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【 なぜ飛行船を使わないのか 】 [航空]

【 なぜ飛行船を使わないのか 】

西川渉氏の著作に「なぜヘリコプターを使わないのか」があります。災害や事故などの緊急時の搬送にヘリコプターが適しているのに、日本ではあまり利用されていない実態を、阪神・淡路大震災の例などを通して解説する本です。

この本が出された後に、日本は東日本大震災を経験しましたが、阪神・淡路大震災の時に比べて、ヘリコプターの利用は格段に進んでおり、この本の啓蒙効果はおおいにあったと私は考えます。 

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しかし、私にはまだ不満があります。 西川氏の向こうをはって、私が提案したいのは、「なぜ飛行船を使用しないのか?」です。

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いささか旧聞になりますが、数ヶ月前、東京で遊覧飛行の飛行船を飛ばしていた運航会社が経営破綻し、飛行船が解体されるというニュースがありました。

http://www.sankeibiz.jp/business/news/100709/bsd1007092051022-n1.htm

現時点で世界最大だったツェッペリンNTという飛行船が解体されたのです。

私にはとても残念なニュースです。

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ヘリコプターは非常に有用な航空機ですが欠点もあります。災害・緊急時の活用についてもヘリコプターの性能に限界があるため、難しい場合があります。

例えば、航続距離や滞空時間という点で固定翼機(つまり飛行機)に劣ります。

海上で遭難者を捜索する場合など、いかに長時間、その海域にとどまって探索できるかがポイントですが、燃料切れのために発見できないまま引き返さざるを得ない・・という事があります。 また悪天候や視界不良時に飛べない・・・という問題もあります。

(これは固定翼機でも本質的には同じですが)。 その他のヘリコプターの欠点と言えば、強いダウンウォッシュというか下向きの風、そして騒音、操縦の難しさ等です。

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一方、飛行船にはそれらの欠点はありません。

長時間、空中に浮いていられますし、ホバリングも勿論可能です。騒音もありません。

その代わり、速度は固定翼機やヘリコプターに劣りますが、それが致命的な問題になるとは限りません。

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東日本大震災の際、津波のために沖合に多くの人が家や自動車などと共に流されたと推定されます。 その内の幾らかは、海上でしばらく存命だったのではないかとも推測されます。 実際通りがかった漁船や巡視船によって救われた人がいます。

しかし、3月中旬の太平洋上では、そう長い間生きている事はできず、大半の人は落命して水に没した訳です。

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では津波の来る中、海上に浮かぶ人達をどうすれば効率的に救出できたか?

小型船舶は津波の危険がありますし、流木や浮遊物が障害になります。速度も限られます。 それに海面に近い高さから捜索しても、広範囲を探せません。 空から探す方が効果的です。

一方、ヘリコプターは有力な手段ですが、そう長時間飛べず、海上と陸地をピストン輸送しても能力に限度があります。 またヘリコプターの場合、あまり高度を下げると、その風がかろうじて浮かんでいる人に悪影響を与えます。

その点、飛行船なら長時間滞空し、沿岸の海上でくまなく遭難者の捜索が行えます。

日が暮れるまでその海域に留まり、救助した人は飛行船のキャビン内で応急処置が行えます。

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海上の遭難者探索だけではありません。地上にあっても孤立した病院などの屋上から入院患者を救出移動させる場合も、非常に有効です。

今回の震災では、ヘリコプターの窓から病院の屋上にSOSの文字を確認しながら、実際に病院に救助活動の手が及んだのはその数日後という例がありました。

自衛隊のヘリや消防のヘリは大忙しでしたし、報道機関のヘリはTV中継に用いるだけで、遭難者の救援は自分たちの仕事ではない・・とばかりに、孤立した人々を見殺しにしました。 病院に残された人達は、電気もガスも無い中、乏しい食料と医薬品を頼りに心細い日々を送らねばなりませんでした。

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もしそこに飛行船があれば、どうなったか?

被災地と、その外の避難先とを何往復もできます。昼も夜も飛べます。

多分、2,3機の飛行船があれば、2日以内に仙台平野に孤立した人々を運搬できたのではないでしょうか?

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つまり、東日本大震災の初動段階での救助活用には、飛行船が極めて有効だったのに、使われませんでした。

東京の遊覧飛行に使われていた飛行船が、なぜ東北の救援に向かわなかったのか、その理由を私は知りません。 もし、飛行船ならでは特長を活かした救援活動に思いが至らなかったとしたら残念な話しです。

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今回、飛行船運行会社の経営が成り立たなかった理由の一つは、高価なヘリウムガスです。 確かにヘリウムガスは高価です。でもガスの価格とは、単純なものではなく、その純度によって大きく異なります。 飛行船に使うヘリウムガスの場合、産業用のように高純度である必要はなく、混ざりものが多少あっても、浮力さえ確保できればいいのですから、安価調達する方法があったのではないかと思います。

具体的には、工場で使用した後に空間から回収したヘリウムを利用するといった方法です。

かつてヘリウムを用いた飛行船が登場した頃、ヘリウムの純度は85%程度だったらしいです。今、工業用ヘリウムの純度は99.9%程度であり、飛行船にとっては不必要に高純度でかつ高価です。

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あるいは、極論として、空気より軽い別のガスを探す方法もあります。

アンモニアはその典型ですが・・・その匂いを考えればあまり使いたくありません。

不燃性の別の希ガスを使う方法だってあります。 ネオンガスはかろうじて空気より軽くて浮力を持ち、無臭で燃えません。 だからネオンガスの飛行船も可能です。

もっともネオンをヘリウムの代わりに使うなら、何倍もの容積が必要ですし、価格的にネオンは決して安くはないので、運航会社の経営を助ける事にはなりませんが・・。

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話は脱線しましたが、工夫をすればヘリウム代を減らす事ができ、飛行船の運行は継続可能だったと、私は思います。そして、地震と津波の大災害で、ヘリコプターとも飛行機とも違う特長を活かして大活躍できたはずだと思います。

うーむ、ちょっと残念。

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では、これから日本の飛行船事業はどうなるのでしょう? 飛行船の特長の一つは、静かでかつ省エネである事です。 エンジンが止まってもすぐに墜落する訳でもありません。 実にエコでかつ安全です。 ひとっところに、長時間停止することも可能です。

それなら災害復旧現場に派遣して、いろいろな使い道が可能になります。

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今回、引退して解体されてしまったツェッペリンNTを改造する方法もあります。

例えば、飛行船の外壁(というより外皮)の上半分にフィルム型の太陽電池を並べて、ケーブルでつないだ地上の二次電池に電力を蓄えます。 夜は逆に飛行船が地上の電力を吸い上げ、照明で地上を照らし、復旧活動を応援します。

照明には勿論、軽くて省エネの発光ダイオード(LED)を使用します。

飛行船の名前は、勿論LEDツェッペリンです。


【 何のための政府専用機か? 出エジプト記 】 [航空]

【 何のための政府専用機か? 出エジプト記 】 

エジプトで反政府運動が高まり、ほとんど無政府状態に近い状況だそうです。かつて4回にわたる中東戦争を戦った後、今は北アフリカのイスラム社会の穏健派として、イスラエルとも交渉できるエジプトでの混乱は、中東情勢と北アフリカ情勢に深刻な影響を与える可能性がありますが、それ以前に在留邦人や日本人旅行者のエジプト脱出が緊急の課題となりました。

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とりあえず、脱出の必要がある約500人をどうするか?なんと、前原外務大臣はエジプト航空と談判してチャーター便を飛ばし、欧州(イタリア)への輸送を依頼したそうです。 その前(131日)にエジプト航空の直行便が成田に飛来し、約半分は帰国できたそうですが・・。

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オヒョウは思います。なぜ、チャーター便を用意するのに日本の航空会社を選ばないのか?かつてイランイラク戦争の際、テヘランに取り残された邦人を救出する際、日本航空と全日空は拒否しました。今回のエジプトはイランイラク戦争の時のテヘランほど危険な状態ではありません。 それに会社再建中の日本航空は、国に対して負い目があります。おそらく抵抗するだろう組合に対して、経営者が指導力を発揮できるかを占う試金石になります。

でも大西社長には、エジプトへ飛べと、パイロットに命令するだけの指導力はないのだろうなぁ。社長が部下に指示できない会社か・・。こんな会社いらないや。

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では、民間航空は無理としても、それなら2機ある政府専用機をなぜ飛ばさないのか?取り残された500人を搭乗させるには、ジャンボ機2機は十分です。そもそも、前述のイランイラク戦争の際の苦い経験から導入したのが政府専用機です。それがVIPの輸送にばかり使われ、在外邦人の救援には一度も使われていないのです。

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その理由が不思議です。「自衛隊を紛争地域に派遣する事はできない。従って、紛争地域に政府専用機を飛ばす訳にはいかない・・」というのです。ご承知のとおり、政府専用機は航空自衛隊に所属します。ちょうど南極観測船「しらせ」が海上自衛隊に属するように・・。

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でもエジプトは反政府活動が激しくなっているだけで国際紛争が起こっている訳ではありません。旅客機が飛ぶ上で懸念される危険はないのですが、政府は珍妙な理屈を並べて、専用機を飛ばさないようです。

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そもそも、民間では危険な紛争地域だから自衛隊の出番があるのです。それなのに、紛争地域だから自衛隊は行けない・・というのは、矛盾の自家撞着ともいうべきもので、濡れるから使ってはいけない雨傘みたいなものです。

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山本五十六は「百年兵を養うは何のためか?」と問いかけています。軍隊が存在するのは、無論、有事においては国家を守る為ですが、平時においては在外邦人を保護救援することも軍隊の任務です。米国などは、アフリカで誘拐された一人の婦人を救出するために砲艦をモロッコに派遣したこともあります。なに?自衛隊は軍隊ではないと?吉田茂は、自衛隊を「戦力なき軍隊」と規定していますよ。

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ともかく、日本政府は、自衛隊を“やうなきもの”にしたいようです。それに加えて、皇族や首相クラスが利用する専用機に、下賤の民を乗せたくないのかも知れません。あるいは燃費の悪い政府専用機を使いたくないのか? でも鳩山前首相は、小型のビジネスジェット機でも十分に行ける韓国の済州島に、夫人同伴で政府専用機ででかけました。ご承知の方もいるでしょうが、政府専用機は2機でペアになって飛びます。 その彼が、地球温暖化対策として鳩山イニシアチブを語るのですから、こんな皮肉はありません。

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今回、日本航空がジャンボ機を引退させるのに伴い政府専用機も引退するそうですが、在外邦人救助に使えない専用機など、もっと早く引退させるべきだったのです。これからは、VIP用にはグローバルエクスプレスを用い、邦人救助用にはB-777か、新しく登場する三菱MRJまたは、航空自衛隊のC-XC-2)を使用すべきでしょう。

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もうひとつ懸念する事があります。チャーター機になぜエジプト航空を使うのか?日本政府は、エジプトが危険だから邦人を助け出したいと考えます。しかしこの事はエジプトに国籍を持ち、エジプトから脱出できないエジプト人には愉快な話ではありません。日本政府にはデリカシーがないのか?

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それにエジプト航空は奇妙な会社です。安全成績は悪くありませんが、自殺願望の機長が飛行機を墜落させるという前代未聞の事件を起こしています。もっとも日本航空も飛行中にエンジンを逆噴射させた機長がいましたが・・。

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日本のエアラインもダメ、政府専用機もダメ、そしてエジプト航空も感心しない・・となると、ではどうしたらいいのでしょう?オヒョウなら、ここは預言者に頼ります。白ヒゲで杖をついた白衣の人に、導いてもらって、エジプト脱出を図るのです。たちまち紅海の水は割れて、日本人は歩いてシナイ半島に渡れるでしょう。

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そう言えば、日本航空のパイロット達が訓練したアメリカの基地にモーゼスレイクという場所がありました。乗客を導き救う責任を持つパイロット達に、モーゼの名は適していると思いますが、今の日本航空には、その様な硬骨漢はいないようです。 

政府専用機と同様、今の日本航空もいらないかも・・。


【 飛行機と携帯電話、GPS 】 [航空]

【 飛行機と携帯電話、GPS 】

今から10年以上前ですが、小型の飛行機に乗った際、携帯電話の電源が入っていて注意された事があります。 デンマークのコペンハーゲンからオデンセという造船所のある島まで、小型の飛行機で移動した時です。乗客はオヒョウと日本からの出張者の二人だけ。

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飛行機は、誘導路へ向かって、タキシングを開始しましたが、なにやら操縦士が首を傾げます。やがて副操縦士が席を立って、オヒョウの方に近づくと「セルラーホン?」と話しかけてきました。アッと気づいたのですが、オヒョウは携帯電話の電源を入れたまま、コートのポケットに入れて、頭上の荷物棚に入れていたのです。

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早速取り出し電源を切り「うっかりしていました。アイムソーリ」とペコリと頭を下げると、副操縦士は安堵した表情で操縦席に戻りました。

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その事で、飛行機内の携帯電話が、通信機器や計器類に影響を与える事は理解できたのですが・・・、果たして、携帯電話は飛行機内で通じるのか?

普通、金属で周囲を囲った空間内は電界がゼロになり、外界の電波は入ってきません。例外は開口部である窓ですが、そこからどれだけの電波が入ってくるか・・という問題です。 当たり前ですが、可視光線も電磁波の一種です。窓があれば、機内も明るいですが、窓を全て閉じれば機内は真っ暗になります。それと同じ事で、窓がある以上、携帯電話が使えるかも知れません。

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そう言えば、飛行機が着陸してゲートに着き、シートベルトを外すと同時に携帯電話で話し始める人がいます。とういうことは、機内でも携帯電話は通じるようです。

そしてハイジャック事件が起こる度に、機内の情報が乗客の携帯電話から知らされます。そのなかで、もっとも悲惨なのは、9.11同時テロの際のエピソードです。

多くの乗客や客室乗務員からの携帯電話の通話が記録に残っていますが、詳しくは西川渉氏の「航空の現代」に紹介されています。

http://www2g.biglobe.ne.jp/aviation/sonotoki04.html

機内からの携帯電話は頻繁にかかりましたが、高度が高い時はかかりにくくなったようです。

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やはり、窓から電波が入り、通話できたのでしょうか? そうすると従来の旅客機より窓が大きく、複合素材の比率も大きいB-787ドリームライナーは携帯電話がさらに通じ易くなるはずですが、確認方法がありません。

勿論、機内での携帯電話の使用は禁止されていますし、第一B-787は何時日本の空を飛ぶのか見当もつきません。

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そこで他の電子機器で、電波が受信できるか確認してみることにしました。但し、ラジオなどの機器は使用が許可されていません。だからGPS腕時計を使ってみる事にしました。

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オヒョウの持つオモチャの中にGPS腕時計があります。これはサイクリングやトレッキング、登山などを行う人の為の時計で、目的地の座標を入力しておけば、常にその方角を時計に示したり、移動したコースをトレースして、パソコン上にその軌跡を図示して各区間の平均速度や所要時間、高度などを示す機能を持っています。 その情報はGPSで得られます。

今回は大晦日に小松から成田に飛ぶ飛行機で、GPSの衛星電波を機内で受信できるかを確認しました。

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機体は、ボンバルディアCRJ-100で窓の小さい飛行機です。


CRJ-s.jpg

飛行機は、小松から南下して、愛知県の蒲郡で渥美湾に出て、東に向きを変え、浜名湖上空を経て、石廊崎、大島を経て、房総半島を横切り、九十九里浜から成田空港のC滑走路に着陸しました。

gamagoori-s.jpg

 蒲郡上空です。

hamanako-s.jpg 浜名湖上空です。

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しかし、パソコンでGPS時計の記録を見ると、少し違います。

岐阜県の上空からいきなり、九十九里浜の横芝まで真東に移動しています。平均速度は時速700Km超で、これは実際の速度とそれほど違いません。

GPS軌跡1.jpg

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ではなぜ、実際のコースとGPSのデータは異なるのでしょうか?

これは、多分、岐阜県上空でGPS電波を受信できなくなり、九十九里浜上空で、受信状況が回復したため、GPSでの軌跡では、その間を直線で結んだのです。つまり飛行機が東向きに飛行した間、進行方向右側(南向き)の座席にいたオヒョウは電波を受信できなかったのです。

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GPSの原理について、詳しく述べる余裕はありませんが、理論的には同時に3つ以上のGPS衛星からの電波を受信できれば、地球上の位置を特定できます。そして同時に受信できる衛星数が多いほど、位置精度が正確になります。 同時に受信できる衛星数が2つ以下ではデータは表示されません。 今回は、飛行機の窓から3つ以上の衛星電場が受信できた場合と、2つ以下だった場合の2種類に分かれ、飛行機の進行方向で異なった事が確認できました。

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今、GPSは至る所で使用されています。カーナビもそうですし、建設機械の位置特定や子供の道草トレースにも使われています。しかし、本来の用途以外に使用する事はしばしば危険です。

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かつて、軽飛行機を操縦するパイロットが、航空機用ではなく自動車用のGPSナビを操縦席に積んで夜間飛行し、九州の山地に激突した事があります。事故原因は、自動車用のGPSナビの画面が明るすぎ、点けたり消したりしながら飛行した為に、位置を見誤った・・というものです。

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オヒョウは、問題はそれだけではないと思います。 自動車用のGPSナビは基本的に2次元です。 航空機用は当然ながら3次元です。そこに誤差要因があります。

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ちなみに、オヒョウのGPS腕時計には高度の表示もあります。自転車乗り用のこの装置になぜ高度表示があるのか、よく分かりません。

そして通勤時以外は自転車に乗らないオヒョウにこの時計が意味を持つのかも分かりません。

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そして飛行機内でこの種の実験をする事が許されるのかどうかも、よく分かりません。


【 JALのリストラ その2 】 [航空]

【 JALのリストラ その2 】 
30年以上前ですが、造船不況のころ、M重工神戸造船所は、大量の現業社員をリストラしました。正確にはその頃はリストラという言葉はまだなく、解雇した訳です。溶接などで特別の技能を持った人は、他にも就職口はありますから、いくばくかの退職金を手にM重工を離れました。それから2,3年後、景気が回復し、造船業界が活況を呈すると・・今度は、技能者が足りません。人事課長が、退職者の住所録を手に、自ら解雇した人に会社へ戻るよう呼びかけましたが、多くは帰ってきませんでした。 
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帰ってきたのは、どちらかというと、他では通用しない人たちで、有能な人たちは、自分を解雇した会社に帰るほど、お人好しではありませんでした。 
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企業は、好況・不況を繰り返すたびに、人が減ったり増えたりします。増減の結果、元と同じ人数になっても、会社が同じに戻る訳ではありません。 必ず人材の質は低下します。 
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経営者が無能であれば、おのずと良質な部下は離れていき、無能な部下だけが残ります。類は友を呼ぶ・・とはちょっと違いますが、無能な人の元にはどうしても無能な人が残ります。 
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M重工の場合、一度解雇した人を呼び戻すのなら、人員削減を決定した経営者が自ら各家々を回って声をかけるべきだったのでしょう。 人事課長まかせにするようでは・・・ 
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JALの場合も同じでしょう。 将来パイロットが足りなくなった時、整理解雇した乗務員に声をかけても、戻ってこないかも知れません。ではどうするべきか? 
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JALは人材派遣会社を設立し、余剰人員を出向させればいいのです。この中には、パイロットだけでなく、高度な技術を持った整備士、洗練された接客技術を身につけた客室乗務員も含みます。出向した人と残る人の間に、待遇格差や差別があってはなりませんから、出向差額は当然JALが負担します。 会社にとってはその分が持ち出しですが、割増退職金を払う事を考えれば合理的です。それに、残る人も出向する人もさらに派遣される人も、一律給料は削減すべきでしょう。 
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社員の出向・派遣には、低コストで社員を留めておくこと以外のメリットもあります。派遣先は、ライバルとなりうる航空会社が主体ですから、ある意味で、JALはライバル会社に影響力を持てる様になります。それに出向した人は、他社の合理的な面や優れた面を見て刺激を受けます。その経験は、出向復帰後JALを改革するうえで、必ず役に立つはずです。 
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そもそも、日本は米国などと比べると、航空会社の数もパイロットの数も少ないのです。 それぞれの会社が独自に養成し、自社の社員として抱えるのは合理的とは言えません。かねてからオヒョウが考えるのは、パイロットのプール制で、パイロットは、全員エアライン連合に籍を置き、必要なエアラインが、そのプールからドラフトで人を選んで借り受けるという方式です。
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他社の社風が刺激になる・・という前言とやや矛盾しますが、パイロットに求められる仕事は、会社が変わっても同じです。同じ機種の旅客機(エンジンは違うかも)で同じ路線を飛ぶならば、行う仕事は同じです。安全を最上位に置く、価値基準も同一です。 極端に言えば、会社が変わってもその日から仕事ができるのが、本当の専門職です。 
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パイロットのプール制は難しいとしても、その前段の出向・派遣は現実味のある対策です。 派遣労働は、法律の改正で規制が厳しくなる見込みですが、従来から高度な専門職である同時通訳などの派遣は認められており、パイロットもそれに準じる扱いを期待できます。 
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オヒョウは経営破綻した会社の技術者達が派遣会社を作って活躍している例を知っています。 新潟県のメーカーだったガタ鉄こと、新潟鉄工は放漫経営で倒産しました。決して技術者達の能力不足で会社が倒れた訳ではありません。 倒産後の同社は、事業分野別に生体解剖の様に分割され、かつてのライバル会社に吸収されました。しかし、会社にとどまった技術者達もいます。彼等は技術コンサルタントとして派遣会社に属し、多くの新潟県の工場で活躍しています。 地元企業の中には、ガタ鉄の技術者を雇用するだけの体力はなくても、彼等のノウハウをほしがる会社は多かったのです。旧ガタ鉄の背番号を背負った派遣の技術者達は新潟で高く評価されています。 
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無能な経営者の為に、会社が左前になったり倒産するというのは、よくあることです。その為に、リストラの憂き目にあう技術者や専門職の人は、それで卑下したり、自信を失う必要はありません。でも会社の倒産は自分達の能力不足が原因ではないことを証明する必要があります。 その為には、自分の実力が社外で通用し、評価されるものであることを示す必要があります。自分達で派遣会社をおこすことはいいアイデアです。 
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だからJALにも、他の会社で通用する技術を持った人達がいるなら、彼等をプールして、派遣社員として活用する方法があります。いつかJALにとって彼等が必要となった時には、自社の仕事に復帰すればいいのです。  
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仮にその機会がなかったとしたなら、つまりJALの再建がうまくいかなかったら、JALは給与水準を大幅に下げ、純粋な人材派遣会社になればいいのです。 つまりパイロットや整備士、客室乗務員を繁盛しているエアラインに貸し出して、そのギャラをピンハネする会社になればいいのです。 
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その時は、会社のロゴマークを鶴から鵜に替えるべきでしょうね。つまり、パイロットは鵜になり、会社は鵜飼になるのです。鵜というのも辛いですが、飛べない鳥キウイになるよりはましかも知れません。

【 JALのリストラ 】 [航空]

【 JALのリストラ 】 
再建中の日本航空のリストラが本格的になってきました。既にJALの象徴とも言えた、ジャンボジェット機の全機引退が今年末に迫っています。そうなるとパイロットはどうなるのだろう?と無関係なオヒョウも気になります。 ご承知の通り、旅客機の操縦士は一機種一免許ですからB-747の操縦士がそのまま、他の飛行機を操縦できる訳ではありません。 
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機種転換訓練を受けていて、他の飛行機を操縦できる人なら転換できますが、そうでない人は、地上職に回るか、退職する事になります。そう思ったところで、JALがとうとう指名解雇を行うとの記事が新聞にでました。

新聞各社が報道していますが、特に朝日新聞は、詳細を複数回にわたって記事にしています。朝日新聞の記事ですから、組合の肩を持っていて、会社の仕打ちのひどさを多少誇張している面はあるのかも知れません。それでも、突然、フライトの予定が真っ白になった勤務スケジュールを渡されて、退職を迫られる・・・というのは、かなり過激です。 ただ、高給取りであったパイロットがローンを抱えて路頭に迷う・・と訴えても、世間の視線は冷ややかであまり同情されていません。 同情しているのは朝日新聞だけかも知れません。 
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それにしても、会社再建のプレッシャーの中、手荒な事をするとは予想していましたが・・・。これは利口なやり方なのか? 実はおおいに疑問です。 
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パイロットや客室乗務員の業務量は、フライトの便数に正比例します。だから不景気で減便すれば、たちどころに人が余ります。だから、ただでさえ整理したいところにもってきて、会社再建中となれば、解雇による人員削減はやむをえないところです。 
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航空会社だけではありません。全ての企業は、労務費の硬直化を恐れます。 可能であれば、本来固定費である人件費を変動費化したいと考えるのが、経営者の常です。 自民党政権下での規制緩和と、その結果である、派遣などの非正規雇用の増加は、その経営者の意向に沿ったものでした。しかし、果たしてそれが正しかったかは議論の余地があります。労務コストを直接コストとして変動費化するのは、実は合理的な様でそうとは限りません。 
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第一に、パイロットの育成には時間がかかります。 将来不足した時にすぐに補えるものではないのです。足りなくなった時に慌てても遅いのです。 
第二に、パイロットの育成には、莫大なお金がかかっており、リストラされるパイロットの中には、会社がそのコストを未回収の人もいるはずです。その分は会社の損害になります。 いや、会社だけでなく国家の損害です。 
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国家の損害とは、ちょっと大げさな言い方ですが、国の費用でパイロットになった人を飛べなくするのは、もったいないのです。通常、エアラインのパイロットになるには、3種類の方法があります。 
1.国立の航空大学校を卒業する方法。 
2.エアラインに入社後、自社養成でパイロットになる方法。 
3.自衛隊のパイロットが途中入社する方法。 
この他に、最近は、自費で事業用操縦士の免許を取った人が、採用される場合もあります。 
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問題は、1.と3.で、それぞれ国費でパイロットを養成しています。自衛隊の場合と航空大学校では違いますが、それぞれ免許を取るまでにひとりあたり、数千万円~億の単位の税金が使われています。その人たちを飛ばないアヒルにしていいのか? 
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国費で養成した専門職が簡単に辞める問題は、パイロットだけではありません。 防衛大学校を卒業した学生が任官拒否する問題。国立大学の医学部を出た女医が若くして、結婚・出産・育児で医療現場を離れる問題等、たくさんありますが、JALのパイロットの場合は、個人の意思ではなく、会社都合なのでより大きな問題です。 
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再建途中のJALは、既に自社養成のパイロット育成コースを廃止しており、今後は航空大学校卒業生か自衛隊からの「割愛」に期待します。つまり国費で育ったパイロットに頼ろうというのです。 それを簡単に解雇するのはいかがなものか? 
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そもそも、JALもANAも人事採用について定見がなさすぎます。つい数年前に団塊の世代の機長が60才になって大量退職するため、パイロットが不足するといって大騒ぎしていました。 
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今度は不景気ゆえのリストラですが、これからは大型機を減らして、小型機をたくさん飛ばす事になります。 同じ数の客を運ぼうとすれば、便数を増やす必要があります。 つまり、パイロットを増やす必要があります。JALもANAも今のビジネスモデルの限界を感じて、子会社にLCC(格安航空会社)を持とうとしています。 その場合、新たに多くのパイロットを雇う必要が生じます。 
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一旦、解雇して失業者にした後、再雇用するのでしょうか?実はそのようなみっともない事をする会社があります。 
以下次号

【 宇宙空間のタッキング その2 】 [航空]

【 宇宙空間のタッキング その2 】 

ヨットにお乗りになる方はご存知ですが、向かい風でも、ヨットは前に進む事が可能です。間切るという走法で、向かい風に対して、斜めにジグザグに船を進めれば、追い風に比べると非効率ですが、少しずつ前に進みます。

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オヒョウが子供の頃読んだ、アーサーランサムの「ツバメ号とアマゾン号」の出だしは、主人公の少年が、坂道をジグザグに走りながら下りてくる場面から始まります。これは間切りのイメージトレーニングだったのです。間切りは英語で言えばタッキングです。

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では、太陽光の光圧で飛ぶ「イカロス」も間切りを行えば、金星や太陽に近づけるではないか?と思いますが、そうは行きません。ヨットで間切りが可能なのは、センターボードまたはキールで水の抵抗を受けるから可能なのです。宇宙空間では、水の抵抗がありません。

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ではどうするのか? 回答は毎日新聞に出ていました。http://mainichi.jp/select/wadai/graph/2010akatsuki/26.html

これによると、太陽光の圧力を受けてブレーキをかけるようです。地球と金星間を飛ぶ宇宙船も、惑星軌道上を飛びます。つまり太陽の周囲を公転しています。 だからブレーキをかければ、遠心力が弱まり、太陽からの引力で、落下(つまり太陽に近づく)します。それを微妙に制御して金星に接近するというアイデアです。なるほど、それなら帆に受ける、僅かな推進力が役に立ちます。

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原始的ですが、素晴らしいアイデアです。同じ光圧を利用するロケットでも、光速付近で飛行するゼンガー博士の光子ロケットとは、全く違う世界です。

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しかし、いかにブレーキ力として活用したり、間切rを利用するにしても、向かい風の中の推進は非効率です。本来、太陽光を受ける帆船は、追い風で飛べる方角・・つまり外惑星(地球の外側の惑星)に向かうべきです。 その場合、太陽からの距離が遠ざかるにつれて、その2乗分の1で推進力が衰えます。これは「ハヤブサ」のような太陽電池方式でも同じですが、原子力電池を使わない、日本の宇宙船の難しいところです。

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追い風の中を走る場合でも、帆の向きを転換する事があります。ジャイビングまたはジャイブという動作です。

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メキシコで大変お世話になった、M物産のSさんはヨットマンでもあります。彼の話では、ヨットを操船していて一番面白いのは、ジャイブをする時だそうで、細心の注意が必要だけれど、順風の中を帆走中に、追い風をはらんだセールが高速で旋回する豪快さは、まさに醍醐味だとの事です。

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逆風の中で方向転換するタッキング、順風満帆の中でセールを反転させるジャイビング、中年になってからの転職にも2種類あります。オヒョウの場合、今回の自分の転職がタッキングなのかジャイビングなのかよくわかりませんが、自分の生き方を考えて、いつもアゲンストの風の中を歩いている人生もまた可なのではないか・・と自分で納得します。 

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何億キロの彼方を、逆風の中で航海する「イカロス」をちょっと応援したくなります


【 宇宙空間のタッキング その1 】 [航空]

【 宇宙空間のタッキング その1 】

太陽光を受けて宇宙空間を飛ぶ凧・・というより、宇宙ヨットというべき人工天体「イカロス」が金星に向かって飛行しています。

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感動的な「ハヤブサ」の帰還を受けて、この「イカロス」も注目されています。毎日新聞によれば「イカロス」には日本独自の技術が多数盛り込まれており、アメリカが過去に3回失敗した実験に成功していたとの事です。http://mainichi.jp/select/science/news/20100708k0000e040029000c.html

具体的には、巨大な帆を広げて大面積で太陽光を受ける実験ですが、帆を広げる手法として日本の折り紙の技術が応用されているとの事です。 しかし、これは今に始まった事ではありません。 昔から人工衛星の太陽電池パネルの折り畳みと展開技術に関しては、日本が一番です。人工衛星に応用された畳み方ミウラ折りは特に有名ですが、今回は使用されていません。

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一方、米国などは下手くそで、その昔、スカイラブという宇宙研究室を作った時も、太陽電池パネルの伸張に失敗して、電力不足とキャビン温度の上昇に悩まされたそうです。

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折り紙の研究は一種の幾何学ですから、数学者がするのかな?と思うとそうでもないようです。 物理学者の伏見康治氏はライフワークとして折り紙の研究を続け、その内容を科学朝日に連載していましたし、ミウラ折の三浦教授も宇宙工学の研究者です。

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折り紙の話はさておき、今回の太陽光線を受けて飛ぶ宇宙船には不思議な事がたくさんあります。

1. 太陽光の光圧で、推進力が得られるか?

光速で飛ぶ光子に運動量があることは昔から知られており、それを推進力に用いる光子ロケットも、ゼンガー博士によって唱えられています。しかし、作用反作用の原理を考えると、噴射エンジンは、噴射物の速度が物体の速度に近い場合に最も推進効率が良くなります。だから光子ロケットは、ロケットが光速に近づいた状態でなお加速する場合に有効であり、光速よりはるかに遅い「ハヤブサ」や「イカロス」では、噴射速度の遅いイオンエンジンやプラズマエンジンの方が高効率です。

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つまり太陽電池で発電しイオンエンジンを駆動する「ハヤブサ」型の方が高能率です。

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日本では原子力電池を人工衛星に使わないので、どうしても大面積の太陽電池を利用した電力発生装置が必要ですが、それをも廃して太陽光を直接推進力にしようという訳で、発想は奇抜ですが、推力は十分なのでしょうか?

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2. 光圧よりも太陽風の風圧の方が高くないか?

太陽風は、太陽からのプラズマで、彗星の尾が太陽と反対方向へなびくのも太陽風のせいです。「イカロス」が帆で受ける圧力も、太陽光の光圧よりも、太陽風の風圧の方が高いはずで、推進力としてもそちらの方が強いはずです。 しかし問題は真空中で強いプラズマを受ける事で、薄い膜なら損傷を受ける可能性があります。「イカロス」の帆は本当に大丈夫なのか・・?素人ながら不安です。

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3. 向かい風の帆船操作は難しいか?

最大の不思議は、向かい風に向かって「イカロス」は飛べるか?という事です。目的地の金星は内惑星(つまり地球の軌道の内側の惑星)です。従って、厳密には太陽の方向に向かって飛行することになり、太陽光は逆風になります。 それでどうやって推進力を得るのか?

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金星の軌道は楕円であり「イカロス」が到着するのは、金星軌道が一番地球の軌道に近づいたタイミングになります。 「イカロス」は公転軌道に沿って飛行するから、 ほぼ太陽を真横に見た状態で飛行する事になりますが、それでも地球の内側に行くのは、方向が逆です。

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ではどうするのか?それについては、次号で申し上げます。


【 ベイルアウト その2 】 [航空]

【 ベイルアウト その2 】 

飛行を続けられない機体から緊急脱出する事をベイルアウト(Bail Out)というそうです。もともとの意味は、倒産しかけた企業に銀行が緊急援助する事らしいので、どうしてそれが緊急脱出の意味になったのかは不明です。

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高速の飛行機の場合、パイロットが自分で風防を開けて、操縦席から這い出すのは無理ですから、火薬で風防ガラスを吹き飛ばし、さらに座席の下のロケットエンジンで、座席ごと操縦席から発射します。そうしないと、風圧で尾翼に衝突したりするからです。 その機能がある座席を射出座席 (ejection sheet) といい、その性能はいろいろです。助かる為に射出するのですが、なにせロケットで撃ち出すのですから乱暴です。サーカスで演じる人間大砲よりも、ずっと凄まじい衝撃です。だから助かっても、全身打撲や骨折で重傷を負う事もありますし、風防ガラスに当たって死亡する場合もあります。

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だから、パイロットにとって、射出座席のロープを引くのには勇気と決断が必要です。 しかし、多くのパイロットの場合、自分がさらされる危険よりも、もっと重大な事を考えます。

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1.今脱出すれば、自分が助かる可能性は、増大する。

2.一方で今脱出すれば、必ずこの機体は墜落し、失われる。

3.そして今脱出すれば地上に被害が出る可能性は少なからずある。

4.脱出せず、機体の回復に努めた場合、自分と機体が助かる

 可能性は本当にないのか? 

 回復の可能性はないと断言できるか?

5.今、脱出せず、機体の回復に努めれば、可能的に存在する

 地上の被害を食い止められないか?

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パイロット達は、緊急事態の操縦席のごく短い時間に上記の5点を考え、結論を下します。 これは射出の衝撃にも等しい大きなストレスです。日本の自衛隊機の場合、脱出しても死亡したパイロットもいますし、助かってもパイロットには戻れない人が過半数だと言います。

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事故の後遺症で肉体的に操縦に耐えられないという事もありますが、ベイルアウト時のストレスが負担となった場合もあるようです。

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考えてみれば、この種の経験は自衛隊機のパイロットだけではありません。 危ない・・と思った時、自分だけ脱出する人は、他の世界にもいるのです。しかも、何のためらいもなく・・・。

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商工ファンド(SFCG)の経営者だった大島某は、SFCGの倒産前に会社の資産を隠匿した可能性が指摘されています。そして、彼とグルであったろう日本振興銀行の木村某も、銀行が赤字になると、問題表面化の前に逃亡しています。 日本振興銀行は銀行という名前ですが、街の金融業者相手の卸金融を生業とする銀行で、高利貸しの元締めです。貸金業改正で、彼らの仕事が成立しなくなると見込んでの、早めの脱出ですが、債権者や、高利貸しの不当な取り立てに苦しんだ被害者は置き去りです。

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飛行機に例えれば、F4ファントムの後部座席にいた木村剛がベイルアウトし、次に前部座席にいた大島健伸がベイルアウトしたようなものです。あとは機体がどこに墜落しようが構わない・・という事になります。

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あれ? ベイルアウトの本当の意味は銀行からの緊急融資だったのに、いつの間にか、経営者の責任逃れの意味になってしまいました。

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ところで全くの余談ですが、射出座席で最も高性能なのは、ロシアの会社の製品だそうです。一説では、総理官邸の首相の椅子にそれを採用したいという声があるそうです。 総理の仕事が嫌になったら、ロープをひけばいいのです。すぐに飛び出せます。 

そうです。後の心配はしないのがベイルアウトのルールです。


【 沈みっぱなしの太陽 その1 】 [航空]

【 沈みっぱなしの太陽 その1 】 

JALの経営再建が、うまく行っているように見えません。 希望退職と路線縮小・撤退はそれぞれ、内容が明確になりましたが、それだけで業績がV字回復とはならないでしょう。 希望退職者が具体的に何時会社を離籍し、何時から経理上の改善効果が現れるのかが流動的ですし、地方路線の撤退についても、自治体や行政の猛反発が予想されますから、簡単にはいかないでしょう。

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稲盛氏というカリスマ経営者をトップに据えたのは、商売人の感覚が希薄な社員の意識改革をするためでしょうが、稲盛氏の発言を聞くと、いまだ評論家的な感覚で、日本航空の責任者という自覚がないみたいです。

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そもそも、稲盛氏は事業の縮小撤退に手腕を発揮する殿軍の将軍には向いていません。どちらかと言えば、進軍の先頭に立つ将軍です。

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そしてなにより日本航空の再建は、不採算路線や不採算事業から撤退・縮小すれば、採算が改善して均衡するという単純なものではありません。輸送事業には、基本的にスケールメリットがあり、事業規模が大きい方が採算がよくなります。事業規模が大きく、カバーする地域が広ければ、お客の利便性はよくなりますし、本社費用などの負荷が小さくなるからです。

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事業規模を縮小する事は、現時点でやむをえない事ですが、それだけやれば事足りるという話ではありません。

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ではどうするか?例によってオヒョウの無責任な提案ですが、対策はあります。同社の改革では、昔の国鉄分割民営化の手法が参考になります。

1. キメの細かい経営を実現するために企業を分割する。

2. ありとあらゆる手段を用いて有利子負債を圧縮する。

3. ドル箱路線を確保する。

4. 希望退職募集ではなく、社員を一旦解雇して再雇用する形にする。

5. 複雑な割引や安売り、無料チケットの配布は最小限にする。

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1.の事業分割については、別稿に譲るとして、2.3.4.5.の理由について、少し触れます。

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2. 有利子負債の圧縮

企業経営が左前になると、どんどん借金が増え、稼いでもお金が利払いに廻って、財務体質強化が実現できなくなります。 ここは日本航空が持つ航空機や不動産を国が買い上げ、リースの形で日本航空に貸し出すのが適当かも知れません。 一種の税金投入ですが、同社のキャッシュフローを改善できます。 そして機材のリース化は、旧式のジャンボを新型機に更新するためには適切な手段です。 燃費が悪く、シートマイルコストの高い機材を使用していては、会社の再建はできません。JRの民営化でも、長期負債を清算事業団が引受け、分割された各社には、多くの新しい車両が与えられました。

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3.ドル箱路線の確立

欧米のエアラインから見れば、日本航空の経営不振は不思議かも知れません。だって、札幌=東京線は、世界的にみてもっとも利用客の多いドル箱路線ですし、東京=大阪線や、東京=福岡線も非常に利用客が多い路線です。 しかも、エアラインは数社しかなく競争は米国ほど激しくありません。 それなのに、なぜ日本航空は赤字なのか?

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国鉄の分割民営化が成功だったかは、軽々に言えませんが、人々が鉄道事業に悲観的にならなくて済んだのは、JR東海が引き受けた東海道新幹線がドル箱だったからです。日本航空も同じビジネスを持つべきです。 

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具体的には・・・、エアバスA380SRタイプを注文し、全席エコノミーで1000人乗れる飛行機を、シャトル便にして飛ばします。ちなみに、SRとは(Short Range)の略で、ジャンボ機ボーイング747の日本の国内線仕様の名前です。 多くのお客を乗せて、短距離を飛び、高頻度で離着陸する様に特化しています。A380でも同様のものを作り、東京=大阪間を飛ばせば、ビジネスとして成立します。 ライバルとなる新幹線のぞみの乗客定員を約1500人とすると、その2/3の乗客を、1機に搭乗させるのです。それなら30分間隔で離陸しても満席にできます。

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シャトル便として羽田と伊丹を往復し、搭乗手続きは極力簡素化し、サウスウエスト航空の様に、座席予約システムは無くします。手荷物検査や金属探知検査を含めても、カウンター到着から10分以内に機内に座り、20分以内に、ボーディングブリッジが外れて離陸できる様にします。 そして片道の運賃をディスカウントなしで、一律15000円にすれば、必ず儲かります。 いや多分儲かります。・・・いえ、ひょっとしたら儲かるかも知れません。 あまり、自信はありませんが・・・。

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ドル箱路線を持ち、事業の将来に希望を見いだせなければ、会社の再建は失敗します。

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4.解雇と再雇用の形で労務問題を解決する。

どの会社でもそうですが、希望退職を募れば、優秀な人から辞めていきます。転職先も多く、条件もいいからです。希望退職で頭数の調整はできますが、残った人の平均レベルは低くなり戦力ダウンは免れません。そして、会社再建の阻害要因となる先鋭な組合活動家を排除する事はできません。 とるべき方法は荒療治ですが国鉄清算事業団方式です。日本航空の再建に役立つ人だけを再雇用するのです。

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5.割引切符やマイレージの無料切符の発行を最小限にする。

マイレージサービスは経営者にとって麻薬です。当座のキャッシュアウトなしに、お客に強烈なインセンティブを与える事ができます。マイレージサービスは、とりも直さず、将来のタダ券発行なのですから明確なコストであり、ツケを将来に回す事になりますが、それがあまり表に出ません。マイレージサービスを利用して、無料航空券で乗る客がいても、空席で空気を運ぶ代わりに人が乗るだけ・・・と考えて、コストを不当に軽視すべきではありません。

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パンナムが潰れた際、最後の頃は、乗客の1/3がタダ券の利用者だったと言われています。 そう言えばパンナムも日本航空と同様、ジャンボを多く飛ばしていました。

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稲盛氏がCEOに就任した際、経営再建の為に、相当の荒療治をすると予想していたのですが、今のところ、通り一遍の、人減らしと路線の縮小撤退しかしていません。きくならく、稲盛氏が主宰する団体に日本航空の割引優待券が配られていた・・・という事ですが、それではだめでしょう。

以下 次号


【 ジャンケンより先に殴り合え その4 】 [航空]

【 ジャンケンより先に殴り合え その4 】 

24時間空港のポスターを見ていると、別の人の話が聞こえてきました。関西新空港に出向する人材を社内公募しているとの話です。・・・製鉄会社から空港を運営する特殊会社に行って、すぐに通用するものだろうか?・・・

「 ああ、オヒョウ君は関係ないよ。 実は関西新空港へ出向するのは誰でもいいけれど、東大法学部の出身者でなければいけないのだよ。だって運輸省(当時)の人と渡り合うには、こちらもそうでないといけない」

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オヒョウは第三セクターにも、いろいろな種類があり、必ずしも半官半民の企業がうまくいかない・・とは思いません。でも大半は失敗します。特に、最悪の場合なのは下記の3つの条件が揃った場合です。

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1.官の方は、天下り先と考えている。実際、天下った人は仕事はしないけれど、国の金は持ってくる。

2.民の方も、余った中高年社員の押し込み先として、考えている。

3.プライドの高い官と、実務に長けた民が反目しあう。

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関空の場合、2.は該当しませんが、1.と3.は該当します。こんな第三セクターが黒字になるはずがありません。最新鋭の設備を持つ空港ですが、運営する組織はお粗末だな・・とその時、オヒョウは思いました。

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かつて官僚による支配を極端に嫌った日向氏ですが、半官半民の第三セクターが官僚支配よりもっとひどい状態を生み出し、自分が旗振りをした関西新空港がその象徴的存在になるとは思わなかったでしょう。

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関西新空港の建設に心血を注いだ、日向方斉氏の愛弟子である、新宮康男氏が、空港会社の初代会長になりました。 初代社長は御巫氏です。 そして関経連の会長で「ジャンケンしたら」と言った下妻博氏は、その新宮さんの愛弟子ですから、関空の事を悪く言えるはずがありません。

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懇談会の3人では、どれか一つの空港を廃港にする決断などできません。おそらく、三すくみのような状態で、赤字を垂れ流しながら、伊丹、関空、神戸の3つの空港は運営が続けられるでしょう。その状態はリニアモーターカーが、東京=大阪間を結ぶまで続く可能性があります。

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3つの空港が無駄だから、1つ減らそう・・という議論は簡単にはまとまりません。それなら外国の例は参考にならないでしょうか?

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世界の大都市をみると、3つ以上の空港を運営しているのは、ニューヨークとロンドン、ベルリン、モスクワの4つです。

ニューヨークは、JFK空港(旧アイドルワイルド空港)、ラガーディア空港、ニューアーク空港の3つの空港の役割分担が明確になって、それなりにうまくいっています。

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ロンドンは、ヒースロー、ガトウィック、スタンステッド、ルートン、シティの5空港に加え、バーミンガム国際空港もロンドンの空港に加えますから、合計6つの空港を持つことになります。

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ベルリンは、東西分断の時代の名残として、テーゲル、テンペルホーフ、シェーネフェルトの3空港がありますが、都市の規模に比べて3空港はいかにも多く、2空港に整理統合される予定です。

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モスクワの場合、計画経済の時代にできた3空港で、チェレメチェボ、ブヌコボ、ドモシェノボ空港ですが、ソ連崩壊後、3空港間の競争が激しく、老朽化の進んだブヌコボ空港は取り残されています。

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関西圏の人口規模、経済規模を考えると、ニューヨークやロンドン(グレーターロンドン)にはかないませんが、ベルリン(人口350万人)より大きくなります。 3つの空港が多すぎるか、それとも適当か・・・微妙なところです。

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つまり、3空港の効率的運用が可能なら、3空港とも存続できるが、それができないなら、ベルリンをお手本にして1つを廃港にするというのが現実的です。

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では、ニューヨークとロンドンはどうやって、3空港をうまく運用しているのか? ポイントは3点です。

1.1つの空港運営会社が、その地域の全ての空港を管理・運営しています。ロンドンでもニューヨークでも別々の企業が経営していたら、利害が対立して、絶対にうまくいきません。経営母体を単一にする事で効率的な運営が可能になります。

2.エアライン、あるいは利用者から見て分かりやすい棲み分けができています。 大手のエアラインの長距離国際便用、短距離国内専用、格安エアライン用、チャーター便用、或いは貨物機主体・・・という区分けが明確にあれば、それぞれの空港の存在意義がはっきりすると同時に、利害の対立も防げます。

3.運営母体は、自治体が出資した官営の会社ですが、独立採算を厳しく求められ、かつ天下り役人の幹部は、無給または薄給です。

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こうしてみると、関西の3空港の存続の議論では、上記の考察が全く欠落しています。 空港の赤字額だけに目が行き、どうやって黒字化させるかとか、どうしたら各空港の役割を明確にできるか・・の議論がなく、どの空港を潰すか・・というリストラ談義に、いきなりジャンプしています。

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オヒョウなら、ロンドン型(空港経営母体を統一して効率化し、各空港の役割分担を明確にする)の可能性を十分に検討し、それでだめなら初めてベルリン型(空港をリストラして2空港にする)の採用を決めます。

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実のところ、空港を2つにしても、効率的な経営を目指さず、無能な天下り役人がたむろする組織を温存するなら、問題は解決しないのです。

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本当に時間をかけて追究すべきは、ロンドン型の可能性です。それがだめで、ベルリン型と決まった場合に、どの空港をリストラ対象にするかは、実はそれほど本質的な問題ではありません。それこそジャンケンで決めてもいいのではないか?とオヒョウは思います。


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