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【 丘を登り、山を下った男 その1 】 [イギリス]

【 丘を登り、山を下った男 その1 】

 昨年「剣岳 点の記」という映画が公開され、マスコミなどでちょっと話題になりました。オヒョウがしばしば行く富山県でもこの映画が多く宣伝されていました。 オヒョウは新田次郎の原作を読んでいるので、この映画を観ていません。新田次郎は山岳小説或いは登山小説の分野で佳作が多いのですが、本人は登山小説として限定される事を嫌がったそうです。

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「剣岳 点の記」は、傑作ですが、それだけに映画化された時に、オヒョウのイメージと異なると幻滅するので、観ないのです。 一言だけ言えば、浅野忠信や香川照之はアルピニストの顔ではありません。本当の登山家はもっと素朴で厳しい顔をしています。特に、香川照之については、異論があるので、そのうち別稿で述べようと思います。

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「剣岳 点の記」は山頂に三角点を設置する話ですが、これについては、驚くべき話があります。 読者諸兄もご存知かと思いますが、標高が何度か見直されているという話です。

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オヒョウが子供の頃の地図には、剣岳の標高は3003mでした。それがある日、2998mに訂正されました。 その時読んだ北國新聞には信じがたい事が書いてありました。

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陸軍、陸地測量部の測定結果では、剣岳の標高は2998mであった。しかし、日本を代表する険しい名山が3000m峰でないのは、いかにも残念と、地元(馬場島?)から泣きつかれて、5m下駄を履かせて3003mと報告したというのです。戦後、国土地理院が5mもの誤差は放置できないとして、再測量して、2998mの値に訂正したとの事です。

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しかし、その後も何度か再測定され、直近のデータでは2999mだったとの事。レーザー光線を使った測量やGPSによる測量が可能な時代に、メートル単位で数値が訂正される事は、オヒョウには理解できません。なぜなら、剣岳は海岸からそう遠くない場所にあるからです。

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世界最大の誤測定事件といえば、チベット高原にある高山、アムネ・マチンを米国の測量隊が世界最高峰と報告した事件です。これはちょうど、中国共産党によるチベット侵攻(中国では解放と言いますが)と同時期に行われた測量で、測量隊は時間が無い中、逃げながらアムネ・マチンを測量し、再確認できなかったのです。

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そして誤測定のもうひとつの理由は、海から数千キロ離れたチベット高原であるため、海抜高度の基準点の計算が難しかった事です。海抜とか標高とか言いますが、正確にはジオイド面からの距離で山の高さを定義します。しかし地球は真球ではなく、ヒマラヤやチベット高原の辺りでは、地球は外側に膨らみ、ジオイド面は真球面からかなり高い位置にあります。従って、見かけ上よりも、アムネ・マチンの高さは低く定義されるのです。海岸の海抜高度ゼロの位置から、測定を重ねていく過程で誤差が累積し、測量隊はアムネ・マチンを実際より高く、算定しました。

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アムネ・マチンの地域には外国人(中国人でない人)は今もなかなか入れませんが、人工衛星やスペースシャトルからの測定で、アムネ・マチンは7000m峰である事が現在確認されています。

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海から数千キロも離れたアムネ・マチンの測量ミスは許せても、海岸から近い剣岳の測量にミスがあるというのは、許せません。重い三角点の石を運んだボッカの人達にも申し訳できません。まして地元の依頼で数字に下駄を履かせるなどあり得ない・・・。

こんな、お粗末な話は、世界中で剣岳だけだろうと思っていたら、他にもありました。 英国はウェールズの話です。

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え?ちょっと待った。英国には山(Mountain)はないと樫本先生は言っておられたぞ。 ましてグレートブリテン島の中でもウェールズは平坦な土地だし、そこで山の高さの話など・・・。 この不思議で面白い話は、次号で。


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Dr.Y.

私は映画というものを見なくなって、10年近くになります。自分のHPにも書いているのですが、『ユリシーズの瞳』を越える映画に生きているうちに出会うことはないだろう、と勝手に思いこんでいるからです。でも、『剣岳...』は多くの人から、“君がなぜ見ないのだ?”とクレーム言われた映画でした。何か立山の頂上に登拝した修験者のことが出てくるから、ということで、君こそ是非見ておかなくては、と色々な人から言われました。でも、出ている役者がどうこう、という訳ではないけれど、それだけ言われてもなぜか見る気になりませんでした。コメントになってなくてすみません。
by Dr.Y. (2010-01-19 14:56) 

夏炉冬扇

今日は。
新田次郎、一時期乱読しました。未知の世界を極める魅力にあこがれたのだと、多分。
小説も読まなくなって久しい。
by 夏炉冬扇 (2010-01-19 17:23) 

笑うオヒョウ

Y博士さん コメントありがとうございます。
私は、映画は人に勧められてみるものではなく、自分でみたいものをみるというのが当たり前ではないか・・と思っております。
だって、人に勧められてみても、中身がつまらなかったら、時間とお金の損を納得できないではないですか。 と言いながら、このブログでは様々な映画を
評価して薦めております。この矛盾をお許し下さい。
by 笑うオヒョウ (2010-01-19 21:10) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇さん コメントありがとうございます。

私もかつて、新田次郎を乱読した事があります。
自分では山に登る時間、余裕が無かった頃、その代償として山岳小説を読んだという面もありますが、新田次郎は歴史物、気象物、紀行物等、全てのジャンルで骨太の小説を書いていたと思います。
2足のわらじを履く作家としても、立派だな・・と思いました。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2010-01-19 21:13) 

上野まり子

こんにちは上野まり子です。
いつもご訪問ありがとうございます。

測量のお話面白く拝読いたしました。
叔父が国土地理院に勤務していたときには
何ヶ月も山の中やみずうみ周辺に生活し
苦労して測量をしていたものです。
下駄を履かせるなど、そのように苦労を重ねて
正確に測量をしようとしていた人たちがいること
解っているのかとびっくりいたしました。

またお邪魔します。


by 上野まり子 (2010-01-19 23:48) 

笑うオヒョウ

上野さん、コメントありがとうございます。

私には実現しなかった夢がたくさんあるのですが、かなわなかった夢の一つは国土地理院の測量技師になる事でした。 一方、私の家内は地理学科を卒業しており、そのゼミからは毎年国土地理院に就職していたとか。だから新婚時代はドライブしながら、二人であの海岸段丘は・・とか、この川の扇状地は・・とか、およそ男女の会話らしくない話ばかりしていました。最近はドライブもほとんどしていませんが・・・。 くだらない事を書きましたが、これからもコメントをお願いいたします。
by 笑うオヒョウ (2010-01-20 00:26) 

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