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【 貪吏を疾む(にくむ)也 その2 百年河清を待つ 】 [中国]

【 貪吏を疾む(にくむ)也 その2 百年河清を待つ 】

 

日本の場合、公務員に求められるのは公僕の精神つまり全体への奉仕者という姿勢です。そして民間企業のサラリーマンが利潤の追求を命題とするのに対して、公務員は全体の公平の実現を目指します。その理想のためなら、民間より少ない俸給でも頑張る・・・かどうかは分かりませんが、その志はOKです。

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一方、中国の公務員は全く違います。民主主義国家ではないこの国では、表向きはともかく、公務員は人民・庶民への奉仕者ではないのです。では何に忠誠を尽くすのか?それは共産党に対してです。4000年の昔、皇帝に対して忠誠を尽くした役人と何ら違いはありません。常に上の存在に気を遣い、礼を尽くして、敬えというのは儒教の思想です。儒教は、民主主義や法の下の平等や公平さとは無縁の思想です。階級と序列を明確にし、上に対してはへりくだり、下に対しては尊大にふるまってよいのです。

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そして中国の公務員は、自分と身内のために仕事をします。それが当然であり、何が悪いのか?となります。その昔、難しい科挙の試験に合格し、晴れて進士になった官僚は、立身出世、つまり今風に言えば自己実現を目指しました。その自己実現とは、より大きな権力を持ち、私腹を肥やし、自分の家族・親戚にも富と権力を与え、さらには自分を育ててくれた故郷の一族郎党にも物理的に恩返しすることです。

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日本では、身内の公務員試験に便宜を図った市長が逮捕されましたが、中国の人が聞いても理解できないでしょう。なぜなら中国ではそれが当たり前だからです。

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司馬遷の史記に項羽の言葉として「富貴にして故郷に帰らざるは、繍を衣て(着て)夜行くがごとし」が登場します。

有名な言葉でご存知の方も多いでしょうが、おおまかな意味を申せば、「せっかく出世したのなら、里帰りして故郷の皆に自慢しなければつまらない。せっかく(自慢できる)きれいな絹の服を着たのに、夜に出歩いたのでは誰も見てくれないのと同じでもったいない」

ということで「自慢できることがあるなら見せびらかして自慢しなきゃ」という発想です。

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中国の古典に登場する言葉の中で、最も下品で私の嫌いな言葉ですが、敢えて項羽にそう言わせたということは、司馬遷は項羽を相当軽蔑していたのだな・・と思わせます。

見せびらかして何が悪いとか、自慢しなきゃ詰まらないというのは、司馬遷の時代でも、尊敬される考え方ではなかったはずです。

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しかし、中国で出世した役人が故郷に帰るのには、自慢以外にも理由があります。地元への利益誘導は当然であると同時にエリート官僚の義務でもあったからです。

以前のブログでもご紹介しましたが、破天荒という言葉は、地元出身のエリートが故郷に恩恵をもたらすという意味です。

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昔の中国では郷党の期待を担った秀才が見事科挙に合格してエリート官僚になれば、地元に莫大な恩恵がもたらされます。逆に秀才が長く輩出しなければ、その地方はひどくさびれます。中国ではその状態を「天荒」と呼びました。だから久々に秀才が現れ、科挙に合格して進士になれば、地元は大喜びしたのです。そして莫大な恩恵がもたらされました。その有様を「破天荒」と呼んだのです。

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だから、単純に型破りなとか常識を超えた・・という意味で「破天荒」というのは違います。

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話は脱線しましたが、今の中国の政治家にも地方による閥があるようです。有名なところでは江沢民一派が率いる上海閥で国政にも大きな影響を及ぼしています。あれだけ大きな国だから地方閥があっても仕方ない・・とも思いますが、実際には中国よりはるかに小さな現代の韓国でも、地方による派閥があります。大統領を輩出した地方は恵まれ、大統領を出さない地方は冷遇されます。民主化以前は、地方間の争いで虐殺事件があったりしました。

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地方による派閥、地元への利益誘導、我田引水あるいは我田引鉄(鉄道誘致)も一種の腐敗であり、習近平としては排除したいに違いありません。しかし、彼がそれを言うと、「単に目の上のタンコブである上海閥と重慶閥を排除したいだけさ」と勘繰られるのがつらいところです。

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それにしても、中国4000年の歴史において、権力者の横暴と官吏の不正・腐敗は宿阿のごとき存在で、一度も正されたことがありません。まさに「百年河清を待つ」です。

そして、貪官汚吏を憎む漢詩は大昔からあります。有名なところでは白居易が書いた白氏文集にある詩です。「黒潭の龍」には、無責任な役人が龍を神様としてあがめることを庶民に強要する話が登場します。その結果、庶民は苦しめられ、お供え物になる豚はとんだ災難であり、お供え物をちょろまかすことができるキツネは、いい思いをする・・というもので、役人の勝手で無責任な命令が、多くの人を理不尽な目に合わせるという政治風刺です。無論、お供え物をちょろまかすキツネと役人はグルです。

http://home.att.ne.jp/wave/ayumi/etcetc/Et_hak02.htm

白氏文集には、政治批判や社会風刺の詩がこれ以外にもありますが、唐の時代でよかった。 今の中国は、子供が「くまのプーさん」の絵本を持っていただけで、牢屋に入れられる言論弾圧国家ですから、白居易などたちまち逮捕されたに違いありません。

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習近平が本当に腐敗を撲滅したいと考えているかどうかは不明ですが、今の中国で公務員の腐敗をなくすことは重要です。今後も経済発展を続け、信用される国家にするためには不可欠です。

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これも、昔のブログに書いたことですが、メキシコの例が参考になります。

かつてメキシコはその経済規模(当時は国民総生産つまりGNPと言いました)が日本に近い存在でした。1964年の東京オリンピックの後は、1968年のメキシコオリンピックでしたが、その頃は肩を並べていました。しかし、日本はその後も高度成長がしばらく続き、経済大国に発展しましたがメキシコはそうではありませんでした。産油国として地下資源に恵まれたにも関わらず・・です。どうしてそうなったか?その違いの理由は何か?

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M井物産のSさんは、少し考えて、「それは汚職の少ない国と汚職の多い国の違いでしょう。諸悪の根源はあれですよ」と遠くに見えるPEMEX本社の巨大なビルを指差しました。 当時(たぶん今も)メキシコは腐敗の国であり、それが経済成長にもブレーキをかけているのです。腐敗した国は中進国(または先進国の手前)までは行けても、先進国にはなれません。

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もし、習近平が、経済成長が鈍化しつつある中国で、さらに成長を続けて先進国になるためには、腐敗の撲滅が必要と考えているなら、それは慧眼と言うべきでしょう。

しかし、現実にはそれは難しい。

 

ではどうすべきか? それについては次号で私の提案を申し上げます。


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