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【 フリーゲージトレインの挫折 その1 】 [鉄道]

【 フリーゲージトレインの挫折 その1 】

 

九州新幹線長崎ルートに採用を予定していたフリーゲージトレイン(以下FGT)が、開業に間に合わず不採用になる模様です。多くのマスコミが報道していますが、何が問題なのかはっきりせず、今一つ要領を得ません。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170728-00010004-nagasaki-l42

FGTが失敗したとして、それには3種類の形があります。

  1. 技術的に難しく開発に失敗した。

  2. 技術的に開発するめどは立ったが、新幹線開業には間に合わない。

  3. 技術的には開発に成功したが、運営費が高く、採算が合わず断念した。

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また、誰が失敗と判断したかも重要です。報道では

  1. JR九州は匙を投げた。

  2. 長崎県は、FGTがダメなら、全線フル規格を・・と主張しだした。

  3. 国土交通省はまだFGTに未練がある模様。

という感じです。

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いずれ鉄道ジャーナルなどの雑誌がこの問題を総括するでしょうが、この問題は単に長崎県や佐賀県だけの問題ではありません。いろいろな意味で日本にとって重要な問題です。

以下にその点について述べたいと思います。

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FGTは単に鉄道だけの問題ではありません。機械要素技術の根本に関わる技術課題です。

新幹線区間では時速270Km、在来線区間では時速130kmで走行し、60kmを走行して、無傷で故障や不具合が無いこと・・という目標で開発が始まりましたが、これは機械工学的に非常にハードルが高いものです。実際、小倉工場で製造された試験列車は60kmどころか、3km試験走行した時点で金属疲労による細かい疵や車軸とすべり軸受けの損耗が確認されています。もっとも、車軸の異常損耗といっても直径が0.3mm減ったというものですが、許容できるものではありません。

http://newswitch.jp/p/9777

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しかし高いハードルといっても、この機械要素技術の課題は解決可能なものです。よる高強度で高硬度の材料を用い、高周波焼き入れ等の表面処理を適切に行い、表面粗さを適切に管理し、表面の潤滑を適切に行えば克服可能です。航空機用のガスタービンエンジンの要素技術より易しいもので、金属材料と、表面処理、機械加工と潤滑の分野の専門家が集まれば、日本でなら解決可能です。事実、直近では、この課題は解決したと聞いています。

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しかし、本質的な問題は残ります。

ひとつは重たい・・という事情です。FGTはその複雑な構造で台車が重くなります。

電車も自動車と同様、バネ下荷重は小さい方がよいのですが、ただでさえ重い新幹線の台車がFGT化でさらに重くなります。

さらに、問題があります。もはや山陽新幹線では時速300kmが標準であり、それより遅い時速270kmの新幹線が入ることはダイヤを混乱させ、全体の輸送能力を損なうことになるので嫌います。在来線の時速130kmも今となっては遅いのです。

車両価格もメンテナンスコストも非常に割高になります。コストは当初の3.1倍から1.9倍程度に下がったとされますが、もともと採算の厳しい盲腸新幹線(失礼!)の長崎ルートには大きな問題です。

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それらの理由で、運行者側のJRや自治体がNOを突きつければ、たとえ技術的には課題をクリアーしても、やはり開発に失敗したと言わざるを得ません。そしてこれは大げさでなく、日本の機械工学全体の敗北なのです。

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これについてスペインのタルゴ社では、半世紀も前にFGTの実用化に成功しており、スペイン版の新幹線がFGTなのに、日本がその実用化に苦しむのは可笑しいではないか?という意見がありますが、両者は全く違う技術です。その違いについて総合的に解説した資料は少ないのですが、杉山淳一氏の記事が比較的にまとまっています。

http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1707/28/news025.html

スペインの場合は、機関車+客車(不随車)の動力集中方式であり、問題は動力伝達を行う機関車の台車に限られます。そしてタルゴの場合、車軸は左右連結していません。そして、スペインとフランスのゲージの差はわずかで、標準軌に近い範囲でのFGTなのです。圧倒的に日本の新幹線より有利です。

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そういえば、二十年も前に、今はN新製鋼の社長を務めるYさんと欧州を旅行した際、タルゴ式鉄道について誤った説明をして、やんわりとYさんに修正されたことがあります。私に恥じをかかせず、しかし正しい内容を確認する話し方に感心したと同時に、薄板とステンレスが専門だったYさんが鉄道について深い知識を持っているのに驚きました。

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その後20年近く経過し、私はある電炉メーカーに勤務し、スペインの車両メーカーへの車輪素材の売り込みを検討したことがあります。しかし、鉄道の重要保安部品に鋼材が採用されることを過度に危惧する経営者の判断でそのビジネスはうまくいきませんでした。

N新製鋼のY社長と比べたら、あの経営者はスペインの鉄道について何も知らない人だったなぁ・・と思い出します。

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話が脱線しましたが、高速電気鉄道には幾つかの対立する設計方針があります。

ひとつは、電動車を並べて走る動力分散方式と、前後(または前だけ)に機関車を置いて客車(不随車)を牽引する動力集中方式の違いです。両者には多くの派生型があり、分類は難しいのですが、

日本の新幹線や中国の和諧号の一部、台湾の新幹線は、動力分散方式、

フランスのTGVやドイツのICE,韓国のKTX、スペインのタルゴなどは、後者の動力集中方式です。

もっとも、台湾の新幹線は日本の技術の導入、中国のそれは日本のパクリ(中国は独自開発と主張)ですし、韓国のKTXはフランスのTGVまんまですから、世界の高速鉄道は日本の新幹線、フランスのTGV、ドイツのICE3系統になります。

その中で動力分散方式がよいのか、動力集中方式がよいのかで、喧々諤々の議論が続いた訳ですが。そしてFGTについては、分散方式(特にプッシュプル方式)が、優るという結論が出た訳で、日本の鉄道技術者たちにとっては、実に悔しい話です。

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だからスペインのタルゴで実現したFGTが日本でものにならなかったと言われるのは特につらいのです。

いや、鉄道技師のメンツなどどうでもいいのです。この技術開発の挫折はもっと根本的な問題を含んでいます。それについては次号で


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