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【 ホンダジェットについて思うこと その1 】 [航空]

【 ホンダジェットについて思うこと その1 】

 

すでに報道されているとおり、米国のノースカロライナ州グリーンズボロで開発製造しているホンダジェットにFAAの型式証明が出されました。これでやっと、米国内でどうどうと製造販売できます。考えれば、手続きに10年近くもかかった訳で、これは米国の嫌がらせ以外の何物でもありません。藤野社長、あるいは日本の伊東社長はよく我慢したな・・と敬意を表したいところです。実際、航空機の型式証明は、貿易上の非関税障壁の中で最大のものだと、私は思います。

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以前のブログに三菱のMU-300 (ダイアモンドⅠ)が売れなかったという話を書きましたが、最大の理由はFAAの型式証明取得が遅れたことです。それまで比較的に易しかった証明取得が、三菱MU-300から途端に難しくなり、手続きのノウハウが無かった三菱重工は戸惑うばかりで、売ることができなかったのです。米国政府はその時期にジェット旅客機の設計ミスによる事故が相次いだため、審査を厳格にした・・と説明しましたが、日本の飛行機いじめであることは、関係者は皆分かっていました。

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当時・・・・1970年代、人種差別とは言いませんが、ジェット機とは白人(米国、欧州、ソ連)が作るもので、他の国の人には作れない・・と思われてきました。敢えてそれに挑戦した日本のジェット機に対する反発と警戒は否定できません。当時、日本の自動車が米国市場を席捲しており、うかうかしていたら民間機の市場も日本に乗っ取られるぞ・・という意識もあったはずです。

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メーカーに勤務した方ならお判りでしょうが、設備投資も行い、生産体制を整えたのに、作れない、売れない・・という状態が続くのは辛いところです。売り上げゼロの状態が続けば、確実に財務体質を毀損し、経営を圧迫しますし、なにより社員のやる気を維持させるのが大変です。

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日本の会社だから、審査に通らないという事情は明らかですから、やむなく三菱はジェット機を開発製造するノウハウの無い米国のビーチクラフト社に事業すべてを売り渡したのです。

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ホンダは、その経緯を知っていました。だから、最初から航空機事業のために米国に子会社を設け、そこで設計・開発し製造させました。中身は日本の飛行機ですが、一応、made in USAということにしました。数値解析や風洞実験ではノースカロライナ大学や米国企業の協力も得て、なるべく米国で開発した飛行機・・のフリをしています。

(私がホンダの社長なら、ノースカロライナ州ではなくデラウェア州にしていますが)

でも皆知っています。 藤野道格氏は日本の技術者であり、ホンダは日本の会社です。

だから時間がかかったのです。

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そして、もう一つ言えることは、MU-300の時とは時代が違うということです。ジェット機は欧米が独占する時代ではありません。ご承知の通り、ブラジルのエンブラエル社は新興企業ながら、高い評価を得ています。ジェット機ではありませんが、インドネシアの小型機メーカーも地道に実績を積んでいます。 信用は全くされていませんが中国もソ連/ロシアの飛行機の模倣から脱却しつつあります。もう日本の航空機メーカーだけをパージしても仕方ないのです。

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12/11日付けの日本経済新聞にはグリーンズボロ発の記事で、「ホンダ30年の夢」として、ホンダジェット開発の話を取り上げています。しかし残念ながら記者は航空機に詳しくないようで、ピント外れの記述が目立ちます。 昔は、新聞社といえば神風号の頃の朝日新聞社のように、航空界をリードする存在で、航空部には社有機が並び、専門家が記事を書いたものですが・・、近年はさっぱりダメですね。30年前のJAL123便の御巣鷹墜落の頃から劣化が目立ちます。

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その日経新聞の記事によると1986年に創業者本田宗一郎氏の念願であった航空機開発に乗り出し、以来30年間、計画を進めて、夢は実現した・・ということで、それ自体は正しいのですが、詳しく言えば紆余曲折があったようです。

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プロジェクトが具体的に進みだしたのは約20年前、後発でビジネスジェット機市場に参加するには、何か画期的な技術を盛り込まなくては・・という経営判断のもと、藤野氏らが温めていた、主翼の上の後方にエンジンを取り付ける・・という斬新なアイデアが採用され、計画が始まったのです。

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しかし、それとて、最初は高翼のMU-2型機のようなスタイルだったのが、やがて低翼の今の形になったり、独自の小型高性能のジェットエンジン開発に手間取ったり、いろいろなエピソードがあったようです。単純に考えると、エンジンは重心というより(空気抵抗の重心)と同じ高さにあるのが好都合です。それより高すぎると、機首下げのモーメントが発生します。低すぎると、その逆です。

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主翼の上にパイロンを設けてその上にエンジンを取り付けるホンダジェットでは、高翼ではエンジン位置が高くなりすぎる問題があったようです。また力学的な特性以前の問題として、エンジンの位置が高すぎると整備作業がしづらく、逆に低すぎるとエンジンが地面の小石やゴミを吸い込んだりします。 ビジネスジェットは田舎の整備状況の悪い飛行場も利用しますから、それらの問題は無視できない事柄です。なお、詳しい紹介は、西川渉氏のブログ【航空の現代】に書かれています。

http://book.geocities.jp/bnwby020/honda.html

http://book.geocities.jp/bnwby020/honda0607.html

http://book.geocities.jp/bnwby020/hondaj.html

ホンダジェットが売り物とする、高速性能、優れた燃費性能は、半ばは自主開発したエンジンのお陰、そして半分は優れた空力特性つまり、空気抵抗が小さい機体形状のたまものです。

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西川氏も述べていますが、空気抵抗が少ない理由の一つは、自然層流翼という主翼の断面形状、そしてもう一つは前述のエンジンを主翼の上の後方に置くという独自のデザインです。

藤野氏はこの形状にOTWEM (Over The Wing Engine Mount)と名付けて、特許も取得しています。

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でも、待てよ? そこに大きな問題があるのです。自然層流翼は、昔からある抵抗を少なくするための自然の形状です。OTWEMの方はそうではありません。私は藤野氏の研究にいちゃもんをつけたり、ホンダのプロジェクトにケチを付けるつもりはないのですが、・・・やはり気になります。

 

その点については次号で


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