【 MRJの足 】 [航空]
【 MRJの足 】
MRJの初飛行の様子が、TVで放映されましたが、それについてSさんから指摘がありました「MRJはずっと脚を出したままだったけれど・・・なぜ?」。その点は私も気づいていました。早速、飛行機の降着装置の設計の第一人者であるM氏に問い合わせてみると、
「日本の飛行機の初飛行は、脚は出したまま飛ぶのが普通」とのことです。
「もし、脚の上げ下げで何か、トラブルが起こってはいけないから」とのこと。
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なるほど・・と思いながら、ひょっとしたら、これは雷電の苦い経験に由来するのではないか?と私は思いました。
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第二次大戦中、三菱の堀越技師以下のグループは、ゼロ戦の開発を終えた後、局地戦闘機雷電の設計・開発にかかっていました。同時にゼロ戦の改良設計も行うので、多忙を極めたそうです。 そのあたりの事情は、柳田邦男の「ゼロ戦燃ゆ」に詳しいのですが・・・。
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やがて試験飛行を始めた雷電の試作機は、突如操縦不能となる奇怪な墜落事故をつぎつぎとおこします。そして、その原因は雷電10号機の柴山操縦士によって明らかになります。彼は、脚上げ操作をした直後に、昇降舵が利かなくなり、機首下げになったことから、とっさの判断で脚を再び下ろしたのです。 そうすると再び飛行機は制御可能になり、無事に着陸できたのです。 それによって問題は解明されました。
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尾輪を上げた際、尾輪のオレオ式緩衝装置が、昇降舵と繋がる軸管に干渉し、その圧力で操縦棹が前に引かれ、機首下げになったのです。尾輪支柱の湾曲と、支柱と昇降舵連結管との隙間の少なさが問題であり、クリアランスを多く設ける事で解決したのです。 雷電の後期の型では尾輪が固定式になったものもあります。
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その経緯については、前述の「ゼロ戦燃ゆ」にもありますが、篠原直人氏のブログ「南溟の桜」にも詳しく記載されています。
http://soranokakera.lekumo.biz/tesr/raiden/
つまり、飛行とは関係ないと思われる脚の上げ下げでも、予想外のとんでもない影響を与えることがあるのだ・・という教訓です。この雷電の脚を設計した久保氏と東條氏はその後、三菱自動車の社長になっています。ゼロ戦や雷電クラスであれば、部品点数も多くなく、脚も胴体も翼も、同じチーム内で設計します。だから干渉問題なども気付きやすいはずですが、今の旅客機は分業です。脚の設計・製作と昇降舵の設計・製作は別会社です。干渉問題は気付きにくくなっているかも知れません。
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そして、もう一つ言えば、脚を出すことは、操縦安定性に寄与する可能性があります。
旅客機の脚は、それ自身がものすごい空気抵抗となります。飛行機が着陸間際に脚を下ろすと途端に大きな風切り音が聞こえるのはそのためです。
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日本航空123便が御巣鷹に墜落した事故では、油圧制御が利かなくなり、姿勢を安定させることが困難になりました。ダッチロールとフゴイド運動が激しくなったところで、航空機関士が「脚をだしてみてはどうか?」と提案します。油圧は使えませんから、オルタネートと呼ばれる代替手段(つまり電動)で脚を下ろすと、それが一種のフライトスポイラーの役割を果たし、機体は安定しました。絶望的な墜落事故で、それでも4人が生存できたのは、脚を出したおかげともいえます。
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今でも分からないのは、パイロットではない航空機関士がどうして適切な提案をできたのか?ということと、機長がとっさにその提案を受け入れた理由です。 飛んでいる間は文字通りお荷物とされる降着装置ですが、空中で役に立つこともあるのです。
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それにしても、初飛行はやはり、ドキドキの連続です。昔よりシミュレーターが発達したので、でたとこ勝負という感覚はありませんが、日本でも危うく大事故・・という例があります。
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有名なのはT2-CCVの実験機です。 初飛行の離陸直後に大きく左右にロールし墜落寸前になりました。これは離陸時点からCCVのコンピューター制御モードにしていたためで、テストパイロットは瞬時に手動に切り替え、ことなきを得ました。原因は制御のパラメーター値が適切でなかったためのP.I.Oという現象ですが、離陸直後であり、安定性を失うと瞬時に墜落する可能性があったのです。
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同様の事故はスェーデンのサーブグリッペンの試験飛行でも発生していますし、米国のF-22も試験飛行で着陸失敗しています。それらは全てコンピューター制御する戦闘機ですが、民間機でも初飛行の危うさは同じことです。
また墜落の危険はありませんでしたが、超短距離離着陸実験機「飛鳥」では着陸時に機体が大きくバウンドしました。 コアンダー方式の短距離離着陸機の宿命ですが操縦士は肝を冷やしたはずです。
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MRJは、初飛行は脚を出したまま、無難な飛行に終始しましたが、いずれ脚を上げた状態で、最高速度や燃費の確認を行います。カタログどおりの性能が出るか、性能証明をする必要があるからです。 うたい文句にある、「ライバル機より、2割燃費に優れる」という高性能が証明されなければ、市場に受け入れてもらえません。
三菱の技術者の正念場はこれからです。
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ということで、今回はやや専門用語をちりばめた雑文になりました。飛行機について素人である私が、MRJの降着装置について知ったかぶりを書くのはここまでにします。 これ以上書くととんだ馬脚を現しそうですから。
馬脚ではないMRJの脚について、早速の御説明を深謝します。阿川や柳田氏の本も読んでみます。
by S (2015-11-16 05:36)
MRJは2回目の試験飛行では脚の出し入れをして無事成功していますね。 でも、試験飛行後に技術者が脚に集まっていろいろ確認している様子がYouTubeに公開されています。
噂ではブリジストンが用意した新型のタイヤの性能を確認したらしいとのことですが・・・・。その後、MRJは飛んでいません。
またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2015-12-12 23:30)