非常に有効です。 例えば日本の首都圏がその代表です。 かつて日本では三河島事故や鶴見事故を経験し、ATSの重要度が強く認識されました。 (ただし、福知山線の事故で遺族が重要視している速度制御型のATSは別物です)。 

・・・・・・

そしてATSは閉塞型信号システムと連動して、効果を発揮します。 中国の福州の近郊で発生した高速鉄道の追突事故はATSと閉塞信号システムが有効に機能していれば防げたものです。ちなみに日本の新幹線はその進化形であるATCを装備しています。

・・・・・・

アムトラックの場合、ダイヤはそれほど稠密ではなく、ATSの効果は限定的です。むしろ問題は全く別のところにあります。今回事故があったフィラデルフィアを含む東北回廊と呼ばれる区間はアムトラックが保有する自社路線ですが、大陸全体をみると、他の鉄道会社の路線を借りて旅客列車を走らせる方式です。 そこに問題があります。

・・・・・・

日本は社会の多くのシステムを米国から導入して、いろいろなものが米国のそれに似ていますが、鉄道は全く別です。むしろ鉄道のシステムは正反対と言うべきです。

・・・・・・

日本では経営が成り立たなくなった国鉄を解体して、分割民営化しましたが、米国は逆に経営不振の民間鉄道の旅客部門を統合して全米規模の鉄道公社を作りました。それがアムトラックです。そして日本は旅客列車中心ですが、米国は貨物列車主体で、旅客列車は、貨物鉄道の線路を借りて運行する形です。そして、日本ではなるべく旅客線と貨物線を分離する方針ですが、米国では通勤電車を除けば、同じ線路を走ります。そしてこれが問題なのです。

・・・・・・

旅客列車と貨物列車では走行速度が全く異なります。車輛の重量も編成も異なり、線路への負荷も違います。だから、安全を考えれば旅客線と貨物線は分離するのが適当なのです。 時速170Kmでカーブに進入したから脱線したと、マスコミは言いますが、これは貨物線のカーブだからです。日本の新幹線の場合、品川=新横浜間や、名古屋駅付近には曲率の大きなカーブがたくさんあります。そこを時速200km以上でのぞみは通過しますが脱線しません。

・・・・・・

それは線路に高速通過を前提としたカントを付けているからです。カントとはカーブで外側のレールを高くして車体を傾け、遠心力の影響を相殺するものです。つまり、カーブには最適の通過速度がある訳で、貨物列車用のカントを設定した線路を高速で旅客列車が通過すれば、脱線の危険があります。

・・・・・・

対策は3つあります。

1.高速旅客列車専用の線路を建設し、貨客分離を図る。つまり新幹線の建設です。

2.低速の貨物列車用のカントを設定したカーブを、高速で通過できるように、振り子型台車を付けた振り子車輛を採用する。

3.設定以上の速度が出ない様に機関車のスピードリミッターを厳格化する。または日本の新幹線方式のATCを導入する。

・・・・・・

理想は、上記の3つを全て採用することですが、当然ながらお金が必要です。米国政府がアムトラックを作った時は、個々の民間の鉄道会社では、もはやインフラ整備の費用が賄えないと判断したからですが、公社になった後も費用をケチっています。

・・・・・・

日本のTV東京の番組ワールドサテライトニュースでは、アムトラックの車輛の老朽化を問題視していました。「アムトラックの平均の車輛年数が28年、最も古い車両は60年以上使用されている。日本の新幹線が平均15年で更新されるのに比べて、これは古過ぎる。(事故が起こってもしかたない・・)」というトーンでまとめていましたが、これは全くナンセンスです。

・・・・・・

クレーンなどの輸送機械の寿命は法律などで厳格に規定され、必要なメンテナンスが定められています。逆に言えば、その法規に従って、適切に部品交換や点検修理を行えば、機械寿命は大きく伸びます。日本でも比較的最近まで0系の新幹線が走っていましたし、西日本ではあの500系の新幹線がまだ現役で活躍しています。

・・・・・・

それに車輛の老朽化は、個々の個体について論じる必要があり、事故を起こした車両が、製造後何年経過したものか、そして過去に適切な点検と修理・部品交換がなされていたかが重要です。それなしに、全車両の平均値の話をしても、専門家に笑われるだけです。 ああっ、ちょっと自慢をしますが、オヒョウの学校時代の専門は機械工学科の安全工学です。今となっては、誰も信用しませんが・・・トホホ。

・・・・・・

TV東京のニューヨーク駐在員の説明は、例えて言えば、広島市の土砂崩れの災害を年間平均降水量の値から議論するようなものです。どうしてもインフラの老朽化に言及したければ、車輛よりも線路、レールの方が重要です。それも、線路側に問題があることが明らかになってからでも遅くはないでしょう。

・・・・・・

しかし、アムトラックの問題の本質は、カントの値でも、車輛の老朽化でもATSの有無でもありません。 高速鉄道という、乗客が安全ベルトをしないで時速200Kmで移動できる、唯一の交通機関を、米国政府と米国の利用者がどう考え、どう育てていこうか・・という方針がはっきりしていないことです。 その問題点については次号で申し上げます。


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。