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【 台車亀裂事故 その2 】 [鉄道]

【 台車亀裂事故 その2 】

 

今回問題を起こした車両はN700A系です。 よく見ると最後のAは小さく書かれています。 これは最初AなしのN700系で製造されたものが、A付に改造された・・という意味で、車両自体はかなり古いものだと分かります。 ちなみに、この車両は、もともとJR西日本管轄のN2編成だったものが、A型への改造を機に、JR東海に移管されています。

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ところで、この最後のAはアドバンスドの意味で、N700A系はN700系の進化形なのですが、その改良点には、台車の異常振動検知装置も含まれます。

Aの字が小さくても大きくても、N700A系では、台車で異常振動が検知されたら運転席に表示される仕組みになっています。

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しかし、今回はそれが適切に運用されたとは思えません。 異常に気付いたのは乗客であり、客室乗務員です。つまり運転士は異常を検知できなかったのです。

ここに問題があります。

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東海道山陽新幹線の「のぞみ」は16両編成で、台車の数は32個、車軸の本数は64本です。それらの全ての振動をモニターし、運転席に表示しても、これを一人の運転士で常時監視して把握することは至難です。

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そこで、ある閾値を設けて、異常値と判断した時だけ警報を出す訳ですが、実際には台車の枠がちぎれそうな状態になっても、警報を出しませんでした。

本来、この種の警報発信は単純な閾値による判断ではなく、AIが判断して行うべきです。 ある情報から、対象が正常か異常かを判断するというのは、AIが得意とするアルゴリズムなのです。無論AIが判断するには、データの蓄積が必要で、今、鋭意データを蓄積中というところです。

AIの判断を信用できるか?という点がひっかかりますが、これまでの人間の経験と勘に頼る判断よりは確実でしょう。

情報不足や知識不足のまま、重大で難しい判断を迫られる現場のオペレーターの負担もこれで軽くできます。

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振動検知だけではありません。東海道新幹線の線路には温度計があり、走行する車両の温度を測定しています。台車に異常が生じれば、多くの場合、摩擦熱などで、高温になる部位が発生します。それをモニターして異常を検知するのです。JR東海が開発しています。

例えば、以下の鉄道新聞にこの温度検知装置の記事が記載されています。

http://tetsudo-shimbun.com/headline/entry-380.html

その温度データは分析センターにリアルタイムで送られ、異常の有無を把握できます。

今回の事故では温度データがどうだったのか、まだ公表されていません。JRで調査中ということでしょうか?

https://newswitch.jp/p/853

そして、残念ながら、それらの技術は山陽新幹線にはありません。

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ではそれらの情報を統合してどう処理するのか?ということですが、これが重要です。

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JRが開発を進めている新しい保全管理システムは、従来のものと発想が違います。

専門家が状態監視保全(CBM)と呼ぶシステムで、故障が発生してから修理する事後保全(BDM)、予防的に一定時間毎に交換・整備する時間計画保全(TBM)に代わる、新しい保全整備の概念です。

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昔は、故障が起きてから修理や部品交換をしていました。しかし、それではトラブルを防止できません。

その後の計画保全の考え方は、劣化していようがいまいが、交換時期が来たら、一斉に交換する考え方です。私はこれを「体育館の電球交換」と呼んでいます。

体育館の天井は高く、電球や蛍光灯が切れてからその都度交換するというのでは大変です。だから、まだ寿命がきていなくても一斉に交換するのです。

しかし、それでも特に寿命の短い電球や蛍光管が混じっていたら球切れトラブルを防止できません。そこで、一個一個の電球や蛍光管を観察して、暗くなってきていないか、あるいは明滅が始まっていないかを観察して、寿命到来を判断して直前に交換する方式が検討されました。 それが状態監視保全(CBM)です。

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私がこれを知ったのは、JRの最新鋭の電気機関車EH800型の紹介記事です。

EH800型電気機関車にはCBMの概念に基づいたモニター装置があります。

www.toshiba.co.jp/tech/review/2014/09/69_09pdf/f02.pdf

http://bunken.rtri.or.jp/PDF/cdroms1/0001/2013/0001003755.pdf

EH800型電気機関車は、本州と北海道で使われる最新鋭の機関車で、1両(この機関車は2つの車体を連結して1両としています)に4つの台車があり、それぞれの状態(振動、温度等)をモニターしています。 この技術は、JR総研や東芝が開発しています。

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私の個人的な意見ですが、本当はそれでもまだ不足で、亀裂が進展する際に放出されるAE(アコースティックエミッション)を使用する方法を提案します。高速走行する新幹線台車は大音量の騒音と激しい振動の環境下にありますが、マイクロホンで微弱な超音波を拾うことは可能です。得られた音声信号をフーリエ解析し、ノイズの森の中から、微弱信号を抽出する訳ですが、多くのデータがあれば、それらを重ね合わせ、その中から探し出すことが可能です。

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CBMのシステムを搭載したEH800型電気機関車は在来線用の機関車ですが、新幹線にも近く応用されます。

それが、N700S系新幹線で、来年登場します。

http://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000030982.pdf

N700S系はSiCを採用した新しい素子ばかりが話題になりますが、CBMに基づいた保全監視システムも強化・近代化されています。 注目すべき点は、もはやそれらの情報を集めて判断するのは列車のコンピューターではなく、遠くの指令所だということです。

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コンピューターの世界では当たり前ですが、データのネットワーク化、そして集中する大量のデータの高速処理がポイントです。

いずれにしても、走行中の新幹線の台車をリアルタイムで診断し、不具合を探索する技術はほぼ完成し、実用化の直前だったのです。その意味では、実用化直前に重大インシデントが発生してしまい、技術者達はさぞかし残念だろうと思います。

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それにしても、新技術の多くは、JR東海、JR総研、東芝、JR東日本などで開発されています。他社に比べて大事故を多く経験しているJR西日本はどうしたのでしょうか? やはりマスコミに安全意識や危機感が足りないと指弾されても仕方ないということなのでしょうか?ひょっとしてJR東海とJR西日本は仲が悪いのでしょうか?

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JRが発足してもう30年。そろそろ分割民営化の功罪について総括すべき時が来ましたが、ひょっとして最大の問題は、台車の亀裂ではなく、ひそかに進行している、JR各社間の亀裂なのかも知れません。こちらは、ちょっと電車を停めて覗いたぐらいでは深さが分かりません。

 

ではなぜ、台車に亀裂が発生したのか? 詳細な調査結果を見なければ、確実なことは言えませんが、何時か稿を改めて、私の理解を述べたいと思います。


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【 台車亀裂事故 その1 】 [鉄道]

【 台車亀裂事故 その1 】

 

いささか旧聞ですが、博多発東京行きの新幹線のぞみの台車に亀裂が発生し大問題になっています。 各社の報道は、事実の列挙以外に、主観的な記述が含まれ、どこまでが客観的事実なのかよくわからない部分があります。

その中で、最も正確で客観的な報道をしたのは、NHKの中村幸司解説委員だと思います。

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/286806.html

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今回の亀裂発生については技術的な調査が行われ、原因と対策は、その結果がでてからの判断となりますが、マスコミでは、その前にJR西日本の体質を問題視する論調が目立ちます。

朝日新聞は、例によってJR西日本が他のJR各社と異なり、安全を軽視する風土があると指摘します。

https://www.asahi.com/articles/ASKDW00Z4KDHPTIL02D.html?iref=comtop_list_nat_n03

他社にも同じ論調の記事があります。

http://www.worldtimes.co.jp/opnion/editorial/83222.html

一方で、JR各社で大きな違いは無いとする東洋経済の指摘もあります。

http://toyokeizai.net/articles/-/202478

これはこれで、亀裂の発生原因や、発見できなかった問題とは別に、議論すべき問題点です。

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すなわち、JR西日本が安全よりも定時運行を優先させる体質だったために、小倉駅で確認された異常が、名古屋で停車して検査されるまで3時間も放置されたのだ・・という考え方です。一方、JR東海は名古屋でこの列車を停めて、危機一髪で大事故を防いでいます。確かに西と東、両社のコントラストが目立ちます。

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JR西日本は岡山駅から乗車した技師が「止めて床下を検査するべきだ」と判断したにも関わらず、そのまま走り続け、新大阪駅でのJR東海への引継ぎでも「走行する上で支障なし」と連絡しています。マスコミ各社の論調は、現場の判断で列車を停めて検査すべきだったのに、それをしなかったと非難しているのです。さらに言えば、乗車した技師と列車指令の間で、列車を止める判断を押し付け合っていたようで、これも問題視されています。

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確かにその通りですが、現実問題として、現場のスタッフにその判断をしろというのは酷です。異音や異臭、異常振動というあいまいなサインを乗務員が感知したら電車を停めて検査せよという行動規範を仮に作成しても、実際に新幹線を停めるとなると、大変な責任を負うことになります。

新幹線を遅らせた場合の損害は莫大ですから、もし異常が見つからなかった場合、いくら責任は問わない・・といってもそうはいきません。

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しかも、今回、異音や異臭を確認したのは、客室乗務員(オヒョウは車掌と混同しておりましたが、そうではありませんでした)ですから技術的な専門知識はありません。岡山から技師が乗車しましたが、彼にも走行中の音や臭いだけでは、何が起こっているかを判断できないでしょう。最終的に列車を停める判断をするのは、乗車していない列車指令ですが、彼も電話で「異音や異臭がする」という報告を受けても、それがどの程度深刻なものか分かりません。列車の緊急停止を判断するのに十分な情報は得られません。

ちょうど、医師が患者から電話で「腹痛がする」という症状を聞いて、それだけで虫垂炎か否かを判断するようなもので無理な話です。

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だから、JR西日本に安全意識が欠如し、JR東海が優れている・・と決めつけては、JR西日本がかわいそうです。

「亀裂があるにもかかわらず、定時運行を守ろうとして無理をした。福知山線の事故から何も学んでいない」とJR西日本を非難するのも、ちょっと的外れです。彼らだって亀裂があるとは思わなかったから停めなかっただけで、大きな亀裂の存在を知っていたらすぐに停車させたはずです。

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そもそも論でいえば、異音や振動、異臭といった異常が発生する前に、問題を把握できなければいけませんし、音、臭いといった感覚的であいまいな情報でなく、定量的で客観的な情報を常時モニターしておく必要があります。乗務員に頼るのではなく、数値データを出し、列車指令がなんとなくファジィに判断するのではなく、AIの診断機能によって、列車の運行継続可否を決めるシステムが必要なのです。

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そんな事が可能なのか?という疑問も湧きますが、実は既に一部は実用化されています。東海道新幹線では新しい保守・点検のシステムが実用化されつつあるのです。

その矢先に、「重大インシデント」が発生した訳で、開発した技術者達には忸怩たる思いがあるはずです。

 

次号では、その辺りを紹介いたします。


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