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【 なぜ飛行船を使わないのか 】 [航空]

【 なぜ飛行船を使わないのか 】

西川渉氏の著作に「なぜヘリコプターを使わないのか」があります。災害や事故などの緊急時の搬送にヘリコプターが適しているのに、日本ではあまり利用されていない実態を、阪神・淡路大震災の例などを通して解説する本です。

この本が出された後に、日本は東日本大震災を経験しましたが、阪神・淡路大震災の時に比べて、ヘリコプターの利用は格段に進んでおり、この本の啓蒙効果はおおいにあったと私は考えます。 

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しかし、私にはまだ不満があります。 西川氏の向こうをはって、私が提案したいのは、「なぜ飛行船を使用しないのか?」です。

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いささか旧聞になりますが、数ヶ月前、東京で遊覧飛行の飛行船を飛ばしていた運航会社が経営破綻し、飛行船が解体されるというニュースがありました。

http://www.sankeibiz.jp/business/news/100709/bsd1007092051022-n1.htm

現時点で世界最大だったツェッペリンNTという飛行船が解体されたのです。

私にはとても残念なニュースです。

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ヘリコプターは非常に有用な航空機ですが欠点もあります。災害・緊急時の活用についてもヘリコプターの性能に限界があるため、難しい場合があります。

例えば、航続距離や滞空時間という点で固定翼機(つまり飛行機)に劣ります。

海上で遭難者を捜索する場合など、いかに長時間、その海域にとどまって探索できるかがポイントですが、燃料切れのために発見できないまま引き返さざるを得ない・・という事があります。 また悪天候や視界不良時に飛べない・・・という問題もあります。

(これは固定翼機でも本質的には同じですが)。 その他のヘリコプターの欠点と言えば、強いダウンウォッシュというか下向きの風、そして騒音、操縦の難しさ等です。

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一方、飛行船にはそれらの欠点はありません。

長時間、空中に浮いていられますし、ホバリングも勿論可能です。騒音もありません。

その代わり、速度は固定翼機やヘリコプターに劣りますが、それが致命的な問題になるとは限りません。

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東日本大震災の際、津波のために沖合に多くの人が家や自動車などと共に流されたと推定されます。 その内の幾らかは、海上でしばらく存命だったのではないかとも推測されます。 実際通りがかった漁船や巡視船によって救われた人がいます。

しかし、3月中旬の太平洋上では、そう長い間生きている事はできず、大半の人は落命して水に没した訳です。

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では津波の来る中、海上に浮かぶ人達をどうすれば効率的に救出できたか?

小型船舶は津波の危険がありますし、流木や浮遊物が障害になります。速度も限られます。 それに海面に近い高さから捜索しても、広範囲を探せません。 空から探す方が効果的です。

一方、ヘリコプターは有力な手段ですが、そう長時間飛べず、海上と陸地をピストン輸送しても能力に限度があります。 またヘリコプターの場合、あまり高度を下げると、その風がかろうじて浮かんでいる人に悪影響を与えます。

その点、飛行船なら長時間滞空し、沿岸の海上でくまなく遭難者の捜索が行えます。

日が暮れるまでその海域に留まり、救助した人は飛行船のキャビン内で応急処置が行えます。

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海上の遭難者探索だけではありません。地上にあっても孤立した病院などの屋上から入院患者を救出移動させる場合も、非常に有効です。

今回の震災では、ヘリコプターの窓から病院の屋上にSOSの文字を確認しながら、実際に病院に救助活動の手が及んだのはその数日後という例がありました。

自衛隊のヘリや消防のヘリは大忙しでしたし、報道機関のヘリはTV中継に用いるだけで、遭難者の救援は自分たちの仕事ではない・・とばかりに、孤立した人々を見殺しにしました。 病院に残された人達は、電気もガスも無い中、乏しい食料と医薬品を頼りに心細い日々を送らねばなりませんでした。

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もしそこに飛行船があれば、どうなったか?

被災地と、その外の避難先とを何往復もできます。昼も夜も飛べます。

多分、2,3機の飛行船があれば、2日以内に仙台平野に孤立した人々を運搬できたのではないでしょうか?

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つまり、東日本大震災の初動段階での救助活用には、飛行船が極めて有効だったのに、使われませんでした。

東京の遊覧飛行に使われていた飛行船が、なぜ東北の救援に向かわなかったのか、その理由を私は知りません。 もし、飛行船ならでは特長を活かした救援活動に思いが至らなかったとしたら残念な話しです。

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今回、飛行船運行会社の経営が成り立たなかった理由の一つは、高価なヘリウムガスです。 確かにヘリウムガスは高価です。でもガスの価格とは、単純なものではなく、その純度によって大きく異なります。 飛行船に使うヘリウムガスの場合、産業用のように高純度である必要はなく、混ざりものが多少あっても、浮力さえ確保できればいいのですから、安価調達する方法があったのではないかと思います。

具体的には、工場で使用した後に空間から回収したヘリウムを利用するといった方法です。

かつてヘリウムを用いた飛行船が登場した頃、ヘリウムの純度は85%程度だったらしいです。今、工業用ヘリウムの純度は99.9%程度であり、飛行船にとっては不必要に高純度でかつ高価です。

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あるいは、極論として、空気より軽い別のガスを探す方法もあります。

アンモニアはその典型ですが・・・その匂いを考えればあまり使いたくありません。

不燃性の別の希ガスを使う方法だってあります。 ネオンガスはかろうじて空気より軽くて浮力を持ち、無臭で燃えません。 だからネオンガスの飛行船も可能です。

もっともネオンをヘリウムの代わりに使うなら、何倍もの容積が必要ですし、価格的にネオンは決して安くはないので、運航会社の経営を助ける事にはなりませんが・・。

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話は脱線しましたが、工夫をすればヘリウム代を減らす事ができ、飛行船の運行は継続可能だったと、私は思います。そして、地震と津波の大災害で、ヘリコプターとも飛行機とも違う特長を活かして大活躍できたはずだと思います。

うーむ、ちょっと残念。

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では、これから日本の飛行船事業はどうなるのでしょう? 飛行船の特長の一つは、静かでかつ省エネである事です。 エンジンが止まってもすぐに墜落する訳でもありません。 実にエコでかつ安全です。 ひとっところに、長時間停止することも可能です。

それなら災害復旧現場に派遣して、いろいろな使い道が可能になります。

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今回、引退して解体されてしまったツェッペリンNTを改造する方法もあります。

例えば、飛行船の外壁(というより外皮)の上半分にフィルム型の太陽電池を並べて、ケーブルでつないだ地上の二次電池に電力を蓄えます。 夜は逆に飛行船が地上の電力を吸い上げ、照明で地上を照らし、復旧活動を応援します。

照明には勿論、軽くて省エネの発光ダイオード(LED)を使用します。

飛行船の名前は、勿論LEDツェッペリンです。


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