【 問診のAI化 】 [医学]
【 問診のAI化 】
昨今は、3Kだけでなく、あらゆる職場で人手不足が深刻です。医療現場もそのようで、マンパワー不足がサービスの低下につながらないように、各種の努力がなされています。
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特に重要なのは、医療現場の核となる医師の業務の負担をどうやって分担・軽減するか・・・です。医師の業務には、医師しかできない専門的な作業が多くありますが、それ以外に、非専門的な作業もあります。それらの医師以外でもできる事務的な作業は医師以外の人に委ねるべきです。その方が業務を効率化でき、コストも下がります。
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実際、下記の記事によれば、多くの医師はかなりの時間を電子カルテなどの書類作成に追われているようです。でも患者として傍で見ていて、キーボードの入力作業が速い医師はあまりいません。(まあ、プロのタイピストみたいな訳にはいきませんが)。
そこで、その書類作成業務をロボットやAIに委ね、極力簡略化する研究が進んでいます。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24712960V11C17A2TJE000/
具体的には、診察を受ける前の事前アンケートの結果をあらかじめ電子カルテに記入するという作業が自動化されつつあります。ポイントは患者へのQ&Aで使われる平易な一般的表現を医学専門用語に変換することと、AIを駆使して予想される疾病を推測することです。
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普段、クリニックの待合室で書かされるアンケートには、薬のアレルギーは無いか?とか既往症は?といった基礎的な設問が並びますが、AIの事前問診では、それに加えて、従来、医師が尋ねていた専門的な項目も質問し、それが電子カルテに自動的に記載されるようです(推測です)。
全ての人に同じ質問をするのではなく、設問の答えに応じて次の質問の内容を変え、疑われる疾病を絞り込んでいき、医師が診察する前に、予想される病名を予測しておく・・というものです。
しかし、素人の私は、そんなことできる訳ないさ・・と思います。
例えば、患者が右下腹部の痛みを訴え、熱が38℃だ・・というだけで、病名が絞り込めるものなのか? 病気の診断は、膨大で多様な選択肢の中から、多くの情報を元に、病名を絞り込むことから始まります。その多くの情報の中には、かなりファジイな(つまりあいまい表現の)情報もあります。この判断ロジックをプログラム化するのは、プログラム言語のLISPでもProLogでも、困難な作業です。AIといっても・・果たしてどこまでの知能があるのか?
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日本語の痛みの表現では、ズキズキ痛む場合、シクシク痛む場合、チクチク痛む場合で、患者が訴えたい症状は違うのですが、最新のAIはそれが区別できるのでしょうか?
患者は、自分なりに、なるべく詳しく、正確に症状を説明して、正しい診断結果を得たいと思っています。だから、ファジイな擬態語を使った表現であっても、なるべく医師には正確に伝えたい・・・と必死に考えます。その際、相手が、自ら歯痛や頭痛を経験したことがある、人間の医者ならば、分かってくれるはず・・という期待を持ちます。
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ところが、相手がロボットではそうはいきません。さて、患者はどこまでロボットの問診を信頼し、期待するのでしょうか? まあそう言っても、従来、人間の医師が行っていた知的な判断業務の一部を機械(AI)が代替できるのなら、これは画期的なことで、評価されるべきことです。
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しかし、待合室に「客寄せパンダ」のロボットであるPepperを置くのは茶番というか、おふざけでしかありません。人型ロボットというよりスピーカー付きの人形であるPepperは、最初は携帯電話のショップに置かれ、客に話題を提供していましたが、最近は方々の薬局でも見かけるようになりました。しかし、薬剤師の処方を代行する訳でも、会計業務をしてお釣りを出す訳でもなく、ただ挨拶して会釈するだけです。つまり「玩具」です。そして個人経営のクリニックの待合室にもこの玩具は置かれています。
そして、上記のAIの問診に使用されるというのです。
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/012800017/030800007/?ST=health
https://robotstart.info/2016/09/14/shanti-aiai.html
果たして、AIの問診に、お人形を遣う必要があるのでしょうか?
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そのPepperが富山大学の大学病院の眼科に置かれ、医療スタッフの肩代わりをしているというのです。具体的にはインフォームドコンセントを担当しているというのです。
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1606/20/news014.html
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いったい富山大学(旧富山医科薬科大学)の眼科では、どういう使い方をしているのか?
TVニュースで見た限りでは、白内障の手術を受ける患者に、白内障がどういう病気で手術の内容がどういうものかを説明しています。でも万人向けの家庭の医学(赤い表紙のベストセラー)に書いてある以上の説明はしないようです。(なんだ、やっぱりただのスピーカー付きの人形か)。
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本来は、患者ひとりひとりで異なる病状や、条件に応じて、ひとりずつ異なる説明となり、患者の理解度や心情に応じて、説明の仕方も変える必要がありますが、pepperの説明は通り一遍です。
本当にこの愛玩ロボットは医療現場の人手不足解消に役立っているのか?ただの話題作りではないのか?
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医療現場でのロボット活用やAI活用は、時代の流れであり、重要なことです。そしてそこで求められるのは、人間の医師にも難しい高度な業務を代行したりサポートする機能です。具体的には手術を行うロボットのダビンチや、最新の医学情報に基づいて推論を行う診断サポートAIです。患者の玩具ではありません。
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人間である私が将来眼科のお世話になる時が来ても、インターフェースがロボットだったらいやでしょうね。
「アナタノ疾病ハ老人性ノ白内障デス。手術ヲオ勧メシマス」なんてロボットに言われても反発したくなります。
「目の無いロボットのお前に白内障の何が分かるか? 老人性だと? ロボットのお前に年をとるという意味が分かるのか?分かってから言え」と言いたくなります。
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更に言えば、人間である患者も医師も看護師も、医療行為の先には生死の問題を、やがて来る死を見据えて、考え、行動しています。人間の死を理解しないロボットには永久に不可解な事柄です。
眼科はともかく、生死の問題をあずかる医療現場にあるPepperに訊いてみたい。
「お前に、人が年老いていくことや、やがて訪れる死の意味が分かるのかい?」
多分Pepperは
「それは電池切れとどう違うのですか?」と答えるでしょう。
【 台車亀裂事故 その4 】 [鉄道]
【 台車亀裂事故 その4 】
マスコミでも報道されていますが、今回事故を起こした新幹線の台車は川崎重工製だそうです。ちなみに毎日新聞が取り上げて比較している、昨年の東武鉄道の台車亀裂・脱線事故の台車は旧住友金属製でした。・・ということは10年以上前の製品です。
https://mainichi.jp/articles/20171213/k00/00e/040/261000c
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川崎重工製と旧住友金属製ということでメーカーが違いますが、それ以上に大きな違いがあります。今回の新幹線の台車は非溶接部の亀裂、東武鉄道の台車は溶接部の亀裂でした。
現象とし全く異なる案件であり、それを同一に扱うあたり、やはり毎日新聞らしい・・と思います。
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かなり昔になりますが、中目黒で地下鉄日比谷線の脱線事故があった際、旧住友金属製の台車にひび割れがあったと大騒ぎした新聞がありましたが、これも全くピントがずれていました。脱線事故の原因は、線路の曲率が急激に変化する箇所で速度を出したことです。台車のひび割れは、それはそれで問題ですが、事故の原因とは無関係です。
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マスコミ批判ばかりしても無駄です。ここは真面目に原因追及のアプローチを考えてみます。コメントをいただいた霍去病様も指摘されていますが、工業製品で何等かの問題が生じた場合、メーカー、素材メーカー、設計者の3段階でそれぞれ問題がないかを確認する必要があります。これは原因がどこにあるかで対処方法が全く異なるからです。
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もしメーカーに原因があるのなら、そのメーカーの製品だけを使用中止にして対処します。タカタのエアバッグに欠陥があれば、他の会社のエアバッグに切り替えて対応します。
実は鉄道車両も同様で、複数購買で安全を確保するのです。もし川崎重工の電車で問題がおこれば、日立や日本車両の車両に切り替えます。川崎重工の台車に問題があれば、住友金属(今は新日鉄住金)製に切り替えます。実際にはそう簡単ではありませんが。
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しかし、もし欠陥が車輪だったら・・・・日本では鉄道車輪を作るメーカーは少なく、旧住友金属の独占です。その場合は大問題となります。実は20年以上前になりますが、新幹線用車輪で品質問題が出かかったことがあります。幸いにして大きな問題にはなりませんでしたが、大阪製鋼所の幹部がその問題で自殺しています。本ブログでは詳細を言えませんが、和歌山製鉄所から供給する素材に問題があったのです。
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霍去病様がご指摘されたように、問題の部品の素材はどこのメーカーが製造したのか?というのは重要なポイントです。以前のブログで触れましたが、ISO9000の考え方のポイントはまさにそこにあります。
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しかし、素材やメーカーに原因があったとして問題を限定できればいいのですが、そうでないのが一般的です。設計自体に問題がある場合が多いのです。
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設計にゆとりがあれば、素材や加工・組立方法に何等かの瑕疵があっても、カバーできます。昔の機械は安全係数(安全率)を大きく取り、信頼性の乏しい材料や加工方法をカバーしてきました。重厚長大を可とする、名前を付ければ蒸気機関車(SL)型の設計です。 戦前に設計されたSLは100年経っても問題なく走ります。
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しかし、最近の設計はそうではありません。一種の限界設計で、安全係数を下げてでも、軽薄短小を狙い、乗り物であれはそれで高速化や省エネ化を狙うのです。名前を付ければ飛行機型の設計です。
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高速鉄道の歴史とは、SL型の設計と飛行機型の設計の葛藤の歴史でもあります。日本の鉄道では、何時頃から、SL型と飛行機型がぶつかったのか? 住友金属の顧問として来られた旧国鉄の島技師長の話では、リニアモーターカーの研究が影響したようです。
それについては次号で申し上げます。
【 台車亀裂事故 その3 】 [鉄道]
【 台車亀裂事故 その3 】
奇妙なことですが、毎日新聞に、今回の事故車両がN700系であったとする記事がでています。
https://mainichi.jp/articles/20171229/k00/00m/040/152000c
だから台車の疵を発見できなかったというのですが、下記の写真を見ればわかる通り、この車両はN700A系です。ただし、Aの字は小さく書いてありますが・・。
http://toyokeizai.net/articles/-/202478
前報に書いた通り、この車両は、N700系として製造され、その後N700A系に改造されています。
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そこで私は錯覚したのですが、「N700A系なら異常振動検知装置があったはず・・・。それなのになぜ運転席には警報が表示されなかったのか?」という方向に考えを進めました。
しかし、fff様から貴重な情報をいただきました。改造型のN700A系には「異常振動検知装置は無い」という情報です。そこで、毎日新聞の記事についてのコメントを修正し、旧型であったがゆえに異常振動を検知しなかった」という説を受け入れたいと思います。
それなら本物のN700A系(Aの字が大きい方)なら、問題は無かったのか?といえばそうでもなさそうです。
より確実な状態監視と故障予防を実施するには、N700S系の登場を待たねばならないと思います。
以下 次号