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【 世の中に蚊ほどうるさきものはなし その1 】 [医学]

【 世の中に蚊ほどうるさきものはなし その1 】

 

11月も終わろうと言うのに、蚊の話で恐縮ですが、先日TVで、「これまで一番多くの人々を殺してきた動物は蚊である・・」と紹介していました。 同じことを私の長男も言っていましたが、これはマラリア蚊(ハマダラカ=アノフェレス蚊)がマラリアを伝染させることを意味しています。実際、現代も世界中で年間百万人以上がマラリアで死亡しているのです。

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世界の報道は、エボラ出血熱などセンセーショナルな疫病を優先して取り上げますが、冷静に考えると、天然痘なきあと、人類が戦わねばならない相手はマラリアではないか?と私は考えます。

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それだけ深刻な伝染病なのに、マラリアが日本であまり話題にならないのには幾つか理由があります。

1.キニーネなどの特効薬が既にある(但しそれが有効でないマラリアもあります)。

2.元来、熱帯性の疫病で、日本では冬が来れば流行が治まる一時的な病気だということ。

  (これは今年、マスコミが大騒ぎしたデング熱も同じです)。

  ハマダラカ(アノフェレス蚊)の多くは冬場に死にます。

3.マラリアは、過去に日本で流行し、既に克服された病であること。

4.日本の医大・医学部でマラリア研究があまり盛んでないこと。

  (これについては、医学者の間には異論があるでしょう。実際マラリアワクチンの研究で大阪大学は実績をあげています。 しかし、戦前日本の帝国大学であった台北帝大の医学部ほど、熱心に熱帯の風土病を研究している大学は無いのでは?)

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私が関心を持つのは、上記の4点のうち3番目です。実は日本は過去にマラリアと闘い、それを撲滅した国なのです。

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昭和20年代はじめ、日本には南方から多くの復員兵が帰還しました。なかにはデング熱に冒された人も入れば、アメーバ赤痢などで消化器を弱めた人もいます。

話は脱線しますが、戦時中、南方のポナペ島にいた天才棋士升田幸三もそこで体を壊しました。その結果、復員後に厳寒の高野山で行われた将棋の決戦で、弟弟子であった大山康晴に敗れます。昭和の大名人大山康晴はその時に生まれました。天才升田はその後も大山とは死闘を繰り広げますが、彼の身体が弱かったことは、最後までたたりました。南方の風土病は日本の将棋の歴史にも影響を与えているのです。

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話を戻します。復員兵の中には「輸入マラリア」を持ち帰った人がいました。そして日本ではマラリアがクローズアップされたのです。そこでマラリア撲滅キャンペーンが始まりました。でも、実は日本には風土病として昔から「土着マラリア」があったのです。

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「土着マラリア」は石川県などにもありましたが、最も有名なのは滋賀県です。昭和20年代に滋賀県彦根市でマラリアが特に流行した理由は不明です。国民の栄養事情が悪かったこともあるでしょうし、「輸入マラリア」に刺激を受けた・・可能性もあります。

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しかし、彦根の人たちは、そのマラリアに敢然と立ち向かいました。ボウフラの湧く水溜りを無くし、DDTを徹底的に散布し、そしてハマダラカの巣窟であった彦根城の外堀を埋めました。

大坂夏の陣で活躍した井伊直政が聞いたら驚くでしょう。自分の居城の外堀も大坂の陣の350年後に埋められたのですから・・・。これは昔だからできたことです。

今ならプロ市民達の猛反発があるでしょう。なにせ彦根城は国宝ですし、DDTは環境を破壊する薬剤だと信じています。さらには蚊にも生存権があるとか、ハマダラカという絶滅危惧種の種を守れ・・などと言い出す人もいるかも知れません。

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彦根市のマラリア対策は2人の勇敢な医師によって立案実行され、その基礎には台北帝大の研究があったそうです。そうは言っても、何、特別の名案があった訳ではありません。地道に辛抱強くボウフラの発生を防止し、蚊の絶対数を減らすことが重要なのです。自然科学の世界はすべからく運・鈍・根です。

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彦根だけではありません。日本中で衛生害虫(つまり、ハエ、カ、ゴキブリ)を減らす運動が展開されました。そして昭和30年代から40年代にかけて、ハエとカは減りました。

オヒョウの少年時代、夜寝る時には蚊帳を吊ったものです。今は住宅事情が変わり網戸やエアコンが普及したこともありますが、蚊帳を吊る家庭は実に減りました。そして日本の「土着マラリア」も「輸入マラリア」と共に、絶滅しました。近代の日本で、風土病であった寄生虫病が根絶した例としては、日本住血吸虫病とマレー糸状虫病(象皮病)、マラリアくらいしか思い当たりません。

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ちなみに、日本住血吸虫病は田んぼの畦をコンクリートにして中間宿主であるミヤイリガイを撲滅させたことで、マレー糸状虫病は八丈小島の集団移転で解決しました。

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ハマダラカ自体はまだ棲息しますが、マラリアの方は「輸入型」も「土着型」もいなくなり、日本では解決したのです。

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20世紀に土着のマラリアを撲滅した国は幾つかあります。どれも比較的高緯度で衛生環境のよい先進国ですが、その中で日本の実績は特筆すべきものです。

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そして今、熱帯・亜熱帯の多くの国々が、伝染病を媒介する蚊の撲滅にやっきになっています。これについては次号で申し上げます。


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