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【 台車亀裂事故 その6 】 [鉄道]

【 台車亀裂事故 その6 】

 

鉄道や航空機の部品が破損する場合、しばしば原因として金属疲労が議論されます。

金属疲労の現象は、世界初のジェット旅客機であるコメットの連続墜落事故の原因として広く知られました。その後も飛行機が墜落する度に、その可能性が議論されています。

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柳田邦夫氏の「マッハの恐怖」では、東京湾に墜落したB-727のエンジンの取り付けボルトを海底から回収し、すぐに金属工学の研究者の元に運び、ボルトの破損原因が金属疲労か否かを判断して貰う・・という場面が登場します。

結局、ボルトの破断面を観察しても、破損が金属疲労によるものか、そうでないかは判断できなかったのですが・・・。

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一般論として、金属疲労による破断面には貝殻状断口と呼ばれる細かい筋状の模様が現れます。一方、脆性破壊や通常の延性破壊では、ディンプルがある破面や結晶の劈開面が観察されます。今回の亀裂が進展した台車でも、破面の観察が最優先で行われ、いつ頃、亀裂が発生したのかが、調査されるはずです。

今回は破断後に海中に没していた訳ではなく、現在進行形の破面ですから有益な情報が得られるはずです。

大阪産業大学の大津山教授が指摘する通り、亀裂がごく最近に発生したものと考えるのは不自然であり、かなり前から存在した可能性があります。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171219-00000578-san-soci

(申し訳ありません。元記事はリンク切れかも知れません)。

しかし、それを確認するのは難しそうです。

疲労破壊で貝殻状断口の筋を数えるのは、樹木の年輪や魚の鱗の筋を数えるのに似ていますが、この筋が鮮明に出るのは繰り返し応力が反復する場合です。

例えば、飛行機の圧力隔壁なら、離陸上昇と下降着陸を繰り返す度に筋が増えていくので、本数を確認すれば、亀裂開始時点が明らかになります。

でも、鉄道の場合、車輪や台車にかかる応力はそうではありません。

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もう40年も前ですが、慶応大学の下郷太郎教授の研究室では鉄道の台車にかかる荷重とそれに対する応答を計算していました。入力値となる荷重をスペクトル解析し、ホワイトノイズとして扱うのが適当との結論だったと記憶します。つまり周期性を持たない入力値となる訳で、疲労破壊特有の筋が鮮明でない可能性があります。

果たして、調査委員たちはどのような結論を出すのでしょうか?

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割れ発生時期が不明確、あるいは亀裂進展の開始時期が不鮮明・・となると、問題は深刻です。マスコミは走行中に異常を確認しながら列車を止めて確認しなかったJR西日本の安全感度の低さを問題視していますが、定期検査で亀裂の進行を確認できなかったJR東海の責任も議論されることになります。この車両は2017年に2回も定期検査を受け、問題なしと報告されているからです。JRでは磁粉探傷を疵検査の方法として導入するようですが、磁粉探傷で見つけるのは、普通肉眼では見落としそうな微小な傷です。10cm以上の疵は・・磁粉探傷でなければ見つからない疵ではありません。JR東海はこれまでどんな検査を行っていたのか?

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台車の亀裂など滅多に発生しませんから、ろくに検査もせずに「異常なし」と判断していたのではないか?・・・と言うと言いすぎですが、御巣鷹山に墜落した日航123便の圧力隔壁の疲労亀裂の進展は定期検査で見逃されていました。

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鉄道車両では確認が難しいかも知れない疲労亀裂について、調査委員会がどのように判断するか、個人的には非常に興味があります。

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もうひとつ研究すべき重要な点は、数値破壊力学的にみて、亀裂発生個所の応力集中がどうなっていたかです。

現在の鉄道台車は全て、有限要素法またはそれに代わる数値解析の手法を用いて応力分布を計算し、弱い箇所が存在しないように設計されていますが、限界があります。 切り欠き(ノッチ)が発生すれば、そこに応力集中が発生し、健全な状態の応力分布と大きく異なるため、設計時の計算通りにはいかないのです。

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切り欠き部の応力集中はJ積分という特殊な計算で算出されますが、その数値は切り欠き先端部の先鋭度で変わってきます。素朴に考えても理解できますが、鋭い亀裂ほど応力集中が大きくなり、亀裂進展が促進されます。 この現象は当然ながら亀裂発生前の時点では計算できません。 今回は進展途中の亀裂のサンプルがある訳ですから、その計算ができます。

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亀裂が発生してから、この強度計算ではダメだった・・という結論を出しても、地震が起きてから解説する地震学者のようで間抜けですが、今後の参考になります。

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それ以外にも亀裂の起点はどこか?そこに非金属介在物はなかったか?起点は1/4厚の介在物集積帯でなかったか? あるいは鋼材の水素含有量はどうだったか?白点はなかったか?など、調査すべき点は山ほどありますが、実際にはインシデントにとどまった今回の事件で、どこまで調査するか、実のところ少し心配です。

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そして、これ以上のコメントは調査報告が発表されてからにしたいと思います。


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【 台車亀裂事故 その5 】 [鉄道]

【 台車亀裂事故 その5 】

 

旧国鉄時代からのリニアモーターカー開発には伝説的なリーダーがいました。京谷好泰氏ですが、かれは車両の軽量化に心血を注ぎました。その感覚はゼロ戦の軽量化にこだわった堀越二郎に近いとされます。

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磁力で車体を浮上させ、高速走行させるのですから軽い方がいいのは当たり前ですが、京谷氏はあまりに「軽うせい、軽うせい」と指示することから、部下から「カルーセイ京谷」というあだ名を貰い、本人もそれを認めていたとか・・。

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軽くする・・と言っても設計者は魔法の杖を持っている訳ではありません。安全係数(安全率)を下げて、限界設計に近づけることになります。すなわち、重厚長大を旨とするSL型から軽薄短小の飛行機型の設計に切り替わったのです。

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普通の新幹線も300系以降は軽量化を急速に進めました。鋼鉄製の部品をアルミ合金に替え、設計を見直し、軽くすることで高速化と省エネを実現したのです。台車・・も当然軽量化を求められました。

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私が衝撃を受けたのは、山形新幹線つばさとして400系の新幹線が登場した時です(約25年前です)。台車をボルスタレスにして思い切って軽量化したのです。S友金属で実物を見た時、こんなに華奢な台車で大丈夫だろうか?と思いました。400系はミニ新幹線として、小型軽量で低速走行区間が長い訳で、台車の耐久性は東海道新幹線ほど要求されない訳ですが、一方で速度記録を樹立するなど高速対応型でもあります。

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鉄道の専門家に尋ねると、「鉄道も自動車と同じように、乗り心地を良くし、車体を安定させるためには、バネ下重量を軽くすることが有効」との事です。台車は厳密に言えばバネ上の部分も多いのですが、設計上、軽量化が歓迎されるのは理解できます。

その結果、新幹線もボルスタレス化し、軽量化を志向したのです。

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しかし鉄道車両がそれでいいのか?という議論は時々登場します。

東京の地下鉄東西線の電車が橋梁を走行中に突風にあおられて脱線転覆した事故の際も、軽量化が一因とされましたし、羽越線の特急いなほの脱線転覆事故でも、同じ議論がありました。しかし、高速化、省エネ化、低コスト化の声ですぐにかき消されます。

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意外にも、中国の高速鉄道は、台車の軽量化をあまり考えません。この国の高速鉄道が日本の新幹線とドイツのICEを元に開発されたことは事実ですが、自前の技術もあります。 中国人技術者は、時速350Kmの営業運転を実現するために、日本の新幹線の台車を元に、ボルスター(長枕の意味で、車軸を支える横板)の数を増やして、安全性を増した・・と強調していました。当然重量は増えるのですが、脱線の可能性は減ったと中国の資料に書いてありました。

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日本の新幹線と違い、ほとんど直線区間で構成され、曲率の大きなカーブが無い中国の高速鉄道でボルスターが必要なのか?という意見もありましたが、中国としては日本の新幹線のコピーと言われるのが嫌で、少しでも違う点を作りたかったのでしょう。

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でも私もこの点については、中国の考え方に賛成です。 車体や台車のいたずらな軽量化は危険だと考えています。日本のJRでは、特に振り子式の車両の場合、コロの下側の質量は大きいほどカーブで安定するはずです。

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そして機械設計の根本の問題ですが、材料の強度は、新材料の登場で上げることができます。しかし車体剛性はなかなか上げられません。 金属材料の密度とヤング率の関係が変わらないからです。 そして車体剛性が低ければ、疲労破壊の可能性は増します。 つまり台車のいたずらな薄肉化や小径化は危険です。

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今回の台車を製造した川崎重工は複合材料製の鉄道台車を開発したと、マスコミに発表しています。もちろん目的は軽量化ですが、複合材料の疲労破壊の研究は金属材料のそれに比べて遅れています。

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今回の台車亀裂事故の調査が済むまで複合材料の台車は凍結すべきではないか?と私は思います。

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では、今回の亀裂は本当に疲労破壊によるものなのか?という疑問にぶつかりますが、これは実際の破面を観察しなければなんとも言えません。

 

でも少しだけ、次報で申し上げます。


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【 台車亀裂事故 その4 】 [鉄道]

【 台車亀裂事故 その4 】

 

マスコミでも報道されていますが、今回事故を起こした新幹線の台車は川崎重工製だそうです。ちなみに毎日新聞が取り上げて比較している、昨年の東武鉄道の台車亀裂・脱線事故の台車は旧住友金属製でした。・・ということは10年以上前の製品です。

https://mainichi.jp/articles/20171213/k00/00e/040/261000c

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川崎重工製と旧住友金属製ということでメーカーが違いますが、それ以上に大きな違いがあります。今回の新幹線の台車は非溶接部の亀裂、東武鉄道の台車は溶接部の亀裂でした。

現象とし全く異なる案件であり、それを同一に扱うあたり、やはり毎日新聞らしい・・と思います。

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かなり昔になりますが、中目黒で地下鉄日比谷線の脱線事故があった際、旧住友金属製の台車にひび割れがあったと大騒ぎした新聞がありましたが、これも全くピントがずれていました。脱線事故の原因は、線路の曲率が急激に変化する箇所で速度を出したことです。台車のひび割れは、それはそれで問題ですが、事故の原因とは無関係です。

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マスコミ批判ばかりしても無駄です。ここは真面目に原因追及のアプローチを考えてみます。コメントをいただいた霍去病様も指摘されていますが、工業製品で何等かの問題が生じた場合、メーカー、素材メーカー、設計者の3段階でそれぞれ問題がないかを確認する必要があります。これは原因がどこにあるかで対処方法が全く異なるからです。

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もしメーカーに原因があるのなら、そのメーカーの製品だけを使用中止にして対処します。タカタのエアバッグに欠陥があれば、他の会社のエアバッグに切り替えて対応します。

実は鉄道車両も同様で、複数購買で安全を確保するのです。もし川崎重工の電車で問題がおこれば、日立や日本車両の車両に切り替えます。川崎重工の台車に問題があれば、住友金属(今は新日鉄住金)製に切り替えます。実際にはそう簡単ではありませんが。

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しかし、もし欠陥が車輪だったら・・・・日本では鉄道車輪を作るメーカーは少なく、旧住友金属の独占です。その場合は大問題となります。実は20年以上前になりますが、新幹線用車輪で品質問題が出かかったことがあります。幸いにして大きな問題にはなりませんでしたが、大阪製鋼所の幹部がその問題で自殺しています。本ブログでは詳細を言えませんが、和歌山製鉄所から供給する素材に問題があったのです。

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霍去病様がご指摘されたように、問題の部品の素材はどこのメーカーが製造したのか?というのは重要なポイントです。以前のブログで触れましたが、ISO9000の考え方のポイントはまさにそこにあります。

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しかし、素材やメーカーに原因があったとして問題を限定できればいいのですが、そうでないのが一般的です。設計自体に問題がある場合が多いのです。

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設計にゆとりがあれば、素材や加工・組立方法に何等かの瑕疵があっても、カバーできます。昔の機械は安全係数(安全率)を大きく取り、信頼性の乏しい材料や加工方法をカバーしてきました。重厚長大を可とする、名前を付ければ蒸気機関車(SL)型の設計です。 戦前に設計されたSL100年経っても問題なく走ります。 

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しかし、最近の設計はそうではありません。一種の限界設計で、安全係数を下げてでも、軽薄短小を狙い、乗り物であれはそれで高速化や省エネ化を狙うのです。名前を付ければ飛行機型の設計です。

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高速鉄道の歴史とは、SL型の設計と飛行機型の設計の葛藤の歴史でもあります。日本の鉄道では、何時頃から、SL型と飛行機型がぶつかったのか? 住友金属の顧問として来られた旧国鉄の島技師長の話では、リニアモーターカーの研究が影響したようです。

 

それについては次号で申し上げます。


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【 台車亀裂事故 その3 】 [鉄道]

【 台車亀裂事故 その3 】

 

奇妙なことですが、毎日新聞に、今回の事故車両がN700系であったとする記事がでています。

https://mainichi.jp/articles/20171229/k00/00m/040/152000c

だから台車の疵を発見できなかったというのですが、下記の写真を見ればわかる通り、この車両はN700A系です。ただし、Aの字は小さく書いてありますが・・。

http://toyokeizai.net/articles/-/202478

 

前報に書いた通り、この車両は、N700系として製造され、その後N700A系に改造されています。

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そこで私は錯覚したのですが、「N700A系なら異常振動検知装置があったはず・・・。それなのになぜ運転席には警報が表示されなかったのか?」という方向に考えを進めました。

 

しかし、fff様から貴重な情報をいただきました。改造型のN700A系には「異常振動検知装置は無い」という情報です。そこで、毎日新聞の記事についてのコメントを修正し、旧型であったがゆえに異常振動を検知しなかった」という説を受け入れたいと思います。

 

それなら本物のN700A系(Aの字が大きい方)なら、問題は無かったのか?といえばそうでもなさそうです。

 

より確実な状態監視と故障予防を実施するには、N700S系の登場を待たねばならないと思います。

 

以下 次号


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【 台車亀裂事故 その2 】 [鉄道]

【 台車亀裂事故 その2 】

 

今回問題を起こした車両はN700A系です。 よく見ると最後のAは小さく書かれています。 これは最初AなしのN700系で製造されたものが、A付に改造された・・という意味で、車両自体はかなり古いものだと分かります。 ちなみに、この車両は、もともとJR西日本管轄のN2編成だったものが、A型への改造を機に、JR東海に移管されています。

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ところで、この最後のAはアドバンスドの意味で、N700A系はN700系の進化形なのですが、その改良点には、台車の異常振動検知装置も含まれます。

Aの字が小さくても大きくても、N700A系では、台車で異常振動が検知されたら運転席に表示される仕組みになっています。

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しかし、今回はそれが適切に運用されたとは思えません。 異常に気付いたのは乗客であり、客室乗務員です。つまり運転士は異常を検知できなかったのです。

ここに問題があります。

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東海道山陽新幹線の「のぞみ」は16両編成で、台車の数は32個、車軸の本数は64本です。それらの全ての振動をモニターし、運転席に表示しても、これを一人の運転士で常時監視して把握することは至難です。

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そこで、ある閾値を設けて、異常値と判断した時だけ警報を出す訳ですが、実際には台車の枠がちぎれそうな状態になっても、警報を出しませんでした。

本来、この種の警報発信は単純な閾値による判断ではなく、AIが判断して行うべきです。 ある情報から、対象が正常か異常かを判断するというのは、AIが得意とするアルゴリズムなのです。無論AIが判断するには、データの蓄積が必要で、今、鋭意データを蓄積中というところです。

AIの判断を信用できるか?という点がひっかかりますが、これまでの人間の経験と勘に頼る判断よりは確実でしょう。

情報不足や知識不足のまま、重大で難しい判断を迫られる現場のオペレーターの負担もこれで軽くできます。

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振動検知だけではありません。東海道新幹線の線路には温度計があり、走行する車両の温度を測定しています。台車に異常が生じれば、多くの場合、摩擦熱などで、高温になる部位が発生します。それをモニターして異常を検知するのです。JR東海が開発しています。

例えば、以下の鉄道新聞にこの温度検知装置の記事が記載されています。

http://tetsudo-shimbun.com/headline/entry-380.html

その温度データは分析センターにリアルタイムで送られ、異常の有無を把握できます。

今回の事故では温度データがどうだったのか、まだ公表されていません。JRで調査中ということでしょうか?

https://newswitch.jp/p/853

そして、残念ながら、それらの技術は山陽新幹線にはありません。

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ではそれらの情報を統合してどう処理するのか?ということですが、これが重要です。

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JRが開発を進めている新しい保全管理システムは、従来のものと発想が違います。

専門家が状態監視保全(CBM)と呼ぶシステムで、故障が発生してから修理する事後保全(BDM)、予防的に一定時間毎に交換・整備する時間計画保全(TBM)に代わる、新しい保全整備の概念です。

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昔は、故障が起きてから修理や部品交換をしていました。しかし、それではトラブルを防止できません。

その後の計画保全の考え方は、劣化していようがいまいが、交換時期が来たら、一斉に交換する考え方です。私はこれを「体育館の電球交換」と呼んでいます。

体育館の天井は高く、電球や蛍光灯が切れてからその都度交換するというのでは大変です。だから、まだ寿命がきていなくても一斉に交換するのです。

しかし、それでも特に寿命の短い電球や蛍光管が混じっていたら球切れトラブルを防止できません。そこで、一個一個の電球や蛍光管を観察して、暗くなってきていないか、あるいは明滅が始まっていないかを観察して、寿命到来を判断して直前に交換する方式が検討されました。 それが状態監視保全(CBM)です。

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私がこれを知ったのは、JRの最新鋭の電気機関車EH800型の紹介記事です。

EH800型電気機関車にはCBMの概念に基づいたモニター装置があります。

www.toshiba.co.jp/tech/review/2014/09/69_09pdf/f02.pdf

http://bunken.rtri.or.jp/PDF/cdroms1/0001/2013/0001003755.pdf

EH800型電気機関車は、本州と北海道で使われる最新鋭の機関車で、1両(この機関車は2つの車体を連結して1両としています)に4つの台車があり、それぞれの状態(振動、温度等)をモニターしています。 この技術は、JR総研や東芝が開発しています。

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私の個人的な意見ですが、本当はそれでもまだ不足で、亀裂が進展する際に放出されるAE(アコースティックエミッション)を使用する方法を提案します。高速走行する新幹線台車は大音量の騒音と激しい振動の環境下にありますが、マイクロホンで微弱な超音波を拾うことは可能です。得られた音声信号をフーリエ解析し、ノイズの森の中から、微弱信号を抽出する訳ですが、多くのデータがあれば、それらを重ね合わせ、その中から探し出すことが可能です。

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CBMのシステムを搭載したEH800型電気機関車は在来線用の機関車ですが、新幹線にも近く応用されます。

それが、N700S系新幹線で、来年登場します。

http://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000030982.pdf

N700S系はSiCを採用した新しい素子ばかりが話題になりますが、CBMに基づいた保全監視システムも強化・近代化されています。 注目すべき点は、もはやそれらの情報を集めて判断するのは列車のコンピューターではなく、遠くの指令所だということです。

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コンピューターの世界では当たり前ですが、データのネットワーク化、そして集中する大量のデータの高速処理がポイントです。

いずれにしても、走行中の新幹線の台車をリアルタイムで診断し、不具合を探索する技術はほぼ完成し、実用化の直前だったのです。その意味では、実用化直前に重大インシデントが発生してしまい、技術者達はさぞかし残念だろうと思います。

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それにしても、新技術の多くは、JR東海、JR総研、東芝、JR東日本などで開発されています。他社に比べて大事故を多く経験しているJR西日本はどうしたのでしょうか? やはりマスコミに安全意識や危機感が足りないと指弾されても仕方ないということなのでしょうか?ひょっとしてJR東海とJR西日本は仲が悪いのでしょうか?

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JRが発足してもう30年。そろそろ分割民営化の功罪について総括すべき時が来ましたが、ひょっとして最大の問題は、台車の亀裂ではなく、ひそかに進行している、JR各社間の亀裂なのかも知れません。こちらは、ちょっと電車を停めて覗いたぐらいでは深さが分かりません。

 

ではなぜ、台車に亀裂が発生したのか? 詳細な調査結果を見なければ、確実なことは言えませんが、何時か稿を改めて、私の理解を述べたいと思います。


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【 台車亀裂事故 その1 】 [鉄道]

【 台車亀裂事故 その1 】

 

いささか旧聞ですが、博多発東京行きの新幹線のぞみの台車に亀裂が発生し大問題になっています。 各社の報道は、事実の列挙以外に、主観的な記述が含まれ、どこまでが客観的事実なのかよくわからない部分があります。

その中で、最も正確で客観的な報道をしたのは、NHKの中村幸司解説委員だと思います。

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/286806.html

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今回の亀裂発生については技術的な調査が行われ、原因と対策は、その結果がでてからの判断となりますが、マスコミでは、その前にJR西日本の体質を問題視する論調が目立ちます。

朝日新聞は、例によってJR西日本が他のJR各社と異なり、安全を軽視する風土があると指摘します。

https://www.asahi.com/articles/ASKDW00Z4KDHPTIL02D.html?iref=comtop_list_nat_n03

他社にも同じ論調の記事があります。

http://www.worldtimes.co.jp/opnion/editorial/83222.html

一方で、JR各社で大きな違いは無いとする東洋経済の指摘もあります。

http://toyokeizai.net/articles/-/202478

これはこれで、亀裂の発生原因や、発見できなかった問題とは別に、議論すべき問題点です。

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すなわち、JR西日本が安全よりも定時運行を優先させる体質だったために、小倉駅で確認された異常が、名古屋で停車して検査されるまで3時間も放置されたのだ・・という考え方です。一方、JR東海は名古屋でこの列車を停めて、危機一髪で大事故を防いでいます。確かに西と東、両社のコントラストが目立ちます。

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JR西日本は岡山駅から乗車した技師が「止めて床下を検査するべきだ」と判断したにも関わらず、そのまま走り続け、新大阪駅でのJR東海への引継ぎでも「走行する上で支障なし」と連絡しています。マスコミ各社の論調は、現場の判断で列車を停めて検査すべきだったのに、それをしなかったと非難しているのです。さらに言えば、乗車した技師と列車指令の間で、列車を止める判断を押し付け合っていたようで、これも問題視されています。

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確かにその通りですが、現実問題として、現場のスタッフにその判断をしろというのは酷です。異音や異臭、異常振動というあいまいなサインを乗務員が感知したら電車を停めて検査せよという行動規範を仮に作成しても、実際に新幹線を停めるとなると、大変な責任を負うことになります。

新幹線を遅らせた場合の損害は莫大ですから、もし異常が見つからなかった場合、いくら責任は問わない・・といってもそうはいきません。

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しかも、今回、異音や異臭を確認したのは、客室乗務員(オヒョウは車掌と混同しておりましたが、そうではありませんでした)ですから技術的な専門知識はありません。岡山から技師が乗車しましたが、彼にも走行中の音や臭いだけでは、何が起こっているかを判断できないでしょう。最終的に列車を停める判断をするのは、乗車していない列車指令ですが、彼も電話で「異音や異臭がする」という報告を受けても、それがどの程度深刻なものか分かりません。列車の緊急停止を判断するのに十分な情報は得られません。

ちょうど、医師が患者から電話で「腹痛がする」という症状を聞いて、それだけで虫垂炎か否かを判断するようなもので無理な話です。

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だから、JR西日本に安全意識が欠如し、JR東海が優れている・・と決めつけては、JR西日本がかわいそうです。

「亀裂があるにもかかわらず、定時運行を守ろうとして無理をした。福知山線の事故から何も学んでいない」とJR西日本を非難するのも、ちょっと的外れです。彼らだって亀裂があるとは思わなかったから停めなかっただけで、大きな亀裂の存在を知っていたらすぐに停車させたはずです。

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そもそも論でいえば、異音や振動、異臭といった異常が発生する前に、問題を把握できなければいけませんし、音、臭いといった感覚的であいまいな情報でなく、定量的で客観的な情報を常時モニターしておく必要があります。乗務員に頼るのではなく、数値データを出し、列車指令がなんとなくファジィに判断するのではなく、AIの診断機能によって、列車の運行継続可否を決めるシステムが必要なのです。

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そんな事が可能なのか?という疑問も湧きますが、実は既に一部は実用化されています。東海道新幹線では新しい保守・点検のシステムが実用化されつつあるのです。

その矢先に、「重大インシデント」が発生した訳で、開発した技術者達には忸怩たる思いがあるはずです。

 

次号では、その辺りを紹介いたします。


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【 時速350kmの持つ意味 その3 】 [鉄道]

【 時速350kmの持つ意味 その3 】

 

中国上海の浦東空港と都心龍陽路を結ぶリニアモーターカーは、ドイツのトランスラピッドを実用化したものです。その建設工事で、購買担当者が勝手に電線ケーブルの仕様を変更して安物のケーブルに置き換えました。やがてそのケーブルは燃えだし、ドイツ人技術者は怒りまくり、元の仕様のケーブルに戻させるという出来事がありました。リニアが開業する直前の頃の話です。

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しかし、実は購買担当者が勝手に規格や仕様を見直し、安価品に切り替えるというのは、中国ではごく当たり前のことなのです。その差額は自分の懐に入れる訳で、そうやって副収入を得るというのは購買担当者の才覚のように言われます。つまり悪いことではなく、要領の良さとして、プラスに評価するのです。

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この悪しき習慣は中国人のモラルの低さを示すと同時に、中国製の全てのものの信頼性を下げる理由になっています。無論、高速鉄道を建設する場合にその悪しき習慣は駆逐されたはずですが、未来のことは分かりません。

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ある事業が始まって一定期間が経つと、必ずランニングコストの低減を求められるのが世の常です。これは日本も同じです。特に営業赤字が累積する事業ではそうです。

中国の場合、国有鉄道の累積赤字または有利子負債は邦貨換算で80兆円と言われていますが、実はずっと多いと思われます。

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中国の鉄道は、かつての日本の国鉄と同じように、建設は政治が判断し、建設費も国が負担する仕組みで、運行する事業会社は営業損益だけに責任を負います。営業損益だけで累積数十兆円(有利子負債額とイコールではありませんが)であれば、建設費の分も載せると、百兆円をはるかに超えると思われます。これはいかに経済大国の中国といえども、許容できる金額ではありません。

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中国は高度成長の過程で、全ての予算が膨らんでいます。高速鉄道、高速道路、空港といった目立つ交通インフラ、高層ビル群、海軍、空軍の武器・兵器、宇宙開発といった国威発揚に役立つ目立つ分野に加えて、AI研究投資、アフリカ諸国へのODA等も、日本をライバル視したこともあり、増える一方です。

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GDPや税収の伸びが鈍化した後も、これらの予算は増える一方で抑制が効きません。

左派系のマスコミは、日本こそが先進国中で最も借金が多い財政破綻国家だと言いますが、中国はその上を行く借金大国のはずです。中国政府はその数字を明らかにしませんし、日本のマスコミはそれを報道しませんが・・。

・・・・・・

しかし、中国は日本以上の速度で少子高齢化が進み、近い将来、経済の縮小期に入ります。その段階で、膨大な高速鉄道の赤字を放置できるとは思えません。

人口が希薄な西域の砂漠地帯に、誰も乗らない超特急を走らせ続ける道楽は、中国といえども無理です。

・・・・・・

日本では、東海道新幹線が開業した昭和39年に、国鉄が赤字に転落しました。その後、赤字は雪だるまのように膨らみ続けましたが、一方で政治による赤字新線の建設が続きました。 そして有利子債務が累積で2兆円に達した時点で、分割民営化が断行されました。

・・・・・・

しかし、中国では、政治的理由から赤字の国営企業の分割民営化は難しいのです。鉄道に限らず国営企業の非効率と赤字は、中国の宿阿と言うべき問題なのですが、遅々として改革は進みません。それに分割となると、中央集権化によって地方閥を潰そうとする習近平政権にはできない相談です。

・・・・・・

そうなると、中国の鉄道は赤字を膨らませながら突っ走るしかありません。そこで無言の圧力として現場にかかるのはコストダウンの要求です。 より安価なボーガスパーツへの切り替え、保全作業の手抜き等の誘惑にかられます。 その一方で高速化を進める訳で、高速鉄道の安全が担保されるか・・・私には疑問です。

・・・・・・

高速化による老朽化加速・延伸による赤字の増大

  ↓

交換部品の安価品への切り替え、作業の手抜き。

  ↓

事故の多発

  ↓

信用失墜

  ↓

旅客離れ

  ↓

赤字の増大

・・・・・・

という悪循環が火の車のように回りながら転がり落ちていきます。宇治拾遺物語では、地獄からの迎えである恐ろしい存在として「火の車」が登場しますが、高速鉄道の延伸と高速化に伴う中国鉄道の「火の車」は、中国経済にとってまさに恐ろしい存在です。

・・・・・・

でも、中国人ならこう言います。

「なあに、中国では、高速鉄道や劉志軍のずっと前から鉄道は『火車』だよ」


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【 時速350kmの持つ意味 その2 】 [鉄道]

【 時速350kmの持つ意味 その2 】

 

前回、申し上げた通り、高速鉄道は安全面から制限速度のマージンを多めにとっています。在来線の福知山線(宝塚線)のカーブでは、時速数十kmの速度超過で脱線事故が起こりましたが、新幹線はもっと余裕をみて設計しています。 

・・・・・・

そもそも直線が多く、急カーブは少ないとされる中国の鉄道の場合、時速350kmを出してもすぐに脱線する心配はあまりないでしょう。

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でも問題はこれからです。今は線路も新品で、車両も新品、運転する人も保線をする人も緊張して仕事をしています。でも今後、5年、10年経てばどうなるのか?

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日本の新幹線の場合、最初から完璧な鉄道だった訳ではありません。新幹線の安全技術は長い時間を掛けて熟成した技術であると言えます。最初の頃は50Kgレールでしたが、強度不足による折損事故が発生し、60Kgレールに変更すると同時に、ロングレールの溶接方法をテルミット溶接から電気溶接に変更しました。

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また日々の保線作業時間を確保するために、終電から午前6時までは列車を運行しません。夜間については、せっかく設備投資した東海道新幹線だから、夜間も有効活用したいということで、貨物列車を走らせるとか、寝台車を設けて夜行列車を走らせるという考えがありましたが、保線作業優先の観点から全て却下されました。

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中国の高速鉄道の場合、寝台車もあり、夜間も走行します。深夜の時間帯は必ず保線作業にあてるという発想がありません。これは長い間に大きな問題として浮上します。

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機械工学で、ここ2030年の間に急速に進歩した分野に、金属材料の疲労強度の理論があります。破断荷重未満の繰り返し荷重を受ける金属製の機械部品がいつか破壊に至る現象を疲労破壊と言いますが、昔(オヒョウが学校にいた頃)は、不明な点が多くありました。製鉄機械では「雨だれ法」といって、負荷荷重レベル毎に累積値を求めて閾値を設定する方法が用いられました。さらにS/N曲線を用いて寿命を予測する理論が登場し、機械寿命の理論は大きく進展しました。しかし、まだ不完全です。S/N曲線の理論は、演繹法というより帰納法です。いたずらに寿命曲線を外挿して、予測してはいけないのです。確認された範囲を超えた条件下での破壊については分かりません。

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専門外の方には何を言っているのか、分からないかも知れませんが、要は時速300KmOKだったから、時速350Kmでも大丈夫だ・・とは安易に言えないということです。つまり、最高速度を上げるには、十分な量の信頼できるデータが必要だということです。

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日本のJRでは、大量輸送向きで通勤にも便利だった二階建て新幹線を取り止めます。軌道の傷みを調査した結果、重たい新幹線車両は使うべきでない・・と判断したからです。日本の新幹線は誕生後50年経っても、慎重に調査研究を続けています。

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だから車両や軌道の疲労寿命や疲労強度を考えた場合、営業開始後、わずか数年間で時速350Km可能と判断してはいけないのです。

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逆説的ですが、どれだけスピードを出せるかは、どれだけ減速できるか、つまりブレーキの性能にかかっています。日本の場合、海底地震計に大きな揺れを感じたら、瞬時に緊急地震速報が出され、走行中の新幹線には自動的にブレーキがかかります。揺れが到来する前にどこまで減速できるかがカギです。地震国日本の新幹線では地震発生時の安全な停車が至上命題です。新潟中越沖地震でも、東日本大震災でも新幹線の乗客に死傷者はありませんでした。

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中国の高速鉄道の場合、モーターの大出力化で、スピードは出せるでしょうが、ブレーキがどこまで強化されたのか、報道を見る限り、不明です。そして中国も日本と同様に地震国です。中国に緊急地震速報に類するシステムがあるか? あるいはあったとして、今現在中国全土を網羅する高速鉄道網全体をカバーしているのか…不明です。尤も、ブレーキ性能が良すぎて、時速350Kmから急停車されても困ります。だって鉄道の乗客はシートベルトをしないのですから。

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機械系のシステムの良しあしは、完成した時点ではなく、一定期間、使い込んだ後に分かります。高速鉄道の場合、完成時点でなく、長期間運用してからの評価となります。

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俗に機械系の故障発生確率の推移はバスタブ型を描くとされます。

稼働当初は初期故障で多くのトラブルが噴出しますが、それらはすぐに対策が取られて、故障確率は激減します(これはバスタブの垂直の壁に相当します)。

その後、故障の少ない安定期が継続します(バスタブの底の部分です)。

やがて、経年劣化が進行し、老朽化によってじわじわと故障確率が上がっていきます。

(バスタブで背中をもたれかける緩やかな勾配です)。

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設備の寿命延長とは、平らな底の部分をいかに長くし、老朽化による故障確率の増加の到来をどう遅らせるか・・です。新幹線のような重要な社会インフラは、古くなったから交換するという訳にはいきません。(もちろん、車両はどんどん更新しますが、線路はそうはいきません)。寿命延長は、故障率が低い安定期の内に、対応する必要があります。

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日本の新幹線はまさに老化防止技術の塊です。本当なら、原子力発電所も、老化を研究する重要な対象でした。強烈な放射線を浴びた材料組織の劣化は、通常とは異なります。しかし、福島の事故以来、原子力発電所は政争の具になっています。

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脱線しましたが、話を元に戻します。今の中国には古い設備をメンテナンスしながら長期間使い続けるという発想があまりありません。日本であれば、半永久的な設備と言える製鉄機械ですら、短期間で投資した金額が回収でき、多少儲かれば、後は壊れてもいいじゃないか・・という発想で、長期間持たなくてもいいから、その分安く作れ、という発想です。

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高速鉄道や高速道路、超高層ビルまでそういう設計理念だとは思いたくありませんが、もしそうなら、事故の危険性は、時間の経過とともに増大します。バスタブは意外に狭いのです。

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中国の高速鉄道が、日本の新幹線を参考にしても構いません。大事なのはスマートな車体の形状などより、設備保全の考え方、どこにお金と技術を投入して設備を安全に維持するかというノウハウです。そこを日本の新幹線から学んでほしいのですが、これは目に見えないもので、盗むのも学ぶのも難しいものです。だから、中国の高速鉄道は運行開始後、年月が経ってからの方が怖いのです。

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中国の高速鉄道の危険性が増すのは何時頃なのかは、私には分かりません。しかし確実に言えるのは、時速300Kmから時速350Kmに変更することでその時期は早まります。

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しかし、本当に憂うるべき問題は別のところにあります。

 

以下、次号


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【 時速350kmの持つ意味 その1】 [鉄道]

【 時速350kmの持つ意味 その1】

 

中国の新華社通によると、中国の高速鉄道が時速350kmの速度を復活させたそうです。本ブログでは元記事ではなく、朝日新聞の二次情報の記事を紹介します。

http://www.asahi.com/articles/ASK7W7DCQK7WUHBI02N.html

 

しかし何度読んでも、この記事は、私にはさっぱり意味が分かりません。要点を整理します。

 

1.もともと、中国の高速鉄道は、時速350kmを出す性能があったが、温州市付近で発生した追突事故を理由に、最高速度を時速300kmに制限していた。このほど、安全性が確認されたので、時速350Kmに制限速度を戻した。

 

→ この文章は不可解です。そもそも温州市の追突事故は、トラブルで本線上に停車していた先行電車に後続の電車が追突したもので、原因は信号システムの不具合と、変則的なダイヤ編成(後続の電車が先行の電車を追い越していた)です。そして信号システムについても、ダイヤ編成問題についても抜本的な改善がなされたとの報道はありません。くどいようですが、追突事故は速度が速すぎて発生したものではありません。だから制限速度が時速350Kmだろうと時速300kmだろうと大きな違いはなかったはずです。それなのにどうして最高速度を制限し、そして今度は元にもどしたのでしょうか?

 

2.中国の高速鉄道は実験的に時速420kmを出したことがあり、時速350kmでも問題ない。

 

→ 実験で記録する最高速度と営業運転の最高速度の関係はあまりありません。それを言うなら、日本の新幹線だって20年も前に時速443kmをだしていますし、中国の最高記録も時速487.3kmです(かなり無理をしていますが)。

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という訳で、この記事はピントがずれています(これは朝日新聞の問題ではなく、中国の公式発表の問題です)。

そもそも、中国が高速鉄道の最高速度を制限したのは、政治的理由からだと私は思います。

もともと中華人民共和国鉄道部(いわゆる鉄道省)は、人民解放軍隷下の組織でした。私が乗車した時、女性車掌の制服が軍服みたいに見えたのも、現役軍人と退役軍人が、駅の待合室で特別扱いで厚遇されていたのもそのせいかも知れません。そして人民解放軍は独立性が高く、しばしば政府の言うことを聞きません(ちょうど、戦前の日本陸軍みたいなところがあります)。その結果、鉄道部の最後の部長だった劉志軍は好き勝手をして、賄賂は取り放題、国家財政には巨大な赤字を負担させ、さらには外国を挑発するような尊大な態度を取りました。聞けば彼には愛人が十数人、別荘が十数軒、受け取った賄賂が十数億円というバケモノみたいな汚職官僚でした。愛人十数人・・が事実かどうか、確認しようもありませんが、私は古い流行歌を思い出しました。

 僕は特急の機関士で、可愛い娘が駅ごとに、いるけど3分停車では、キスする暇さえありません ♬

話が下品になりましたが、そんな存在を生み出したのは人民解放軍鉄道部の独立性です。日本でも佐藤栄作の頃、国鉄一家という存在がありましたが中国に比べると可愛いものです。

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ある日、中国の高速鉄道は、日本の新幹線の技術を元に造られているとの指摘に対し、劉志軍は「時速350Kmへの高速化の技術は100%中国で開発されたものだ。(速度が遅い)日本の新幹線にも、この技術を売ってやってもいいぞ」とうそぶいたことがあります。この発言は日本でも問題になりました。

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中国では日本を侮辱したり愚弄したりすることは、特に問題になりませんが、なぜかその時は習近平の逆鱗に触れました。彼は失脚し、訴追され、執行猶予付きの死刑判決が確定しました。そして伏魔殿のような鉄道部は解体されました。もちろん、この発言だけが原因ではなく、彼を汚職追放キャンペーンの標的にして、鉄道部にメスを入れたいという習近平の思惑の結果です。

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高速鉄道の時速350Kmの運行は、彼の業績の象徴のように扱われていました。だから彼の失脚と同時に、技術的な理由はともかく、時速350kmの看板は引っ込められたのです。 そして、ほとぼりが冷めた頃に、時速350Kmは復活したのです。

では技術面からみて時速350Kmに問題はないのか?

 

それについては次号で


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【 フリーゲージトレインの挫折 その3 】 [鉄道]

【 フリーゲージトレインの挫折 その3 】

 

遠隔地を結びつける事が鉄道の使命なのに、あえてゲージを変えて不便にするなんて愚かさの極みだと思うのですが、世の中にはさまざまなゲージの鉄道があります。

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有名なシベリア鉄道やスペインの鉄道の話は既にしましたが、それらは国防上の理由で敢えてゲージを変えたとされています。しかし、島国日本の中で、何種類ものゲージがあるのは愚かさ以外の何物でもありません。

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その問題を解決する手段の一つがフリーゲージトレイン(FGT)でした。 JR西日本は九州新幹線長崎ルートのFGTについては冷淡でしたが、じきに自分の問題として向き合うことになります。 北陸新幹線の敦賀以西の区間については、ルートは決まりましたが、運行方式には未確定の部分が残ります。暫定的あるいは恒久的にFGTを活用するという選択肢もあったのですが、今のままでは難しいところです。

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佐賀県や新潟県で見られた地域エゴというか、分担金不払いの問題は、今後も起きるでしょうし、北陸新幹線の残りの区間(敦賀=大阪)を、全線フル規格で同時に完成させるのも難しいでしょう。 そしてリレー方式もなるべく避けたいのです。FGTという選択肢をつぶしたことをJR西日本が後悔する日が来そうです。

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様々なゲージが混じっているという点では日本の首都圏の鉄道が最悪です。(関西も似たようなものですが)。その首都圏でも、もっともひどいのが、都営地下鉄です。標準軌の浅草線や、狭軌の三田線などに加え、京王電鉄と相互乗り入れするために、中間軌(鉄道馬車や都電の線路)の新宿線や、リニア駆動式の大江戸線まで持っています(大江戸線は線路幅としては標準軌を採用)。

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その首都圏で、FGT採用の可能性がうわさされています。それは狭軌である東急と標準軌である京浜急行の相互乗り入れで、京急蒲田駅とJR(東急)蒲田駅をつなぐという計画です。

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京浜急行の羽田空港線は同社のドル箱路線です。かつて京成電鉄が成田空港に路線を延ばした時に、長く赤字で苦しんだのとは大違いです。その京浜急行の一人勝ちを眺める東急は、悔しいに違いありません。東急グループは航空事業に早くから取り組んだ会社です。日本航空に吸収される前の日本エアシステム(東亜国内航空)は東急グループに属していました。

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狭軌の鉄道を持つ東急グループもぜひ羽田空港のターミナル駅に乗り入れたい訳ですが、それには東急/JRの蒲田駅と京浜急行の蒲田駅を結ぶ線路(つまり蒲蒲線)と、京急の標準軌の線路を使ってターミナルに乗り入れる工夫が必要なのです。

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そこで蒲蒲線にゲージ切り替え区間を設け、FGTを走らせようというアイデアが登場し、一部の鉄道ファンの間で盛り上がっています。しかし、これがうまくいくかは不明です。

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現在、利益を独占している京浜急行が簡単に応じるかは分かりません。そもそも、京浜急行とJRや東急は、鉄道車両設計の思想が全く異なります。両社が協力して技術開発するかは不明です。

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FGT以外にも方法はいくつかあります。

・成田空港方式:もともと複線用の空間に、京成電鉄(標準軌)とJR(狭軌)が1本ずつ乗り入れ、それぞれ単線で運用する方式。

・青函トンネル方式:3本レールを並べ、標準軌も狭軌も走行できる方式。

・近鉄方式:どさくさに紛れて、既存の狭軌の区間を標準軌に改軌する方式。東急多摩川線を標準軌にします。

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羽田空港は、今後さらに利用者が増えますが、連絡する鉄道が京浜急行とモノレールしかありません。近い将来、輸送力不足が顕在化します。ここは頑張って何とかJRか東急に乗り入れて欲しいものです。

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鉄道ファンの間では蒲蒲線への期待が大きく、開業に向けてのイメージソングを考えている人もいるそうです。なんでもカルチャークラブのボウイジョージが歌うカメレオンの歌だそうですが・・・・。

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日本以外でもFGTの需要は、いろいろあります。既に実用化しているスペイン以外では、旧東欧諸国や中国などです。中国は一帯一路プロジェクトで欧州との交通のパイプを太くしたいと考えていますが、その場合、標準軌の鉄道とロシアの鉄道(広軌)をスムーズにつなぐ必要があります。

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そして意外な国は北朝鮮です。かつて金正日がロシアをたびたび訪問した時は、国境で特別列車の台車を交換しロシアの鉄道に入っていましたが、ある情報では、最近、北朝鮮国内に、ロシアの鉄道(広軌)の線路が伸びているそうです。これは金正恩が、中国離れし、ロシアに接近している証拠だと思いますが、北朝鮮国内でのゲージ変換の必要が発生します。

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たかが、線路の幅の違いという小さな技術的問題ですが、それを通じて世界情勢が読み取れます。旧ソ連崩壊後、オーストリアや東欧諸国では標準軌への改軌が進み、ロシアの広軌が走る世界は急速に狭くなりました。一方で北朝鮮では広がっています。

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ゲージはバラバラのままですが、政治体制の違いを超えて、物流はますます盛んになります。古くて新しい技術FGTは、ますます重要になります。佐賀の新幹線での失敗を乗り越えて、FGT開発を日本は続けるべきだと思います。


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