SSブログ

【 事故と責任 その1 】 [鉄鋼]

【 事故と責任 その1 】

 

いささか旧聞ですが、3年前の新日鉄住金名古屋製鉄所の爆発事故に関連して、同社の管理職2名が業務上過失傷害の容疑で書類送検されました。今後、起訴されるか否かは未定です。同時に半田労働基準監督署も労働安全衛生法違反の容疑で法人としての同社と別の社員2名を書類送検しています

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFD06H3J_W7A600C1CN8000/

この事故は、死亡災害こそ免れましたが、15人が怪我をした大事故で、近隣にも大きな迷惑をかけました。製鉄所長は更迭、副社長が愛知県知事に謝罪に訪れるなど、新日鉄住金にとって、大失態ともいうべき事件でした。

・・・・・・

いずれ、原因調査が完了し、責任の所在が明らかになれば、刑事罰の対象も明確になるだろうと思っていましたが、警察が送検したのは、当時の工場長(製鉄所長ではなく多分コークス工場長)と当時のコークス課長という2人の中間管理職です。

理由は、乾燥した石炭を長期間貯留すれば、自然発火する可能性があるのを知りながら、あえて石炭の移動などの指示をしなかったという「無作為の罪」です。

・・・・・・

現実は、そんなに簡単ではなく、事故発生の経緯ははるかに複雑だと思うのですが、あえて単純化しています。 実際のところ、工場長や課長が、自ら石炭槽の内容物の乾燥状態や保管期間を把握し、具体的な積み替え指示をしていたとは考えにくく、実際に状況を把握し操作していたのは、その部下だろうと思います。しかし、具体的な指示を出していなくても、監督責任は免れるものではなく、最終的には管理職の責任になります。でも、なるほど・・と思う半面、これでいいのか?という疑問も残ります。

・・・・・・

事故や災害の責任を追及する際、現場で操作していたオペレーター個人に求める考え方と、その行為者を監督すべき立場の管理者に求める考え方、組織の代表者として経営トップに求める考え方の3種類があります。

・・・・・・

普通、刑事罰の対象になるのは、直接の行為者か、監督する立場の人の場合が多く、経営トップの責任が議論されるのはまれです。組織に明らかな欠陥があって、それが危険をもたらす事を承知の上で放置していたとか、経営トップの指示が、ことさらに安全を無視・軽視するもので、安全対策を阻害していた・・等の場合以外は、経営トップには罪は及びません

・・・・・・

では事故や災害の責任は誰が負うのでしょうか? 私はやはり経営のトップに一番大きな責任があると思います。

・・・・・・

製鉄所で最もあってはならないことは死亡災害です。例え高炉が冷え込んで出銑できなくなっても、例え大停電で圧延ラインが止まっても、例え黒煙モクモクの公害騒動を起こしても、死亡災害に比べればましです。従業員やその他の人々が怪我をしたり、亡くならないことが一番大事です。

・・・・・・

しかし実際には、死亡災害は無くなりません。 景気が良くなればなったで、忙しさのために災害は発生しますし、景気が悪くなればなったで、非定常作業の増加などで死亡災害は発生します。そして災害を出した工場の工場長や、災害発生部門の室長は社内で厳しい責めを負うことになります。 つまり安全管理や防災対策を徹底しなかったために災害が起きたのだ・・という理屈です。

・・・・・・

しかし、不思議なことに災害を出すか出さないかは、その管理職の昇進にあまり影響を与えません。某製鉄所の歴代の製鋼工場長を眺めると、一番人望があり、評価が高かった(とされる)工場長は、在任中に一番死亡災害の件数が多かった人です。また最後に死亡災害を出した時の工場長は副社長まで昇進しています。 しかし、その一方で部下に怪我人を出したために出世コースから外れた人もいます。

これはどういうことでしょうか?

・・・・・・

どんなに管理者が努力・留意しても、災害や事故はある確率で発生します。無論、各種の対策を徹底することで発生頻度は下がりますが、ゼロにはなりません。 たまたまその人が工場長だったり室長だった時に、事故や災害が発生したとしても、それは運が悪かったのだという見方もあります。 

今回の、名古屋製鉄所の爆発・火災事故で、中間管理職の工場長と課長が送検されたことに微妙な違和感を持つのはそのためです。

・・・・・・

一方で、災害や事故は後の対応が大変です。遺族への陳謝・慰撫、監督官庁への対応、元気をなくした職場への励まし、等の各種のフォローが必要ですが、(言葉は悪いですが)それらをそつなくこなした管理職は高い評価をえます。一種の怪我の功名です。

・・・・・・

逆に左遷や異動の候補になっていた管理職の場合、事故や災害をきっかけに異動させることもできます。 事故や災害は口実にも利用されるのです。

・・・・・・

繰り返しになりますが、災害・事故の有無は必ずしも人事評価に反映しません。

そうなると、経営者は真剣に事故防止や災害防止を考えているのか?ということになりますが、本当のところは私には分かりません。 想像するに、中間管理職の段階を過ぎて、上級の管理職または経営者のレベルに達すると、最重要関心事は、安全や災害ではなく、業績になるのでしょう。

・・・・・・

新日鉄住金の場合、ROE 5%が経営者の合格ラインになるそうです。現実には5%に到達していないため、米国の株主から会長と社長の解任を提案されたそうです。 一方で死亡災害をだしたから、あるいは公害をだしたから・・という理由で会長や社長を解任するという動きは全くありません。

・・・・・・

死亡災害は、毎年ほぼ確実に発生しますから、そんなことを言い出すと、誰も社長を続けることができなくなる・・という意見もありましょうが、それはナンセンスです。

ROEと部下の生命のどちらが大事か・・という質問になります。

経営が厳しさを増す中、安全対策や事故対策の優先順位が下がり、経営上の最大関心事でなくなるというのは非常にまずいと思います。

・・・・・・

ではどうすべきか?

私は重大事故を出した場合、当該製鉄所の所長は解雇、社長と副社長は1年間、報酬を100%減額というくらいの対応が必要だと思います。 一年以内の退職時は退職慰労金はもちろんなしです。 それが覚悟というものです。

今回の名古屋製鉄所の事故では製鉄所長が更迭されていますが、全く不十分な対応です。

多くの事故・災害・公害で、犠牲者の遺族、あるいは被害を受けた近隣の住民の処罰感情は高いのに、現状ではそれに答えていません。それに甘い処分の先には、不完全な再発防止策しか見えてきません。

・・・・・・

刑事責任が末端のオペレーターや中間管理職にしか及ばないのなら、なおさら経営責任については、経営トップがしっかりとるべきだと思います。 

以下、次号


nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 1

Ar

お久しぶりでございます。
鉄鋼業において重大災害についてどう向き合うか、と考えていたところ、”そういえばオヒョウさんのblogに以前掲載されていたな”、と思い、しっかり読み返させていただいております。
今後ともまた、鉄鋼ネタ?凝固ネタ?も宜しくお願いします!

by Ar (2020-01-27 20:58) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。