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【 ガンのアポロ計画 エクソーム分析とトランスクリプトーム分析 】 [医学]

【 ガンのアポロ計画 エクソーム分析とトランスクリプトーム分析 】

 

1960年代、アメリカが最も豊かだった時代、その実力を象徴する国家プロジェクトはアポロ計画でした。ケネディ大統領が、米国は1960年代中に人類を月に送り込むと宣言し、1969年のアポロ11号でその夢は実現したのです。正確には、アポロ計画の前にジェミニ計画、その前にマーキュリー計画があり、それらの積み重ねとして月面着陸は実現したのです。その時ケネディ大統領は既に故人でしたが。

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現在の米国に当時の勢いはありませんが、世界があっと驚くような国家プロジェクトを実現したい・・と思ったのはオバマ大統領も同じです。そこで新しいプロジェクトを考えたのですが、それは火星旅行でも深海探査でもなく、「ガンの完全制圧」というものでした。

http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/327442/070800070/?ST=health&P=1

National Cancer Moonshot」とまさに50年前のアポロ計画をなぞった名前です。

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しかし、そこで疑問が残ります。一口にガンといっても固形で臓器に発生するもの、血液のガン等、多くの種類があり、共通する性質といえば、正常な細胞・組織をガン化させて、それらが転移して人を死に至らしめる・・という性質ぐらいです。

それら全てのガンに対して共通で統一的な治療法があるとは私には思えないのです。

一体何をするのかしらん?と思いましたが、その方法とは、実に、全ての人の遺伝子情報(ゲノム)を解読して、データベース化し、遺伝子情報に基づいてオーダーメードの治療法や医薬品を選択するという途方も無いものだったのです。

これは、気の遠くなるような、巨大なプロジェクトです。記憶されるべき情報量は、1万人あたりで1P(ペタ)バイト、100万人では100Pバイトとなります。

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米国の人口を26千万人と仮定すると、26,000Pバイト=26E(エクサ)バイトという途方もない情報量です。 私はエクサという単位を初めて用いました。 ちなみに、私が購入した超大型ハードディスクが1T(テラ)バイトですから、それが2600万台必要ということになります。しかし、全世界で考えると、それだけでは足りません。仮に70億人と仮定すると、700E(エクサ)バイト、つまり私の1Tバイトのハードディスクが、7億台必要になります。それだけでも、サターン5型ロケットの開発に匹敵すると思われます。

しかし問題は、それだけの情報量を処理・管理する技術です。最近はビッグデータの解析というのが流行ですが、本当に有効活用できるのでしょうか?上記の報道では、クラウド空間を利用してデータを蓄積し、相互に利用するとのことです。

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そもそも、国民全員のゲノムを全て解読してデータベースにするなどということは可能なのでしょうか?ヒトのゲノムが完全解読されたのは、そう古い話ではありません。ゲノムの情報の殆どは、全ての人に共通の内容ですが、極僅かに個人差があります。これは人としては同じでも、個人個人で顔の形が違うようなものです。だから、全ての人のゲノムをデータベースにする必要があるのだそうです。

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かつては全ゲノムの調査はコストと時間がかかり過ぎるので、ガンなどの発現と関わりが深い、EXON部位だけを分析するエクソーム(EXOME)分析が主流だった様です。しかしそれでは家族性大腸ガンなど、重要な疾病の情報が欠落する・・という事情から、全ゲノムの解析が必要となったのです。

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全ゲノム解読にはトランスクリプトーム分析という手法が普通ですが、前述の通り、エクソーム分析に比べて、時間とお金がかかるのが難点でした。 しかし、近年多くの技術的進歩があり、コストと時間は大幅に短縮されたようです。理研の研究員の方が解説をされています。

http://www.jst.go.jp/nbdc/bird/jinzai/literacy/streaming/h22_2_1.pdf

トランスクリプトーム分析について解説する紙面の余裕はありませんし、私の専門でもないのでここでは説明しません。 全体をまとめると、この21世紀のアポロ計画が可能となったのは、下記の3つのブレークスルーがあったからです。

 

1.     大容量の記憶装置の単価が劇的に安価になり、かつクラウド空間が利用できるようになった。

2.     トランスクリプトームが安価、かつ短時間で可能になった。

3.     大量のデータを解析して、情報を抽出するクラスター分析などのデータ解析技術が発達した。クラスター分析の手法は統計力学の世界ではかなり昔からありますが、ビッグデータの解析に活用できるようになったのは、比較的最近のようです。

 

アポロ計画に匹敵する21世紀の科学技術の大プロジェクトとは、膨大なデータの蓄積とそこからの有益情報の抽出解析という、かなり地味ですが、巨大な計画だったのです。これでガンが完全に制圧できるかは全く不明ですが、このままいくと、米国が遺伝子データの解析で圧倒的に先を行く可能性がでてきました。

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このままでいいのか?日本は何をすべきなのか?取り組むべき課題は多くあります。

1.     米国のこのプロジェクトはまず、米国人のデータ解析から始まります。おそらくは多数派である白人、黒人、ヒスパニック系の人々のゲノム解析から進むでしょう。世界人口で最多を占めるアジア系の人々の解析は後回しです。しかしアジア人には、アジア人特有のガンもあり、アジアはアジアでデータベース構築を急ぐ必要があります。これは日本または中国が音頭をとって実行すべきでしょう。データはクラウド上に保管され、各国からアクセスできるようにすべきでしょう。

2.     京都大学の山中伸弥教授が提唱するiPS細胞バンクまたは、iPS細胞データベースの構築を急ぐべきです。こちらは、明らかに、今すぐ役に立ち、それによって助かる人が多くいるプロジェクトです。

3.     ガンの制圧に重要な情報は、ゲノムだけではありません。最近分かってきたエクソソーム(EXOSOME)小体の研究は重要です。

EXOSOMEとは、既に説明したエクソーム(EXOME)解析と紛らわしいのですが、全く別物です。 これはガン細胞の発現、および転移に関わる重要な存在で、エクソソーム小体に関わるmRNAmiRNAの解析が重要となります。

http://www.med.keio.ac.jp/gcoe-stemcell/treatise/2012/20130129_01.html

ガンの恐ろしい点は、転移することですが、そのメカニズムは長い間よくわかっていませんでした。ガン細胞そのものが、リンパ液に乗って流されていき、漂着した場所で転移病巣を構築するという説がありますが、細胞表面にまぶした小さな顆粒のようなエクソソーム小体が転移に関わっていることが明らかになりつつあります。

http://www.funakoshi.co.jp/contents/8298

エクソソーム小体を調べることで、ガンの早期発見、転移の有無の確認、転移の防止などか可能になる可能性があります。まず日本はこの研究を優先すべきではないでしょうか?

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そもそも、世界の全ての人のゲノムを解析することには、倫理的・哲学的な問題があります。ゲノム信仰とは、一種の運命必然説です。人の人生は、そして将来発生するすべての事象は、必然の産物なのか、偶然の産物なのか?という哲学的命題について、必然説を取る人たちが重視するのが、遺伝子つまりゲノムが全てを決定するという説です。

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生まれながらの遺伝子で、その人の性格、容貌、身体能力、頭脳の能力が決まり、どういう一生を送り、いつ頃どのような病気に罹り、いつ頃死ぬかが、決まるという思想です。それだけでなく、人種、民族単位で、身体的特徴や知能指数が論じられる、優性についての議論が可能になります。 それが行き着く先はヒットラーの思想です。

アメリカが取り組む21世紀のアポロ計画は、その危険性を秘めています。

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日本は全く別の観点から、新しいガン征圧プロジェクトを始めるべきです。 別にアベノミクスの3本の矢とは関係なしでいいですから。


【 ニボルマブをどうする? 】 [医学]

【 ニボルマブをどうする? 】

近年、ニボルマブ(別名オブシーボ)という抗ガン剤(または制ガン剤、またはガンの特効薬)が話題になっています。抗ガン剤というべきか制ガン剤と言うべきか、あるいは根本治療薬・・と言うべきか、迷うところですが、ガンという疾病の特殊性を考えると、抗ガン剤という表現がやはりいいのかな?と思います。

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素人である私が解説するのもおこがましいのですが、この新しい薬品は、多くの上皮細胞ガンに効果があり、特にこれまで有効な薬剤がなかった悪性黒色腫(メラノーマ)や進行期の肺がんにも著効があるそうです。また転移ガンにも著効があるということで、ガン患者全体の生存率が、この薬品の登場で大きく変わる可能性があります。

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基本的な原理は、京都大学の本庶佑博士が考えたもので、人間が本来持つ免疫機能を強化する仕組みです。

人体にはもともとがん細胞などの異物を識別して攻撃する免疫細胞があり、がん細胞固有のマーキングを見つけて攻撃する訳ですが、がん細胞もさるもので、がん固有のマーキングを見つけられないように妨害します。ニボルマブはその妨害活動を妨害する薬品で、それによって、免疫細胞は勇気百倍、ガンに襲いかかるというもの・・だそうです。

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従来の多くの抗ガン剤は、毒であり、正常細胞とガン細胞の毒に対する耐性のわずかな差を利用してガン細胞を殺す、いわば「肉を切らせて骨を切る」という方法でした。だから、正常な組織のダメージも大きく、副作用も深刻でした。

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しかし、ニボルマブの方法は、人が本来持つ免疫機能を奮い立たせるものですから、副作用の様子も違ってきます。ガンの積極的治療のマイナス面を強調する近藤誠氏の、いわゆる「がんもどき理論」も、副作用が限定されるニボルマブの前には成立しません。

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実際の薬は、ブリストルマイヤーズが作り、日本では小野薬品が製造しています。

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このように書くと、夢の特効薬の登場で、これで進行期のがんも不治の病ではなくなり、バラ色の世界が待っているようですが、そうは問屋が卸しません。この夢の薬品には問題が多くあります。

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一番目はその価格です。製造の困難さやこれまでの開発費などから、その価格はベラボウに高く、普通の肺がんの患者が使った場合、1月のお薬代は軽く200万円~300万円となります。毎月、新車を買うようなものです。治療終了までに1年かかるとすれば、費用は3000万円になります。標準体重を大きく超える、オヒョウのような肥満体患者の場合は、使用量はもっと多くなるので、4000万円以上となります。病気が完治する前に、財布が空になり、そのために絶命するという、笑えない事態が待っています。

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多くのガンに対して効能が確認されるニボルマブを、保険適用として全てのガン患者が一斉に使い出したら・・・、一瞬で日本の健康保険会計はパンクし、日本の財政も破綻します。

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そしてもう一つの問題は夢の特効薬とはいうものの、全ての患者に効くとは限らないということです。ガンの種類や症状で違うのでしょうが、一定の比率の患者にはニボルマブも効きません。人生設計に影響を与えるぐらいの高額な買い物・・であるニボルマブを買っても、効果がなかったとしたら、ほとんど絶望したくなります。

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私だったら、ニボルマブが効かなかった場合に損失補填する保険を考えますが、それで問題解決という訳にはいきません。効かない患者に投与された貴重な薬は返ってきませんし、ニボルマブに貴重な時間を賭けたために、手遅れとなる進行ガンの患者もでてきます。

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医学的な対策は多くの専門家が考えています。トラスツズマブなどの他のモノクローナル抗体の薬剤を併用したり、更なる改良を進めるという方法があるそうです。オヒョウが口出しする余地はありません。

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オヒョウが考えるのは、深刻な問題となる薬価への対応です。具体的には、一人でも多くの人がこの薬を使えるようにするための財源探しを人々は考えるべきです。

私が考えるのは、喫煙と肺がんの因果関係に基づいた、喫煙者とたばこ産業への課税強化と薬剤調達費の捻出です。今、一箱千円未満のたばこを一箱一万円程度に値上げし、値上げ分を国が徴収して、ニボルマブを使用する患者への補助金とするのです。

今、日本たばこ産業(JT)の売上高は22500億円程度です。たばこ以外の分を除き、簡単に2兆円とし、たばこの価格を10倍にすることで売り上げが10倍になるとすれば20兆円、新たに生じた18兆円を、新型の抗ガン剤購入費の助成にまわせば、問題は解決します。

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無論、たばこを値上げすれば、喫煙をやめる人も増えるでしょうし、肺がんに罹る人も減るでしょうから、金額自体は大きく減るでしょう。それでも財源確保の有力手段となるのは間違いありません。ニボルマブが薬効を示すガンの中には、一部の肺がんも含め、喫煙が原因ではないものも含まれますが、細かいことはいいのです。全体としては大きな原因者である、喫煙者に負担を求めることにしましょう。

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ガンの原因物質を野放しにする代わりに、治療費を負担してもらうというのは現代医療の皮肉ですが、現実的です。

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これから登場する新税は、目的税が多いでしょう。そうでなければ国民の理解を得にくいからです。 医療費や医学研究費の財源確保も、目的税で対応すべきです。

喫煙と肺がんだけでなく、多くのガンや難病で、生活習慣や環境問題との因果関係が明らかになりつつあります。 それらに全て課税するというのが私の提案です。

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例えば、自動車の排気ガスと呼吸器疾患の因果関係を明確にして、自動車に課税するとか、風俗産業に課税して性病対策にあてるとか・・。

問題は、原因となる事情が、日本国内に限らないということです。

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輸入食品に含まれるアフラトキシンと肝臓がんの関係、季節風に乗ってやってくるPM2.5と喘息の関係を明確にしても、外国にその負担を求めるのは困難です。

そしてもうひとつ、この種類の課税強化と薬価補助には必ず抜け道を探したり、密輸で儲けようとする輩が登場します。これが問題です。

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たばこを値上げすれば、外国から密輸入する人が必ずでてきます。逆に日本でだけニボルマブの価格が下がれば、これを外国に密輸出する人がでてきます。そして非常に高価な薬品の場合、偽薬が登場します(多分、中国か北朝鮮あたりで製造されます)。北朝鮮では、日本たばこのセブンスターの偽物も作っていますから、高価なたばこと、高価な抗ガン剤の両方で、彼らは儲けるのです。

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この現代に暗躍する「第三の男」をどうやって摘発・排除するかも、行政の次の課題になるでしょう。

偽薬となると、 オブシーボよりプラシーボになってしまいますから・・。


【 バカに付ける薬 】 [医学]

【 バカに付ける薬 】

 

人生を振り返ると、「ああ、なんて俺はバカだったのか!」と後悔することしきりです。では今は少しは利口になったのか?と言えば、そうでもありません。若い頃に比べて、頭の回転が明らかに遅くなったと感じる時もあります。記憶力も低下しています。そして、これからさらに知力が衰えていくのか・・と思うと、暗澹とした気持ちになります。

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年少者の未熟や、年長者の衰えを笑ってはいけない・・という意味で、巷間でよく言われる、「嗤うまいぞ、来た道ぞ。嗤うまいぞ、行く道ぞ」という言葉がありますが、私には、そう言って受け入れるだけの精神的余裕はありません。自分自身の将来を憂い、どこかにバカに付ける薬はないものか?と考えたりします。

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そしてどうやら同じことを思う人はたくさんいるみたいです。 根拠が乏しくてもバカに付ける薬を売り出せば、買う人は多くいて、必ずヒット商品になります。

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昔から、病的状態の認知症に対する薬は、幾つかあります。古くは「ホパテ」、その後に登場した「アリセプト」などは、脳の代謝を促進する薬ということで売り出されましたが、その効果には疑問符が付きます。抜本的に治療する薬ではなく、単なる対症療法薬だという点では、風邪薬と同類ですが、「ホパテ」や「アリセプト」で、認知症が劇的に改善したという話は、聞いたことがありません。

そもそも認知能力の低下は病気なのか、

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専門家ではないので、断定的な事は言えませんが、加齢のよる通常の認知能力の低下(いわゆる老人ボケ)と、アルツハイマー型に代表される病的な認知症とを、識別することも容易ではありません。幾つかの問診によって、アルツハイマー型であることを確認しますが、発症のメカニズムがよく分からないなかでの診断には危うさもあります。

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古くは、患者の脳内にアルミニウムの蓄積が確認されたということで、アルミ鍋の使用がアルツハイマー病の原因だという、不思議な説が登場して、一斉にアルミ鍋が姿を消し、ステンレス鍋に置き換わったという社会現象がありました。

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今でも、β(ベータ)アミロイドの脳内蓄積が関与しているという説と、別のタンパク質(τ(タウ)タンパク質)の脳内の異常凝集が原因だとする説があり、議論が進んでいます。βかτかの論争です。これは非常に重要な問題であり、この論争に決着が付けば、特効薬の開発が急速に進む可能性があります。現代の薬学は、薬の作用機序が解明されると、急速に新薬開発が進むからです。

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そう思っていたところ、以下の報道がされました。

τタンパク質の異常凝集を阻害する薬 LMTXが開発され、著効を挙げているというのです。開発チームはタウRXで、赤道直下のシンガポールにある頭脳集団です。しかし、中心となる研究者は、スコットランドの北部にあるアバディーンの大学教授だとか。

http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/160405/cpd1604050500006-n1.htm

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しかし、一方のβアミロイド派も負けてはいません。(最近は、βアミロイドではなく、アミロイドβと呼ぶみたいです)。

抗アミロイドβ抗体である、ソラネズマブを臨床試験した結果、その効果を確認した・・とのことです。でも、別の抗アミロイドβ型の薬品BIIB037の有効性は確認されていないとのこと。 一体どちらが本物なのか・・・? そしてτとβ、どちらが重要なのか?

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新聞報道では、LMTXとソラネズマブの両者は、作用機序が異なるので、どちらかを選択するのではなく、併用すればいい・・と、予定調和というか、玉虫色の見解を述べています。

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まだ分からないことがたくさんありますが、少なくともホパテやアリセプトの時代に比べたら、確実に進歩しつつあります。 私が認知症に罹る頃には、本当に薬効が確認された「バカに付ける薬」が実用化されているでしょう。

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でも需要が多いから、なかなか一般庶民の手には届かないかも知れませんね。画期的な新薬が登場した時にしばしば発生する問題ですが、薬価が高くて貧乏人には買えないとか、緊急性の高い患者や社会的に重要な患者に優先して割り当てる措置が必要だ・・といった事態が予想されます。

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日本の場合、まず優先的に「バカに付ける薬」を割り当てなければならないのは・・、やはり永田町あたりに暮らす人達でしょうかね?


【 ワトソンが作る薬 】 [医学]

【 ワトソンが作る薬 】

 

最近、インシリコという言葉を聞きます。 英語(ラテン語?)のつづりでは、in silicoだそうで、これは「シリコンの中で」という意味になります。

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これを聞いて、理科系の方はピンと来るかも知れません。自然科学では、生体内での現象をin vivo, 試験管内での現象を in vitroと表現します。また研究室ではなく現場での現象をin situと表現します。

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だから、その延長上で考えれば、in silicoとはコンピューター上での実験またはシミュレーションを意味する・・と推理できます。 ご承知の通り、コンピューターのことをシリコンに例えることは、しばしばあります。

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だから、in silicoというのは、コンピューター上での実験や解析のことだ・・と思うのですが、実際にはこの言葉は、医学・生物学や創薬の分野で主に使われているようです。

特にコンピューター、とりわけスーパーコンピューターを用いた研究と言えば、医薬品の開発が代表のようです。

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既にスーパーコンピューターを用いた新薬開発はどんどん始まっています。例えば、下記の事例です。有名な人工知能ワトソンに、薬を発明させようというものです。

http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/012800017/022100003/?n_cid=nbptec_tecml

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思えば、全ての産業は効率化が進み、生産性が向上しているなかで、新薬の開発は依然として効率化が非常に難しい仕事です。しかも、成功して製品化される薬品は千に一つという世界です。だからコンピューターの活用が最も求められる業界でした。

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薬の発見・開発は、昔から困難な仕事でした。 古代の中国の四大医聖のひとり、神農は、山野を歩きながら、杖で草木や鉱物を叩き、瞬時にそれが毒なのか、無害なのか、薬品なのかを見分けたそうです。 そんなに効率的に新薬を見つけるのならまさしく神様です。そして現在も残る漢方薬の幾つかは神農の発見によるというのですから、大したものです。

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現代は多くの薬品は、分子レベルで解析され、その効能が帰納法的に調べられます。

しかし、病原物質の数も、薬効が期待される化学物質の数も極めて多く、それらの組み合わせの数となると、甚だ膨大です。

京都大学の奥野教授の説明では、病気の原因となるたんぱく質の種類は600種類、一方、それと掛け合わせる、薬の候補となる物質は3000万種類あるという事で、組み合わせの数はまさに天文学的となります。

http://news.mynavi.jp/news/2014/10/25/006/

しかも、それらの組み合わせをしらみつぶしで調べても新薬ができる確率は低く、労多くして実り少ない作業となります。

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そこで活躍が期待されるのはスーパーコンピューターです。とにかく気の遠くなる膨大な計算をこなすのは、スーパーコンピューターに限ります。かつて、国の事業仕分けで、理化学研究所のスーパーコンピューターが仕分けの対象になったことがあります。あの蓮舫が「二番じゃダメなんですか?」という愚問を発して話題になったあの事業仕分けです

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その頃のスーパーコンピューターは、天然に発生する複雑な現象の解析やシミュレーションをするのが主でした。勿論これも気象予報などの分野で重要な役割ですが・・。

そして一方では計算速度のチャンピオンデータを競うオリンピック用の道具みたいなところもあり、実用には役立たない趣味のための研究かよ・・ということで、納税者からは理解が得られにくかったという背景があります。

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今、スーパーコンピューターは基礎研究のための道具から脱皮し、実際に役立つ製品の開発研究に盛んに利用されるようになりました。飛行機の設計も自動車の設計も、自然災害の時の避難誘導ルートの作成もスーパーコンピューター無しでは考えられません。 もっとも、ス-パーコンピューターといっても、ピンキリで、初代の頃のそれは、今のゲーム機と性能が大差ありません。(正確に言えば、ゲーム機の性能があまりにも優れていると言うべきです)。

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そして、それが更に身近になり、スーパーコンピューターのご利益を誰もが感じられるようになった訳です。 その代表が新薬開発です。

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我々は実に身勝手な存在です。健康で暮らしている内は新薬の必要性など感じません。 一体、今の世の中に、これ以上新しい薬を開発する必要などあるのか?とさえ思います。

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しかし、一旦病気を得ると、世の中に優れた医薬品が無い事を嘆くことになります。ガンを患えば、抗ガン剤や制ガン剤のお世話になりますが、薬の種類はたくさんあるのに、本当にガンに効く薬はあまりありません。一方で副作用は、大なり小なり、どの抗ガン剤にもあります。

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そして、日本にいれば分かりませんが、アジア・アフリカの熱帯地域には、いまだ特効薬が無い、恐ろしい風土病が数多くあります。ノーベル賞を受賞した大村教授が退治したオンコセルカ症だけではないのです。WHOは「顧みられない熱帯病」として、特効薬の開発や配布などを呼びかけていますが、話題性があるエボラ出血熱など以外は、予防薬も治療薬も開発が遅れています。

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まだ治せない多くの病気に苦しむ人々に、特効薬を提供することこそ、世界の人々への光明であり福音なのですが、新薬の開発には、人とお金と時間がかかります。前述のとおり、多くの化学物質について、疾病との組み合わせを網羅して、効果を調べるというのは気の遠くなる作業です。 さらにそれを化学的に合成するとなると、さらに時間がかかります。

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そこで、スーパーコンピューターの登場です。もし、これで新薬の開発期間が1/10になれば、今、死を待っている患者で助かる人も多くでるでしょう。開発コストが安くなれば、途上国の人々や貧しい人も入手できるようになります。いい事ばかりです。

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でもこれだけではないでしょう。ここまでの話は一般的で普遍的な薬効がある医薬品の場合です。これから、医薬品の世界はガラリと変わり、オーダーメードの世界に入ります。抗ガン剤がその代表ですが、薬の効き方は人によって違い、その研究は遺伝子レベルで進んでいます。近い将来、ひとりひとりの遺伝子情報に基づいて、その人に最も適した薬を設計し合成するオートクチュールの時代になります。

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調剤薬局11軒に、スーパーコンピューターが1台ずつ置かれ、訪れた患者から遺伝子情報を得て、たちどころに、薬を合成するのです。医師と薬剤師の中間にあたる職能を持つ技術者が、コンピューターと化学合成装置を操作し、短時間で創薬する時代がくるのです。 そんなバカな・・と思うかも知れませんが、パソコンだって、今から30年前には珍しい存在でした。それが今は普及し、11台に近づいています。

スーパーコンピューターもすぐに安くなり、普及する時代になるでしょう。 そう、価格はプレーステーション並みになるでしょう。その頃は誰もスーパーコンピューターとは呼ばず、人工知能(AI)と呼んでいるかも知れません。 なに、遠い先のことではありません。 多分10年以内でしょう。 その時、誰も、その薬局のコンピューターが世界で一番か、そうでないのか・・などは気にしないでしょう。その代り、人工知能に名前を付けるかも知れません。 それがワトソンなのか、神農なのか、私はちょっと気になります。


【 原子炉とピンポン玉 】 [医学]

【 原子炉とピンポン玉 】

 

川内原発の1号機に続いて2号機も再稼動され、日本の原子力発電所は復活し始めました。原発反対派は「『喉もと過ぎれば熱さを忘れる』ということか!」と怒り心頭です。ちなみに、原発反対派が反対しているのは、あくまで日本の原子力発電所であり、中国、北朝鮮、韓国の原子力発電所については、基本的に彼らは賛成または無視です。ちょっと不思議です。

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中国は、毎年6基~8基のペースで原子力発電所を建設しており、そのスピードには驚くばかりです。安全審査は確実に実施されているのか?と心配になりますが、旧東側のチェルノブイリ原発型ではなく、ウェスチングハウスやGEが設計した軽水炉なら、少しは安心できます。

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中国に原発の安全審査を行える技術者が何人いるかは知りませんが、日本の方は全く人手不足です。鹿児島の川内原発に続いて、早く安全審査を受けたい原発は並んでいるのですが、手が回らないので遅れているみたいです。 安全審査が遅れれば原発の再稼動が遅れ、それだけ電力料金の高い状態が継続し、日本の電炉業界は疲弊します。 いや、電炉業界のことなどどうでもいいのです。このまま原子炉の再稼動が遅れれば、多くの人命が失われます。

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福島第一原発の事故では、一人も亡くなった人はいません。(311日、発電所でも犠牲者が出ていますが、これは地震で亡くなられた方で、原子炉爆発以降に亡くなられた訳ではありません)。 しかし、その後、日本の原子炉を止めたことで、今後、かなりの犠牲者が予想されます。 それは一体どういうことか?

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ここで言う原子炉とは原子力発電所のことではありません。原発は正直な話、どうでもいいのです。たとえコスト高でも代替発電手段があるのですから・・。 ここで言う原子炉とは、日本に何基かある研究用の原子炉または医療用の原子炉のことです。それらは原子炉の安全基準の見直しに伴い、停止しているのです。 その結果、研究が遅れます。特にBNCTの臨床研究に影響が出るそうです。

http://www.nikkan.co.jp/news/nkx0720151019eaad.html

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BNCTとは何か? 医師でもない私が説明するのもおこがましいのですが、下記のホームページに分かりやすい解説があります。

http://www.antm.or.jp/06_bnct/0104.html

これは悪性腫瘍への熱中性子線を用いた一種の放射線治療ですが、正常細胞は殆ど傷つけず、がん細胞のみに選択的に働く、夢の治療法です。夢の・・と言いながら、実は大昔からあります。 癌の中でも悪性のものは、がん細胞と正常細胞の境界が不明確で、正常組織の中に癌が浸潤していきます。このタイプのものは、外科手術による剔除が困難です。典型的なものはグリオブラストーマ(膠芽腫)。 悪名高き脳腫瘍です。 しかし、この絶望的な癌も放射線治療で治すことができます。その方法とは、

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主にがん細胞だけが吸収する特殊なホウ素化合物を体内に注入します。するとホウ素化合物はがん細胞だけに溜まります。 そこに原子炉から放射される熱中性子線を当てると、ホウ素がその中性子を取り込み、核分裂反応を起こし放射線の一種であるα線を放出します。世界一小規模な原爆です。ご存知の通り、α線はヘリウム原子核で、透過力は非常に弱いものの、強い電離作用を持ちます。 つまり、がん細胞のみが死滅し、隣の細胞には害を与えません。 この方法でグリオブラストーマの治療が可能です。

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このユニークな方法の考案者は外国の人ですが、この技術はもっぱら日本で発達しました。その理由のひとつは、治療に適した熱中性子線を出す原子炉が日本にあり、原子炉の横で開頭手術ができたことです。 

もうひとつは、中性子の吸収に適した画期的なホウ素化合物を日本で開発できたこと(今なら間違いなくノーベル賞です)。 

そして最後は日本人ならではのきめの細かい知恵と工夫です。

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熱中性子は、水の中で大きく減衰します。これは中学生でも理解できることです。中性子の質量は、水素原子と同じです。中性子が水に進入し、水素原子と完全弾性衝突すれば、運動量は水素原子に移動します。それは、水の分子の回転モーメントに転換して、中性子は停止します。停止しなくても中性子は減速し、失ったエネルギーはチェレンコフ光という青白い光になります。

原発の核燃料プールに水が張られているのも、中性子の漏洩を防ぐためです。

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しかしこのことは、脳腫瘍の治療では問題となります。 体の奥深いところに腫瘍がある場合、中性子線は途中で減衰してしまい、がん細胞内のホウ素化合物までたどり着けません。人間の体には水が多く含まれるからです。何とか、乾いた空間に中性子を飛ばし、腫瘍に導けないものだろうか? そこで研究者が考えたのはピンポン玉です。頭を開いた後、患部の手前にピンポン玉をはめ込み、中性子の通り道を作ったのです。 この方法は非常に有効で、治療成績は向上しました。

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1970年代、武蔵工業大学にあった原子炉で多くの治療が行われ、その様子はNHKの科学番組で紹介されました。 ピンポン玉のアイデアも面白く紹介されました。(今もピンポン玉を使っているかは不明ですが)。 そのTV番組が取り上げた事例ですが、オーストリアの医学生がグリオブラストーマに罹り、余命いくばくも無い状況になって、日本に運ばれてきました。母国オーストリアでは治療法が無かったからです。そして日本でBNCTが施され、回復して帰国したのです。勿論、ピンポン玉も使われたはずです。 まだ人々の間に放射線アレルギーが少なかった時代です。

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しかし、その後、武蔵工業大学の原子炉は老朽化と都市部ゆえの反対運動のため、廃炉となりました。 残る頼みの綱は、京都大学の研究所ですが、安全審査が遅れており、現在稼動できない状況です。 ああ、その間にも悪性脳腫瘍の患者は落命していくのです。

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医師でないオヒョウが言うのも変ですが、ある種類の癌には特定の放射線治療が顕著に効くことがあります。 

一般に扁平上皮癌は放射線治療が有効だそうですが、なぜか中国人に多い上咽頭癌の場合、高エネルギーX線照射が治療の最優先候補になります。 また膀胱癌では陽子線照射が特に有効で、膀胱を温存することが可能です。 しかし、問題は陽子線をあてる設備が少なく、筑波大学など、限られた場所にしかないことです。

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今の時代、放射線を出せる加速器や原子炉を作ろうとしても、反対派がそれを許さないかも知れません。 せめて既存の設備を最大限有効活用すべきなのですが・・・。

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俳優の菅原文太は、反原発、反核エネルギーを唱えていましたが、自分が癌になったら、まっさきに陽子線照射を受けて膀胱癌を治しています(結局亡くなりましたが)。

放射線治療で命が助かった男なのに、反原子力を声高に訴えるのを聞いて「どの口がそれを言うか!」と思ったのは私だけではないでしょう。

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音楽家の坂本龍一は「たかが電気のために原子力などとんでもない」と原発を否定しました。電気自動車のCMに出ていた人物とは思えない発言ですが、その後、彼は中咽喉癌に罹りました。常識的に考えると、高エネルギーX線治療の対象になるのでしょうが、反原子力、反核を唱える彼は、いったいどうしたのでしょうか?

「健康を害する放射線に頼るくらいなら、死んだほうがましだ」とでも言うのでしょうか?それならそれでひとつの見識と言えますが。

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過度の原子力アレルギー、過度の放射線アレルギーが、結果的に多くの人命を奪っているのなら、愚かなことだと私は思います。


【 宇宙公衆衛生学 】 [医学]

 宇宙公衆衛生学 】

 

こんな言葉は勿論ありません。でもこれからできてもいいかも知れないと私は思います。最近、「宇宙何とか学」という名前の学問分野がどんどん登場しそうな気配なのです。例えば、金属学の世界では宇宙空間での実験結果が多く発表されるようになりました。 無重力(または微小重力)下ではデンドライト凝固が進みません。また比重が大きく異なる金属同士を均一に混ぜて一様な合金を作ることも無重力下では容易です。宇宙金属学というジャンルができるのももうすぐです。

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また宇宙空間で発芽した苗を元にした宇宙植物学ももうじき誕生しそうです。だから、宇宙公衆衛生学もあっていいかも・・と思うのです。

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今、世界にある環境問題や疫病の問題は、地図を見ながら考察することで、新しい知見が得られる可能性があります。昨年世界中で話題になったエボラ出血熱はアフリカでも限られた地域で爆発的に広がりました。新聞記事では国単位での感染者数、患者数しか分かりませんが、本来、西アフリカでは国境も政府も関係ありません。

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伝染病の伝播には、必ず地理学的あるいは気象学的な条件があり、それは宇宙から見れば一目瞭然です。限られた医療資源をどこに投入すべきか、これ以上の感染の広がりを防止する為、どこに集中的な防疫対策を講じるべきかは、宇宙ステーションから眺めて判断すべき事項です。

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エボラ出血熱に比べれば、小さな問題ですが、デング熱の流行も同じです。こちらは蚊が媒介することが明らかなので、気温と湿度、降水量などを調べれば、今後、感染が拡大する地域が容易に推理できます。 いや、デング熱以前に、衛生害虫である蚊そのものの分布とその駆除の作戦も、宇宙ステーション、または人工衛星から見れば簡単に立てることができます。それで人類最大の敵であるマラリアも克服できるかも知れません。

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衛生害虫も病原体も、熱帯モンスーン気候や温帯モンスーン気候に多く棲息します。雨季と乾季が明瞭に分かれ、降水量や湿度、土壌の乾燥状況が時々刻々変化する状況は、地図を見ていてもだめです。宇宙からのリアルタイムの画像が必要です。

特に蚊の場合、一定以上の水温の水溜りがあり、ボウフラが湧く環境か否かが重要です。それは地上で調べるよりも、宇宙から調べる方がいいのです。

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今から約50年前、富山県婦負郡婦中町(当時の地名)の周辺で、奇妙な病気が流行りました。中高年の女性固有の病気で骨が異常に脆くなり、ちょっとした力で簡単に骨折してしまう病気で、その痛みからイタイイタイ病と呼ばれた風土病です。 原因はなかなか分かりませんでしたが、ある時、あるきっかけから原因が分かりました。

ある大雨の後、婦負郡の平野一帯が冠水したのですが、一人の町医者(日本医師会はこの町医者という呼び方を嫌います。なんだか蔑称のようで、医師会では実地医家という言い方で、持ち上げた言い方を薦めます)が、丘の上からその風景を見て気づきました。

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患者のいる家はどこも浸水し、浸水しなかった区域には患者がいなかったのです。「この病気には、水が、特に地下を流れる神通川の伏流水が関係しているに違いない」。 この医師はそう確信し、やがて、神通川の水が、上流の神岡鉱山から排出したカドミウムによって汚染され、その水を摂取することで、カドミウムが体内に取り込まれ、骨が脆くなることを発見したのです。

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同時期に発生した有機水銀中毒である水俣病に比べると、原因究明までの期間が短く、比較的短期間で解決した公害病ですが、多くの犠牲者が出たのは事実です。もしこの時代、宇宙ステーションがあり、富山平野を観測し、イタイイタイ病の発生地区と神通川の伏流水の地域の重なりを調べることができれば、もっと早くに原因が究明され、公害被害は小さかったのです。

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日本では深刻な公害は減りつつあります(アスベスト問題などは残りますが・・・)。しかし世界を見渡せば、有機水銀やカドミウムなどの重金属汚染、ダイオキシンなどの有毒物質汚染の問題はまだ多く残ります。多くは未開の地や僻遠の地で発生しており、陸上からの調査は難しい場合もあります。人々はなぜ、宇宙ステーションを使わないのか?

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土壌汚染と水質汚染だけではありません。大気汚染も同様です。既に中国の北京は人々の居住に適さない土地となりました。

http://www.sankeibiz.jp/macro/news/150307/mcb1503071710001-n1.htm

ひょっとしたら、ビジネスマンは、北京駐在や北京出張を拒否する権利を持つようになるかも知れません。 それどころか、北京に住む人達はやがて転居先を探す必要がでてくるでしょう。 政府はまじめに遷都を考える必要があるかも知れません。

ではどこへ行けばいいのか? 河北省、山東省、吉林省、遼寧省、どこが一番安全で健康的な暮らしを営めるか?公害対策はどうするべきか?

トリインフルエンザのキャリアである渡り鳥は、どこを通って移動するか?全ては宇宙ステーションからの観測で答えが出ます。 宇宙公衆衛生学の始まりです。

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日本人宇宙飛行士がスペースシャトルに搭乗しだした頃から、医学研究は日本の宇宙開発の大きなテーマです。しかし、多くの研究は宇宙飛行士自体の健康を調べるもので、宇宙から地球を眺めて、疾病の分布や衛生状況を研究した報告は寡聞にして聞きません(私が知らないだけかも知れませんが)。

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日本は宇宙ステーションに実験室「きぼう」を持っていますが、その研究テーマは枯渇しつつある・・といっては言い過ぎですが、小粒になっていくみたいです。鯉を宇宙に連れて行って、魚の宇宙酔いの研究をしたり、クモを宇宙に連れて行って、交尾できるか確認したり・・・、いったい何のための研究なのか、ひょっとしたら研究のための研究なのか?と思う珍妙な研究があります。 そんな研究に時間を費用を掛けるくらいなら、医学者を大勢、宇宙ステーションに連れていき、世界中の原因不明の風土病発生地や、伝染病の流行地域をできる限り詳しく観察させるべきです。

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中国からは、余計なお世話と煙たがられるかも知れませんが、かの国が手を焼くPM2.5の防止対策も明らかになり、深刻な大気汚染の本当の原因特定も可能になるかも知れません。

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やがて国際宇宙ステーションは、老朽化し廃棄されるでしょう。日本の実験室「きぼう」も廃棄されます。 その時、宇宙ステーションの後継機が打ち上げられるかは不明です。 もうあまり時間はないと考え、宇宙公衆衛生学の確立を急ぐべきだと私は考えます。


【 世の中に蚊ほどうるさきものはなし その2 】 [医学]

【 世の中に蚊ほどうるさきものはなし その2 】

 

今、熱帯・亜熱帯の諸国だけでなく、世界中で伝染病を媒介する蚊を駆除する運動が盛んです。気候の温暖化に加え、世界中を飛行機で移動する人々が増え、感染症の罹患者が猛烈に増えているからです。マラリア・コントロールとでも言うべき運動ですが、特に今年話題となったのは、マラリアではなく、世界中で急に有名になったデング熱対策です。 シンガポールでは役人が各家々を回って、ボウフラが湧きそうな水溜りを見つけると罰金を取るそうです。

デング熱を媒介するのは、ネッタイシマカやヒトスジシマカという、ごくありふれた蚊であることが問題です。(しかし、モスキートGメンとは・・)

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ご存知の方も多いでしょうが、シンガポールはファインカントリー(Fine Country)と呼ばれます。道にはゴミひとつ落ちておらず、家のペンキは鮮やかで、出窓には花が咲き乱れる美しく素晴らしい(fine)国だからですが、一方で、ゴミを捨てたり、唾を吐いただけで罰金(fine)を科せられる厳しい国だからでもあります

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しかし、そのシンガポールといえども、水溜りで罰金は厳しかろう・・と私は思います。

それに、シンガポールのこの政策はきっとうまくいかないだろうと、考えるのです。

なぜなら、日本と違い、シンガポールにはマレーシアからもインドネシアからも蚊が飛んできます。(インドネシアから来るのはかなり大変ですが)。一国だけが張り切ってもどうしようもないのです。

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他の国も、同様に蚊を減らす対策をとっていますが、うまくいきません。相手は広大な国土に、それこそ無数にいるのです。水溜りも無数にあります。DDTは禁止されました。先進国であるアメリカでさえ、西ナイル熱を媒介するイエカやヤブカを駆除できていません。

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ではどうするべきか? 蚊というひとつの種を滅ぼす・・という驕った思想を排除し、蚊と人間の生活圏を分離するのだ・・という発想が現実的です。

例えば、蚊帳を吊って、蚊が人の空間に侵入しないようにするとか、日本の三大発明のひとつである蚊取り線香を蚊遣りに使って、蚊を近づけない・・という方法があります。

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蚊帳は優れた防虫手段であり、蚊だけでなく他の吸血性昆虫から人を守ることができます。例えば、恐ろしい眠り病を媒介するツェツェ蠅からも人を守ります。さらに除虫菊から抽出したピレトリンを蚊帳に染み込ませておけばなお結構です。最近の蚊帳は品質・性能が向上し、通風性を最大限確保して、かつ丈夫です。だから日本製の蚊帳を衛生害虫に苦しむ暖かい国々に贈ろうという考えがあり、実行もされています。

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でも、なかなかうまくいきません。一部の国ではせっかく贈った蚊帳を漁業の網に使っているそうです。うまくいかない根本の理由は衛生害虫に対する意識の違いというか、鈍感さであると私は思います。 つまり、どれだけ、人々が蚊を嫌うかということです。

蚊や蠅を嫌な虫と考え、積極的に忌避したいと考える人は蚊帳や虫除けスプレーを用います。しかし、生まれた時から当たり前に蠅や蚊が多数飛び回っている環境で暮らしていれば、蠅や蚊の凶悪さに対して鈍感になります。すると蚊帳はひたすら面倒くさいものになります。

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例えば、日本人なら、蠅のたかったご飯は、なるべく食べたくありませんが、一部の国の人達は、真っ黒に蠅がたかったご飯を気にもせず、そのまま食べます。蠅だけでなく蚊についても同じ事が言えます。オヒョウなどは、せめて赤ちゃんだけは蚊帳の中で寝かせるべきだ・・と思うのですが。

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一方、蚊取り線香は、有効な手段ですが、お金がかかります。それにピレトリン耐性の蚊もそろそろ登場しています。

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ではどうするか?

荒唐無稽な発想ですが、オヒョウなら各家々の入り口にレーザー光線の銃を置き、空中を飛来する蚊を撃墜するのです。それで家の中には蚊のいない空間を確保できます。

ばかばかしいと思われる方もいるでしょうが、既に実験は大成功しており、量産すれば光線銃は150ドルほどで製造できるそうです。後は乾電池が1本あればOKです。http://wired.jp/2010/02/13/%e8%9a%8a%e3%82%92%e3%83%ac%e3%83%bc%e3%82%b6%e3%83%bc%e3%81%a7%e6%8d%95%e6%8d%89%e3%83%bb%e8%bf%8e%e6%92%83%e3%81%99%e3%82%8b%e8%a3%85%e7%bd%ae%e5%8b%95%e7%94%bb/

http://lasers.jp/laserquest/?p=390

http://zoolbox.net/2012/04/%e6%9c%80%e5%bc%b7%e3%81%ae%e8%9a%8a%e5%af%be%e7%ad%96/

レーザーで蚊を落とすことは、ICBMを落とすよりずっと簡単らしいです。このおかげで、天然痘についで人類はマラリアにも勝利するのです。ちなみに犬小屋にこのレーザー光線銃を設置すれば、フィラリアも予防できます。

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アフリカの低所得層の人々には、50ドルはちょっときついのですが、上等な蚊帳だってそれくらいはします。豊かな産油国や国連が支援すればいいのです。日本だってユニセフや日本財団があります。最近、その金満ぶりで顰蹙を買っている中国だって、戦闘機や人工衛星を撃墜するレーザー砲の代わりに、蚊を撃墜するレーザー銃を量産して配ればいいのです。アフリカから感謝されますよ。

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いや中国なら、アフリカに贈る前に、まず自国内でこのレーザー銃を配るべきです。かの国の南部では今でも乙型脳炎というコガタアカイエカが媒介する病気が多く発生します。そう、乙型脳炎とは、日本では本当に珍しくなった日本脳炎のことです。

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「今時、先進国には乙型脳炎やマラリアはありませんよ。それらの病気が無いことが先進国の証です」と習近平氏に伝えてあげれば、先進国への脱皮にやっきになっているかの国は、すぐに衛生害虫駆除に乗り出し、たちまち成果をあげるでしょう。

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ちなみに、自称先進国である隣の半島の国では、まだ多くの人が毎年マラリアに罹患しています。パククネ女史には「反日より先に、マラリア対策を行って国民を幸せにしてはどうかね?」と問いたいのですが・・。


【 世の中に蚊ほどうるさきものはなし その1 】 [医学]

【 世の中に蚊ほどうるさきものはなし その1 】

 

11月も終わろうと言うのに、蚊の話で恐縮ですが、先日TVで、「これまで一番多くの人々を殺してきた動物は蚊である・・」と紹介していました。 同じことを私の長男も言っていましたが、これはマラリア蚊(ハマダラカ=アノフェレス蚊)がマラリアを伝染させることを意味しています。実際、現代も世界中で年間百万人以上がマラリアで死亡しているのです。

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世界の報道は、エボラ出血熱などセンセーショナルな疫病を優先して取り上げますが、冷静に考えると、天然痘なきあと、人類が戦わねばならない相手はマラリアではないか?と私は考えます。

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それだけ深刻な伝染病なのに、マラリアが日本であまり話題にならないのには幾つか理由があります。

1.キニーネなどの特効薬が既にある(但しそれが有効でないマラリアもあります)。

2.元来、熱帯性の疫病で、日本では冬が来れば流行が治まる一時的な病気だということ。

  (これは今年、マスコミが大騒ぎしたデング熱も同じです)。

  ハマダラカ(アノフェレス蚊)の多くは冬場に死にます。

3.マラリアは、過去に日本で流行し、既に克服された病であること。

4.日本の医大・医学部でマラリア研究があまり盛んでないこと。

  (これについては、医学者の間には異論があるでしょう。実際マラリアワクチンの研究で大阪大学は実績をあげています。 しかし、戦前日本の帝国大学であった台北帝大の医学部ほど、熱心に熱帯の風土病を研究している大学は無いのでは?)

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私が関心を持つのは、上記の4点のうち3番目です。実は日本は過去にマラリアと闘い、それを撲滅した国なのです。

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昭和20年代はじめ、日本には南方から多くの復員兵が帰還しました。なかにはデング熱に冒された人も入れば、アメーバ赤痢などで消化器を弱めた人もいます。

話は脱線しますが、戦時中、南方のポナペ島にいた天才棋士升田幸三もそこで体を壊しました。その結果、復員後に厳寒の高野山で行われた将棋の決戦で、弟弟子であった大山康晴に敗れます。昭和の大名人大山康晴はその時に生まれました。天才升田はその後も大山とは死闘を繰り広げますが、彼の身体が弱かったことは、最後までたたりました。南方の風土病は日本の将棋の歴史にも影響を与えているのです。

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話を戻します。復員兵の中には「輸入マラリア」を持ち帰った人がいました。そして日本ではマラリアがクローズアップされたのです。そこでマラリア撲滅キャンペーンが始まりました。でも、実は日本には風土病として昔から「土着マラリア」があったのです。

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「土着マラリア」は石川県などにもありましたが、最も有名なのは滋賀県です。昭和20年代に滋賀県彦根市でマラリアが特に流行した理由は不明です。国民の栄養事情が悪かったこともあるでしょうし、「輸入マラリア」に刺激を受けた・・可能性もあります。

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しかし、彦根の人たちは、そのマラリアに敢然と立ち向かいました。ボウフラの湧く水溜りを無くし、DDTを徹底的に散布し、そしてハマダラカの巣窟であった彦根城の外堀を埋めました。

大坂夏の陣で活躍した井伊直政が聞いたら驚くでしょう。自分の居城の外堀も大坂の陣の350年後に埋められたのですから・・・。これは昔だからできたことです。

今ならプロ市民達の猛反発があるでしょう。なにせ彦根城は国宝ですし、DDTは環境を破壊する薬剤だと信じています。さらには蚊にも生存権があるとか、ハマダラカという絶滅危惧種の種を守れ・・などと言い出す人もいるかも知れません。

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彦根市のマラリア対策は2人の勇敢な医師によって立案実行され、その基礎には台北帝大の研究があったそうです。そうは言っても、何、特別の名案があった訳ではありません。地道に辛抱強くボウフラの発生を防止し、蚊の絶対数を減らすことが重要なのです。自然科学の世界はすべからく運・鈍・根です。

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彦根だけではありません。日本中で衛生害虫(つまり、ハエ、カ、ゴキブリ)を減らす運動が展開されました。そして昭和30年代から40年代にかけて、ハエとカは減りました。

オヒョウの少年時代、夜寝る時には蚊帳を吊ったものです。今は住宅事情が変わり網戸やエアコンが普及したこともありますが、蚊帳を吊る家庭は実に減りました。そして日本の「土着マラリア」も「輸入マラリア」と共に、絶滅しました。近代の日本で、風土病であった寄生虫病が根絶した例としては、日本住血吸虫病とマレー糸状虫病(象皮病)、マラリアくらいしか思い当たりません。

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ちなみに、日本住血吸虫病は田んぼの畦をコンクリートにして中間宿主であるミヤイリガイを撲滅させたことで、マレー糸状虫病は八丈小島の集団移転で解決しました。

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ハマダラカ自体はまだ棲息しますが、マラリアの方は「輸入型」も「土着型」もいなくなり、日本では解決したのです。

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20世紀に土着のマラリアを撲滅した国は幾つかあります。どれも比較的高緯度で衛生環境のよい先進国ですが、その中で日本の実績は特筆すべきものです。

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そして今、熱帯・亜熱帯の多くの国々が、伝染病を媒介する蚊の撲滅にやっきになっています。これについては次号で申し上げます。


【 エボラ出血熱について考える その2 】 [医学]

【 エボラ出血熱について考える その2 】

 

米国で開発された薬品 ZMappがエボラ出血熱に有効である・・というニュースが流れました。 米国人2人に投与して、症状が改善したとのこと。これはタバコから抽出したヒト化モノクローナル抗体を用いた薬だそうです。それ以外に日本ではワクチンを開発中です。また富士フィルムの子会社の富山の薬品会社が開発したファビピラブルというRNAポリメラーゼ阻害剤も有効な可能性があり、一時富士フィルムの株価があがりました。

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これら3種類の薬品は、病原体への働き方が違いますから、3種混合のワクチンにすれば、さらに薬効が増す可能性もあります。

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エボラ出血熱はタバコモザイクウィルスと同じようにRNAウィルスであり、そしてRNAウィルスに対応した薬品の開発は過去に実績がありますから、近い将来エボラ出血熱は克服されると私は楽観視しています。

同じRNAウィルス疾患であるラッサ熱(ただし、エボラウィルスとはウィルスのタイプは違います)の場合、最初は非常に致死率が高かったのですが、生還した患者から採取した血清を用いて薬が開発され、致死率は劇的に下がったのです。エボラ出血熱でも、同じ手続きで特効薬が開発されるだろうと思いますが、今少し時間がかかります。

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しかし、そんな悠長なことは言っておれない深刻さが現地にはあります。ナイジェリアには、今まさに死なんとする患者が多くいるのです。

中国の逸話で、干上がりそうな轍の水溜りにいる魚が水を求める話があります。通りかかった旅人が「明日大量の水を持ってきてやろう」と言いますが、魚は明日の大量の水より、今すぐの手のひら一杯の水が欲しい」と訴えます。

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現在開発中の数種類の薬は全て未承認で、研究の段階です。ZMappは例外的にアメリカ人2人に治験薬扱いで投与され有効だったのですが、まだ多くの人に提供できる訳ではありません。そこに問題があります。

リベリア政府は「開発中の段階でいいから早くZMappをリベリアにもくれ!」と切羽詰った訴えをしていますが、そうはいきません。絶対量も足りません。

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医師や医療関係者はしばしば神の仕事を代行せねばなりません。つまり、患者を選ぶ仕事をせねばなりません。

具体的には、限られた薬を誰に優先的に投与するべきか、 臓器移植を待つ多くの患者の中で誰を選ぶか、大事故で発生した多くの怪我人の中で、誰を最初に救急車に乗せ治療対象にするか・・・・。一応の判断基準はありますが、現場では医師が人の命を選ぶ形になります。

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なまじ、薬があるから、悲劇が起きる・・・と私は逆説で考えます。世界は過去にも何度か経験しています。 エイズ治療薬AZTが登場した時、高価であるため、途上国の人々は買うことができませんでした。 その結果、裕福な先進国ではエイズ禍は下火になったというのに、アジア・アフリカの国々では感染者と死亡者は増える一方です。

先進国で唯一感染者が増加傾向にあるのは日本ですが・・それについては触れません。 タイなどでは夫婦がHIVに感染したのに、AZTは一人分しか買うことができず、どちらか片方は死を選ぶしかない・・という事態が起こりました。

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エボラ出血熱の場合も同じでしょう。 最初は外国から救援に来ていて罹患した医療関係者・・・もっと言えば欧米の白人が優先的にZMappを投与され、地元の黒人は後回しになるでしょう。 そしてナイジェリアやリベリアなどの国内に薬が出回るようになった時、お金持ちだけが薬を購えるようになるのです。 今度は貧富の差が命の差になります。それは悲劇と言うべきではないのか?

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VIPだけが、お金持ちだけが、新薬を使えるという事情に反発する人も多くいます。

その昔、ペニシリンが英国で発明された時、最初に投与されたのはウィンストン・チャーチルだったという都市伝説がありました。 フレミング博士はそれを否定し、ペニシリンが投与されたのは、重症の肺炎にかかっていたある男性警察官だと説明しています。 ペニシリンが発明されたのは第二次大戦前ですが、第二次大戦中、連合国側にはペニシリンがあり、日本にはペニシリンが無いという状態でした。 ペニシリンの有無は戦争の勝敗にも影響したと私は考えます。

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話は脱線しましたが、西アフリカで、お金持ちは生き残り、貧乏人はエボラ出血熱で死ぬという、悲惨な状況が近い将来予想されます。憂鬱なことです。

ここで日本にできることはないのでしょうか?

私は、新しく開発された薬を早期に大量生産できるようにして、価格を大幅に引き下げ、アフリカにばらまくことが日本にはできると考えます。 日本はこの分野では実績があります。 生物由来の抗生物質の構造式を解析し、それを化学的に合成するというのは、日本のお家芸なのです。ワクチンの大量生産も得意です。それを緊急にアフリカに空輸して日本からの援助物資とします。

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無論、問題は多くあります。製薬会社は研究開発投資を回収するために薬価に研究費を上乗せします。知的財産権を盾に、高額で売り出します。エイズ禍の時も患者の命を利用して薬九層倍の商売をした会社が多くあります。 しかし、アジア・アフリカ諸国向けについては、ジェネリックと同じく直接製造原価だけで薬を販売することが認められました。 同じように、エボラ出血熱の薬は最大限に安く提供すべきです。 いやODAの一環として無償供与すべきです。

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薬をばらまくことで、薬剤耐性の問題やウィルスの変異の問題が生じる可能性もあります。しかし、その為に躊躇することはできません。医師や研究者が注意深く観察しながら投与するしかありません。

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これまでアフリカを懐柔しようと手を尽くしていた中国や韓国が、疫病の発生と同時に手のひらを返したような対応を取る一方で、野口英世の母国である日本はさすがに違う・・と世界中の人を唸らせたい・・と私は思います。 お金の有無が助かるか否かを決める地獄が再びアフリカに発生するのを防ぐべきです。

さあ、抗エボラウィルス薬の出血大サービスといきましょうか! あっ、でも出血大サービスという表現はまずいかな?


【 エボラ出血熱について考える その1 】 [医学]

【 エボラ出血熱について考える その1 】

今、西アフリカでエボラ出血熱が猖獗を極めています。日本での報道は比較的に少ないのですが、欧米のTVニュースでは連日取り上げられており、死者が1000人を超えたこと、スペインに帰った神父が回復せずに死亡し、アフリカ以外での初めての死者になったこと、逆に米国に帰国した男女2人は回復に向かっていること・・などが伝えられています。

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しかし、これは不思議ではないか? アフリカ西部というか、サハラ砂漠以南のサブサハラと呼ばれる地域は21世紀の現代も伝染病の巣窟です。マラリアでは毎年何万人も亡くなっていますし、野口英世で有名な黄熱病、最近有名になったデング熱、ラッサ熱、ツェツェバエに刺されて罹る眠り病というのもあります。私がロンドンにいた頃、S友商事のアフリカ駐在員がたった一日、マラリアの予防薬を飲まなかったためにマラリアに罹り、ロンドンで死亡するという事故もありました。

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毎年10万人もマラリアで亡くなっているなら、エボラ出血熱の1000人は大した事はないのではないか?と私は考えたのですが、それは誤りでした。エボラ出血熱の感染率の高さと、死亡率の高さ、そして特効薬が無い恐ろしさは、他の疫病の比ではありません。 その恐ろしさは中世に流行したペストに比すべきです。

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そして、ヨーロッパ固有の事情があります。日本と違い、ヨーロッパとアフリカは地理的にも、地政学的にも非常に近いのです。決して対岸の火事ではなく、他人事ではないのです。 そしてヨーロッパの人々の意識の底には、中世の時代から、あるいはそれ以前からの疫病の歴史と、それへの恐怖が刻み込まれているのです。特に猛烈な伝染病であるペストとコレラ(アジアコレラ)には何度も脅かされています。

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有史以来何度も記録されているペストの大流行は、歴史にも影響を与えています。自然科学の歴史にも影響を与えています。 かのアイザック・ニュートンは、ロンドンで流行していたペストを逃れるために、郊外に避難しました。 そこで1本のリンゴの木に出会い、その実が落ちるのを見て、万有引力を発見し、ニュートン力学を構築したことになっています(本当かね?)。

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ヨーロッパの人達の意識には面白い特徴があります。 それは、全ての疫病禍は外国から、つまりアフリカやアジアからやってくるという被害者意識です。歴史上、初めてペストがヨーロッパに入ったのは、あのジェリコの戦いです。城壁の外側にいた軍隊が、疾病で死亡した兵士の遺体を城壁の中に投げ込んで、内側の兵士を罹患させたのがきっかけでヨーロッパに広まったのだそうです。古代の戦いにも細菌戦といか、BC兵器があったのです。

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そして事実、多くの疫病は外国から来ます。 イギリスのダニエル・デュフォーが書いた「ペスト」は、オランダのアムステルダムでペストが発生したという噂から始まります。まもなく、死の病は英国に上陸し、猛威をふるう訳です。

一方、アルベール・カミュが書いた「ペスト」はアルジェリアのオランが舞台です。こちらは疫病が外国から来た・・とは言えません。物語の始まりは、一匹のネズミの死体が見つかったことです。

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多くの疾病がアフリカとアジアから来るというのは事実ですが、地中海に面した国々に人々は対岸の北アフリカが疫病の巣窟だとは考えたくありません。なるべく対岸の国々もヨーロッパの延長であって欲しい・・などと虫のいいことを考えます。

だから、北アフリカとサハラ砂漠以南(サブサハラ)を区別して、後者を特に危険な暗黒大陸と考えたがります。そして今回のエボラ出血熱はそのサブサハラで疫病が始まりました。

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そして彼らが恐れるのはヨーロッパやアメリカへの伝播です。今回、現地で治療にあたっていたスペイン人神父が罹患し、帰国後にマドリッドで亡くなったというのは大変なショックです。アフリカ由来の伝染病がヨーロッパで死者をもたらしたのは、マールブルグ病の騒動以来だと記憶します。

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脱線しますが、この亡くなった神父こそ本当の殉教者と言えるのではないか? 主の御許に召されて祝福を受けるべき存在だと思います。 一部のイスラム教徒は自爆テロで異教徒を殺す事が殉教だと唱えますが、あれは本当の殉教かねぇ?
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もうひとつ脱線しますが、忌まわしい疫病は外国から来る・・という発想は中国にもあります。かの国では、SARS(非典型性肺炎)が流行した時、この病気がベトナムから来たという印象操作を行いました。雑誌「中国国家地理」では少数だったベトナム人患者の死亡記事を取り上げていました。SARSが中国オリジナルではなく、ベトナムから来た・・とするのはかなりの無理がありますが、中国では越南は猖獗の地であるという認識があるので、中国人は信じたかも知れません。思えばあの頃から中国とベトナムは仲が悪かった・・。

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話がどんどん脱線しますが、この種の世界的災難が発生すると、各国の対応に違いがあり、その国の民度が分かります。 その昔、感染地域の宗主国であり、今でも関係が深い、ヨーロッパの国々は、医療スタッフを派遣し、救援に力を注ぎますが、いざそのスタッフが感染すると、そのスタッフだけを自国に呼び戻して手厚い治療を受けさせます。

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アフリカの資源と国連安保理での票に期待し、援助外交に余念の無い中国では、アフリカ諸国との親密さを強調しましたが、今回の騒動で、空港の検疫を強化しアフリカからの旅客を重点チェックしています。

アフリカに企業進出し、多くの勤労者をアフリカに送り出している韓国も、アフリカ直行便の乗客を別室で検査しています。それどころか、ソウルで開かれる高校生の国際会議へのアフリカからの参加を拒否したそうです。

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では対岸の火事として眺めている日本はどうか? 日本には日本なりの貢献の仕方があるのも事実です。 例えば特効薬の開発です。

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それについては次号で申し上げます。


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