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【 アヒル飛びなさい 】 [航空]

【 アヒル飛びなさい 】

 

昭和期の文人、文化人に飛行機好きの人が多いようです。精神科医の斎藤茂太、漫画家の岡部冬彦等が有名ですが、特にこだわりがあったのは先日亡くなった作家の阿川弘之でしょう。

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彼の初期の作品「雲の墓標」は単なる戦記文学に留まらない名作です。そして飛行機に関するもう一つの名作は、「あひる飛びなさい」です。これは戦後に作られた国産最初の旅客機YS-11になぞらえて、それぞれの戦後を生きる男達の友情の物語です。

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飛行機の開発が経糸になり、敗戦後の喪失感、技術者の複雑な思い・・などが横糸になった物語ですが、あの小説に登場する人達の思いは昭和人でなければ分からないだろうなぁ・・と思わせる作品です。

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「あひる飛びなさい」自体もドラマ化されましたが、その後、阿川弘之の他の作品と合わせて、「あひるの学校」というドラマになってNHKから放映されました。

その時はターボプロップではなく、ターボジェットの旅客機を日本が開発するという話になっていました。既にYS-11が飛んでいたという事情もありますし、「やはりプロペラ機ではつまらない、ジェット機を作らなくては・・」という思惑があったものと思います。

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TVドラマでは、まだ日本に登場して間もない、小型のジェット旅客機ボーイング737を「ピュアージェット」という名前にして、日本が開発した最初のジェット旅客機にしていました。YS-11に使われたターボプロップもジェットエンジンの一種ですが、プロペラ機です。やはり純ジェットと呼べる、ターボジェットでなければ・・・ということでしょう。芦田伸介や三国一朗が出演していました。 もう50年も昔の話です。そして事実その頃から国産のジェット旅客機を開発しようという計画(YSX計画)はあったのです。もっともこの計画は提案しては潰されることの繰り返しでしたが・・・。

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考えてみれば、日本が国産のジェット旅客機の開発を考えてから50年間も、このプロジェクトは実現しなかったのです。 この間、世の中は進歩し、ジェット旅客機は様変わりしました。 ジェットエンジンはターボジェットからターボファンに切り替わり、高速化と省エネを進めました。 機体の材料も古典的なジュラルミンから複合材料が多く使われるようになりました。 操縦室の古典的な計器盤はなくなり、デジタル化され、液晶表示になっています(グラスコックピットと言う人もいます)。

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しかし、一番進歩したのはその安全性でしょう。 航空機における安全工学がひとつのシステムとして確立し、FAAの型式証明の審査は厳しくなり、その結果、航空機の信頼性は向上しました(途中、悲劇的な事故は数多くありましたが)。

昔は、飛行機はある確率で墜落するもの、危険を覚悟で搭乗するものという考えが常識でしたが、今そんなことを考える人は少数です。

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ジェット旅客機が大きく進化し変貌した、まさにその50年のブランクを乗り越えて、最新鋭の旅客機を完成させた人々に敬意を表します。そして思うのは、初飛行までもう少しのところで他界した阿川弘之のことです。彼はMRJの初飛行を楽しみにしていたのではないか?やはり50年は長いな・・・。

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部品点数が数百万個に及ぶ大型機械・装置またはシステムを開発するプロジェクトはそう多くはありません。それを実行できる企業や団体もそう多くはありません。そしてそれらは、宇宙開発にせよ、原子力発電にせよ、ジェット旅客機にせよ、高い安全性と信頼性が求められます。

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普通、それらは先輩達が苦労して積み重ねたノウハウの上に、完成品として実現する訳ですが、今回のMRJはそうではありません。50年間のブランクによって、先輩達のレガシーが途絶えた後に、完成させたところが素晴らしいのです。

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「あひる飛びなさい」では、敗戦により日本の航空機産業が廃れ、先輩達の技術やノウハウが失われる前に、旅客機の形でそれを継承させたい・・という関係者の思いが語られます。事実YS-11は戦前の日本の航空技術を引き継ぐものでした。

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でも実際には、戦前の技術を引き継がなくても、新鋭機MRJは完成しました。 英国のFinancial Timesは「航空機業界に伝統的な名前(三菱のこと)が帰ってきた」として、戦前の名機ゼロ戦を引き合いに出しています。ゼロ戦などを作った三菱重工のレガシーの上にMRJが完成したと言いたげです。でも実際は違うのではないか? MRJ自身はゼロ戦の遺伝子を持っていないのではないか?MRJの開発者達が先人から学び、体得したものがあるとすれば、具体的なノウハウや個々の技術ではなく、もっと別のものではなかったのか?

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そのあたり、存命なら阿川弘之の意見を聞きたいところでしたが、彼はもういません。


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