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【 MRJにおける三菱らしさとは その1 】 [航空]

【 MRJにおける三菱らしさとは その1 】

「スマートな飛行機は性能も良い。だから飛行機はスマートであるべきだ」と語ったのは、ツポレフ爺さんこと、旧ソ連の大型機設計の始祖とも言えるツポレフ技師です。その影響なのか、長い間ツポレフ設計局の旅客機は細い胴体を特徴としていました。

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それはともかく、今回初飛行した三菱MRJは見るからにスマートで格好いい機体です。自動車ならフラッシュサーフェスと言うところですが、操縦席の窓と同じ角度で切れ落ちる機体先端部の形状はB787にも通じますが、かつてのドルニエの旅客機に似ています。これは仰角が大きくても操縦席からの前方視界が確保できる設計です。

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しかし直線はB787やドルニエのそれより鋭角的で、先端は尖っており、旅客機固有のダンゴッ鼻はありません。レーダーが小型化しレドームが小さくなったからでしょう。ビジネスジェット機のノーズに似ています。東海道新幹線で言えば、ゼロ系から200系に進化した時のようです。

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この特徴的な形なら、飛行場で遠くに停まっている機体をみて、MRJだとすぐに分かります。あるいは上空を飛び去るシルエットを見ても、MRJだとすぐに分かるかも知れません。結構なことです。

実際のところ、最近の旅客機はどれも形が似ており、識別するのが難しいのです。せっかく三菱が作った旅客機なのだから、三菱らしさが形に現れてもいいと私は思います。

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しかし、飛行機のシルエットだけでは、まだ何か足りません。せっかく最新鋭の飛行機を作ったのですから、三菱固有のアイデアで、もっと革新的で独創的な何かがあってもいいと思うのですが・・・。 そこで思い出したのは、20年も前の話です。

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テキサスのある飛行場で偶然、三菱MU-400の機体を見かけました。操縦席の窓が茶筒を斜めに切り取ったような独特の垂れ目の形状をしています。「あれは日本のビジネスジェットのダイヤモンドⅠだ」と私が言うと、同行のアメリカ人は「いやあればアメリカのビーチジェットだよ」と否定します。ちょっとムッとした私は「ほらフラップが主翼の全幅に及んでいて、エルロンが無いだろう。これは三菱の飛行機の特徴なのだよ!」とこだわりの主張をして、やっとアメリカ人に納得してもらいました。

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背景事情を説明します。今、小型のビジネスジェットであるホンダジェットが話題ですが、日本はその30年も前に、革新的なビジネスジェット機を開発しています。三菱MU-300400で、海外での名前はダイヤモンドⅠ。傑作機といわれたターボプロップビジネス機MU-2の後継機で、同じクラスのビジネスジェット機に比べ、最高速度で優り、航続距離や燃費で優り、かつ客室は広く、離着陸は短距離で可能という夢のような飛行機でした。

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しかしこの飛行機は売れませんでした。マーケティングの失敗です。当時、ビジネスジェットの多くはアメリカで売られていましたが、独特のエージェントというかブローカーが介在する販売方法で、三菱はそれに慣れていなかったのです。日本では?というと、第一号機を購入した読売新聞社は、訓練飛行の途中で佐渡の金北山に激突して4名が亡くなるという事故を起こしてしまいました。もう日本では誰も買いません。

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結局、三菱は販売権も製造も設計も、すべてを米国のビーチクラフト社に売り渡したのです。ビーチクラフト社はその後、レイセオン社に吸収合併され、今は飛行機の名前はホーカーです。だからこの傑作機を見ても、誰も三菱が設計したものだとは気付きません。 それでも、エルロンを無くした独特の主翼の構造を見れば、ああ、これは三菱の設計だと分かります。 

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ご専門でない方のために申し上げれば・・、

普通、飛行機の主翼にはエルロン(補助翼)とフラップ(下げ翼)が付いています。エルロンはロール(軸方向の回転)や旋回をする際に重要ですが、この機能をフライトスポイラーに代替させたのが、三菱の飛行機です。

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フライトスポイラーがエルロンの代わりをすれば、エルロンは不要になり、その分フラップの幅を広げられます。フラップが主翼の全幅に付けば、高揚力となり、失速速度が遅くなります。つまり低速で離着陸できる訳で滑走路は短くて済みます。 その分パイロットも楽になりますし、短距離で離着陸できるなら、滑走路の短い飛行場も使えます。

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このアイデアはMU-2型機で採用されて大成功となり、MU-300にも引き継がれています。そして三菱が開発した国産初の超音速機T-2/F-1に採用されています。

T-2は、同じアドーアというエンジンを搭載した英国のジャギュア戦闘機とそっくりだ・・という人がいますが、エルロンの無い主翼を見れば、違いは一目瞭然です。ただT-2は練習機ですから、エルロン無しの機体で練習した後、普通の戦闘機を操縦することになれば・・・戸惑うかも知れません。

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ちなみに、その後に三菱が開発した戦闘機F-2では、フライバイワイヤというコンピューター制御になっており、エルロン操作という概念自体がなくなっています。

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前置きが長くなりましたが、三菱の飛行機の最大の特徴だった、フライトスポイラーによるエルロンの代替とエルロンの省略が、今回のMRJでは見られません。 旅客機とビジネスジェットでは違う・・ということなのか、それともMU-2MU-300を開発した設計者達が全て引退した後だったので、その技術が継承されなかったということなのか・・分かりません。

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前述の通り、フラップを主翼全幅に延ばせば、STOL性能、即ち短距離での離着陸性能が向上します。 海外の場合、MRJがターゲットとする地域航空では滑走路の短い空港も多く、STOL性能は重視されるはずなのですが、考慮されていないようです。それにSTOLであることは、空港周辺の騒音を低減する効果もあります。

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例えば、ロンドンシティ空港は、テムズ川の川中島みたいな半島にありますが、滑走路が短いうえ、周囲の騒音問題もあります。従ってここに離発着できるジェット旅客機は限られ、エアバスでも一番小さなA319がかろうじて離着陸できるだけです。MRJがこのロンドンシティエアポートを使えるかどうかは型式証明を取得した後の話ですが、もし、MRJSTOL性を重視しておれば、シティエアポートを使えるでしょうし、海外のエアラインに強くアピールできるはずです。

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日本のというより三菱のお家芸だったSTOL性能が、MRJではあまり語られないのが不可解です。日本ではMRJが登場する前に、地方空港のジェット化が進み、滑走路は軒並み延長されました。だからMRJSTOL性能をPRしても無駄だ・・と考えるなら、それは間違いです。まだ日本にも滑走路の短い空港はあります。

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例えば、佐渡空港・・この島にはプロペラ機のYS-11も着陸できませんでした。 MRJがもし佐渡空港に着陸できるなら、素晴らしいことですし、離島空路のジェット化という点で、おおいにPRできます。それとも、MU-300が事故をおこした佐渡島はいやかな?それなら、波照間島空港でもいいのですが・・・、お客がいるかどうかは分かりません。

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話が脱線しましたが、三菱には、これ以外にも、独創的で他の追随を許さない技術があります。しかし、最終的に、MRJではあまり活用されていません。残念なことです。それについては次号で申し上げます。


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