SSブログ

【 ワトソンが作る薬 】 [医学]

【 ワトソンが作る薬 】

 

最近、インシリコという言葉を聞きます。 英語(ラテン語?)のつづりでは、in silicoだそうで、これは「シリコンの中で」という意味になります。

・・・・・・

これを聞いて、理科系の方はピンと来るかも知れません。自然科学では、生体内での現象をin vivo, 試験管内での現象を in vitroと表現します。また研究室ではなく現場での現象をin situと表現します。

・・・・・・

だから、その延長上で考えれば、in silicoとはコンピューター上での実験またはシミュレーションを意味する・・と推理できます。 ご承知の通り、コンピューターのことをシリコンに例えることは、しばしばあります。

・・・・・・

だから、in silicoというのは、コンピューター上での実験や解析のことだ・・と思うのですが、実際にはこの言葉は、医学・生物学や創薬の分野で主に使われているようです。

特にコンピューター、とりわけスーパーコンピューターを用いた研究と言えば、医薬品の開発が代表のようです。

・・・・・・

既にスーパーコンピューターを用いた新薬開発はどんどん始まっています。例えば、下記の事例です。有名な人工知能ワトソンに、薬を発明させようというものです。

http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/012800017/022100003/?n_cid=nbptec_tecml

・・・・・・

思えば、全ての産業は効率化が進み、生産性が向上しているなかで、新薬の開発は依然として効率化が非常に難しい仕事です。しかも、成功して製品化される薬品は千に一つという世界です。だからコンピューターの活用が最も求められる業界でした。

・・・・・・

薬の発見・開発は、昔から困難な仕事でした。 古代の中国の四大医聖のひとり、神農は、山野を歩きながら、杖で草木や鉱物を叩き、瞬時にそれが毒なのか、無害なのか、薬品なのかを見分けたそうです。 そんなに効率的に新薬を見つけるのならまさしく神様です。そして現在も残る漢方薬の幾つかは神農の発見によるというのですから、大したものです。

・・・・・・

現代は多くの薬品は、分子レベルで解析され、その効能が帰納法的に調べられます。

しかし、病原物質の数も、薬効が期待される化学物質の数も極めて多く、それらの組み合わせの数となると、甚だ膨大です。

京都大学の奥野教授の説明では、病気の原因となるたんぱく質の種類は600種類、一方、それと掛け合わせる、薬の候補となる物質は3000万種類あるという事で、組み合わせの数はまさに天文学的となります。

http://news.mynavi.jp/news/2014/10/25/006/

しかも、それらの組み合わせをしらみつぶしで調べても新薬ができる確率は低く、労多くして実り少ない作業となります。

・・・・・・

そこで活躍が期待されるのはスーパーコンピューターです。とにかく気の遠くなる膨大な計算をこなすのは、スーパーコンピューターに限ります。かつて、国の事業仕分けで、理化学研究所のスーパーコンピューターが仕分けの対象になったことがあります。あの蓮舫が「二番じゃダメなんですか?」という愚問を発して話題になったあの事業仕分けです

・・・・・・

その頃のスーパーコンピューターは、天然に発生する複雑な現象の解析やシミュレーションをするのが主でした。勿論これも気象予報などの分野で重要な役割ですが・・。

そして一方では計算速度のチャンピオンデータを競うオリンピック用の道具みたいなところもあり、実用には役立たない趣味のための研究かよ・・ということで、納税者からは理解が得られにくかったという背景があります。

・・・・・・

今、スーパーコンピューターは基礎研究のための道具から脱皮し、実際に役立つ製品の開発研究に盛んに利用されるようになりました。飛行機の設計も自動車の設計も、自然災害の時の避難誘導ルートの作成もスーパーコンピューター無しでは考えられません。 もっとも、ス-パーコンピューターといっても、ピンキリで、初代の頃のそれは、今のゲーム機と性能が大差ありません。(正確に言えば、ゲーム機の性能があまりにも優れていると言うべきです)。

・・・・・・

そして、それが更に身近になり、スーパーコンピューターのご利益を誰もが感じられるようになった訳です。 その代表が新薬開発です。

・・・・・・ 

我々は実に身勝手な存在です。健康で暮らしている内は新薬の必要性など感じません。 一体、今の世の中に、これ以上新しい薬を開発する必要などあるのか?とさえ思います。

・・・・・・

しかし、一旦病気を得ると、世の中に優れた医薬品が無い事を嘆くことになります。ガンを患えば、抗ガン剤や制ガン剤のお世話になりますが、薬の種類はたくさんあるのに、本当にガンに効く薬はあまりありません。一方で副作用は、大なり小なり、どの抗ガン剤にもあります。

・・・・・・

そして、日本にいれば分かりませんが、アジア・アフリカの熱帯地域には、いまだ特効薬が無い、恐ろしい風土病が数多くあります。ノーベル賞を受賞した大村教授が退治したオンコセルカ症だけではないのです。WHOは「顧みられない熱帯病」として、特効薬の開発や配布などを呼びかけていますが、話題性があるエボラ出血熱など以外は、予防薬も治療薬も開発が遅れています。

・・・・・・

まだ治せない多くの病気に苦しむ人々に、特効薬を提供することこそ、世界の人々への光明であり福音なのですが、新薬の開発には、人とお金と時間がかかります。前述のとおり、多くの化学物質について、疾病との組み合わせを網羅して、効果を調べるというのは気の遠くなる作業です。 さらにそれを化学的に合成するとなると、さらに時間がかかります。

・・・・・・

そこで、スーパーコンピューターの登場です。もし、これで新薬の開発期間が1/10になれば、今、死を待っている患者で助かる人も多くでるでしょう。開発コストが安くなれば、途上国の人々や貧しい人も入手できるようになります。いい事ばかりです。

・・・・・・

でもこれだけではないでしょう。ここまでの話は一般的で普遍的な薬効がある医薬品の場合です。これから、医薬品の世界はガラリと変わり、オーダーメードの世界に入ります。抗ガン剤がその代表ですが、薬の効き方は人によって違い、その研究は遺伝子レベルで進んでいます。近い将来、ひとりひとりの遺伝子情報に基づいて、その人に最も適した薬を設計し合成するオートクチュールの時代になります。

・・・・・・

調剤薬局11軒に、スーパーコンピューターが1台ずつ置かれ、訪れた患者から遺伝子情報を得て、たちどころに、薬を合成するのです。医師と薬剤師の中間にあたる職能を持つ技術者が、コンピューターと化学合成装置を操作し、短時間で創薬する時代がくるのです。 そんなバカな・・と思うかも知れませんが、パソコンだって、今から30年前には珍しい存在でした。それが今は普及し、11台に近づいています。

スーパーコンピューターもすぐに安くなり、普及する時代になるでしょう。 そう、価格はプレーステーション並みになるでしょう。その頃は誰もスーパーコンピューターとは呼ばず、人工知能(AI)と呼んでいるかも知れません。 なに、遠い先のことではありません。 多分10年以内でしょう。 その時、誰も、その薬局のコンピューターが世界で一番か、そうでないのか・・などは気にしないでしょう。その代り、人工知能に名前を付けるかも知れません。 それがワトソンなのか、神農なのか、私はちょっと気になります。


nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。