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【 事故と責任 その2 】 [鉄道]

【 事故と責任 その2 】

 

製鉄会社の事故や災害と経営者の責任について、前回は考えましたが、事故・災害があるのは、他の業界でも同じです。今回は鉄道事故での責任所在について考えます。

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私が毎日通勤に利用するJR常磐線の三河島駅と南千住駅の間に小さな石碑があります。 昭和37年に発生した三河島事故の慰霊碑です。そしてこの事故は、事故の責任所在を議論する場合、歴史的に非常に重要なのです。

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この事故は戦後の国鉄5大事故の一つで160人が亡くなった事故です。そしてこの事故が歴史的に重要なのは、オペレーター(運転士ら)が起訴され有罪が確定したことと、ATS導入のきっかけになったことです。この事故では、最初に信号無視をして脱線事故をおこした貨物列車の機関士と機関助手、信号所の係や駅の助役が起訴され、有罪判決を受けています。

そして、この後に発生した鶴見事故とあわせて、その後のATS (自動列車停止装置)の普及を促すきっかけになっています。

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この三河島事故は、典型的な多重事故で、かなり複雑な事故です。

最初に貨物列車が停止信号でとまれず、退避側線をオーバーして脱線し、本線の下り線に機関車が乗り出す形になりました。直後に差し掛かった下り電車が接触して脱線して、今度は上り線に張り出す形で止まります。その時点で怪我人はいましたが死者はいませんでした。しかし、上り電車への通報が遅れたため、そこに上り電車が進入し、電車を下りて線路を歩いていた下り電車の乗客をはね、そして自らも下り電車に衝突して、脱線・転落するほどの大事故になったのです。

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この事故では前述の通り、機関士や信号所の掛など、起訴された被告人全員が有罪となりました。

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この運転士について、動労の機関誌で彼を擁護する記事があったのを記憶しています。また 三輪和雄氏の本で、この機関士に同情的な記述がありました。

「あの日、彼(機関士)は風邪気味で体調が悪いのに無理をして仕事をした。その中で赤信号に気づくのが遅れ、機関車を脱線させたが、そもそも蒸気機関車の前方視界は悪い。見落としの危険性は常にある。 そのミスにあの大事故の全責任を負わせ、禁固刑というのは過酷ではないか? 他の責任をうやむやにするために、現場のオペレーターを生贄にしたのでは?」という指摘です。

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この主張では最も重大な瑕疵が意図的に無視されています。裁判官は、最初の赤信号の見落としではなく、事故発生後、約6分間も報告を怠り、上り電車に連絡が届かなかったことが、事故の最大の問題であると考え、これを有罪判決の根拠としたのです。つまり現場の作業者に責任を負わせたのです。それなりに論旨は明確であり、合理的な判決でしたが、動労はこれに強く反発しました。

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その後の国鉄/JRの大事故を見ると、面白い傾向があります。

三河島事故に続いて発生した鶴見事故では、当事者の運転士達が死亡したこともあり、刑事事件にはなりませんでした。 北陸トンネルの列車火災事故では、明らかに乗務員に判断ミスがありましたが、被疑者が死亡したため、これも刑事事件にはなりませんでした。

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JRになった後の信楽高原鉄道列車正面衝突事故では、信楽高原鉄道側は複数の担当者が起訴され、有罪判決を受けましたが、JR西日本側はお咎めなしとなり、信楽高原鉄道側に不公平感がでました。

この事故は、第三セクターの信楽高原鉄道の線路にJR西日本の列車が乗り入れる変則的な臨時ダイヤで運行中、単線区間で信楽高原鉄道の列車とJR西日本の列車が正面衝突した事故です。 瑕疵も過失も双方にあったのですが、刑事罰の対象は信楽高原鉄道側だけだったのです。

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更に、死者100人以上の福知山線の脱線事故では、事故の原因が、死亡した運転士の速度超過と不適切なブレーキ操作にあると判断され、被疑者死亡で不起訴となりました。経営陣の責任は不問となったのです。

それに対して、検察審査会が歴代の3人の社長を強制起訴して責任の所在を明らかにしようとしましたが、先日最高裁で、全員が無罪という判決を受けました。

https://www.j-cast.com/2017/06/14300596.html

北陸列車火災事故やトンネル事故信楽高原鉄道に続いて、JR西日本の人たちは無罪となったのです。

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遺族側は、「これだけの大事故なのに誰も責任を取らないとはどういうことだ」と憤りますが、強い処罰感情だけでは有罪にはできません。合理的な因果関係の説明が必要です。 歴代のJRの社長が事故発生個所のATSの不備やそのカーブの危険性、日勤教育への怖れから平常心を失う運転士がでることを、正確に把握・予測し、指示を出せたか?と考えると、それは無理だ・・という結論で無罪となったのです。

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実はオヒョウの専門は安全工学ですが、私から見て、法学部卒業のJRの社長が、安全工学や鉄道工学を熟知・通暁していて、的確な判断ができたとは思えません。だから彼らを罪に問うことは無理だとは、私も思います。 

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このように、鉄道事故では経営トップが刑事責任を問われることはなく、現場のオペレーターに安全管理の責任が集中するようになっています。(そのオペレーターである運転士も自分自身が死亡して訴追の対象とならない場合が多いのですが)。

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ではJR西日本の経営者は責任を取らないのか?現場だけ責任が追及されるのは理不尽じゃないか?という点については次報で述べたいと思います。


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