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【 台車亀裂事故 その6 】 [鉄道]

【 台車亀裂事故 その6 】

 

鉄道や航空機の部品が破損する場合、しばしば原因として金属疲労が議論されます。

金属疲労の現象は、世界初のジェット旅客機であるコメットの連続墜落事故の原因として広く知られました。その後も飛行機が墜落する度に、その可能性が議論されています。

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柳田邦夫氏の「マッハの恐怖」では、東京湾に墜落したB-727のエンジンの取り付けボルトを海底から回収し、すぐに金属工学の研究者の元に運び、ボルトの破損原因が金属疲労か否かを判断して貰う・・という場面が登場します。

結局、ボルトの破断面を観察しても、破損が金属疲労によるものか、そうでないかは判断できなかったのですが・・・。

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一般論として、金属疲労による破断面には貝殻状断口と呼ばれる細かい筋状の模様が現れます。一方、脆性破壊や通常の延性破壊では、ディンプルがある破面や結晶の劈開面が観察されます。今回の亀裂が進展した台車でも、破面の観察が最優先で行われ、いつ頃、亀裂が発生したのかが、調査されるはずです。

今回は破断後に海中に没していた訳ではなく、現在進行形の破面ですから有益な情報が得られるはずです。

大阪産業大学の大津山教授が指摘する通り、亀裂がごく最近に発生したものと考えるのは不自然であり、かなり前から存在した可能性があります。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171219-00000578-san-soci

(申し訳ありません。元記事はリンク切れかも知れません)。

しかし、それを確認するのは難しそうです。

疲労破壊で貝殻状断口の筋を数えるのは、樹木の年輪や魚の鱗の筋を数えるのに似ていますが、この筋が鮮明に出るのは繰り返し応力が反復する場合です。

例えば、飛行機の圧力隔壁なら、離陸上昇と下降着陸を繰り返す度に筋が増えていくので、本数を確認すれば、亀裂開始時点が明らかになります。

でも、鉄道の場合、車輪や台車にかかる応力はそうではありません。

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もう40年も前ですが、慶応大学の下郷太郎教授の研究室では鉄道の台車にかかる荷重とそれに対する応答を計算していました。入力値となる荷重をスペクトル解析し、ホワイトノイズとして扱うのが適当との結論だったと記憶します。つまり周期性を持たない入力値となる訳で、疲労破壊特有の筋が鮮明でない可能性があります。

果たして、調査委員たちはどのような結論を出すのでしょうか?

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割れ発生時期が不明確、あるいは亀裂進展の開始時期が不鮮明・・となると、問題は深刻です。マスコミは走行中に異常を確認しながら列車を止めて確認しなかったJR西日本の安全感度の低さを問題視していますが、定期検査で亀裂の進行を確認できなかったJR東海の責任も議論されることになります。この車両は2017年に2回も定期検査を受け、問題なしと報告されているからです。JRでは磁粉探傷を疵検査の方法として導入するようですが、磁粉探傷で見つけるのは、普通肉眼では見落としそうな微小な傷です。10cm以上の疵は・・磁粉探傷でなければ見つからない疵ではありません。JR東海はこれまでどんな検査を行っていたのか?

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台車の亀裂など滅多に発生しませんから、ろくに検査もせずに「異常なし」と判断していたのではないか?・・・と言うと言いすぎですが、御巣鷹山に墜落した日航123便の圧力隔壁の疲労亀裂の進展は定期検査で見逃されていました。

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鉄道車両では確認が難しいかも知れない疲労亀裂について、調査委員会がどのように判断するか、個人的には非常に興味があります。

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もうひとつ研究すべき重要な点は、数値破壊力学的にみて、亀裂発生個所の応力集中がどうなっていたかです。

現在の鉄道台車は全て、有限要素法またはそれに代わる数値解析の手法を用いて応力分布を計算し、弱い箇所が存在しないように設計されていますが、限界があります。 切り欠き(ノッチ)が発生すれば、そこに応力集中が発生し、健全な状態の応力分布と大きく異なるため、設計時の計算通りにはいかないのです。

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切り欠き部の応力集中はJ積分という特殊な計算で算出されますが、その数値は切り欠き先端部の先鋭度で変わってきます。素朴に考えても理解できますが、鋭い亀裂ほど応力集中が大きくなり、亀裂進展が促進されます。 この現象は当然ながら亀裂発生前の時点では計算できません。 今回は進展途中の亀裂のサンプルがある訳ですから、その計算ができます。

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亀裂が発生してから、この強度計算ではダメだった・・という結論を出しても、地震が起きてから解説する地震学者のようで間抜けですが、今後の参考になります。

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それ以外にも亀裂の起点はどこか?そこに非金属介在物はなかったか?起点は1/4厚の介在物集積帯でなかったか? あるいは鋼材の水素含有量はどうだったか?白点はなかったか?など、調査すべき点は山ほどありますが、実際にはインシデントにとどまった今回の事件で、どこまで調査するか、実のところ少し心配です。

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そして、これ以上のコメントは調査報告が発表されてからにしたいと思います。


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【 台車亀裂事故 その5 】 [鉄道]

【 台車亀裂事故 その5 】

 

旧国鉄時代からのリニアモーターカー開発には伝説的なリーダーがいました。京谷好泰氏ですが、かれは車両の軽量化に心血を注ぎました。その感覚はゼロ戦の軽量化にこだわった堀越二郎に近いとされます。

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磁力で車体を浮上させ、高速走行させるのですから軽い方がいいのは当たり前ですが、京谷氏はあまりに「軽うせい、軽うせい」と指示することから、部下から「カルーセイ京谷」というあだ名を貰い、本人もそれを認めていたとか・・。

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軽くする・・と言っても設計者は魔法の杖を持っている訳ではありません。安全係数(安全率)を下げて、限界設計に近づけることになります。すなわち、重厚長大を旨とするSL型から軽薄短小の飛行機型の設計に切り替わったのです。

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普通の新幹線も300系以降は軽量化を急速に進めました。鋼鉄製の部品をアルミ合金に替え、設計を見直し、軽くすることで高速化と省エネを実現したのです。台車・・も当然軽量化を求められました。

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私が衝撃を受けたのは、山形新幹線つばさとして400系の新幹線が登場した時です(約25年前です)。台車をボルスタレスにして思い切って軽量化したのです。S友金属で実物を見た時、こんなに華奢な台車で大丈夫だろうか?と思いました。400系はミニ新幹線として、小型軽量で低速走行区間が長い訳で、台車の耐久性は東海道新幹線ほど要求されない訳ですが、一方で速度記録を樹立するなど高速対応型でもあります。

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鉄道の専門家に尋ねると、「鉄道も自動車と同じように、乗り心地を良くし、車体を安定させるためには、バネ下重量を軽くすることが有効」との事です。台車は厳密に言えばバネ上の部分も多いのですが、設計上、軽量化が歓迎されるのは理解できます。

その結果、新幹線もボルスタレス化し、軽量化を志向したのです。

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しかし鉄道車両がそれでいいのか?という議論は時々登場します。

東京の地下鉄東西線の電車が橋梁を走行中に突風にあおられて脱線転覆した事故の際も、軽量化が一因とされましたし、羽越線の特急いなほの脱線転覆事故でも、同じ議論がありました。しかし、高速化、省エネ化、低コスト化の声ですぐにかき消されます。

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意外にも、中国の高速鉄道は、台車の軽量化をあまり考えません。この国の高速鉄道が日本の新幹線とドイツのICEを元に開発されたことは事実ですが、自前の技術もあります。 中国人技術者は、時速350Kmの営業運転を実現するために、日本の新幹線の台車を元に、ボルスター(長枕の意味で、車軸を支える横板)の数を増やして、安全性を増した・・と強調していました。当然重量は増えるのですが、脱線の可能性は減ったと中国の資料に書いてありました。

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日本の新幹線と違い、ほとんど直線区間で構成され、曲率の大きなカーブが無い中国の高速鉄道でボルスターが必要なのか?という意見もありましたが、中国としては日本の新幹線のコピーと言われるのが嫌で、少しでも違う点を作りたかったのでしょう。

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でも私もこの点については、中国の考え方に賛成です。 車体や台車のいたずらな軽量化は危険だと考えています。日本のJRでは、特に振り子式の車両の場合、コロの下側の質量は大きいほどカーブで安定するはずです。

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そして機械設計の根本の問題ですが、材料の強度は、新材料の登場で上げることができます。しかし車体剛性はなかなか上げられません。 金属材料の密度とヤング率の関係が変わらないからです。 そして車体剛性が低ければ、疲労破壊の可能性は増します。 つまり台車のいたずらな薄肉化や小径化は危険です。

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今回の台車を製造した川崎重工は複合材料製の鉄道台車を開発したと、マスコミに発表しています。もちろん目的は軽量化ですが、複合材料の疲労破壊の研究は金属材料のそれに比べて遅れています。

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今回の台車亀裂事故の調査が済むまで複合材料の台車は凍結すべきではないか?と私は思います。

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では、今回の亀裂は本当に疲労破壊によるものなのか?という疑問にぶつかりますが、これは実際の破面を観察しなければなんとも言えません。

 

でも少しだけ、次報で申し上げます。


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