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【 丘を登り、山を下った男 その2 】 [イギリス]

【 丘を登り、山を下った男 その2 】 

英国は、グレートブリテン島もアイルランドも、なだらかな丘の連続です。氷河による浸食もありますが、造山活動の老年期にあるために、山が低くなだらかになっているという事もあります。日本で言えば礼文島に近い地形と言えますが、勿論島の規模は違います。

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その中で、多少、険しい山があるのはスコットランドです。イングランドやウェールズとなると、鋭角的なピークを持つのは両者の国境にあるスノードン山ぐらいで、これはかろうじて標高1000m余の山です。

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話が脱線しますが、かつてエリザベス女王の妹であるマーガレット王女が宮廷写真家と恋におちいり、結婚する事になった時、王室はあわてて結婚相手となる平民の写真家に授爵しました。新設された爵位はスノードン卿で、数少ない英国の山の名前が用いられました。

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話を元に戻します。オヒョウの高校の恩師、樫本先生は「英国にはMountainは無い」と言われましたが、ではHillMountainの境目はどこか?というと、明確ではありません。 しかし、先日見た映画では明確に定義されていました。

その映画とは[The Englishman who went up a hill but came down a mountain (邦題:ウェールズの山)]です。この映画によれば、英国では標高305メートル以上が山、それ以下は丘という事になっています。つまりエッフェル塔や東京タワー以上の高さがあれば、山と言えるのだそうです。

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この映画「ウェールズの山」は、英国流の正統派の喜劇です。ドタバタ(スラップスティック)もコミカルな振り付けもありませんが、可笑し味に溢れています。ストーリーをバラしてしまうのも野暮なのですが、簡単に言いますと・・・、

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第一次大戦中の英国、ウェールズ南部、カージフ郊外の田舎に、ロンドン(イングランド)から二人の測量技師が来ます。村人が誇りとするフェノン・ガルウ山の標高を測定するためにです。測量技師らは測定結果が標高305mに満たず299mしかないため、これは丘であると宣言します。

村人たちは驚き嘆きます。たった6mの差で、彼らが誇りとする郷土の山が丘に格下げになってしまったのですから。 それに加えて、測量技師たちがイングランド人であった事が気に入りません。イングランド人がウェールズの事に干渉し、ウェールズには山はない・・・と宣言するなんて堪えられません。

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そこで、村人たちは、山頂に高さ6m分の土を盛り上げ、測量技師たちに再測量してもらおうとします。工事ができるまで測量技師たちを足止めしようと、自動車のエンジンに砂糖を入れたり、若い女性の色仕掛けで引きとめようとしたりします この作戦は瓢箪から駒で、本当の恋愛に発展するのですが・・・。紆余曲折を経て、最後に若い測量技師は、娘と丘に上って再測量し、これは山であると宣言して下山し、同時に婚約を発表します。

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ここで英国を4つに分けるそれぞれの国について簡単に説明します。イングランドもスコットランドもウェールズもアイルランドも、かつてはそれぞれに王を戴く国でした。今はそれらが連合した形になっていますが、実質的にはイングランドが、他の国を平定して吸収したようなものです。いまでもラグビーの5カ国対抗試合などでは、それぞれに独立国として扱われています。

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王室は一つにまとまりましたが、スコットランドとウェールズへの配慮が必要でした。 そこで、英国の元首である国王(女王)はイングランドを統治し、その配偶者はスコットランドを、皇太子はウェールズを統治する事になりました。だから英国皇太子はプリンスオブウェールズと呼ばれます。エリザベス女王の夫君フィリップがエジンバラ公というスコットランドの地名の爵位を持つのもそのせいかも知れません。

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しかし、ウェールズやスコットランドにしてみれば、イングランドに征服されたと言う思いは依然として強いのです。英国=イングランドなどと考えると、ウェールズ人は憤慨して訂正します。EnglishではなくBritishであると。

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しかし英語だけは、BritishではなくEnglishでいいと思います。スコットランドなどは、方言がひどくて、とても、同じ英語とは思えないからです。この映画に登場するウェールズの方言も、かなり強烈です。

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オヒョウは以前、月に一回、ロンドンからウェールズのチェスターに行き、更にイングランドのショットンに出張していた頃があります。ウェールズとイングランドの境界線を跨ぐ度に、運転手が冗談に「パスポートプリーズ」と言うのを何時も可笑しく聞いていました。しかし、そこにはオヒョウの如き異邦人には決して見えない、イングランド人とウェールズ人の間の壁があったものと思われます。

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丘の頂上に6m分の土を積んで山にしたウェールズ人と、測量技師に頼み込んで5m標高をごまかした剣岳の人の行為は、一見似ていますが、実は全く違います。

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映画「ウェールズの山」では、人工的に土を積む事で天然の産物である山の高さを変更する事の是非が議論されます。村一番のインテリである牧師と校長が激論を交わすのですが、結局、人が造ったボタ山も地図に載っているし、丘を利用した古代の墳墓も、そのままの高さが地図に載っているから・・・という事で人々は納得します。 数字をごまかしてくれ・・と頼む剣岳の人よりよほどまじめなのです。

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しかし、人工的に地形をいじってそれを地図に載せる事にも、それなりに問題があります。 それについては次号で。


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おじゃまま

こんばんは、初めまして。
夏炉冬扇さんところで「新田次郎を云々」というのに惹かれて
訪問致しましたところ、何ともなつかしい映画の話が!
以前家人と映画館巡りをしていた頃に見た作品の1つです。
「山」にしようとする村人たちの滑稽にも真剣な様が妙に心に残っています。
by おじゃまま (2010-01-19 23:49) 

笑うオヒョウ

おじゃままさん コメントありがとうございます。

オヒョウは、この「ウェールズの山」をDVDで見たのですが、同じ様に山を愛する人の映画でも「剣岳 点の記」とは全く違う作品であり、そのコントラストが面白かったので、ブログに書きました。
英国の田舎の人達のユーモアと暖かさが感じられるので、オヒョウはこの作品が好きです。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-01-20 00:21) 

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