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【 丘を登り、山を下った男 その3 】 [イギリス]

【 丘を登り、山を下った男 その3 】 

山頂に何か人工の構造物を設けた場合、その分が標高に加算されるという話は聞いた事がありません。実際、山頂にケルンを積む例はよくありますが、ケルンの高さは山の高さとは無関係です。

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一方、海の場合は人工の構造物で、島の消滅を防いだ場合があります。有名なのは、太平洋の沖ノ鳥島で、波による侵食で島が崩壊するのを防ぐために、鋳鉄製のテトラポッドとコンクリートで島の周囲を固めています。製鉄所で製造する鋳鉄製のテトラポッドは普段あまり目にしませんが、南海の孤島で奮闘しているのです。

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もっとも、この沖ノ鳥島については、中国が 「人の住めない岩礁であり、しかも人工的手段を講じなければ消滅する存在は島とは認められず、日本の固有の領土ではない、日本が主張する周囲の領海、排他的経済水域についても認められない」と執拗にクレームしています。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100119-00000097-jij-int 

しかし、中国は西沙群島と南沙群島ではこれに似た存在を中国固有の領土と主張しており、全くご都合主義です。

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では天然自然の地形だけで、全てを決められるかと言えば、これにも危うさがあります。 例えば、近年まで続いたロシアと中国の国境紛争です。アイグン条約と北京条約に基づいて、黒竜江(アムール川)の中央を国境に定めていますが、この川、及び支流のウスリー川はしばしば氾濫して、流路を変えます。

流れが遠くに移動した時に、出かけていって国境線を引くという方法で、お互いに国境線の引き直しをしていった結果、国境紛争が絶えませんでした。

ウスリー川の川中島であるダマンスキー島(珍宝島)やアムール川のゴルジンスキー島では戦闘が起こっています。

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紛争にならないのなら、自然に手を加えても問題ないでしょう。オランダでは、海は神が造り、陸は人が造ったと言います。しかし、オランダ人も山までは造っていません。干拓地の多くは海抜高度がマイナスで堤防のお陰で冠水を免れているのは、周知の通りです。山を造成するどころではありません。国土で一番標高が高いのは山でもなく丘でもなく、人工の建築物の屋根だとの事です。もっともこれは、ドイツ人がオランダ人をバカにする時に話したのを聞いただけで、本当かどうかはわかりません。

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今後、地球温暖化が進めば、海面が上昇し、ツバルやモルジブは海中に沈むかも知れません。これらの国では、国土の最高点の海抜高度がマイナスになるというシャレにならない事態になる訳で、それこそ、国民総出で、土を積み上げ、国土を盛り上げる必要があります。 問題はその土をどこから持ってくるか・・・ですが。 

日本には堤防で島を守る技術もありますし、土で地面を嵩上げする事業も可能です。

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CO2削減も結構ですが、日本の土木技術で、輪中のような沈まない島を造るという国際貢献の方がよほど現実的です。しかし、鋳鉄のテトラポッドとコンクリートで周囲を固めたモルディブやツバルの島を中国が認めるかどうかは不明です。沖の鳥島の時と同じように、人工物は島として認めない・・と言い出すかも知れません。

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その時は、日本から島に土を運んで山を造りましょう。305mの高さまで積み上げ 「ほれみろ、コンクリートばかりではない。ちゃんとした山もあるぞ」と主張すればいいのです。 願わくは、測定にあたるのが物わかりのいい測量技師である事です。


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【 丘を登り、山を下った男 その2 】 [イギリス]

【 丘を登り、山を下った男 その2 】 

英国は、グレートブリテン島もアイルランドも、なだらかな丘の連続です。氷河による浸食もありますが、造山活動の老年期にあるために、山が低くなだらかになっているという事もあります。日本で言えば礼文島に近い地形と言えますが、勿論島の規模は違います。

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その中で、多少、険しい山があるのはスコットランドです。イングランドやウェールズとなると、鋭角的なピークを持つのは両者の国境にあるスノードン山ぐらいで、これはかろうじて標高1000m余の山です。

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話が脱線しますが、かつてエリザベス女王の妹であるマーガレット王女が宮廷写真家と恋におちいり、結婚する事になった時、王室はあわてて結婚相手となる平民の写真家に授爵しました。新設された爵位はスノードン卿で、数少ない英国の山の名前が用いられました。

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話を元に戻します。オヒョウの高校の恩師、樫本先生は「英国にはMountainは無い」と言われましたが、ではHillMountainの境目はどこか?というと、明確ではありません。 しかし、先日見た映画では明確に定義されていました。

その映画とは[The Englishman who went up a hill but came down a mountain (邦題:ウェールズの山)]です。この映画によれば、英国では標高305メートル以上が山、それ以下は丘という事になっています。つまりエッフェル塔や東京タワー以上の高さがあれば、山と言えるのだそうです。

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この映画「ウェールズの山」は、英国流の正統派の喜劇です。ドタバタ(スラップスティック)もコミカルな振り付けもありませんが、可笑し味に溢れています。ストーリーをバラしてしまうのも野暮なのですが、簡単に言いますと・・・、

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第一次大戦中の英国、ウェールズ南部、カージフ郊外の田舎に、ロンドン(イングランド)から二人の測量技師が来ます。村人が誇りとするフェノン・ガルウ山の標高を測定するためにです。測量技師らは測定結果が標高305mに満たず299mしかないため、これは丘であると宣言します。

村人たちは驚き嘆きます。たった6mの差で、彼らが誇りとする郷土の山が丘に格下げになってしまったのですから。 それに加えて、測量技師たちがイングランド人であった事が気に入りません。イングランド人がウェールズの事に干渉し、ウェールズには山はない・・・と宣言するなんて堪えられません。

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そこで、村人たちは、山頂に高さ6m分の土を盛り上げ、測量技師たちに再測量してもらおうとします。工事ができるまで測量技師たちを足止めしようと、自動車のエンジンに砂糖を入れたり、若い女性の色仕掛けで引きとめようとしたりします この作戦は瓢箪から駒で、本当の恋愛に発展するのですが・・・。紆余曲折を経て、最後に若い測量技師は、娘と丘に上って再測量し、これは山であると宣言して下山し、同時に婚約を発表します。

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ここで英国を4つに分けるそれぞれの国について簡単に説明します。イングランドもスコットランドもウェールズもアイルランドも、かつてはそれぞれに王を戴く国でした。今はそれらが連合した形になっていますが、実質的にはイングランドが、他の国を平定して吸収したようなものです。いまでもラグビーの5カ国対抗試合などでは、それぞれに独立国として扱われています。

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王室は一つにまとまりましたが、スコットランドとウェールズへの配慮が必要でした。 そこで、英国の元首である国王(女王)はイングランドを統治し、その配偶者はスコットランドを、皇太子はウェールズを統治する事になりました。だから英国皇太子はプリンスオブウェールズと呼ばれます。エリザベス女王の夫君フィリップがエジンバラ公というスコットランドの地名の爵位を持つのもそのせいかも知れません。

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しかし、ウェールズやスコットランドにしてみれば、イングランドに征服されたと言う思いは依然として強いのです。英国=イングランドなどと考えると、ウェールズ人は憤慨して訂正します。EnglishではなくBritishであると。

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しかし英語だけは、BritishではなくEnglishでいいと思います。スコットランドなどは、方言がひどくて、とても、同じ英語とは思えないからです。この映画に登場するウェールズの方言も、かなり強烈です。

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オヒョウは以前、月に一回、ロンドンからウェールズのチェスターに行き、更にイングランドのショットンに出張していた頃があります。ウェールズとイングランドの境界線を跨ぐ度に、運転手が冗談に「パスポートプリーズ」と言うのを何時も可笑しく聞いていました。しかし、そこにはオヒョウの如き異邦人には決して見えない、イングランド人とウェールズ人の間の壁があったものと思われます。

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丘の頂上に6m分の土を積んで山にしたウェールズ人と、測量技師に頼み込んで5m標高をごまかした剣岳の人の行為は、一見似ていますが、実は全く違います。

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映画「ウェールズの山」では、人工的に土を積む事で天然の産物である山の高さを変更する事の是非が議論されます。村一番のインテリである牧師と校長が激論を交わすのですが、結局、人が造ったボタ山も地図に載っているし、丘を利用した古代の墳墓も、そのままの高さが地図に載っているから・・・という事で人々は納得します。 数字をごまかしてくれ・・と頼む剣岳の人よりよほどまじめなのです。

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しかし、人工的に地形をいじってそれを地図に載せる事にも、それなりに問題があります。 それについては次号で。


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【 丘を登り、山を下った男 その1 】 [イギリス]

【 丘を登り、山を下った男 その1 】

 昨年「剣岳 点の記」という映画が公開され、マスコミなどでちょっと話題になりました。オヒョウがしばしば行く富山県でもこの映画が多く宣伝されていました。 オヒョウは新田次郎の原作を読んでいるので、この映画を観ていません。新田次郎は山岳小説或いは登山小説の分野で佳作が多いのですが、本人は登山小説として限定される事を嫌がったそうです。

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「剣岳 点の記」は、傑作ですが、それだけに映画化された時に、オヒョウのイメージと異なると幻滅するので、観ないのです。 一言だけ言えば、浅野忠信や香川照之はアルピニストの顔ではありません。本当の登山家はもっと素朴で厳しい顔をしています。特に、香川照之については、異論があるので、そのうち別稿で述べようと思います。

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「剣岳 点の記」は山頂に三角点を設置する話ですが、これについては、驚くべき話があります。 読者諸兄もご存知かと思いますが、標高が何度か見直されているという話です。

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オヒョウが子供の頃の地図には、剣岳の標高は3003mでした。それがある日、2998mに訂正されました。 その時読んだ北國新聞には信じがたい事が書いてありました。

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陸軍、陸地測量部の測定結果では、剣岳の標高は2998mであった。しかし、日本を代表する険しい名山が3000m峰でないのは、いかにも残念と、地元(馬場島?)から泣きつかれて、5m下駄を履かせて3003mと報告したというのです。戦後、国土地理院が5mもの誤差は放置できないとして、再測量して、2998mの値に訂正したとの事です。

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しかし、その後も何度か再測定され、直近のデータでは2999mだったとの事。レーザー光線を使った測量やGPSによる測量が可能な時代に、メートル単位で数値が訂正される事は、オヒョウには理解できません。なぜなら、剣岳は海岸からそう遠くない場所にあるからです。

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世界最大の誤測定事件といえば、チベット高原にある高山、アムネ・マチンを米国の測量隊が世界最高峰と報告した事件です。これはちょうど、中国共産党によるチベット侵攻(中国では解放と言いますが)と同時期に行われた測量で、測量隊は時間が無い中、逃げながらアムネ・マチンを測量し、再確認できなかったのです。

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そして誤測定のもうひとつの理由は、海から数千キロ離れたチベット高原であるため、海抜高度の基準点の計算が難しかった事です。海抜とか標高とか言いますが、正確にはジオイド面からの距離で山の高さを定義します。しかし地球は真球ではなく、ヒマラヤやチベット高原の辺りでは、地球は外側に膨らみ、ジオイド面は真球面からかなり高い位置にあります。従って、見かけ上よりも、アムネ・マチンの高さは低く定義されるのです。海岸の海抜高度ゼロの位置から、測定を重ねていく過程で誤差が累積し、測量隊はアムネ・マチンを実際より高く、算定しました。

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アムネ・マチンの地域には外国人(中国人でない人)は今もなかなか入れませんが、人工衛星やスペースシャトルからの測定で、アムネ・マチンは7000m峰である事が現在確認されています。

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海から数千キロも離れたアムネ・マチンの測量ミスは許せても、海岸から近い剣岳の測量にミスがあるというのは、許せません。重い三角点の石を運んだボッカの人達にも申し訳できません。まして地元の依頼で数字に下駄を履かせるなどあり得ない・・・。

こんな、お粗末な話は、世界中で剣岳だけだろうと思っていたら、他にもありました。 英国はウェールズの話です。

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え?ちょっと待った。英国には山(Mountain)はないと樫本先生は言っておられたぞ。 ましてグレートブリテン島の中でもウェールズは平坦な土地だし、そこで山の高さの話など・・・。 この不思議で面白い話は、次号で。


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