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【 執務空間 その4 製鉄所の場合 】 [鉄鋼]

【 執務空間 その4 製鉄所の場合 】

 

ノンテリトリアルオフィスで個人机を廃止し、在宅勤務で事務所を徹底的に合理化できるのは、営業部門あるいは本社機構だけです。製造現場は事情が違います.

製鉄会社に限った話ではありませんが、製造業では生産現場が一番重要です。そして製造現場では、在宅勤務はあり得ません。通勤に時間がかかろうが、残業が多かろうが、3Kだろうが、現場が命です。

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そして、いかに通信手段が発達しても、遠隔地から生産現場の管理はできません。

製鉄所の場合、同じ所内でも、製鋼部の事務所から転炉工場の現場まで1kmぐらいある・・というのは普通です。 スタッフは事務所から現場まで頻繁に往復して仕事を続けます。 製鉄所の本館から・・となると、もっと距離があります。同じ製鉄所内でも製鋼工場から本館勤務に異動すると、なんだかとても現場から遠ざかった気持ちがします。

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そこでは事務所の効率化や合理化はあまり意味を持ちません。現場の効率化の方が優先されます。そしてもう一つ、そこには管理職の人達の奇妙なこだわりがあるのです。

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世の中は、全て記号論の世界です。目に見える幾つかの「お約束」の記号を重視します。サラリーマンは昇進するとともに、さらに記号にこだわります。製鉄所に勤務する管理職はまさに記号の塊です。

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管理職(参事・課長級)になれば、腕章を付け、通勤用の自動車のステッカーにもマークが付きます。机の引き出しは両袖になり、椅子には肘掛が付きます。やがて参与・部長になると、個室が与えられ、出退勤は運転手付きの黒塗りの車になり、更に聡明で美しい女性秘書が付きます。・・・・失礼、最後の部分は不正確です。必ずしも聡明で美人とは限りません。 願望が少し入りました。 

それらは全て一種の記号であり、その人の地位を示すための手段です。業務がそれで改善されたり、効率化される訳ではありません。

(役職や待遇は、旧S友金属時代の話です。今は全てが変わったはずです)。

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そういう世界で暮らしてきた管理職には、ノンテリトリアルオフィスだの、在宅勤務はとんでもない話です。やっと手にした地位の象徴を奪われることに強い抵抗を示すはずです。「事務所の変革は、本社では成功しても製鉄所では無理な話だ・・」。

20年前、ノンテリトリアルオフィスが導入された際、私はそう思いました。

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私は、業務の効率化あるいは事務所の合理化の本質は別のところにあると思いました。それは、米国で大成功を収めていたミニミルの話を聞いていたからです。中でもミニミルの雄とされたNUCORは、本社費用を徹底的に抑え、投資の多くを製造現場に集中させる方針を取っていました。

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ミニミルとはいうものの、売上高では大手高炉メーカーを凌駕するNUCORの本社は、地方都市のスーパーマーケットの2階にある・・・と本には書いてあります。正確にはスーパーマーケットの2階という訳ではなく、ショッピングモールにある小さな建物を本社にしていたようです。

そこではノンテリトリアルオフィス以前に、必要なホワイトカラーの数は最小限に抑えられており、その代わり、各スタッフには多くの判断権限が与えられていました。そして経営者であるケン・アイバーソンは社長室に閉じこもらず、現場や事務所を飛び回り、きさくに社員に話しかけるスタイルでした。 そもそも社長室があったのか? 私は知りません。

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NUCOR20世紀後半の製鉄会社で最も輝かしい成功を収めた秘訣は、一言で言えば、経営資源をどこに集中させるかの判断で、正しい選択をしたことでしょう。

今、製鉄会社に限らず、多くのメーカーに求められているのは本社機構の簡素化です。

投資を集中すべきは生産現場と研究開発です。それしか低コストを武器に挑んでくるアジアのライバル企業に勝つ手はありません。

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それなのに、経営者が行っていることは、正反対のことばかりです(私は真逆と言う言葉が嫌いです)。

例えば、従業員が数百人しかいない電炉メーカーで、ホールディングカンパニーを新たに設けて、屋上屋を重ねたり、取締役と執行役員をあわせると重役だけでラグビーのチームができるようなトップヘビーの人事構造にしたりします。

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ホールディングカンパニーだの、スチールカンパニーだのと、やたら多くのカンパニーを抱え、それぞれに社長がいて、どれが本物の社長か分からない・・という事態は、上はJFEから、下は地方の零細電炉メーカーまで共通です。 これは異常事態です。

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やがて、それらの会社では、社長ばかりがたくさん集まって、「困ったね。社長室が狭くてかなわない。ひとつ、各社長の机と椅子を無くして、ノンテリトリアルオフィスにしようかね? ああ、ホールディングカンパニーの社長さんは、在宅勤務でもいいでしょう?」となるかも知れません。

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いえ、別に貶しているのではありませんよ。 米国のミニミルなら、社長の机にしがみついている経営者の方が軽蔑されるのですから。


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【 執務空間 その3 在宅勤務と書斎 】 [鉄鋼]

【 執務空間 その3 在宅勤務と書斎 】

 

政府は、「働き方改革」を訴え、Work Life Balanceの見直しを訴えていますが、本当に政府が真剣に取り組んでいるのか、ちょっと疑問です。「働き方改革担当」の担当大臣に誰をあてるかでそれを占えますが、加藤勝信氏ではちょっと軽いというか、力不足です。やっていることと言えば、残業時間を減らして自分の生活に使う時間を増やせ・・と言うばかりで、具体的な方策については、企業に丸投げです。

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本来なら、もっとふやせるはずの在宅勤務を奨励し、無駄な通勤時間を減らしたり、自宅での子育てを可能にしたり、お年寄りの介護に充てる時間を確保するように働きかけるべきです。

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待機児童対策(不思議な言葉です。対象は児童=小学生ではなく、園児=保育園児、幼稚園児のはずですが・・)だって、保育園の建設や保育士の増員だけでなく、親が自宅にいられる時間を確保する事も大切なはずです。

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簡単な事ではありませんが、在宅勤務が可能になれば、介護離職というつらい選択もある程度防げるかも知れません。

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朝の交通機関の通勤ラッシュも軽減できます。在宅では会社の業務に集中できないから生産性が下がったり、家事もするから正味の勤務時間が減るし、更には残業が減るので、収入が減るという意見もありましょうが、対策は可能です。企業側は、通勤手当を削減でき、事務所の維持費も削減できますから、その分を社員の給与に回すことが可能でしょう。

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在宅勤務の奨励で見えてくるのはいいことばかりです。会社の狭い机から解放されます。 一方、社会の消費構造も大きく変化するでしょう。

ビジネススーツや革靴、ネクタイは売れなくなるかも知れません。在宅勤務のTV会議で、上半身だけがカメラに写る場合、テーブルの下はパジャマでもよいのです。

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都心の飲食店のお客も減ります。 ラッシュアワーの通勤客で稼いでいる鉄道会社にも大打撃ですし、駅前商店街の売れ行きも減るかも知れません。でもお客が集中するピーク時間帯がなくなり、ゆったりとした買い物が可能になるでしょう。

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そして在宅勤務が増えれば、住宅の質と構造も変化します。

従来の戸建て住宅は、使い易いキッチンや、バスルームを売り物にしていました。夫よりも家の中で過ごす時間が長く、キッチンを仕事場とする主婦の発言力が強く、主婦の歓心を買うことが住宅メーカーにとって重要だったからです。

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これからは違います。在宅勤務で自宅を仕事場とする夫は、書斎を要求します。使い易く、居心地がよく、TVスタジオとしても使える書斎が必要となるのです。 在宅勤務でTV会議をするとなると、自分の後ろの風景も映ります。ちょっと立派な本棚に専門書や教養書を並べて、TV映りを良くする工夫も必要です。(最近はインスタ映えと言うそうですが)

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では以前の住宅の書斎はどうだったのか?住宅を設計する際、夫の書斎(というか勉強部屋)は、優先順位を一番下にされます。 実際、働き盛りの夫は、普段はあまり家にいないので立派な書斎は宝の持ち腐れだからです。

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一方、定年などのリタイヤを機に、マイホームを新しく持つ人もいます。こちらは一家の主として社会的地位もそれなりにありますし、子供部屋も必要ありませんから、書斎を要求できる立場になります。そこで、書斎を作り、立派な机と椅子を入れます。

でも今度はそこで行う仕事がありません。 のんびりと本を読むか、Facebookに投稿するぐらいしかありません。

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Oヘンリーの短編小説ではありませんが、必要な時にはなく、不必要になってから手に入る・・・というのが、男の城である書斎でした。でもこれからは書斎が本当の仕事場として意味を持ち、重視される時代が来ます。

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繰り返しになりますが、在宅勤務も捨てたものではありません。

しかし、それらは、都会の事務所に勤務する非メーカーのホワイトカラーの場合です。メーカーの場合はどうなのか? 最初に紹介した製鉄会社の場合はどうなのか?

 

それについては次号で報告いたします。


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【 執務空間 その2 ユビキタス化 】 [鉄鋼]

【 執務空間 その2 ユビキタス化 】

 

米国であれば、管理職なら個室を与えられるのが普通です。個室が与えられない一般職もL字型の広い机を与えられ、隣席とは間仕切りで区切られ、自分の空間が持て、そしてそれは十分に広いのです。欧州もおおむねそれに近い環境です。

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一方、日本では、狭い机が1つだけ、それも管理職以外は片袖(つまり引き出しが片方にしかない)机です。しかもその机の上にはパソコンが乗り、足元には書類のラックが置かれ、自分の机と言いながら、足を机の下に伸ばせない有様です。

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ノンテリトリアルオフィスが苦肉の策であるのは理解しますが、これ以上、事務所を狭くしてどうするのか?と、私は首を傾げました。

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しかし、時代は私の発想よりはるかに速く動いていました。事務所など要らないという考え方が、世の中を席捲しています。

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当時、新しい概念として注目されたのはユビキタス構想です。東大の坂村健教授などが提唱したもので、これはいつどこにいても、どんな環境でも、同じ情報が得られ、同じ業務を遂行し、同じ情報を発信できる・・という「どこでもオフィス」的発想です。その前提となるのは、インターネットと、ポータブルのデバイス(ノートパソコンやタブレット端末)、そして高速で大容量かつ安全な無線通信です。

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ノートブック(ラップトップPC)は、アラン・ケイが提唱したダイナブック構想(つまり、何時でもどこでも使えるコンピューター)を追及したものですが、単独ではダイナブック構想は実現せず、無線LANWi-FiBluetoothが必要でした。もちろんインターネットも前提です。

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日本の場合、本当にユビキタスが実現したのは、2010年頃ではないか?と思います。

そうなると、ホワイトカラーのサラリーマンは、本当に事務所が要らなくなりました。

以前から、全国を飛び回り、空港のラウンジを執務空間にして通信し、自分の会社には滅多にいない・・という経営者やビジネスマンはいましたが、少数派でした。

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しかし、今はごく普通のサラリーマンでも会社の事務所で仕事をする必要はありません。パソコンと電話(通信手段)さえあれば、どこでも可能なのです。

かつは、小規模事業者やベンチャー企業のものとされていたSOHO(Small Office, Home Office)が大企業でも採用される時代が来ます。

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外回りの営業マンは最初から会社の事務所にいる必要はありません。お客様への直行、直帰でいいのです。内勤の人達も、ユビキタスで在宅勤務が可能になります。おそらくホワイトカラーの業務の内、半分くらいは会社以外の場所でこなせるようになるでしょう。しかし、現実の日本ではそれほど勤務スタイルは変化していません。幾つかの問題があるからです。

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実は、ホワイトカラーの仕事の相当部分は、人と会ってコミュニケーションすることです。社外に出て、お客と商談することもありますし、社内の会議もあります。しかし、事務所がなくなったり狭くなれば、どこで会えばいいのか?となります。

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客先を訪問したら、相手の人もユビキタスで事務所におらず、会えないというのでも困ります。TV電話やTV会議があるじゃないか・・といっても、面と向かって話すのとは、得られる情報量に差があります。営業は、何といっても、顔を見せて、話を聞かなくては仕事にならないのです

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もうひとつ大事なことは、会社で仕事をする場合に必要な、仲間意識というか「一体感」の醸成です。男性も女性も仕事用のスーツを着て、同じ部屋で仕事をすることが大事なのです。上司は朝礼や会話を通じて部下の健康状態などを観察・把握します。そして人々は、職場の「空気」を感じながら、ある種の仲間意識を持って仕事を遂行します。

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「弱い存在は群れる」と以前のブログで申し上げましたが、日本のサラリーマンも弱い存在であり、仲間から外れることは不安であり、みんな一緒にいないとこわいのです。

だから、大雪で交通機関が麻痺するかも知れない日でも、社畜(大嫌いな言葉です)と揶揄されても皆さん出勤するのです。

https://rocketnews24.com/2018/01/22/1010202/

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なぜ、日本人のホワイトカラーの職場は個室でなくて大部屋なのか?という質問には、上記の事情が回答になります。

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でも時代は否応なしに動いています。従来の勤務形態がいいのか?従来のデスクワークが良いのか、見直しが必要です。 

ユビキタスの延長上には、在宅勤務やWork Life Balanceの変化が見通せます。

それについては、次号で報告いたします。

 


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【 執務空間 その1 】 [鉄鋼]

【 執務空間 その1 】

 

もう20年ほど前になりますが、当時の私の勤務先(今はもうない会社です)の東京本社が大手町から晴海に引っ越しました。

その際、営業部門の部屋が、ノンテリトリアルオフィスに変わりました。「何ですか?そのノンテリトリアル何とかってのは?」と訊くと、「つまり、皆さんが仕事をする場所をフリーアドレス化するのですよ。部屋の床は既にフリーアクセスフロアになっていますからね」との返事です。

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「頼みますから日本語で説明してください」

「あれぇ?オヒョウ君は英語が得意だったんじゃないですか?」とチクリと棘のある言葉です。

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ご承知の方も多いでしょうが、以下に簡単に解説します。

ノンテリトリアルオフィスというのは、働く人の個人机を無くし、長いテーブル状の机の任意の場所で仕事をするというものです。一人一人は個人用のキャスター付きキャビネット(机の袖の引き出しです)とノートパソコンを与えられ、朝出社したら、ゴロゴロとそのキャビネットと椅子を押して好きなところに持って行って仕事を始めます。従来なら机の引き出しや机上にあった書類はキャビネットの中です。

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逆に電話は、各個人に割り当てられ、当然ながらワイヤレス(当時はPHS)です。同僚への電話を取り次ぐ必要はありません。パソコンは、まだ無線LANWi-Fiが普及する前で、有線のLANでしたが、床のパネルの下をケーブルが通っていて、任意の場所でLANケーブルとAC電源ケーブルが取り出せる仕組みです(それがフリーアクセスフロア)。

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ノンテリトリアルオフィスの発想とそのメリットは、

1. 業務をする場所は、その内容と一緒に仕事をする相手に応じて、自在に変えられるべきだ。営業と技術、営業補佐等、パートナーと隣り合わせで仕事をすれば、効率が上がる。だから場所は自由の方がいい。

2. 個人が占有する空間がなくなれば、整理整頓が進む。また私物を置いたりして公私混同することもなくなる。

3. 人事異動やフォーメーション変更の際の引っ越し作業が簡単になる。

というものです。

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しかし、不思議な事に、長テーブルの形をした机の面積は人数分の半分しかありませんでした。社員が全員着席して事務仕事をしようとすると場所が足りなかったのです。その理由も幾つかあります。

1. 営業は本来お客様回りが主な業務であり、本社の事務所にいる時間は少ないはずだ。常時、スタッフの半分以上が、外出しているのなら、執務空間は半分あればいい。不在のスタッフの空いている机はもったいないから合理化する。

2. むしろ、営業はどんどん外へ行くべきで、事務所に居ることは勧められない。

というものです。

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そう言えば、聞こえはいいのですが、会社側の本当の意図を勘繰る人もいました。

・本当の目的は家賃の高い新築の本社ビルで、少しでも空間を少なくしたいのだよ。

・営業が事務所にいる時間は、稼いでいないのだから、皆が外回りに出るように、わざと事務所の居心地を悪くしているのだよ。

・ぎゅうぎゅう詰めのオフィスを体験させて、いかに人材が余っているかを納得してもらい、退職を促すというかリストラ促進効果を狙っているのさ。

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どうも、ネガティブな勘繰りばかりですが、当時、会社の業績は悪化し、せっかく新築の近代的なビルに引っ越しても、おめでたい雰囲気ではありませんし、実際、会社は大リストラを断行していました。

もっと言えば、それまで東京本社があったO手センタービルは当時最も家賃の高いオフィスビルでした。不敬なことにトイレで用を足しながら、皇居を眺め降ろす場所にあり、ライバル会社である日本鋼管(こちらもすでにありません)と同じ通りにありました。

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便利ではあるけれど、高い家賃、リストラを待つダブついたホワイトカラー達で、本社経費はなかなか減りません。爪に火を点す合理化を進めている製造現場からの怨嗟の声に対する回答が、ノンテリトリアルオフィスだったのです。

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しかし、私にはどうにも理解できませんでした。新しくなるのに、かえって居心地が悪くなるオフィスというのはありうるのだろうか?

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ここでちょっと飛躍しますが、事務所から工場に話を転じます。

産業心理学では有名な話ですが、「ホーソンプラントでの実験」という報告があります。

これは作業環境を快適にすれば、労働生産性も向上するという理論で、例えばBGMを流せば、生産性が向上したという実験結果があります。

この理論を元に、昭和の一時期、工場や事務所でBGMを流すのが流行りました。

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しかしこの報告には反論も多く、いたずらに快適にすれば、作業者がくつろぐだけで生産性は向上しない・・という意見もあります。

空調設備を完備したり、音楽を流すぐらいはいいかも知れませんが、作業場での飲食を認めたり、私物を置くというのは、確かに仕事に臨む緊張感を阻害するものです。

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しかし、生産性向上とは別の次元で、職場環境は改善されるべきだ・・という考えがあります。エアコンは当然ですし、その他も勤労者の権利として職場の改善は主張されるべきというものです。当時、IEの専門家は、これを「工場トイレの水洗化の理屈」と言いました。今ならさしずめ「洗浄便座の導入の理屈」でしょうか? 生産性の向上に寄与しない投資であっても、従業員の福利と社会の趨勢を考えれば行うべき投資だ・・というぐらいの意味です。

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日本では、景気の低迷や円高で、賃金上昇が抑えられ、逆にマイナスだった時代が続きました。賃金を上げることが無理だとしても、それに代わる職場環境の改善は勤労者の要求として自然なことだったのです。

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だから、私は事務所であれ、工場であれ、職場環境はどんどん改善されていくのが時代の流れだと理解していたのに、ノンテリトリアルオフィスは、全く逆行するように思えたのです。もともと、日本のオフィスは狭すぎます。

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私は、「日本の会社の事務所はもっとゆったりとした空間を確保すべきだ。でも本社が行っていることは、それに逆行する」と思いました。しかし、今になって考えると、私のその考えは間違っていたかも知れません。その後、時代はユビキタス化を志向し、情報を扱う業務に関しては、事務所の存在そのものが、意味を失っていったからです。

 

それについては、次号で申し上げます。


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【 DDH184 その3 】 [広島]

【 DDH184 その3 】

 

ヘリコプター搭載型護衛艦「かが」の見学では、最初に甲板下の大きな格納庫に入り、そこから、せり上がり式の大型エレベーターに乗って、甲板に上がります。太い4本の鋼索を油圧モーターが巻き取り、広い床が持ち上がると、見学者は驚きの声を上げます。誰だか知りませんが、中年の男性がサンダーバードのテーマ音楽を口ずさんだりします。

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「しかし、この広さではV22オスプレーの昇降には使えませんね?」と案内役の士官に尋ねると、彼はニコリとして「これはヘリコプターや重機用です。 オスプレーだけでなく、F35Bにも使えません」 

私は、「それにエレベーターが甲板の中央部にあるのは、まずいのでは? 火災を起こした航空機をすばやく海中に投棄するには、舷側にエレベーターがある方がいいと思います」と、生意気にも、ミッドウェイ海戦の記録を持ち出して、意見を言うと、彼は「そうです。実は大型のエレベーターは右側後方の舷側にあり、オスプレーやF35Bも使えます。後でご覧になるといいですが、今日は公開していないので、近寄ることはできません」

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私は、「するとF35Bを乗せる為に、後は、甲板を耐熱仕様にすることと、邪魔になるCIWSファランクスを移設するぐらいですか?でもエレベーターから見えた甲板下の構造を見るとカタパルトを設置する余裕はなさそうですね」

士官は「カタパルトの予定については聞いていませんが、確かにF35Bの運用は、小規模な改造で対応できます」

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そこで私は説明役の士官と別れたのですが、不思議に思える点は残ります。

本格的な空母にするには、収容できる機体の数を増やす必要がありますが、空間が足りません。それに離発艦を頻繁に行うには、エレベーターが1基では足りません。

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やはり、固定翼機が離発艦可能な艦というだけで、空母として運用するには非力すぎるのでは? でも本格的な正規空母を持っているのは、現時点では米国だけですし、日本に正規空母が必要とも思えません。

しかし、そこで思い出すのは英国とアルゼンチンが戦ったフォークランド紛争です。

1980年代、南大西洋の孤島であるフォークランド諸島(マルビナス諸島)の領有権を争って、両国が戦争をした訳ですが、結果は英国の一方的な勝利でした。

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もともと英国が占有していましたが、それを不当とするアルゼンチン軍が、同島を急襲して、一度は占領に成功したのですが、やがて駆けつけた英国軍によって奪還され、アルゼンチン軍は降伏したのです。

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英海軍には、小型で老朽化した空母2隻がありました。空母「インビンシブル」と「ハーミス」です。情けないほど貧弱な2隻ですが、その2隻と他の輸送艦にVTOL戦闘機シーハリヤーを積んで、おっとり刀で、フォークランドに向かったのです。

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アルゼンチンにも航空機を搭載し離発艦できる艦があることはあったのですが、機械の故障で動かなかったり、外洋を遊弋する英海軍の原子力潜水艦が怖くて、出撃できなかったのです。 実際、巡洋艦「ヘネラルベルグラーノ」は英潜水艦「コンカラー」によって撃沈されています。

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ハリヤー/シーハリヤーはVTOL(垂直離着陸)できることだけが取り柄で、速度も遅いし、燃費も航続距離も劣る戦闘機ですが、作戦空域の至近の位置から発艦できる点が有利です。

付近の艦艇からの情報の支援も得られます。

アルゼンチン軍のシュペールエタンダールやミラージュは、本国から長距離を飛行してやっと作戦空域に到達する訳で、作戦空域に滞在できる時間はごく短時間です。

地上からの支援も得られません。パイロットの疲労も無視できません。

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結果はほぼ一方的に英国のシーハリヤーの勝利でした。そしてその結果が、戦争の帰趨に影響したのは間違いありません。

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同じことは太平洋戦争でもありました。 日本海軍はミッドウェイ海戦、珊瑚海海戦、レイテ沖海戦などで、どんどん空母を失い、その結果、本来艦載機であるゼロ戦は地上の基地から出撃するようになりました。 幸か不幸か、ゼロ戦には長大な航続距離があり、遠隔地への攻撃を可能にしたのですが、パイロットの疲労や航法技術の問題もあり、犠牲は増える一方でした。 ゼロ戦が勝てなくなった理由は他にもありますが、やはり、艦載機は空母から出撃する方が効率的で強いのです。

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話を現代に戻します。

今、中国は尖閣諸島だけでなく、八重山群島の奪取も視野に入れて軍事作戦を準備しています。そして驚いたことにその作戦を口外して憚りません。

一方、専守防衛を前提とする海上自衛隊は一旦占領された後の離島奪還作戦を考えるしかありません。その際に、フォークランド諸島の奪回に成功した英国海軍のオンボロ空母「インビンシブル」と「ハーミス」の役割を考えます。

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DDH「かが」と「いずも」は、小型ですが、「インビンシブル」や「ハーミス」よりは強力な空母です。F35Bはシーハリヤーの後継機であり、海上自衛隊がいつかは欲しいと思っていた航空機です。 「かが」と「いずも」とF35Bの組み合わせは、「インビンシブル」「ハーミス」とシーハリヤーの組み合わせの、21世紀版です。

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当初、日本は新型戦闘機として航空自衛隊用のF35Aだけを考えていたとされます。そして既にF35Aは導入されつつあります。 F35Bについては、当初、予定に無かったのに、トランプ大統領が安倍首相を「米国製兵器をもっと購入しろ」と恫喝して、急遽調達が決まった・・とされます。

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しかし、それはどうでしょうか? 多分、国内外を欺くための、嘘というかパフォーマンスでしょう。自衛隊が離島奪還作戦を本格的に考え出したのは、尖閣諸島付近での中国偽装漁船の衝突事件あたりからです。そして(F35Bを念頭に置いた)「いずも」や「かが」の建造計画も早くから決まっていました。

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「本当はずっと前から、海上自衛隊はF35Bの運用を考えていたのではないですか?」そう質問しようとして振り返りましたが、先ほどの自衛官は、既に風のように消え去り、甲板の上には見当たりませんでした。


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【 DDH184 その2 】 [広島]

【 DDH184 その2 】

 

アジアで、指導者の発言が好戦的・・という点では、一番が北朝鮮、二番は中国です。でも一部のマスコミは、中国の指導者習近平国家主席のスピーチが、どれだけ好戦的であっても、どれだけ軍備拡大に積極的であっても問題にしません。中国を平和勢力だと思っています。私には理解困難ですが・・・。

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中国は海軍の近代化と増強を急速に進めています。新たな艦艇の就役数は年間で17隻(小型舟艇は除く)、から20隻ほどに増えつつあります。

https://www.excite.co.jp/News/chn_soc/20140109/Searchina_20140109091.html

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50556

これは海上自衛隊の10倍の速度です。

そして尖閣諸島の接続水域には新型のジャンカイ級のフリゲート艦が出現しています。これは中国で最新最強とされるフリゲート艦ですが、あれれ?主機はディーゼルエンジンで最高速度27ノットです。30ノットに届きません。

一世代前でもっと大型のソブレメンヌイ級駆逐艦は蒸気タービンで最高速度33.4ノットです。外燃機関である蒸気タービンは、ディーゼルやガスタービンに比べ、短時間で出力を上げることができませんが、それでも最高速度はそれなりにあります。

 

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なぜ新型のジャンカイ級では速度を落としたのか?なぜガスタービンを使用しないのか?

一つの理由は旧式で低速の空母「遼寧」を中心に艦隊編成するのに高速は要らない・・という考えかも知れません。でも最大の理由は高性能のガスタービンエンジンが作れないということでしょう。この国のガスタービンエンジンはロシア(旧ソ連)製の劣化コピーの域をなかなか出ません。

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しかし、ソブレメンヌイ級とジャンカイ級、それに空母「遼寧」という具合に、外燃機関の蒸気タービンと、内燃機関のディーゼルを混用するのは艦隊の運用面で問題があります。速度もバラバラで、エンジンもバラバラというのでは、統一感に欠けます。一つの艦隊で、重油と軽油の両方を燃料にするのでしょうか?それともA重油で統一するのでしょうか?それとも原子力艦に移行する過程なのでしょうか?

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いずれにしても、中国海軍は、艦艇は高速であるべきとか、艦隊を構成する船の速度は揃えるべき・・という方針が明確でないようです。

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もうひとつ、首をかしげるのは、韓国の軍艦です。

イージス艦「世宗大王」は日本のDDH「かが」などと同じガスタービンで最高速度は30ノットです。一方、日本の「おおすみ」に似た揚陸艦「独島」は、ディーゼル(ディーゼル電気推進)で最高速度は23ノットとこれも似ています。

オヒョウの推測ですが、これらの大型艦が韓国に必要な理由が分かりません。対北朝鮮なら、もっと小型の艦艇を揃える方が合理的です。

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日本の海上自衛隊の艦艇をうらやんで、同じものが欲しい・・という思いで建造したのではないか? そしてどう考えてもそれらの艦は、対北朝鮮用としては大袈裟です。「鶏頭を割くに焉んぞ牛刀を用いんや」と考えた時に、思い当たるのは、対日本用です。4隻の(ナンチャッテ)イージス艦と揚陸艦「独島」は日本を攻撃するための艦艇にしか思えません。韓国海軍は日本との戦争を念頭に置いているのか?いったいこの国は何を考えているのか?

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しかし、もっと理解できないのは、同国海軍の主流であるフリゲート艦です。最新型の仁川級フリゲート艦は、ガスタービンとディーゼルのハイブリッド型のエンジンを持ち、速度は30ノットと、一世代前のフリゲート艦蔚山級の34ノットより逆に低速になっています。ちょうど中国のジャンカイ級と似ています。でも護衛する低速の空母も無いのになぜ?

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面白いのは、蔚山級も仁川級も、ディーゼルエンジンとガスタービンエンジンの両方を用いたハイブリッド型だということです。ディーゼルとガスタービンにはそれぞれ長所と短所があり、併用する事で補完できる面はあります。ガスタービンは高速に適しており、ディーゼルは低速に適しています。しかし違うタイプのエンジンを一つの船に積んで使うのは、設備を複雑にするだけでなく、専門家も2種類必要です。

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海上自衛隊のように、2種類のガスタービンを組み合わせて使うか、韓国海軍のようにガスタービンとディーゼルの2種類を持つか、2通りの考えがあってもよいのですが、エンジンについて個々の要素技術の蓄積がない韓国が、欲張りして2種類のエンジンを持つ事が適当なのか? 理解できません。

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理解困難な、韓国海軍ですが、一応、主要な艦艇は30ノット以上出せることを前提にしています。統一感の乏しい韓国海軍ですが、一応米軍とのインターオペラビリティだけは考えているみたいです。

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各国海軍の艦艇の構成や建造計画をみれば、その国の考え方がある程度うかがえるのは、本稿の冒頭で申し上げた通りです。 でもそれを考えたら、「では日本は憲法九条のもと、専守防衛を旨とするのに、空母を持つというのは、おかしいではないか?」という、昔からある議論になります。

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しかし、私は「離島防衛を考えたら、空母保持は必ずしも専守防衛に矛盾しない」と考えます。 その根拠といえるのは、西側先進国同士が近代兵器を用いて戦った唯一の戦争とされるフォークランド紛争の記憶があるからです。

 

それについては、次号で申し上げます。


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【 DDH184 その1 】 [広島]

【 DDH184 その1 】

 

DDH184とは、海上自衛隊の最新鋭にして最大のヘリコプター搭載型護衛艦「かが」のことです。最近、同型の護衛艦「いずも」が固定翼機搭載型に改造される可能性が報道されていますが、いずれ「かが」も同じ改造を受ける可能性があります。

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ちなみにこの場合、回転翼機とはヘリコプター、固定翼機はオスプレーなどのティルトローター機やF35BなどのSTOVL機またはVTOL機のジェット戦闘機を意味します。

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私は、昨年秋に、呉であった海自の一般見学会で、この「かが」を見学する機会を得ました。この新型護衛艦については、書くべきことがあまりに多いのですが、今回は特に軍艦の命とも言える速度について書いてみます。

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私に説明をしてくださった、若き海自の士官(二尉)は、機関担当でした。「主機は何ですか?」と尋ねると、「GEが設計し、IHIがライセンス生産したガスタービンエンジン4基です。これで112千馬力以上が出せます。つまり鉄腕アトム以上です」。

こんなことは、質問しなくても、Wikipediaにも書いてあることなのですが、実は重要なことです。自衛隊の艦艇のエンジンに何を用いるか・・・は、その船の位置づけや、ひいては海上自衛隊の存在理由を決める重要な問題なのです。

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軍艦を建造する場合、主機(メインエンジン)をディーゼルエンジンにするかガスタービンエンジンにするかは、悩むところです。小型軽量・大馬力であること、運転開始から全出力になるまでの所要時間が短いこと、故障しにくく扱いやすいこと、煙が少ないこと・・等が重要ですが、ガスタービンはそれらの点で非常に優れています。

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しかし、ガスタービンは基本的に高速回転、高速走行に向いたエンジンであり、低速では燃費が悪くなります。そのため。高速用と低速用の2種類のガスタービンエンジンを併用して対応する場合もあります(COGAG方式)。

また韓国軍の軍艦のように、ディーゼルエンジンとガスタービンエンジンを併用する場合もありますが、韓国海軍がそれらの艦艇を上手に運用しているか、私にはよく分かりません。

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「すると、燃料は軽油ですか?」と、これも調べれば分かることをあえて質問します。

するとこの士官は少し口ごもり、「そうです。厳密にはA重油も使用できないことはないのですが、われわれは艦艇用の燃料を軽油で統一しています。その方が燃料補給の都合がいいからです」

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これも重要なことです。ある艦隊に洋上で燃料を補給する場合、船ごとに使用する燃料の種類が違ったら、煩わしくていけません。それにA重油は硫黄分こそありませんが、常温では粘度が高く、パイプやホースで供給するのは面倒です。

海上自衛隊の場合、洋上補給は米国やその他の国の艦船にも洋上補給します。だから燃料の油種を統一しておく方が良いのです。一種のインターオペラビリティです。

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「それで最大艦速は?」と一番重要なポイントです。

士官はちょっと苦笑いしながら「30ノットです。ご承知かも知れませんが、海上自衛隊の護衛艦は全て30ノット以上で統一されています。逆に30ノット出ない艦は、護衛艦とは呼ばず、その他の名称で呼びます」。

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咳払いしてから、彼は

「全通甲板型と呼ばれる、艦首から艦尾まで平坦な甲板が続く軍艦を見ると、一部のマスコミは航空母艦だ・・・と言いますが、実は全部がそうではありません。輸送艦「おおすみ」も、全通型の甲板ですが、ディーゼルエンジンで速力は20ノット台です。だから「おおすみ」はヘリコプターを搭載できても護衛艦ではなく、輸送艦となります。一方、「ひゅうが」、「いせ」、「いずも」、「かが」は、30ノット以上が出せる、DDH(ヘリコプター搭載護衛艦)であり、ヘリコプター空母と言っても間違いではありません。そしてこのクラス(19000トン級)で30ノットを出そうとすると、やはりガスタービンエンジンが良いのです」。

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私は「それは不思議ですね。最大艦速30ノットで分ける理由は何ですか?ひょっとして、30ノット以上の高速艦では、カタパルトかスキージャンプを設置して固定翼機を飛ばせる計画なのですか?」

ご承知の方も多いでしょうが、中国初の空母「遼寧」は蒸気タービンを主機にする旧式艦で、最大速度は19ノット(短時間ならもっと出せるらしい)です。でもその低速ゆえにジェット戦闘機の離発艦に苦労し、実際にはこの空母は戦力になっていません。だから日本の海上自衛隊も、22ノットの「おおすみ」では固定翼機(飛行機)は飛ばせないが、30ノットの「かが」なら固定翼機を飛ばせる・・と考えているのではないか?

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士官は、少し笑って、

「実は固定翼機のことも考えていますが、それはカタパルトではなく、これです」。と言っててのひらを上下させました。「つまりSTOVL機かVTOL機です。艦速とはあまり関係しません」。

「それは、ティルトローターのV22オスプレーですか?」

「もちろん、オスプレーも使えますが、念頭にあるのはF35Bです」

「しかし、F35Bやティルトローターのように、垂直に離発艦できる機体であれば、艦速はそれほど重要ではありませんね?どうして30ノットなのですか?」

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30ノットが意味を持つのは、アメリカ海軍と一緒に行動するためです。米軍の航空母艦を中心にした空母打撃群に参加して一緒に行動する場合、30ノット以上が必要です。アメリカの空母は全て原子力推進で30ノット以上が出せ、他のイージス艦やフリゲート艦も全て30ノット以上で走行します。だから海自の護衛艦も30ノット以上が必要です」。

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空母打撃群という言い方をしますが、アメリカの空母を囲むようにして艦隊が進む様子はよくマスコミの写真に登場します。日本の護衛艦もそれに参加することがありますが、正直なところ複雑な思いがします。

集団的自衛権を現行憲法上でどう考えるか?という政治的な問題以前に、日本の軍艦が米軍の軍艦の露払いになっているというのは、ちょっと屈辱的だからです。海自最大のDDHである「かが」も米軍の正規空母に比べればかわいいもので、横綱の前の十両クラスの力士の様に見えます。

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低速の輸送艦「おおすみ」も米軍と一緒に行動することがありますが、輸送艦同士というか低速艦同士の組み合わせです。空母と一緒に行動させてはもらえません。

若き士官は苦笑いしながら、「今はそんなことはないでしょうが、戦前は、足の遅い艦は艦隊の中でいじめられたみたいですね」と語ります。

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陸海空に共通しますが、自衛隊では米軍とのインターオペラビリティが重視されます。

だから、護衛艦は、主機は米軍と同じガスタービン、燃料は軽油で統一され、速力は30ノット以上で揃えられるのです。

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軍艦は速度が命と言いましたが、この発想は昔からあります。当たり前ですが、艦隊を構成する際、最も遅い艦が律速となります。つまり足を引っ張ります。だから高速艦だけで艦隊を構成した方が有利です。一方、海戦では、高速艦だろうが低速艦だろうが、その国の艦艇の全てを一か所に集中して投入した方が強いし勝てるという聯合艦隊型の発想もあります。艦砲の数と射撃能力が勝敗を決するという考え方です。

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日露戦争ではロシア皇帝ニコライ二世が、後者の発想でバルチック艦隊を構成し、日本に送りました。旧式の鈍足艦も引き受けたロジェストウェンスキー提督は憂鬱だったに違いありません。そのためにバルチック艦隊の極東への到着は遅れました。一方、日本の連合艦隊は、秋山真之らが苦心して、八八艦隊と呼ばれる優速の新鋭艦を揃えた艦隊を構成し、対決しました。これが日本海海戦でバルチック艦隊を撃破したことはご承知の通りです。

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だから日本海軍では須らく軍艦は高速型であることが重要視され、更に航空母艦の登場でその傾向は加速したのです。戦前の海軍の駆逐艦の速度について、石川県の能登半島の話として、祖父から聞いたことがあります。

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「いや、軍艦とはそれはそれは速い船だ。何といっても、能登半島の輪島でその駆逐艦を見た後、汽車で七尾に移動したら、既に穴水沖にその駆逐艦が現れていたのだよ」。これはまだ七尾線という鉄道が輪島まで通っていた頃の話です。地図をご覧になれば分かりますが、軍艦は輪島から能登半島の先端の禄剛崎を経由して七尾湾の穴水まで走って、所要時間は直線的な汽車での移動とほぼ同じだったのです。

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しかし、他方で、戦艦「大和」などの大鑑巨砲主義の産物は、ある程度速度を犠牲にせねばなりませんでした。速度を取るか、艦砲の威力を取るか、この矛盾を克服できないまま、太平洋戦争で日本海軍は滅亡したのです。蒸気タービン艦の時代の話です。

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話は現代に戻ります。今、日本の周辺諸国の海軍艦艇の主機や速力を比較すると、いろいろなことが分かります。

 

それについては次号で。


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【 截金(キリカネ)ガラスの魅力 】 [雑学]

【 截金(キリカネ)ガラスの魅力 】

 

私は石川県金沢市の出身です。そしてこの町はいろいろな工芸美術で長い伝統があります。その中で、金沢で盛んな金箔や金粉、砂子、金泥を用いた装飾技術と、輪島塗や山中塗の漆塗りを組み合わせた、石川県ならでは伝統工芸、即ち沈金、蒔絵、螺鈿などが有名です。

ちなみに、他界した私の母は、あまり金ピカでない上品な沈金が特に好きでした。

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しかし、金箔工芸の中で、金沢には無く京都にのみ存在するものがあります。それが截金(キリカネ)です。仏像の衣装の文様などに用いられる幾何学模様を細線にした金箔で描くもので、その繊細さと金色があまり目立たない上品さがすてきです。しかし金沢育ちで京都には縁が無い私は、截金の装飾をした仏像を見る機会がありません。だからあまり興味が無かったのですが・・・。

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截金を仏像にではなく、ガラスに施した截金ガラスなる芸術品があることをTVで知り、これは面白いと思いました。早速ネットで調べると、沈金を超える繊細さ、ガラスの透明感と金属の明るさのコントラストが目に映ります。

https://akane-glass.com/

(済みません、著作権の理由で写真を載せられないので、URLを書きました)

精密で幾何学的なガラス工芸というと、薩摩切子や江戸切子を連想しますが、その上を行く精密さときらびやかさです。

「これは素晴らしい、一度、現物を見てみたい・・」と思いましたが簡単ではありません。

截金ガラスを製作する芸術家はほぼ一人しかおらず、京都のアトリエで製作される作品は多くはありません。

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截金ガラスの作家である山本茜氏は、金沢生まれだそうですから、やはり金沢の金箔工芸の流れを汲んでいるのか?と思いましたが、さにあらず、彼女は大阪の高校を卒業して京都の大学で美術を学んでいます。そして京都の截金作家の元で修業しています。

なんだ、金沢は関係ないのか・・と、ちょっとがっかりですが、ガラス工芸は富山の学校で学んでいます。やっぱり北陸の工芸技術を基礎においているのかな?とちょっと期待したりもします。 やはり現物を見なくては分かりません。

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お正月の気分が残る16日、私は栃木県佐野市の、吉澤記念美術館を訪問しました。そこでは「キラメク工芸 カガヤク日本画展」という名の、金箔を用いたキラキラ美術品の展覧会を開いており、山本茜氏の作品が4点、展示してあったのです。

ただし、美術館の所蔵ではなく、寄託品となっています。

スキャン_20180115m.png

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彼女の截金ガラスだけでなく、金箔を多用した多くの芸術品が並んでいますが、板谷波山の陶芸品と同じ部屋に展示された、彼女の作品はやはり別格です。(板谷波山も金沢にゆかりのある作家ですが、彼とその作品については、稿を改めて報告したいと思います)。

http://www.city.chikusei.lg.jp/data/hazan/top.html

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山本茜氏の截金ガラスは、「二人静」と題した菱形の作品1点と、源氏物語にちなんだ名前を付けた作品3点「桐壺」「藤裏葉」「御法」ですが、その緻密な造形と美しさに圧倒されるだけでなく、いろいろな疑問点が湧いてきます。

「彼女はいったいどんな技法でこの作品を作ったのだろうか?」

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そもそも論で言えば、高温では金属とガラスの相性はよくありません。溶けた鉄と溶けたガラスは、表面張力の関係で反発します。製鋼工場ではその性質を利用し、溶けた鉄の上にスラグという一種のガラスを載せて、介在物を吸着したりします。また圧延工場では絞り加工する際に、ガラスを一種の潤滑材として用います。つまりガラスは鉄にくっつきにくいのです。それにガラスと金属では熱膨張率も違います。降温過程で剥離します。

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金箔や銀箔を高温のガラスに貼り付ける手法は以前からあります。藤田喬平氏が製作するガラス箱は、管の先の赤熱したガラス塊を金属箔に押し付けて接着させる手法ですが、ガラスの変形に伴い、金属箔は破れて、バラバラに千切れます。そして箔の表面は酸化で変色します。出来上がったガラス箱は、その模様が面白いとも言えるのですが、繊細とは言い難い表面です。

https://www.ichinobo.com/museum/

今回の美術展にも飾筥が出品されています。

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でも截金ガラスは全く違います。表面張力も金属箔面の酸化も関係ありません。

彼女が、細い筋状に刻んだ金箔とガラスを密着させたのは、高温ではなく常温に違いない。

そうすると、ガラス用の接着剤あるいは水ガラスを使用したのだろうか?

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でも普通、クリスタルガラスに用いる鉛ガラスと、凝固した後の水ガラスは屈折率が異なり、接合面ははっきり見えてしまいます。でも、彼女の作品では接合面が全く目立ちません。

彼女はどんな方法を用いているのだろうか?それに彼女の作品の「御法」などを見ると、接合面は湾曲しています。2つのガラスを研磨し、曲面をピタリと接合するのは容易なことではありません。しかもその間に金箔を挟むのです。

彼女が使用するガラスは普通のクリスタルガラスではないのだろうか?

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疑問は次々に湧いてきます。

柔らかい鉛ガラスであるなら、筋状に疵を付け、そこに金粉や砂子を埋め込んで、沈金にできるのではないか? その場合、截金と沈金のどちらが美術品として面白いかな? などと妄想をたくましくします。

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しかし、それ以上に気になるのは作品の名前です。京都にアトリエを置いて、京都の大学で教鞭をとりながら製作を続ける山本茜氏は、源氏物語の世界に強くインスパイアされて、作品を続けます。しかし、その作品と源氏物語の名前が私にはしっくり来ないのです。

「桐壺」はともかく「御法」の段は、悲しく寂しい物語です。景色は秋で、紫の上がこの世を去る悲しみのストーリーで、作品は、秋の哀愁に満ちた色合いがふさわしいのですが、彼女の作品「御法」は華やかできらびやかです。ちょっとしっくりしません。

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私の発想は、至って単純、かつ幼稚です。春ならピンク色、秋なら紅葉の色、冬なら白と黒と、勝手に色を決めたくなります。しかし、彼女の作品はそうではありません。

なぜなのか?

「どこかで質問する機会があればいいのに・・」と思いながら、美術館を出ようとすると、

学芸員の女性が話しかけてきました。

「たしか、昨年、山本茜さん本人がこの美術館に講演にお見えになりましたよ。残念ながら今年はその予定はないのですが・・・」

(しまった、それは惜しいことをした)と思いながら、(いや会わない方がいいかも知れない。作品だけを見て素直に感動すればいいので、作者から、言葉での説明を受けるべきではない)と思いました。

そしてもう一つ、作者に会いたくない・・と思ったのは、作者が美しい女性だったからです。(いらぬ雑念が入って、截金ガラスに抱く思いが影響を受けても詰まらない)。

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作者が美しい女性であっても、年老いた男性であっても少年であっても、截金ガラスの価値は違わないのですが、私の場合、惑わされる恐れがあります。

(やれやれ、まだまだ修行が足りない)。 そう思いながら、私は冬の陽光が光る道を駐車場に向かいました。


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【 台車亀裂事故 その6 】 [鉄道]

【 台車亀裂事故 その6 】

 

鉄道や航空機の部品が破損する場合、しばしば原因として金属疲労が議論されます。

金属疲労の現象は、世界初のジェット旅客機であるコメットの連続墜落事故の原因として広く知られました。その後も飛行機が墜落する度に、その可能性が議論されています。

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柳田邦夫氏の「マッハの恐怖」では、東京湾に墜落したB-727のエンジンの取り付けボルトを海底から回収し、すぐに金属工学の研究者の元に運び、ボルトの破損原因が金属疲労か否かを判断して貰う・・という場面が登場します。

結局、ボルトの破断面を観察しても、破損が金属疲労によるものか、そうでないかは判断できなかったのですが・・・。

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一般論として、金属疲労による破断面には貝殻状断口と呼ばれる細かい筋状の模様が現れます。一方、脆性破壊や通常の延性破壊では、ディンプルがある破面や結晶の劈開面が観察されます。今回の亀裂が進展した台車でも、破面の観察が最優先で行われ、いつ頃、亀裂が発生したのかが、調査されるはずです。

今回は破断後に海中に没していた訳ではなく、現在進行形の破面ですから有益な情報が得られるはずです。

大阪産業大学の大津山教授が指摘する通り、亀裂がごく最近に発生したものと考えるのは不自然であり、かなり前から存在した可能性があります。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171219-00000578-san-soci

(申し訳ありません。元記事はリンク切れかも知れません)。

しかし、それを確認するのは難しそうです。

疲労破壊で貝殻状断口の筋を数えるのは、樹木の年輪や魚の鱗の筋を数えるのに似ていますが、この筋が鮮明に出るのは繰り返し応力が反復する場合です。

例えば、飛行機の圧力隔壁なら、離陸上昇と下降着陸を繰り返す度に筋が増えていくので、本数を確認すれば、亀裂開始時点が明らかになります。

でも、鉄道の場合、車輪や台車にかかる応力はそうではありません。

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もう40年も前ですが、慶応大学の下郷太郎教授の研究室では鉄道の台車にかかる荷重とそれに対する応答を計算していました。入力値となる荷重をスペクトル解析し、ホワイトノイズとして扱うのが適当との結論だったと記憶します。つまり周期性を持たない入力値となる訳で、疲労破壊特有の筋が鮮明でない可能性があります。

果たして、調査委員たちはどのような結論を出すのでしょうか?

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割れ発生時期が不明確、あるいは亀裂進展の開始時期が不鮮明・・となると、問題は深刻です。マスコミは走行中に異常を確認しながら列車を止めて確認しなかったJR西日本の安全感度の低さを問題視していますが、定期検査で亀裂の進行を確認できなかったJR東海の責任も議論されることになります。この車両は2017年に2回も定期検査を受け、問題なしと報告されているからです。JRでは磁粉探傷を疵検査の方法として導入するようですが、磁粉探傷で見つけるのは、普通肉眼では見落としそうな微小な傷です。10cm以上の疵は・・磁粉探傷でなければ見つからない疵ではありません。JR東海はこれまでどんな検査を行っていたのか?

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台車の亀裂など滅多に発生しませんから、ろくに検査もせずに「異常なし」と判断していたのではないか?・・・と言うと言いすぎですが、御巣鷹山に墜落した日航123便の圧力隔壁の疲労亀裂の進展は定期検査で見逃されていました。

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鉄道車両では確認が難しいかも知れない疲労亀裂について、調査委員会がどのように判断するか、個人的には非常に興味があります。

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もうひとつ研究すべき重要な点は、数値破壊力学的にみて、亀裂発生個所の応力集中がどうなっていたかです。

現在の鉄道台車は全て、有限要素法またはそれに代わる数値解析の手法を用いて応力分布を計算し、弱い箇所が存在しないように設計されていますが、限界があります。 切り欠き(ノッチ)が発生すれば、そこに応力集中が発生し、健全な状態の応力分布と大きく異なるため、設計時の計算通りにはいかないのです。

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切り欠き部の応力集中はJ積分という特殊な計算で算出されますが、その数値は切り欠き先端部の先鋭度で変わってきます。素朴に考えても理解できますが、鋭い亀裂ほど応力集中が大きくなり、亀裂進展が促進されます。 この現象は当然ながら亀裂発生前の時点では計算できません。 今回は進展途中の亀裂のサンプルがある訳ですから、その計算ができます。

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亀裂が発生してから、この強度計算ではダメだった・・という結論を出しても、地震が起きてから解説する地震学者のようで間抜けですが、今後の参考になります。

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それ以外にも亀裂の起点はどこか?そこに非金属介在物はなかったか?起点は1/4厚の介在物集積帯でなかったか? あるいは鋼材の水素含有量はどうだったか?白点はなかったか?など、調査すべき点は山ほどありますが、実際にはインシデントにとどまった今回の事件で、どこまで調査するか、実のところ少し心配です。

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そして、これ以上のコメントは調査報告が発表されてからにしたいと思います。


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【 台車亀裂事故 その5 】 [鉄道]

【 台車亀裂事故 その5 】

 

旧国鉄時代からのリニアモーターカー開発には伝説的なリーダーがいました。京谷好泰氏ですが、かれは車両の軽量化に心血を注ぎました。その感覚はゼロ戦の軽量化にこだわった堀越二郎に近いとされます。

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磁力で車体を浮上させ、高速走行させるのですから軽い方がいいのは当たり前ですが、京谷氏はあまりに「軽うせい、軽うせい」と指示することから、部下から「カルーセイ京谷」というあだ名を貰い、本人もそれを認めていたとか・・。

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軽くする・・と言っても設計者は魔法の杖を持っている訳ではありません。安全係数(安全率)を下げて、限界設計に近づけることになります。すなわち、重厚長大を旨とするSL型から軽薄短小の飛行機型の設計に切り替わったのです。

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普通の新幹線も300系以降は軽量化を急速に進めました。鋼鉄製の部品をアルミ合金に替え、設計を見直し、軽くすることで高速化と省エネを実現したのです。台車・・も当然軽量化を求められました。

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私が衝撃を受けたのは、山形新幹線つばさとして400系の新幹線が登場した時です(約25年前です)。台車をボルスタレスにして思い切って軽量化したのです。S友金属で実物を見た時、こんなに華奢な台車で大丈夫だろうか?と思いました。400系はミニ新幹線として、小型軽量で低速走行区間が長い訳で、台車の耐久性は東海道新幹線ほど要求されない訳ですが、一方で速度記録を樹立するなど高速対応型でもあります。

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鉄道の専門家に尋ねると、「鉄道も自動車と同じように、乗り心地を良くし、車体を安定させるためには、バネ下重量を軽くすることが有効」との事です。台車は厳密に言えばバネ上の部分も多いのですが、設計上、軽量化が歓迎されるのは理解できます。

その結果、新幹線もボルスタレス化し、軽量化を志向したのです。

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しかし鉄道車両がそれでいいのか?という議論は時々登場します。

東京の地下鉄東西線の電車が橋梁を走行中に突風にあおられて脱線転覆した事故の際も、軽量化が一因とされましたし、羽越線の特急いなほの脱線転覆事故でも、同じ議論がありました。しかし、高速化、省エネ化、低コスト化の声ですぐにかき消されます。

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意外にも、中国の高速鉄道は、台車の軽量化をあまり考えません。この国の高速鉄道が日本の新幹線とドイツのICEを元に開発されたことは事実ですが、自前の技術もあります。 中国人技術者は、時速350Kmの営業運転を実現するために、日本の新幹線の台車を元に、ボルスター(長枕の意味で、車軸を支える横板)の数を増やして、安全性を増した・・と強調していました。当然重量は増えるのですが、脱線の可能性は減ったと中国の資料に書いてありました。

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日本の新幹線と違い、ほとんど直線区間で構成され、曲率の大きなカーブが無い中国の高速鉄道でボルスターが必要なのか?という意見もありましたが、中国としては日本の新幹線のコピーと言われるのが嫌で、少しでも違う点を作りたかったのでしょう。

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でも私もこの点については、中国の考え方に賛成です。 車体や台車のいたずらな軽量化は危険だと考えています。日本のJRでは、特に振り子式の車両の場合、コロの下側の質量は大きいほどカーブで安定するはずです。

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そして機械設計の根本の問題ですが、材料の強度は、新材料の登場で上げることができます。しかし車体剛性はなかなか上げられません。 金属材料の密度とヤング率の関係が変わらないからです。 そして車体剛性が低ければ、疲労破壊の可能性は増します。 つまり台車のいたずらな薄肉化や小径化は危険です。

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今回の台車を製造した川崎重工は複合材料製の鉄道台車を開発したと、マスコミに発表しています。もちろん目的は軽量化ですが、複合材料の疲労破壊の研究は金属材料のそれに比べて遅れています。

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今回の台車亀裂事故の調査が済むまで複合材料の台車は凍結すべきではないか?と私は思います。

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では、今回の亀裂は本当に疲労破壊によるものなのか?という疑問にぶつかりますが、これは実際の破面を観察しなければなんとも言えません。

 

でも少しだけ、次報で申し上げます。


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