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【 ホンダジェットについて思うこと その2 OTWEMについて 】 [航空]

【 ホンダジェットについて思うこと その2 OTWEMについて 】

 

ホンダジェットが試作機から事業に昇格する頃、藤野氏は何本かの論文を出しています。代表的なものでいえば、2003年にJournal of Aircraft誌に出した論文です。

Wave-Drag Characteristics of an Over-the-Wing Nacelle Business-Jet

Configuration”です。

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JOURNAL OF AIRCRAFT Vol. 40, No. 6, November–December 2003

http://www.hondajet.com/Content/pdf/tech_papers/Journal_of_Aircraft_Vol40_No6_P1177_P1184_Wave_Drag_OTWEM.pdf

また、同じ論文が別の雑誌にも投稿されています。

http://arc.aiaa.org/doi/abs/10.2514/6.2003-933

部下の森川氏も論文を書かれています。

http://media.proquest.com/media/pq/classic/doc/2171924291/fmt/ai/rep/SPDF?_s=AwvEqBRAOBzTPhjWGrSVBrBxh28%3D

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余談ですが、最近、「オヒョウ君のブログにはいろいろ書かれているけれど、その内容については、真偽のほどを確認しなければ・・」という悲しいコメントをいただきました。そこで可能な限り、出典を明らかにしようと思います。論文の引用についても、複数ある場合は査読付きの雑誌に掲載されたものを引用するようにします。・・なんだかブログじゃないみたいですね。

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脱線しましたが、藤野氏は論文の中で、最も空気抵抗が少なくなるエンジンの配置を数値解析による計算と、風洞実験の両方で求めています。その結果、主翼の上で、かなり後ろの位置が一番良い・・との結論に至り、ホンダジェットの設計に採用しています。 それがOTWEMです。

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しかし、それを読むと、研究の多くは亜音速領域(マッハ0.70~)の領域で行われています。そして藤野氏が提唱する、空気抵抗係数(Cd値)を下げるOTWEMの効果が見られるのは、マッハ0.78以上。 高速になるほど効果が顕著ですから、本当にOTWEMが価値を発揮するのは超音速 時速1200Km以上の領域でしょう。

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でもね、ホンダジェットが飛ぶのは時速600700Km台(日本経済新聞によれば、400ノット 時速741kmが巡航速度ですが、平均速度はそれよりかなり遅くなります)、マッハ数でいえば、巡航速度マッハ0.6です。つまり、OTWEMは効果がありません。

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再び脱線しますが、私はこの種のコケオドシを「ランエボのリアウィング」と呼びます。製造と販売を終了した三菱自動車の高性能自動車ランサーエボリューションには、後ろのトランクの上に翼が付いていました。このリアウィングは高速走行時にダウンフォースを生じさせ、走行を安定させるためのものですが、あるTV番組に出演した設計者によれば、時速100Km程度で効果が現れ始め、時速150Kmで最も有効に機能するそうです。それに対し自動車評論家の三本氏が「すると、日本の公道では全く意味を持たないギミックですね?」と皮肉を言うと、設計者は言葉に詰まり。「まあ、サーキットを走ることもありますし・・」と言葉を濁しました。

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「ホンダジェットのOTWEM(つまりエンジンを主翼の上に乗せる方式)は、空気抵抗を減らす効果は無いのではないか?」 論文を読んでそう思った私は「笑うオヒョウ」の前の時代のブログにその事を書きました。 ほぼ同じ頃にインターネット上でも、OTWEMの空気抵抗低減効果を疑問視する発言が登場しだしました。

すると、ホンダは突然、OTWEMの空気抵抗低減と燃費向上効果を言わなくなり、代わりに、客室を広くでき、かつ騒音振動を減らせる・・という別の効果を前面に打ち出しました。併せて、藤野氏は米国でOTWEMの特許を取得しました。 なるほど。

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オヒョウのように技術開発の周辺分野にいた人間にはわかります。査読付きで審査の厳しい学会発表や論文と違い、特許の方は、いくらか緩やかな審査で受け付けられます。そしていったん、特許が成立してしまえばこちらのものです。書かれていることの真偽はあまり重要ではなくなります。 そういうと、ホンダジェットをけなしているようですが、決してそうではありません。 OTWEMは、空気抵抗の減少と燃費向上という部分を除いても、傑出したアイデアであり、おおいに宣伝すべき技術です。

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私はホンダジェットをほとんど一人で開発した藤野氏を尊敬しますし、ユニークな設計のこの機体が大好きです。 ホンダジェットは米国の航空業界のグッドデザイン賞を受賞しました。型式証明未取得の時点でグッドデザイン賞受賞は大変なことです。

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ここで日経新聞の記事に戻ります。

工藤正晃と中西豊紀という2人の記者の署名記事では、ホンダジェットはVL(ベリーライト)というカテゴリーに入り、そのライバルはエンブラエルのフェノム100とセスナサイテーションであると紹介します。そこに誤りはありませんが、ライバルはもっとたくさんいます。エクリプス、アヴォセット、サファイヤ・・詳しくは西川氏のブログをご参照願います。

http://book.geocities.jp/bnwby020/business.html

ただ、注目すべきは、それらのライバルの中には、売れ行き不振や安売りのツケで倒産してしまった会社が多くあることです。

http://book.geocities.jp/bnwby020/hondaj.html

それほど、小型ジェット機の業界は厳しいということです。藤野氏の、VLのカテゴリーで市場の1/3を取りたい・・という目標はおおむね妥当だと思います。しかし、そのためにはマーケッティング・・日本語でいえば、客は何を望むか?について研究する必要がありそうです。

 

以下 次号


【 ホンダジェットについて思うこと その1 】 [航空]

【 ホンダジェットについて思うこと その1 】

 

すでに報道されているとおり、米国のノースカロライナ州グリーンズボロで開発製造しているホンダジェットにFAAの型式証明が出されました。これでやっと、米国内でどうどうと製造販売できます。考えれば、手続きに10年近くもかかった訳で、これは米国の嫌がらせ以外の何物でもありません。藤野社長、あるいは日本の伊東社長はよく我慢したな・・と敬意を表したいところです。実際、航空機の型式証明は、貿易上の非関税障壁の中で最大のものだと、私は思います。

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以前のブログに三菱のMU-300 (ダイアモンドⅠ)が売れなかったという話を書きましたが、最大の理由はFAAの型式証明取得が遅れたことです。それまで比較的に易しかった証明取得が、三菱MU-300から途端に難しくなり、手続きのノウハウが無かった三菱重工は戸惑うばかりで、売ることができなかったのです。米国政府はその時期にジェット旅客機の設計ミスによる事故が相次いだため、審査を厳格にした・・と説明しましたが、日本の飛行機いじめであることは、関係者は皆分かっていました。

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当時・・・・1970年代、人種差別とは言いませんが、ジェット機とは白人(米国、欧州、ソ連)が作るもので、他の国の人には作れない・・と思われてきました。敢えてそれに挑戦した日本のジェット機に対する反発と警戒は否定できません。当時、日本の自動車が米国市場を席捲しており、うかうかしていたら民間機の市場も日本に乗っ取られるぞ・・という意識もあったはずです。

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メーカーに勤務した方ならお判りでしょうが、設備投資も行い、生産体制を整えたのに、作れない、売れない・・という状態が続くのは辛いところです。売り上げゼロの状態が続けば、確実に財務体質を毀損し、経営を圧迫しますし、なにより社員のやる気を維持させるのが大変です。

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日本の会社だから、審査に通らないという事情は明らかですから、やむなく三菱はジェット機を開発製造するノウハウの無い米国のビーチクラフト社に事業すべてを売り渡したのです。

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ホンダは、その経緯を知っていました。だから、最初から航空機事業のために米国に子会社を設け、そこで設計・開発し製造させました。中身は日本の飛行機ですが、一応、made in USAということにしました。数値解析や風洞実験ではノースカロライナ大学や米国企業の協力も得て、なるべく米国で開発した飛行機・・のフリをしています。

(私がホンダの社長なら、ノースカロライナ州ではなくデラウェア州にしていますが)

でも皆知っています。 藤野道格氏は日本の技術者であり、ホンダは日本の会社です。

だから時間がかかったのです。

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そして、もう一つ言えることは、MU-300の時とは時代が違うということです。ジェット機は欧米が独占する時代ではありません。ご承知の通り、ブラジルのエンブラエル社は新興企業ながら、高い評価を得ています。ジェット機ではありませんが、インドネシアの小型機メーカーも地道に実績を積んでいます。 信用は全くされていませんが中国もソ連/ロシアの飛行機の模倣から脱却しつつあります。もう日本の航空機メーカーだけをパージしても仕方ないのです。

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12/11日付けの日本経済新聞にはグリーンズボロ発の記事で、「ホンダ30年の夢」として、ホンダジェット開発の話を取り上げています。しかし残念ながら記者は航空機に詳しくないようで、ピント外れの記述が目立ちます。 昔は、新聞社といえば神風号の頃の朝日新聞社のように、航空界をリードする存在で、航空部には社有機が並び、専門家が記事を書いたものですが・・、近年はさっぱりダメですね。30年前のJAL123便の御巣鷹墜落の頃から劣化が目立ちます。

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その日経新聞の記事によると1986年に創業者本田宗一郎氏の念願であった航空機開発に乗り出し、以来30年間、計画を進めて、夢は実現した・・ということで、それ自体は正しいのですが、詳しく言えば紆余曲折があったようです。

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プロジェクトが具体的に進みだしたのは約20年前、後発でビジネスジェット機市場に参加するには、何か画期的な技術を盛り込まなくては・・という経営判断のもと、藤野氏らが温めていた、主翼の上の後方にエンジンを取り付ける・・という斬新なアイデアが採用され、計画が始まったのです。

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しかし、それとて、最初は高翼のMU-2型機のようなスタイルだったのが、やがて低翼の今の形になったり、独自の小型高性能のジェットエンジン開発に手間取ったり、いろいろなエピソードがあったようです。単純に考えると、エンジンは重心というより(空気抵抗の重心)と同じ高さにあるのが好都合です。それより高すぎると、機首下げのモーメントが発生します。低すぎると、その逆です。

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主翼の上にパイロンを設けてその上にエンジンを取り付けるホンダジェットでは、高翼ではエンジン位置が高くなりすぎる問題があったようです。また力学的な特性以前の問題として、エンジンの位置が高すぎると整備作業がしづらく、逆に低すぎるとエンジンが地面の小石やゴミを吸い込んだりします。 ビジネスジェットは田舎の整備状況の悪い飛行場も利用しますから、それらの問題は無視できない事柄です。なお、詳しい紹介は、西川渉氏のブログ【航空の現代】に書かれています。

http://book.geocities.jp/bnwby020/honda.html

http://book.geocities.jp/bnwby020/honda0607.html

http://book.geocities.jp/bnwby020/hondaj.html

ホンダジェットが売り物とする、高速性能、優れた燃費性能は、半ばは自主開発したエンジンのお陰、そして半分は優れた空力特性つまり、空気抵抗が小さい機体形状のたまものです。

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西川氏も述べていますが、空気抵抗が少ない理由の一つは、自然層流翼という主翼の断面形状、そしてもう一つは前述のエンジンを主翼の上の後方に置くという独自のデザインです。

藤野氏はこの形状にOTWEM (Over The Wing Engine Mount)と名付けて、特許も取得しています。

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でも、待てよ? そこに大きな問題があるのです。自然層流翼は、昔からある抵抗を少なくするための自然の形状です。OTWEMの方はそうではありません。私は藤野氏の研究にいちゃもんをつけたり、ホンダのプロジェクトにケチを付けるつもりはないのですが、・・・やはり気になります。

 

その点については次号で


【 MRJにおける三菱らしさとは その2 】 [航空]

【 MRJにおける三菱らしさとは その2 】

よく知られたことですが、日本は航空機に使う複合材料の技術では最先端を行くと言われています。その理由は2つあります。

ひとつは、炭素繊維の開発と製造で他を圧倒する、東レや帝人が、日本企業であること。 そしてもう一つは、国産戦闘機三菱F-2の開発で、ノウハウを蓄えたことです。

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F-2では、ジュラルミンはもとより鋼よりも引っ張り強度が高い、炭素繊維系の複合材料を主翼などに用い、機体の軽量化やレーダー投影面積の縮小に成功しました。

F-16をベースに設計した機体ですが、高翼面荷重化と、ハードポイントの増加で多数のミサイルを懸架するために、主翼は軽量かつ高強度が求められたのです。

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無論、開発は簡単ではなく、積層構造の剥離問題など、多くの試行錯誤がありましたが、それを克服しました。 そしてその技術をMRJにも応用すれば、軽量で強靭、かつしなやかな翼と胴体が得られた訳ですが・・・、今回のMRJではわずかに尾翼などに使われただけです。これはどういうことか?

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大型旅客機を製造するボーイングやエアバスでは、新機種が登場するたびに、複合材料の比率が上がっています。それは主に日本のメーカーが納入する部分です。その結果、最新のボーイング787では、客室内の湿度を上げることも可能になり、より客室内は快適になりました。 これはなぜかというと、結露しても平気だからです。高空を飛ぶ飛行機の場合、外気温は非常に低いので、胴体の内側には結露します。金属製の飛行機ではこれが腐食の元になり、機体寿命を短くします。それを防止するために機内の湿度を低く設定するのですが、その結果、乗客の喉や目は乾燥します。ボーイング787はその問題を解決したのです。

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MRJも、設計当初は、高い複合材料比率を予定していました。 そして、三菱のライバルとなりうるボンバルディアが、複合材料を多く採用したジェット旅客機を開発するとマスコミに発表した時、三菱のエンジニアは鼻で嗤いました。

「まあ、できるものならやってみなさい。お手並み拝見」

TVのインタビューで技術者はそう答えています。

これは前述のように、F-2戦闘機で苦労し、やっとノウハウを掴んだゆえの自信からでしょう。最初の頃は、ギヤードターボファンという高性能低燃費のエンジン以外にも三菱MRJには売り物となる省エネ技術があったのです。

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しかし、開発計画が遅れ、設計見直しを繰り返すうちに、複合材料の比率は下がり、最後は尾翼ぐらいになってしまいました。

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構想段階、あるいはプロトタイプ段階では斬新なアイデアを多く取り入れた先進的な設計になっていたのに、量産段階では陳腐で平凡な設計になっていた・・というのは、機械の世界ではよくあることです。 しかし、MRJはひどすぎる。これでは羊頭狗肉ではないか? いや竜頭蛇尾というべきか?

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さすがにこの点を衝かれた三菱の設計者達は、苦し紛れの説明をしました

「胴体を複合材料で作ると、地上にいる時にサービス車輌などが胴体に接触して、凹みや疵が付いた場合の補修が難しい。従って使用者側の事情に配慮して、従来からある金属材料を採用した」・・・と、補修の作業性(ダメージコントロール、略してダメコン)やコストに配慮した結果だと言ったのです。

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でもこれは不可解です。複合材料で胴体を作った飛行機は、前述のボーイング787など、既にたくさんあります。でもどこからもダメコンの難しさから金属製の胴体の方が良かったという声は聞こえてきません。 どうやら、複合材料を断念した本当の理由は別のところにありそうです。

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私は複合材料を採用することによって必要となる設備投資に、経営陣が躊躇したのではないか?と考えます。

複合材料は、何層にも貼り重ねたあと、オートクレーブという、一種の焼成炉で焼き固めます。複合材料ですから一体熱処理が重要で、主翼なら主翼が、胴体なら胴体がすっぽり収まる大型のチャンバーが必要で、これは高額の投資となります。 機体が小さい戦闘機とは違うコストです。 大型のオートクレーブを導入すれば、損益分岐点となる販売機数が増えます。 単価は高くなり、売れ行きも鈍ります。本当にMRJは売れて、投資を回収できるだろうか? 川崎重工が大型のオートクレーブを導入できたのは、ボーイングという大企業が客で、B-777B-787の販売機数がある意味で保証されたからです。でも三菱MRJはそうではありません。

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そこで三菱の経営陣は、冒険をせず、無難な選択・・つまり主翼や胴体には複合材料を使わない・・という判断をしたのでしょう。 でも何となく出来上がった飛行機は無難すぎて詰まりません。まるで優等生の試験の答案みたいです。

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かつて、三菱の名航の精神と言えば、世界のライバルを凌駕するために、新しい技術にどんどん挑戦するという進取の精神でした。新素材の採用にも意欲的でした。ご承知の通り、世界で初めて翼桁に超超ジュラルミンを採用したのは三菱のゼロ戦です。

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しかし、いつの間にか三菱重工と三菱航空機の技術者は冒険を恐れるようになったのか・・な? それとも、三菱重工の経営陣の中にある、船舶出身者と航空機出身者との綱引きの影響なのか・・。いずれにしても、ゼロ戦の頃の遺伝子はなくなってしまったのか?

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MRJは、今後も派生型が登場するでしょうし、さらに開発・改善する余地が多分にある航空機です。名機とかベストセラーと呼ばれる飛行機は、必ず設計に余裕があり、改良型や派生型がたくさん登場し、長い期間使用されます。 MRJもそういうタイプの飛行機です。

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どうか、その派生型の中に、機体の50%以上を複合材料にした先進型を用意して欲しい。そしてエルロンを無くし、フライトスポイラーを代わりに使用し、全幅にフラップが付いた主翼のタイプを作って欲しい。

そして、将来、そのタイプのMRJを海外の空港で見かけたら、「あれは、ボンバルディアやエンブラエルやボーイングのイミテーションではない。 ゼロ戦を作った日本のミツビシの飛行機だ!」と、胸を張って言えるのですが・・。


【 MRJにおける三菱らしさとは その1 】 [航空]

【 MRJにおける三菱らしさとは その1 】

「スマートな飛行機は性能も良い。だから飛行機はスマートであるべきだ」と語ったのは、ツポレフ爺さんこと、旧ソ連の大型機設計の始祖とも言えるツポレフ技師です。その影響なのか、長い間ツポレフ設計局の旅客機は細い胴体を特徴としていました。

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それはともかく、今回初飛行した三菱MRJは見るからにスマートで格好いい機体です。自動車ならフラッシュサーフェスと言うところですが、操縦席の窓と同じ角度で切れ落ちる機体先端部の形状はB787にも通じますが、かつてのドルニエの旅客機に似ています。これは仰角が大きくても操縦席からの前方視界が確保できる設計です。

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しかし直線はB787やドルニエのそれより鋭角的で、先端は尖っており、旅客機固有のダンゴッ鼻はありません。レーダーが小型化しレドームが小さくなったからでしょう。ビジネスジェット機のノーズに似ています。東海道新幹線で言えば、ゼロ系から200系に進化した時のようです。

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この特徴的な形なら、飛行場で遠くに停まっている機体をみて、MRJだとすぐに分かります。あるいは上空を飛び去るシルエットを見ても、MRJだとすぐに分かるかも知れません。結構なことです。

実際のところ、最近の旅客機はどれも形が似ており、識別するのが難しいのです。せっかく三菱が作った旅客機なのだから、三菱らしさが形に現れてもいいと私は思います。

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しかし、飛行機のシルエットだけでは、まだ何か足りません。せっかく最新鋭の飛行機を作ったのですから、三菱固有のアイデアで、もっと革新的で独創的な何かがあってもいいと思うのですが・・・。 そこで思い出したのは、20年も前の話です。

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テキサスのある飛行場で偶然、三菱MU-400の機体を見かけました。操縦席の窓が茶筒を斜めに切り取ったような独特の垂れ目の形状をしています。「あれは日本のビジネスジェットのダイヤモンドⅠだ」と私が言うと、同行のアメリカ人は「いやあればアメリカのビーチジェットだよ」と否定します。ちょっとムッとした私は「ほらフラップが主翼の全幅に及んでいて、エルロンが無いだろう。これは三菱の飛行機の特徴なのだよ!」とこだわりの主張をして、やっとアメリカ人に納得してもらいました。

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背景事情を説明します。今、小型のビジネスジェットであるホンダジェットが話題ですが、日本はその30年も前に、革新的なビジネスジェット機を開発しています。三菱MU-300400で、海外での名前はダイヤモンドⅠ。傑作機といわれたターボプロップビジネス機MU-2の後継機で、同じクラスのビジネスジェット機に比べ、最高速度で優り、航続距離や燃費で優り、かつ客室は広く、離着陸は短距離で可能という夢のような飛行機でした。

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しかしこの飛行機は売れませんでした。マーケティングの失敗です。当時、ビジネスジェットの多くはアメリカで売られていましたが、独特のエージェントというかブローカーが介在する販売方法で、三菱はそれに慣れていなかったのです。日本では?というと、第一号機を購入した読売新聞社は、訓練飛行の途中で佐渡の金北山に激突して4名が亡くなるという事故を起こしてしまいました。もう日本では誰も買いません。

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結局、三菱は販売権も製造も設計も、すべてを米国のビーチクラフト社に売り渡したのです。ビーチクラフト社はその後、レイセオン社に吸収合併され、今は飛行機の名前はホーカーです。だからこの傑作機を見ても、誰も三菱が設計したものだとは気付きません。 それでも、エルロンを無くした独特の主翼の構造を見れば、ああ、これは三菱の設計だと分かります。 

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ご専門でない方のために申し上げれば・・、

普通、飛行機の主翼にはエルロン(補助翼)とフラップ(下げ翼)が付いています。エルロンはロール(軸方向の回転)や旋回をする際に重要ですが、この機能をフライトスポイラーに代替させたのが、三菱の飛行機です。

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フライトスポイラーがエルロンの代わりをすれば、エルロンは不要になり、その分フラップの幅を広げられます。フラップが主翼の全幅に付けば、高揚力となり、失速速度が遅くなります。つまり低速で離着陸できる訳で滑走路は短くて済みます。 その分パイロットも楽になりますし、短距離で離着陸できるなら、滑走路の短い飛行場も使えます。

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このアイデアはMU-2型機で採用されて大成功となり、MU-300にも引き継がれています。そして三菱が開発した国産初の超音速機T-2/F-1に採用されています。

T-2は、同じアドーアというエンジンを搭載した英国のジャギュア戦闘機とそっくりだ・・という人がいますが、エルロンの無い主翼を見れば、違いは一目瞭然です。ただT-2は練習機ですから、エルロン無しの機体で練習した後、普通の戦闘機を操縦することになれば・・・戸惑うかも知れません。

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ちなみに、その後に三菱が開発した戦闘機F-2では、フライバイワイヤというコンピューター制御になっており、エルロン操作という概念自体がなくなっています。

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前置きが長くなりましたが、三菱の飛行機の最大の特徴だった、フライトスポイラーによるエルロンの代替とエルロンの省略が、今回のMRJでは見られません。 旅客機とビジネスジェットでは違う・・ということなのか、それともMU-2MU-300を開発した設計者達が全て引退した後だったので、その技術が継承されなかったということなのか・・分かりません。

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前述の通り、フラップを主翼全幅に延ばせば、STOL性能、即ち短距離での離着陸性能が向上します。 海外の場合、MRJがターゲットとする地域航空では滑走路の短い空港も多く、STOL性能は重視されるはずなのですが、考慮されていないようです。それにSTOLであることは、空港周辺の騒音を低減する効果もあります。

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例えば、ロンドンシティ空港は、テムズ川の川中島みたいな半島にありますが、滑走路が短いうえ、周囲の騒音問題もあります。従ってここに離発着できるジェット旅客機は限られ、エアバスでも一番小さなA319がかろうじて離着陸できるだけです。MRJがこのロンドンシティエアポートを使えるかどうかは型式証明を取得した後の話ですが、もし、MRJSTOL性を重視しておれば、シティエアポートを使えるでしょうし、海外のエアラインに強くアピールできるはずです。

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日本のというより三菱のお家芸だったSTOL性能が、MRJではあまり語られないのが不可解です。日本ではMRJが登場する前に、地方空港のジェット化が進み、滑走路は軒並み延長されました。だからMRJSTOL性能をPRしても無駄だ・・と考えるなら、それは間違いです。まだ日本にも滑走路の短い空港はあります。

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例えば、佐渡空港・・この島にはプロペラ機のYS-11も着陸できませんでした。 MRJがもし佐渡空港に着陸できるなら、素晴らしいことですし、離島空路のジェット化という点で、おおいにPRできます。それとも、MU-300が事故をおこした佐渡島はいやかな?それなら、波照間島空港でもいいのですが・・・、お客がいるかどうかは分かりません。

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話が脱線しましたが、三菱には、これ以外にも、独創的で他の追随を許さない技術があります。しかし、最終的に、MRJではあまり活用されていません。残念なことです。それについては次号で申し上げます。


【 アヒル飛びなさい 】 [航空]

【 アヒル飛びなさい 】

 

昭和期の文人、文化人に飛行機好きの人が多いようです。精神科医の斎藤茂太、漫画家の岡部冬彦等が有名ですが、特にこだわりがあったのは先日亡くなった作家の阿川弘之でしょう。

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彼の初期の作品「雲の墓標」は単なる戦記文学に留まらない名作です。そして飛行機に関するもう一つの名作は、「あひる飛びなさい」です。これは戦後に作られた国産最初の旅客機YS-11になぞらえて、それぞれの戦後を生きる男達の友情の物語です。

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飛行機の開発が経糸になり、敗戦後の喪失感、技術者の複雑な思い・・などが横糸になった物語ですが、あの小説に登場する人達の思いは昭和人でなければ分からないだろうなぁ・・と思わせる作品です。

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「あひる飛びなさい」自体もドラマ化されましたが、その後、阿川弘之の他の作品と合わせて、「あひるの学校」というドラマになってNHKから放映されました。

その時はターボプロップではなく、ターボジェットの旅客機を日本が開発するという話になっていました。既にYS-11が飛んでいたという事情もありますし、「やはりプロペラ機ではつまらない、ジェット機を作らなくては・・」という思惑があったものと思います。

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TVドラマでは、まだ日本に登場して間もない、小型のジェット旅客機ボーイング737を「ピュアージェット」という名前にして、日本が開発した最初のジェット旅客機にしていました。YS-11に使われたターボプロップもジェットエンジンの一種ですが、プロペラ機です。やはり純ジェットと呼べる、ターボジェットでなければ・・・ということでしょう。芦田伸介や三国一朗が出演していました。 もう50年も昔の話です。そして事実その頃から国産のジェット旅客機を開発しようという計画(YSX計画)はあったのです。もっともこの計画は提案しては潰されることの繰り返しでしたが・・・。

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考えてみれば、日本が国産のジェット旅客機の開発を考えてから50年間も、このプロジェクトは実現しなかったのです。 この間、世の中は進歩し、ジェット旅客機は様変わりしました。 ジェットエンジンはターボジェットからターボファンに切り替わり、高速化と省エネを進めました。 機体の材料も古典的なジュラルミンから複合材料が多く使われるようになりました。 操縦室の古典的な計器盤はなくなり、デジタル化され、液晶表示になっています(グラスコックピットと言う人もいます)。

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しかし、一番進歩したのはその安全性でしょう。 航空機における安全工学がひとつのシステムとして確立し、FAAの型式証明の審査は厳しくなり、その結果、航空機の信頼性は向上しました(途中、悲劇的な事故は数多くありましたが)。

昔は、飛行機はある確率で墜落するもの、危険を覚悟で搭乗するものという考えが常識でしたが、今そんなことを考える人は少数です。

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ジェット旅客機が大きく進化し変貌した、まさにその50年のブランクを乗り越えて、最新鋭の旅客機を完成させた人々に敬意を表します。そして思うのは、初飛行までもう少しのところで他界した阿川弘之のことです。彼はMRJの初飛行を楽しみにしていたのではないか?やはり50年は長いな・・・。

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部品点数が数百万個に及ぶ大型機械・装置またはシステムを開発するプロジェクトはそう多くはありません。それを実行できる企業や団体もそう多くはありません。そしてそれらは、宇宙開発にせよ、原子力発電にせよ、ジェット旅客機にせよ、高い安全性と信頼性が求められます。

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普通、それらは先輩達が苦労して積み重ねたノウハウの上に、完成品として実現する訳ですが、今回のMRJはそうではありません。50年間のブランクによって、先輩達のレガシーが途絶えた後に、完成させたところが素晴らしいのです。

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「あひる飛びなさい」では、敗戦により日本の航空機産業が廃れ、先輩達の技術やノウハウが失われる前に、旅客機の形でそれを継承させたい・・という関係者の思いが語られます。事実YS-11は戦前の日本の航空技術を引き継ぐものでした。

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でも実際には、戦前の技術を引き継がなくても、新鋭機MRJは完成しました。 英国のFinancial Timesは「航空機業界に伝統的な名前(三菱のこと)が帰ってきた」として、戦前の名機ゼロ戦を引き合いに出しています。ゼロ戦などを作った三菱重工のレガシーの上にMRJが完成したと言いたげです。でも実際は違うのではないか? MRJ自身はゼロ戦の遺伝子を持っていないのではないか?MRJの開発者達が先人から学び、体得したものがあるとすれば、具体的なノウハウや個々の技術ではなく、もっと別のものではなかったのか?

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そのあたり、存命なら阿川弘之の意見を聞きたいところでしたが、彼はもういません。


【 MRJの足 】 [航空]

【 MRJの足 】

 

MRJの初飛行の様子が、TVで放映されましたが、それについてSさんから指摘がありました「MRJはずっと脚を出したままだったけれど・・・なぜ?」。その点は私も気づいていました。早速、飛行機の降着装置の設計の第一人者であるM氏に問い合わせてみると、

「日本の飛行機の初飛行は、脚は出したまま飛ぶのが普通」とのことです。

「もし、脚の上げ下げで何か、トラブルが起こってはいけないから」とのこと。

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なるほど・・と思いながら、ひょっとしたら、これは雷電の苦い経験に由来するのではないか?と私は思いました。

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第二次大戦中、三菱の堀越技師以下のグループは、ゼロ戦の開発を終えた後、局地戦闘機雷電の設計・開発にかかっていました。同時にゼロ戦の改良設計も行うので、多忙を極めたそうです。 そのあたりの事情は、柳田邦男の「ゼロ戦燃ゆ」に詳しいのですが・・・。

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やがて試験飛行を始めた雷電の試作機は、突如操縦不能となる奇怪な墜落事故をつぎつぎとおこします。そして、その原因は雷電10号機の柴山操縦士によって明らかになります。彼は、脚上げ操作をした直後に、昇降舵が利かなくなり、機首下げになったことから、とっさの判断で脚を再び下ろしたのです。 そうすると再び飛行機は制御可能になり、無事に着陸できたのです。 それによって問題は解明されました。

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尾輪を上げた際、尾輪のオレオ式緩衝装置が、昇降舵と繋がる軸管に干渉し、その圧力で操縦棹が前に引かれ、機首下げになったのです。尾輪支柱の湾曲と、支柱と昇降舵連結管との隙間の少なさが問題であり、クリアランスを多く設ける事で解決したのです。 雷電の後期の型では尾輪が固定式になったものもあります。

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その経緯については、前述の「ゼロ戦燃ゆ」にもありますが、篠原直人氏のブログ「南溟の桜」にも詳しく記載されています。

http://soranokakera.lekumo.biz/tesr/raiden/

つまり、飛行とは関係ないと思われる脚の上げ下げでも、予想外のとんでもない影響を与えることがあるのだ・・という教訓です。この雷電の脚を設計した久保氏と東條氏はその後、三菱自動車の社長になっています。ゼロ戦や雷電クラスであれば、部品点数も多くなく、脚も胴体も翼も、同じチーム内で設計します。だから干渉問題なども気付きやすいはずですが、今の旅客機は分業です。脚の設計・製作と昇降舵の設計・製作は別会社です。干渉問題は気付きにくくなっているかも知れません。

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そして、もう一つ言えば、脚を出すことは、操縦安定性に寄与する可能性があります。

旅客機の脚は、それ自身がものすごい空気抵抗となります。飛行機が着陸間際に脚を下ろすと途端に大きな風切り音が聞こえるのはそのためです。

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日本航空123便が御巣鷹に墜落した事故では、油圧制御が利かなくなり、姿勢を安定させることが困難になりました。ダッチロールとフゴイド運動が激しくなったところで、航空機関士が「脚をだしてみてはどうか?」と提案します。油圧は使えませんから、オルタネートと呼ばれる代替手段(つまり電動)で脚を下ろすと、それが一種のフライトスポイラーの役割を果たし、機体は安定しました。絶望的な墜落事故で、それでも4人が生存できたのは、脚を出したおかげともいえます。

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今でも分からないのは、パイロットではない航空機関士がどうして適切な提案をできたのか?ということと、機長がとっさにその提案を受け入れた理由です。 飛んでいる間は文字通りお荷物とされる降着装置ですが、空中で役に立つこともあるのです。

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それにしても、初飛行はやはり、ドキドキの連続です。昔よりシミュレーターが発達したので、でたとこ勝負という感覚はありませんが、日本でも危うく大事故・・という例があります。 

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有名なのはT2-CCVの実験機です。 初飛行の離陸直後に大きく左右にロールし墜落寸前になりました。これは離陸時点からCCVのコンピューター制御モードにしていたためで、テストパイロットは瞬時に手動に切り替え、ことなきを得ました。原因は制御のパラメーター値が適切でなかったためのP.I.Oという現象ですが、離陸直後であり、安定性を失うと瞬時に墜落する可能性があったのです。

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同様の事故はスェーデンのサーブグリッペンの試験飛行でも発生していますし、米国のF-22も試験飛行で着陸失敗しています。それらは全てコンピューター制御する戦闘機ですが、民間機でも初飛行の危うさは同じことです。

また墜落の危険はありませんでしたが、超短距離離着陸実験機「飛鳥」では着陸時に機体が大きくバウンドしました。 コアンダー方式の短距離離着陸機の宿命ですが操縦士は肝を冷やしたはずです。

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MRJは、初飛行は脚を出したまま、無難な飛行に終始しましたが、いずれ脚を上げた状態で、最高速度や燃費の確認を行います。カタログどおりの性能が出るか、性能証明をする必要があるからです。 うたい文句にある、「ライバル機より、2割燃費に優れる」という高性能が証明されなければ、市場に受け入れてもらえません。

三菱の技術者の正念場はこれからです。

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ということで、今回はやや専門用語をちりばめた雑文になりました。飛行機について素人である私が、MRJの降着装置について知ったかぶりを書くのはここまでにします。 これ以上書くととんだ馬脚を現しそうですから。


【 シミイ(shimmy)の問題 】 [航空]

【 シミイ(shimmy)の問題 】

 

三菱重工/航空機が開発しているジェット旅客機MRJの初飛行がいよいよ来週に迫りました。そうはいっても、先々週にも一度予定していた初飛行を突然延期しており、今回も本当に飛ぶかは・・心配です。過去にこの飛行機は5回も予定を変更して、完成が遅れているのです。

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もし三菱重工が製造する他の物件(例えば客船とか火力発電所とか、製鉄機械とか)で、5回も納期を変更したら・・、莫大な損害賠償請求をされます。過去に三菱重工は台湾の火力発電所で莫大な損害賠償を求められ、豪華客船の建造でも莫大な赤字を出しています。その度に本来、黒字であるべき経常収支が赤字に転落しています。

MRJも納期遅延に絡んで、客先から逸失利益の補償などを求められたら、かなりピンチです。5回目の予定延期は、三菱航空機の社長が大見得を切ったのに、実際には飛ばなかった訳で見苦しさは否定できませんが、その理由がまた奇妙でした。

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延期の理由はラダーペダルのストロークが小さいので、改造するために時間がかかる・・というものですが、MRJの初飛行を待ちかねている飛行機ファンで、これを額面通り信用する人は少数でしょう。

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MRJは既に実機が完成し、地上走行をかなりの期間実施しています。いまさら、ペダルの不具合などあるのでしょうか?それどころか、実機以前にコックピットのモックアップやシミュレーターを製作し、実機完成前に随分検討と訓練を行っています。今更こんな不具合がおこるのだろうか?

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ラダー(方向舵)の不具合は、飛んでから初めて分かるのさ・・とうそぶく人もいますが、今回は初飛行前に発見して改造を決定しています。不思議です。今回の延期は何かもっと重大で本質的な問題が見つかったからではないか?と私は勘ぐります。

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可能性の一つはシミイの問題です。MRJではシミイの問題が解決していないのではないか?と私は心配します。 シミイは自動車でも飛行機でも発生する、古くて新しい問題です。ご存知ない方の為に申し上げれば、タイやの付いた車輛をある速度で走行させると、ステアリングハンドルが舵を切る方向にガタガタと振動し、操縦困難になる現象で、一種の自励振動です。

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自励振動とは、振動系の外部から運動エネルギーを得て、振幅が大きくなり発散する振動の事です。多くは比較的簡単な非線形微分方程式で記述されます。・・・という説明をすると、かえって分かりにくくなるので止めます。 平たく言えば、ホイールバランスの悪い自動車を運転していると、ある速度でハンドルがガタガタすることがありますが、あれに類した現象です。工作機械の切削加工で発生するビビリやチャタリングも自励振動の一種です。

シミイは比較的に低速域で発生する事が多いようです。自動車のタイヤのホイールバランスなら、振動系は単純で、カウンターウェイトを付けて、バランスを取り、自励振動が発生する周波数(固有振動数と言います)を平たくしたり、遠くの周波数域にずらす事で対応できます。

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しかし、航空機のシミイの問題はそんなに単純ではありません。飛行機の降着装置は飛んでいる時には役に立たない余計な存在ですが、実は非常に重要な装置です。 離陸する際は、短時間の内に、静止状態から時速200Km以上に加速するために大変な負荷がかかります。着陸時は大変な衝撃荷重を受ける上に、着陸時の速度も時速200Km以上で、しかもそこから急ブレーキがかかります。タイヤは猛烈な白煙をあげます。 そうなるとF1のマシンなど可愛い存在に思えます。

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しかも、横風の中での着陸では機体は斜めになって着陸しますから接地した瞬間にハンドルをきらなくてはなりません。少しでもミスすれば滑走路から飛び出したりパンクしてしまいます。 全く飛行機の降着装置とはタフな存在です。

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その降着装置も単純化すればバネ-ダッシュポッド系のモデルで示されますが、シミイの問題の解決は大変です。カウンターウェイトを付けるというのは、1gでも軽くしたい飛行機の場合、あまり得策ではありません。 それに自励振動が発生する固有振動数域を外そうにも、対象となる速度域は、時速0Km~時速200Kmまでです。その間の、どの領域でも自励振動が発生しないようにせよ・・というのは設計者にとって難問です。 基本的には固有振動数を上げるには、構造部材の剛性をあげればいいのですが・・・ヤング率が限られた材料では、軽量化と剛性確保は背反する問題です。

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今回、MRJは、時速100Km未満の低速走行試験を繰り返し、時速200Kmの高速走行試験に入る前に、機体改造と初飛行延期を決定しました(時速220Kmまで上げれば離陸してしまいます)。 これは中速域(時速100Km200Km)でのシミイが確認されたからではないか?と、私は推測するのです。

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ではなぜ今頃、この古典的な現象が問題になるのか?といえば、設計のモジュール化の弊害ではないか?と思います。 現代の航空機の設計は、機体全体の大雑把な設計をした後、幾つかのモジュールに分けて、エンジンや降着装置、油圧制御システムといった部分は他社に設計を委ねます。設計を委ねられた側は、収納される空間や取り付け部位の形状や寸法、重量などを示された後、そこに納まるモジュールとして詳細設計をし、実物を製作して、機体メーカーに納めます。

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当然振動解析についても、個々のモジュール単独では精密に実行されます。有限要素法の数値解析プログラムの中でも機械振動の解析は特に発達しており、三菱重工はその分野で先頭を行く企業です。でも振動解析が個々のモジュール単位で行われ、機体全体で行われないとすれば・・そこに盲点があります。実際にシミイで振動するのはステアリングハンドルだけでなく機体全体とも言えるからです。

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オヒョウの知る降着装置設計の権威は、「どうもシミイの問題は降着装置だけの問題ではないみたいだね。機体全体で考えなくてはいけない。つまり降着装置のメーカーだけに解決を押し付けてもうまくいかないよ」と言われたことがあります。

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私などは「機体の脚など、どの飛行機も似たようなものだから、似た大きさの旅客機用の設計図面をそのまま流用すればいいのでは?」と思っていたのですが、全く事情は違うようです。

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それに加えて、地上走行中の振動問題は、滑走路や誘導路、空港によって微妙に違います。 オヒョウが、その昔、授業を受けたK大学の下郷太郎研究室では、車輪の振動解析で、路面側からの荷重入力データをホワイトノイズにしていました。あまりローカルコンディションにこだわっても、一般的な解析にならないからです。

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しかし、実際には、路面や線路からかかる荷重は、フーリエ解析すれば、ちゃんとパターンがあり、ホワイトノイズではありません。しかもこれは、場所によって異なるのです。

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今回、MRJは県営名古屋空港(小牧空港)で試験走行しています。でもそこの滑走路で調整しても、岐阜県の各務原飛行場では再調整の必要があるかも知れません。困った問題です。しかし、そんな事を言い出すときりがない訳で、どこかに閾値を置いて妥協する必要があります。

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ボーイングもエアバスも多分そうやって対応してきたはずです。 そんなことは大型ジェット機を設計開発してきた会社にとっては当たり前のはずです。 しかし三菱には初めてのことなのです。今回のMRJはジェット機ですから、三菱が作る大型機としては、離陸速度が非常に速い飛行機です。(日本の大型ジェット機という点では、4発の飛鳥やP-1、双発のC-1XC-2がありますが、それらの主契約者は三菱ではありません)。

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大型のジェット機ゆえの問題・・に、今頃、初めて気づいたというのは、川崎重工や新明和の前では、口が裂けても言いたくないでしょう。 だから、ラダーペダルのストロークという奇妙な理由を編み出したのかな?と思います。 MRJの設計については外野席から見ていて、いろいろ思うことがあるのですが、それについては・・・取りあえず、初飛行が成功してからにしたいと思います。 文句は言うけれど、私はMRJに期待しているのです。


【 ソーラーインパルス 】 [航空]

【 ソーラーインパルス 】

 

あまり愉快ではない話です。世界一周を目指す、スイスの太陽電池飛行機ソーラーインパルスが、天候不順を理由に県営名古屋空港に予定外の緊急着陸をしました。パイロットは日本側の対応に感謝しつつも「やむを得ず、他に着陸地点が無かったので日本に着陸した」と言っています。

http://www.yomiuri.co.jp/national/20150602-OYT1T50039.html

http://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=159535&comment_sub_id=0&category_id=256

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これは、助けてもらった人のせりふではありません。彼はよほど、日本に来たくなかったのでしょうか?

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無茶・・と言っては言いすぎですが、ひとつの冒険として世界一周をしている以上、予想外の事態はあるでしょうし、緊急着陸や不時着もあるはずです。しかし、その場合は、まず自分の不明を恥じてお詫びし、かつ感謝するのが順番です。彼は感謝の言葉を口にしましたが、日本への着陸が不本意であることも漏らしています。

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そもそも、スイス政府が後援したという今回の世界一周計画では腑に落ちない点があります。最初から日本は全く無視されています。

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北半球を回る世界一周なら、最も難しいのは西太平洋の横断であることは、子供でも分かります。それを避けるなら、北に迂回して、カムチャッカ半島、アリューシャン列島、アラスカと飛ぶコースがありますが、あまり高緯度に逃げると世界一周とは言えなくなります。

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逆に太平洋に点在する島々を飛び石伝いで飛行するなら、ウェーキ島やグアム島を経由してハワイに至る航空路が一般的ですが、どちらの場合も、太平洋横断の出発地は日本が最適です。

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それにしても理解できません。ソーラーインパルスは、中国に入ってから、重慶、南京と2回も着陸し、それぞれで長期間滞在しています。そしていきなり、南京からハワイのホノルルへ飛ぼうとしています。最大の難関である西太平洋横断を考えるなら、少しでも大陸の東端、例えば上海から離陸することを考えるべきですし、もっと言えば、前述の通り、日本に立ち寄って、日本から太平洋横断に挑戦すべきです。

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かつて空路での世界一周が大冒険だった頃、飛行家は皆さん、日本に立ち寄っていました。飛行船のツェッペリンもそうですし、女性飛行家のアメリア・イヤハートも日本領の島に立ち寄り、そして南太平洋で消息を絶っています。

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それなのに、なぜソーラーインパルスは、日本ではなく遥かに西の南京から出発したのか?南京と日本との距離は決して無視していい距離ではありません。実際、日中戦争、あるいは太平洋戦争の空軍戦略ではこの距離が重要な意味を持ちました。

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かつて、日華事変の頃、日本は南京や漢口、重慶を爆撃機で空襲しました。スペインのゲルニカ空襲と並んで、世界初の戦略爆撃とされ、日本の歴史の汚点とされるものです。これゆえに、その後の太平洋戦争での米軍による無差別爆撃や原爆投下を非難することも難しくなっています。

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日本軍の飛行機は南京や漢口爆撃の際は、日本国内または台湾の基地から飛び立ち、世界初の渡洋爆撃と言われました。しかし、重慶爆撃では中国大陸内の基地から飛び立ちました。当時、航続距離では定評のあった日本の飛行機でも航続距離が足りなかったからです。

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一方、米軍による日本空襲は、最初の頃(サイパンやテニヤンが陥落する前)は、中国の重慶より更に奥地の成都から飛び立っていました。これは超大型爆撃機のB29の航続距離が極めて長かったことと、成層圏の高度で強い偏西風に乗ることができたからです。排気タービンを持たず、機内の与圧も無かった日本の飛行機は空気抵抗の少ない高高度を利用することができませんでした。

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現在も、日本と中国をつなぐ定期航空路には内陸都市への直行便はありません。上海浦東空港で、日本からの飛行機がワンストップして成都へ向かって飛ぶのを、私は何度も見送りました。

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ソーラーインパルスの場合、高度8500mで、日本の中部地方上空を横断してハワイへ向かう予定でした。もし強力な偏西風であるジェット気流を利用するなら、高度1mくらいの方がいいですし、季節は冬の方が適しています。もっとも、冬は日照時間が短くなるので、太陽電池で飛ぶ飛行機には具合が悪いのですが・・・。

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今回、パイロットは太平洋上の前線の存在を気にしていたとのことですが、高度8500mではなく、1万mであれば、あまり前線を気にしなくてよかったはずです。

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高度は高い方が日照も強くなり、気温も下がりますから、太陽電池の発電量は大きくなりますし、電気モーターですから内燃機関と違い、薄い空気も問題になりません。プロペラの推進力は弱くなりますが、最高時速140Km程度の推進力なら、もともとあまり重要ではありません。ジェット気流の方が遥かに高速で、飛行機自体の速度はあまり意味を持たないのです。だから太陽電池飛行機はなるべく高高度を飛ぶ方が合理的なのです。

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だいたい、太陽電池飛行機で世界一周する意味が、どこまであるのか?微妙です。なぜなら、太陽電池のエネルギーで飛行機を飛ばす技術は既に確立しているからです。そして、今、世界的な太陽光発電ブームは終息しつつあり、日本でも再生可能エネルギーの太陽光発電偏重が見直されています。太陽電池にこだわるのは、安価な太陽電池を量産している中国企業ぐらいです。 ひょっとしたら、このプロジェクトの背後には中国企業の後押しがあり、だからなるべく日本を無視したかったのかも知れません。しかし一方で、日本に暮らした経験があるこのスイス人パイロットは、それに反発して、ハプニングを装って日本に降りたかったのではないか? そんなことを考えてしまいます。

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ところで、世界一周の途中で、日本に不時着した例といえば、2005年に金沢の建設中の道路に不時着した人騒がせな英国人のことを思い出します。

http://www.47news.jp/CN/200510/CN2005102101003184.html

この人物、Maurice John Kirk氏は獣医師ですが、第二次大戦時の捕虜虐待を理由にした過激な反日発言でも知られた人物でした。もっとも、日本だけでなく英国政府や自分の住むカーディフ市にも噛みついていて、全てに反発する、いわゆる反体制活動家でした。彼は新潟空港から広島空港へ向かう途中、エンジン不調で金沢に不時着したのですが、そのトラブルの原因は、オクタン価の高い航空ガソリンを給油すべきところを、お金を節約して安価な自動車用ガソリンを給油したから・・・という信じられない理由でした。

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彼は金沢市内の病院に搬送された後、「本当は日本になど、来たくはなかったのだが、世界一周の為に仕方なく寄らざるを得なかった。まして日本人の世話になるなどマッピラご免なのだが、無理やり運ばれた。余計なお世話だ」とあらん限りの悪態を、南ウェールズ(カーディフ)訛りの英語でまくしたてたとのことです。挙句、不時着した機体の処分費用や、自身の医療費を踏み倒して帰国したとのこと・・。

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ああ、日本に不時着する人は、皆日本嫌いなのか? まあ親日家なら最初から日本着陸を予定し、不時着などにはならないのですが・・。


【 広島空港 RW10とRW28 】 [航空]

【 広島空港 RW10RW28

今日も広島は雨が降っています。そして雨が降ると、なぜか広島空港は全便欠航になります。今週末、LCCの春秋航空で上京(というより帰省)する予定の私としては気が気ではありません。すでに航空券は購入しているのですが、飛ばなければ新幹線に切り替えることになります。しかし、それだと東京着が遅くなってしまう・・・。

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今回のアシアナ航空のハードランディングの影響がこんなところに来ているとは・・。

事故の原因については、事故調査委員会の報告を待つべきであり、情報が足りないなか、無責任にコメントすることはできません。マスコミの中にはパイロットの操縦ミス説を唱える人もいますし、インターネット上にはアシアナ航空が危険だとか、韓国の飛行機は心配だ・・とか、無責任な憶測が溢れています。

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国土交通省の事故調査委員は、TVのインタビューで、慎重に言葉を選びながらも「ダウンバーストの可能性もある」と言っています。この現象については、ご承知の方も多いでしょうが、地表付近に局所的に現れる猛烈な下降気流のことで、小型で風速の強いものは、マイクロバーストやウィンドシアとも呼ばれます。着陸直前の飛行機がこの気流に突っ込むと想定以上に高度が下がり、墜落することもあるのです。日本の空港ではまれにしか観測されませんが、山の中の広島空港は天候がよく変化しますし、事故当日も天候がめまぐるしく変化し、気流が不安定だったとのことです。

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乗客の証言に、「着陸前に大きく機体が揺れた」というものもありますし、結果的に高度を失って滑走路の手前でILSのアンテナにぶつかったのですから、ダウンバースト説はその可能性を否定できません。

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もうひとつ、マスコミ報道で気になるのは、事故機があえてILS(計器着陸装置)が完備したRW10(西側)からの進入を選ばず、計器着陸のできないRW28(東側)からの進入を選択したのはなぜか? ということでパイロットの判断ミスを指摘する意見です。

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以前のブログでは説明が不十分でしたが、新しい広島空港には、日本では最新鋭のILSであるCATⅢ(カテゴリー3)が備えられていました。しかし、滑走路の片側にしかありません。R/W10(西側)からの進入にしか使えません。もっとも、滑走路の両側にこのILSが設置してあるのは、羽田空港の一部の滑走路や下地島空港など極少数の空港であり、広島の場合は、片側だけでもCATⅢがあるなら御の字だ・・という訳なのですが、そのILSが壊れてしまいました。

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その為に、雨が降ると飛行機が飛べない・・というまるで大正時代の飛行機みたいな状況になってしまったのです。でも日本にはCATⅢのILSが設置されていない空港は山ほどありますが、それらは雨の日も普通に運用されています。 どうして広島空港はダメなのか? これは標高が高く、霧が出やすいこの空港ならではの事情と言うべきです。そして、今回の事故をきっかけに、視界不良が多く発生する広島空港の問題点をアピールしようというエアライン側の思惑もあるかも知れません。

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いずれにしても、マスコミやインターネットは、ILSが使えるR/W10を使用しなかった事を問題視し、パイロットの判断ミスと判断したがっていましたが、果たしてこれはパイロットミスでしょうか? 

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実は、着陸の際、R/W28(東側)を選んで着陸することは普通にあります。私の経験では半分以上がILSの無いR/W28でした。視界が広く、有視界飛行で問題ない場合、必ずしもILSは必要ありません。その場合、どちらを使うかは、横風の強さが問題となります。滑走路の両端で横風の強さが異なる場合、横風の弱い方をパイロットは選びます。横風が無い場合、追い風か向かい風かが問題となります。パイロットは当然、向かい風となる方角を選びます。 だから、視界さえ確保されているならR/W28を選んだことは非難される事ではありません。

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その昔、JAS(今はありません)のMD-80が花巻空港でハードランディングした時は、パイロットが敢えて横風の強い方から進入したことが問題視されました。

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そして、広島空港の場合、東京からの到着便では、東側から入る方が距離も短く、時間も節約できます。勿論、燃料も節約できます。まあ、韓国の仁川からの便ではそうはなりませんが・・。いずれにしても、R/W28を選んだことでパイロットが責められるのは、お門違いというものです。 しかし、そちら側を選んだために、虎の子のILSが壊れてしまったのですが・・・。

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ハードランディングの原因はいずれ明らかになり、責任の所在も明らかになるでしょう。その話は置いておくとして、問題は再発防止の為に何をすべきか?ということです。

すぐに思い当るのは、ILSを滑走路の片側だけでなく、両側で使えるようにすることです。沖縄の下地島空港ですら両側にあるのに・・と思うのですが、簡単ではないかも知れません。ILSはローカライザーとグライドパスという2種類の信号を出しますが、どちらも直進性の高い電波です。そして滑走路の先20Km程度まで電波を遮る障害物が無い事が必要条件になります。 海岸の滑走路では問題ありませんが、山間部の空港では障害となる山があり、ILSを設置できない場合もあります。

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そうなると、以前と同じように、R/W10(西側)しか、ILSは使えないかも知れないのです。しばしば視界不良が発生し、かつ気流は乱れ、ILSは片側しか使えない・・となると、なぜこんなところに空港を建設したのだ? と毒づいてみたくなりますが仕方ありません。

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では、私ならどうするか? まず私ならドップラーレーダーを設置します。これは竜巻やダウンバーストの発見に非常に有効です。 特に目に見えないダウンバーストを発見して警報を出すので、ある意味、空港の必需品だと思います。 既に世界中の多くの空港にドップラーレーダーが設置され、それによって多くの航空事故が防がれ、おそらくは相当数の人命が救われました。 ドップラーレーダーを開発し、警報システムを完成させたのは、シカゴ大学の教授だった日本人の藤田博士です。

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これが、日本の空港に普及していないのは、理解に苦しみます。日本の空港ではダウンバーストが原因の大事故は、まだ発生していませんが、発生してからでは遅いのです。もし、今回の事故について国土交通省の調査委員会の報告が、ダウンバースト原因説を取るなら、あるいは無関係の別の原因だったとしても、結論の中に、ドップラーレーダー設置の提言を入れて欲しい。 勿論、滑走路の東側も西側も監視する装置としてです。

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でも、広島空港の場合、ドップラーレーダーに警報が出まくって、連日全便欠航なんてことになったら困ります。その時は、広島空港は閉鎖でしょうね。 そうなったら私も、いさぎよく新幹線の人になる予定です。


【 なぜ商社を使わないのか 】 [航空]

【 なぜ商社を使わないのか 】

 

国内第3位の航空会社であるスカイマークが経営危機に陥りそうです。事故を起こした訳でもなく、業績不振という訳でもないのですが、エアバスの巨人機A-3806機も発注してしまったという、身の丈に会わない判断が会社を苦しめることになりました。国際線進出を睨んでの投資だったのですが、結局、資金の工面がつかず、キャンセルとなった訳です。その際に、エアバスから数百億円のキャンセル料を請求され、かつ他の航空会社の傘下に入れという、とんでもない要求を受けたというのです。

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もともと、日航でも全日空でもないスカイマークがA-380を購入するのは無謀ではないか?という意見は以前からありました。 それなのにA-380を注文したのには理由があります。この会社は国際線への進出を考えていましたが、単に普通の飛行機を外国に飛ばすだけなら、日航や全日空の亜流になってしまいます。差別化して特徴を出すなら、巨人機と考えた訳でしょう。

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A-380は国内線には似合いません。仮に東京=福岡間を考えた場合、1000人乗りの飛行機を11回飛ばしても意味がありません。空港で何時間も待つなら、みんな新幹線を選ぶでしょう。 100人乗りの飛行機を110回飛ばした方が、乗客には待ち時間も無く、便利なサービスになります。

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だからA-380は国際線、それも大陸間を飛び、団体客など多くのお客を確保できるエアラインにふさわしいのです。 この機体を運用できるエアラインは限られます。個人的には、富裕な海外旅行団体客を多く確保できる、中国のエアラインに適した飛行機だと考えます。

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スカイマークが国際線に進出するなら、国内線と同じか、少し大きな普通の旅客機で運行を始め、ある程度実績ができてから巨人機を購入すべきだったのです。しかし判断を誤りました。急成長を遂げていた航空会社だけに、トップの経営判断に誰も反論できなかったのでしょう。

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しかし、エアバスインダストリーの対応も異常です。普通、欧州の大企業は、本心はともかく、応対は慇懃で常に紳士的です。お客であるエアラインに対して、とても払えないような違約金を請求したり、他社の傘下に入れというような、失礼な要求をするというのは、解せません。 これはスカイマーク側の対応にも非常識な点があって、エアバスがよはど腹を立てた・・ということでしょうか? 外野席にいる私には分かりませんが。

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そもそも、発注した飛行機のキャンセルは珍しい事ではありません。飛行機メーカーは幾らかのキャンセル料を取って、他の客に転売すれば、損害をほぼ解消できます。

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有名なロッキード事件の際、全日空はオプション発注していたダグラスDC-10をキャンセルして、ロッキードトライスターに乗り換えました。キャンセルされたダグラス社は、その一部をトルコ航空に売りました。 トルコ航空としては、安くそして早く入手できるので、契約した訳ですが、その内の1機がパリの森に墜落しました。 有名な貨物室のドアが閉まり切っていなかったための墜落事故ですが、機体の残骸には日本語の表記も多く残っていました。

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しかし、作りかけの飛行機を別のエアラインに転売できるのは、よく売れる小型機や中型機の場合に多いのです。 運用できるエアラインが限られるA-380の場合は難しいと思います。 この飛行機が開発された時、話題性もあり、多くの受注残を抱えていましたが、今の時点では、キャンセル機が出ても売れ残る可能性があり、それはエアバスインダストリーの経営を圧迫します。

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そこで経営不振が囁かれるスカイマークを救済しようという会社が現れました。例えば、LCCのひとつであるエアアジアです。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ1806R_Y4A810C1MM8000/

http://www.nikkei.com/article/DGXLZO75834080Z10C14A8TJ2000/

しかし、これが善意の救済でないことは明らかです。彼らは羽田の発着枠を魅力に感じているだけで、スカイマークの会社自体に魅力を感じている訳ではありません。

もうひとつの目的は人手不足が深刻化しつつあるパイロットの確保です。破綻しそうなエアラインまたは経営破綻したエアラインは、ライバル各社によって、パイロットの草刈り場になることは必定です。 そこで救済される側の会社の人が喜んではいけません。

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救済してくれるLCCは、普通のエアラインより明らかに待遇が悪いのです。救済される側は待遇悪化を覚悟しなくてはなりません。どう転んでも、スカイマークの社員にとっては憂鬱な事態です。

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それにしても、今回のキャンセル劇で商社は何をしていたのでしょう?

エアバスの日本での商権を持つのは、かつてのニチメン、今の双日ですが、今回のスカイマークのA-380キャンセル劇では表に出ません。最初から関係なかったのかな? それとも逃げたのかな?

仮にスカイマークに購入する資金がなく、かつ与信を付けにくい状況でも、商社なら転売も可能ですし、自分が買い取ってリースで貸し付けるという方法があります。

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航空機リースは多くの総合商社が始めたいと考えている事業です。A-380の借り手はそう多くないでしょうが、双日が買い取り、スカイマークにオペレーティングリースするという契約をすれば、何という問題はなかったのです。 オペレーティングリースとはパイロットも一緒に貸し付けて、借りる側は何も用意しなくていいというリース契約です。 まさか、エアバスは双日を信用せず、双日がエンドースメント(裏書)をした契約でも納得しなかったのかな? これが航空機リース事業を積極的に進める住友商事だったら少し事情が変わったかな?とも思います。

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ここから先は、私の無責任な推測です。エアバスはスカイマークが破産・倒産することを恐れていたのではないか? 1990年代以降、米国のエアラインは、どの会社もチャプターイレブンを申請しまくりました。 Chapter11は、米国の連邦破産法第11条です。これを日本のマスコミは「日本で言えば、会社更生法にあたる・・」と説明しますが、かなり違います。 Chapter11は、日本の民事再生法と会社更生法の中間に位置する法律だと私は思います。

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Chapter11では、経営者はその身分を保全されます。経営内容は裁判所や管財人の管理下に入りますが、すぐにクビにはなりません。一方で債務はかなり免除または棚上げされます。 だから引退した社員の年金や健康保険の負担が大きくなれば、あるいは組合の発言力が強くなって、社員の給料が上がり、経営の負担になれば、すぐにChapter11申請となります。

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Chapter11の乱発は債権者にとっては苦々しいことです。だから北米のエアラインに売り込みたいエアバスにとって、ひとつの障害だったはずです。 一方、日本のエアラインは、Chapter11を申請しない訳で、エアバスには魅力的だったはずですが、日本はボーイングの牙城であり、なかなか売り込めません。

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そしてついに、国を代表するナショナルフラグキャリアーである日本航空が経営破綻しました。 しかし経営再建するとのこと。・・・「なんだ、日本にもChapter11があるではないか。すると、財務的にもっと脆弱なスカイマークは、飛行機だけ受け取ってChapter11という暴挙に出るかも知れない・・。 LCCとの競争で、経営もかなり厳しいらしいし・・・。

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エアバスは焦ったのかも知れません。「それなのに、スカイマークはのんきに、客室乗務員の制服をミニスカートにしてはしゃいでいる。実に怪しからん!」と、エアバスが思ったかどうか・・は分かりません。

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客室乗務員の制服について、論評するつもりはありませんが、ミニと言えば、もっと短い会社があります。米国のサウスウェスト航空では、客室乗務員がホットパンツというかショートパンツを穿いています。しかし、全く色気を感じないというか、エッチな感じはしません。(あくまで個人的な感想ですが・・)。

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派手なコスチュームという点では、思い出すエアラインが1社あります。 鮮やかな原色に塗装した機体や、同じように原色で奇抜な制服の客室乗務員で有名だった米国のブラニフ航空です。しかし、無理な拡大路線や放漫経営で何度も倒産し、ついに姿を消しました。 最後の頃にはエアバスの機体も大量に購入して、すぐに破産していますから、エアバスインダストリーも迷惑をこうむったに違いありません。

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まさか、スカイマークを第二のブラニフだと思った訳ではあるまいに・・。

今回の騒動がどういう形で決着するかは分かりませんが、ひとつ言えることがあります。それは、日本市場で、ボーイングに比べて苦戦しているエアバスですが、今度の一件で、ますます不利になるだろう・・ということです。


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