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【 台車亀裂事故 その5 】 [鉄道]

【 台車亀裂事故 その5 】

 

旧国鉄時代からのリニアモーターカー開発には伝説的なリーダーがいました。京谷好泰氏ですが、かれは車両の軽量化に心血を注ぎました。その感覚はゼロ戦の軽量化にこだわった堀越二郎に近いとされます。

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磁力で車体を浮上させ、高速走行させるのですから軽い方がいいのは当たり前ですが、京谷氏はあまりに「軽うせい、軽うせい」と指示することから、部下から「カルーセイ京谷」というあだ名を貰い、本人もそれを認めていたとか・・。

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軽くする・・と言っても設計者は魔法の杖を持っている訳ではありません。安全係数(安全率)を下げて、限界設計に近づけることになります。すなわち、重厚長大を旨とするSL型から軽薄短小の飛行機型の設計に切り替わったのです。

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普通の新幹線も300系以降は軽量化を急速に進めました。鋼鉄製の部品をアルミ合金に替え、設計を見直し、軽くすることで高速化と省エネを実現したのです。台車・・も当然軽量化を求められました。

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私が衝撃を受けたのは、山形新幹線つばさとして400系の新幹線が登場した時です(約25年前です)。台車をボルスタレスにして思い切って軽量化したのです。S友金属で実物を見た時、こんなに華奢な台車で大丈夫だろうか?と思いました。400系はミニ新幹線として、小型軽量で低速走行区間が長い訳で、台車の耐久性は東海道新幹線ほど要求されない訳ですが、一方で速度記録を樹立するなど高速対応型でもあります。

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鉄道の専門家に尋ねると、「鉄道も自動車と同じように、乗り心地を良くし、車体を安定させるためには、バネ下重量を軽くすることが有効」との事です。台車は厳密に言えばバネ上の部分も多いのですが、設計上、軽量化が歓迎されるのは理解できます。

その結果、新幹線もボルスタレス化し、軽量化を志向したのです。

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しかし鉄道車両がそれでいいのか?という議論は時々登場します。

東京の地下鉄東西線の電車が橋梁を走行中に突風にあおられて脱線転覆した事故の際も、軽量化が一因とされましたし、羽越線の特急いなほの脱線転覆事故でも、同じ議論がありました。しかし、高速化、省エネ化、低コスト化の声ですぐにかき消されます。

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意外にも、中国の高速鉄道は、台車の軽量化をあまり考えません。この国の高速鉄道が日本の新幹線とドイツのICEを元に開発されたことは事実ですが、自前の技術もあります。 中国人技術者は、時速350Kmの営業運転を実現するために、日本の新幹線の台車を元に、ボルスター(長枕の意味で、車軸を支える横板)の数を増やして、安全性を増した・・と強調していました。当然重量は増えるのですが、脱線の可能性は減ったと中国の資料に書いてありました。

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日本の新幹線と違い、ほとんど直線区間で構成され、曲率の大きなカーブが無い中国の高速鉄道でボルスターが必要なのか?という意見もありましたが、中国としては日本の新幹線のコピーと言われるのが嫌で、少しでも違う点を作りたかったのでしょう。

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でも私もこの点については、中国の考え方に賛成です。 車体や台車のいたずらな軽量化は危険だと考えています。日本のJRでは、特に振り子式の車両の場合、コロの下側の質量は大きいほどカーブで安定するはずです。

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そして機械設計の根本の問題ですが、材料の強度は、新材料の登場で上げることができます。しかし車体剛性はなかなか上げられません。 金属材料の密度とヤング率の関係が変わらないからです。 そして車体剛性が低ければ、疲労破壊の可能性は増します。 つまり台車のいたずらな薄肉化や小径化は危険です。

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今回の台車を製造した川崎重工は複合材料製の鉄道台車を開発したと、マスコミに発表しています。もちろん目的は軽量化ですが、複合材料の疲労破壊の研究は金属材料のそれに比べて遅れています。

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今回の台車亀裂事故の調査が済むまで複合材料の台車は凍結すべきではないか?と私は思います。

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では、今回の亀裂は本当に疲労破壊によるものなのか?という疑問にぶつかりますが、これは実際の破面を観察しなければなんとも言えません。

 

でも少しだけ、次報で申し上げます。


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