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【 MRJにおける三菱らしさとは その2 】 [航空]

【 MRJにおける三菱らしさとは その2 】

よく知られたことですが、日本は航空機に使う複合材料の技術では最先端を行くと言われています。その理由は2つあります。

ひとつは、炭素繊維の開発と製造で他を圧倒する、東レや帝人が、日本企業であること。 そしてもう一つは、国産戦闘機三菱F-2の開発で、ノウハウを蓄えたことです。

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F-2では、ジュラルミンはもとより鋼よりも引っ張り強度が高い、炭素繊維系の複合材料を主翼などに用い、機体の軽量化やレーダー投影面積の縮小に成功しました。

F-16をベースに設計した機体ですが、高翼面荷重化と、ハードポイントの増加で多数のミサイルを懸架するために、主翼は軽量かつ高強度が求められたのです。

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無論、開発は簡単ではなく、積層構造の剥離問題など、多くの試行錯誤がありましたが、それを克服しました。 そしてその技術をMRJにも応用すれば、軽量で強靭、かつしなやかな翼と胴体が得られた訳ですが・・・、今回のMRJではわずかに尾翼などに使われただけです。これはどういうことか?

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大型旅客機を製造するボーイングやエアバスでは、新機種が登場するたびに、複合材料の比率が上がっています。それは主に日本のメーカーが納入する部分です。その結果、最新のボーイング787では、客室内の湿度を上げることも可能になり、より客室内は快適になりました。 これはなぜかというと、結露しても平気だからです。高空を飛ぶ飛行機の場合、外気温は非常に低いので、胴体の内側には結露します。金属製の飛行機ではこれが腐食の元になり、機体寿命を短くします。それを防止するために機内の湿度を低く設定するのですが、その結果、乗客の喉や目は乾燥します。ボーイング787はその問題を解決したのです。

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MRJも、設計当初は、高い複合材料比率を予定していました。 そして、三菱のライバルとなりうるボンバルディアが、複合材料を多く採用したジェット旅客機を開発するとマスコミに発表した時、三菱のエンジニアは鼻で嗤いました。

「まあ、できるものならやってみなさい。お手並み拝見」

TVのインタビューで技術者はそう答えています。

これは前述のように、F-2戦闘機で苦労し、やっとノウハウを掴んだゆえの自信からでしょう。最初の頃は、ギヤードターボファンという高性能低燃費のエンジン以外にも三菱MRJには売り物となる省エネ技術があったのです。

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しかし、開発計画が遅れ、設計見直しを繰り返すうちに、複合材料の比率は下がり、最後は尾翼ぐらいになってしまいました。

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構想段階、あるいはプロトタイプ段階では斬新なアイデアを多く取り入れた先進的な設計になっていたのに、量産段階では陳腐で平凡な設計になっていた・・というのは、機械の世界ではよくあることです。 しかし、MRJはひどすぎる。これでは羊頭狗肉ではないか? いや竜頭蛇尾というべきか?

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さすがにこの点を衝かれた三菱の設計者達は、苦し紛れの説明をしました

「胴体を複合材料で作ると、地上にいる時にサービス車輌などが胴体に接触して、凹みや疵が付いた場合の補修が難しい。従って使用者側の事情に配慮して、従来からある金属材料を採用した」・・・と、補修の作業性(ダメージコントロール、略してダメコン)やコストに配慮した結果だと言ったのです。

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でもこれは不可解です。複合材料で胴体を作った飛行機は、前述のボーイング787など、既にたくさんあります。でもどこからもダメコンの難しさから金属製の胴体の方が良かったという声は聞こえてきません。 どうやら、複合材料を断念した本当の理由は別のところにありそうです。

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私は複合材料を採用することによって必要となる設備投資に、経営陣が躊躇したのではないか?と考えます。

複合材料は、何層にも貼り重ねたあと、オートクレーブという、一種の焼成炉で焼き固めます。複合材料ですから一体熱処理が重要で、主翼なら主翼が、胴体なら胴体がすっぽり収まる大型のチャンバーが必要で、これは高額の投資となります。 機体が小さい戦闘機とは違うコストです。 大型のオートクレーブを導入すれば、損益分岐点となる販売機数が増えます。 単価は高くなり、売れ行きも鈍ります。本当にMRJは売れて、投資を回収できるだろうか? 川崎重工が大型のオートクレーブを導入できたのは、ボーイングという大企業が客で、B-777B-787の販売機数がある意味で保証されたからです。でも三菱MRJはそうではありません。

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そこで三菱の経営陣は、冒険をせず、無難な選択・・つまり主翼や胴体には複合材料を使わない・・という判断をしたのでしょう。 でも何となく出来上がった飛行機は無難すぎて詰まりません。まるで優等生の試験の答案みたいです。

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かつて、三菱の名航の精神と言えば、世界のライバルを凌駕するために、新しい技術にどんどん挑戦するという進取の精神でした。新素材の採用にも意欲的でした。ご承知の通り、世界で初めて翼桁に超超ジュラルミンを採用したのは三菱のゼロ戦です。

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しかし、いつの間にか三菱重工と三菱航空機の技術者は冒険を恐れるようになったのか・・な? それとも、三菱重工の経営陣の中にある、船舶出身者と航空機出身者との綱引きの影響なのか・・。いずれにしても、ゼロ戦の頃の遺伝子はなくなってしまったのか?

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MRJは、今後も派生型が登場するでしょうし、さらに開発・改善する余地が多分にある航空機です。名機とかベストセラーと呼ばれる飛行機は、必ず設計に余裕があり、改良型や派生型がたくさん登場し、長い期間使用されます。 MRJもそういうタイプの飛行機です。

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どうか、その派生型の中に、機体の50%以上を複合材料にした先進型を用意して欲しい。そしてエルロンを無くし、フライトスポイラーを代わりに使用し、全幅にフラップが付いた主翼のタイプを作って欲しい。

そして、将来、そのタイプのMRJを海外の空港で見かけたら、「あれは、ボンバルディアやエンブラエルやボーイングのイミテーションではない。 ゼロ戦を作った日本のミツビシの飛行機だ!」と、胸を張って言えるのですが・・。


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