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【 原子炉とピンポン玉 】 [医学]

【 原子炉とピンポン玉 】

 

川内原発の1号機に続いて2号機も再稼動され、日本の原子力発電所は復活し始めました。原発反対派は「『喉もと過ぎれば熱さを忘れる』ということか!」と怒り心頭です。ちなみに、原発反対派が反対しているのは、あくまで日本の原子力発電所であり、中国、北朝鮮、韓国の原子力発電所については、基本的に彼らは賛成または無視です。ちょっと不思議です。

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中国は、毎年6基~8基のペースで原子力発電所を建設しており、そのスピードには驚くばかりです。安全審査は確実に実施されているのか?と心配になりますが、旧東側のチェルノブイリ原発型ではなく、ウェスチングハウスやGEが設計した軽水炉なら、少しは安心できます。

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中国に原発の安全審査を行える技術者が何人いるかは知りませんが、日本の方は全く人手不足です。鹿児島の川内原発に続いて、早く安全審査を受けたい原発は並んでいるのですが、手が回らないので遅れているみたいです。 安全審査が遅れれば原発の再稼動が遅れ、それだけ電力料金の高い状態が継続し、日本の電炉業界は疲弊します。 いや、電炉業界のことなどどうでもいいのです。このまま原子炉の再稼動が遅れれば、多くの人命が失われます。

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福島第一原発の事故では、一人も亡くなった人はいません。(311日、発電所でも犠牲者が出ていますが、これは地震で亡くなられた方で、原子炉爆発以降に亡くなられた訳ではありません)。 しかし、その後、日本の原子炉を止めたことで、今後、かなりの犠牲者が予想されます。 それは一体どういうことか?

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ここで言う原子炉とは原子力発電所のことではありません。原発は正直な話、どうでもいいのです。たとえコスト高でも代替発電手段があるのですから・・。 ここで言う原子炉とは、日本に何基かある研究用の原子炉または医療用の原子炉のことです。それらは原子炉の安全基準の見直しに伴い、停止しているのです。 その結果、研究が遅れます。特にBNCTの臨床研究に影響が出るそうです。

http://www.nikkan.co.jp/news/nkx0720151019eaad.html

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BNCTとは何か? 医師でもない私が説明するのもおこがましいのですが、下記のホームページに分かりやすい解説があります。

http://www.antm.or.jp/06_bnct/0104.html

これは悪性腫瘍への熱中性子線を用いた一種の放射線治療ですが、正常細胞は殆ど傷つけず、がん細胞のみに選択的に働く、夢の治療法です。夢の・・と言いながら、実は大昔からあります。 癌の中でも悪性のものは、がん細胞と正常細胞の境界が不明確で、正常組織の中に癌が浸潤していきます。このタイプのものは、外科手術による剔除が困難です。典型的なものはグリオブラストーマ(膠芽腫)。 悪名高き脳腫瘍です。 しかし、この絶望的な癌も放射線治療で治すことができます。その方法とは、

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主にがん細胞だけが吸収する特殊なホウ素化合物を体内に注入します。するとホウ素化合物はがん細胞だけに溜まります。 そこに原子炉から放射される熱中性子線を当てると、ホウ素がその中性子を取り込み、核分裂反応を起こし放射線の一種であるα線を放出します。世界一小規模な原爆です。ご存知の通り、α線はヘリウム原子核で、透過力は非常に弱いものの、強い電離作用を持ちます。 つまり、がん細胞のみが死滅し、隣の細胞には害を与えません。 この方法でグリオブラストーマの治療が可能です。

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このユニークな方法の考案者は外国の人ですが、この技術はもっぱら日本で発達しました。その理由のひとつは、治療に適した熱中性子線を出す原子炉が日本にあり、原子炉の横で開頭手術ができたことです。 

もうひとつは、中性子の吸収に適した画期的なホウ素化合物を日本で開発できたこと(今なら間違いなくノーベル賞です)。 

そして最後は日本人ならではのきめの細かい知恵と工夫です。

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熱中性子は、水の中で大きく減衰します。これは中学生でも理解できることです。中性子の質量は、水素原子と同じです。中性子が水に進入し、水素原子と完全弾性衝突すれば、運動量は水素原子に移動します。それは、水の分子の回転モーメントに転換して、中性子は停止します。停止しなくても中性子は減速し、失ったエネルギーはチェレンコフ光という青白い光になります。

原発の核燃料プールに水が張られているのも、中性子の漏洩を防ぐためです。

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しかしこのことは、脳腫瘍の治療では問題となります。 体の奥深いところに腫瘍がある場合、中性子線は途中で減衰してしまい、がん細胞内のホウ素化合物までたどり着けません。人間の体には水が多く含まれるからです。何とか、乾いた空間に中性子を飛ばし、腫瘍に導けないものだろうか? そこで研究者が考えたのはピンポン玉です。頭を開いた後、患部の手前にピンポン玉をはめ込み、中性子の通り道を作ったのです。 この方法は非常に有効で、治療成績は向上しました。

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1970年代、武蔵工業大学にあった原子炉で多くの治療が行われ、その様子はNHKの科学番組で紹介されました。 ピンポン玉のアイデアも面白く紹介されました。(今もピンポン玉を使っているかは不明ですが)。 そのTV番組が取り上げた事例ですが、オーストリアの医学生がグリオブラストーマに罹り、余命いくばくも無い状況になって、日本に運ばれてきました。母国オーストリアでは治療法が無かったからです。そして日本でBNCTが施され、回復して帰国したのです。勿論、ピンポン玉も使われたはずです。 まだ人々の間に放射線アレルギーが少なかった時代です。

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しかし、その後、武蔵工業大学の原子炉は老朽化と都市部ゆえの反対運動のため、廃炉となりました。 残る頼みの綱は、京都大学の研究所ですが、安全審査が遅れており、現在稼動できない状況です。 ああ、その間にも悪性脳腫瘍の患者は落命していくのです。

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医師でないオヒョウが言うのも変ですが、ある種類の癌には特定の放射線治療が顕著に効くことがあります。 

一般に扁平上皮癌は放射線治療が有効だそうですが、なぜか中国人に多い上咽頭癌の場合、高エネルギーX線照射が治療の最優先候補になります。 また膀胱癌では陽子線照射が特に有効で、膀胱を温存することが可能です。 しかし、問題は陽子線をあてる設備が少なく、筑波大学など、限られた場所にしかないことです。

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今の時代、放射線を出せる加速器や原子炉を作ろうとしても、反対派がそれを許さないかも知れません。 せめて既存の設備を最大限有効活用すべきなのですが・・・。

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俳優の菅原文太は、反原発、反核エネルギーを唱えていましたが、自分が癌になったら、まっさきに陽子線照射を受けて膀胱癌を治しています(結局亡くなりましたが)。

放射線治療で命が助かった男なのに、反原子力を声高に訴えるのを聞いて「どの口がそれを言うか!」と思ったのは私だけではないでしょう。

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音楽家の坂本龍一は「たかが電気のために原子力などとんでもない」と原発を否定しました。電気自動車のCMに出ていた人物とは思えない発言ですが、その後、彼は中咽喉癌に罹りました。常識的に考えると、高エネルギーX線治療の対象になるのでしょうが、反原子力、反核を唱える彼は、いったいどうしたのでしょうか?

「健康を害する放射線に頼るくらいなら、死んだほうがましだ」とでも言うのでしょうか?それならそれでひとつの見識と言えますが。

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過度の原子力アレルギー、過度の放射線アレルギーが、結果的に多くの人命を奪っているのなら、愚かなことだと私は思います。


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笑うオヒョウ

このブログで、京都大学の研究用原子炉の稼動が遅れ、BNCTが危うい!と申し上げましたが、時をおかず、筑波大学で新しい原子炉がBNCTを実施してくれるという記事がでました。
http://www.nikkan.co.jp/news/nkx0720151022hlam.html

捨てる神あれば拾う神あり・・ということでしょうか。本文中にも紹介しておりますが、筑波大学は、膀胱癌の陽子線治療でも画期的な成果を挙げている大学です。多くの癌患者に希望を与える原子炉の稼動に期待します。

by 笑うオヒョウ (2015-10-22 14:01) 

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