【 透明な組織 】 [医学]
【 透明な組織 】
私の長男が帯広に赴任する前に、「ハオルチアに興味があるなら、池袋に多肉植物の専門店があるので行ってみたらいいよ」と私にアドバイスしました。その店にはまだ行っていませんが、私はハオルチアが好きです。特に面白いと思うのは、レンズのように透明になった組織です。これを氷砂糖に例える人もいますし、レンズと考える人もいます。
その透明な塊に、緑色やオレンジ色の斑(ふ)が幾何学的な模様が入るのが、面白く、かつ美しいのです。例えるならば、砂漠の水晶です。
https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-993
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では、なぜ一部のハオルチアには、透明な塊ができるのか?これは私には分かりません。透明な組織をレンズにして集光し、光合成の効率を上げるという考え方もありますが、納得できません。レンズの奥に特に葉緑素が集まっている様子はありませんし、原産地の砂漠は光に溢れており、無理をして集光する必要もありません。砂漠で貴重な水を貯えるため・・という考えもありますが、水タンクは透明である必要はありません。普通のサボテンと同じように緑色でいいのです。
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動物にも透明な組織や器官はあります。そしてこちらは目的もわかります。熱帯魚のグラスフィッシュは内臓と骨以外は透明です。ほかにも水中に棲息する動物には透明な組織を持つ種が多くあります。これは多分、天敵に見つかって捕食されないための、光学迷彩というやつでしょう。
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そして多くの動物が持つ眼球の水晶体や硝子体も透明ですが、これは網膜に結像させるためのレンズだからでしょう。ちなみに、硝子体を専門家は「しょうしたい」と発音します。一方、素人は「ガラス体」と発音します。水晶体にガラス体もあるのならダイヤモンド体というのもあるかも・・と子供の頃に思いましたが・・・、ありませんでした。
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話は脱線しましたが、動物が透明な組織を作る場合、植物の場合とは違う難しさがあります。なぜなら体中に透明ではない血液が流れているからです。血管を排除せねばなりません。
例えば、まだ目が無いembryo(胚)に目を作る時、網膜を作る一方で、透明になる予定の部位から血管を排除する必要があります。それを退縮というのだそうですが、そのメカニズムがわかりませんでした。そのメカニズムを慶応大学のグループが明らかにしたのだそうです。
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/medical_info/science/201701.html
これは退縮がうまくいかなった場合に発生する先天性の目の病気の治療法に寄与する研究だそうです。
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しかし、私は別のことを考えます。この研究で、目の発生メカニズムについて脊椎動物と軟体動物の比較がより詳しく調べられるのではないか?ということです。
以前のブログでもご紹介しましたが、イカやタコなどの軟体動物が持つ目は脊椎動物の目に似て、高度な機能を持っていますが、生命の系統樹でいえば、脊椎動物の先祖と軟体動物の先祖が分かれたのは、目を持たなかった頃です。つまり両者は目の無かった時代に分かれて、それぞれが独立して目という器官を発達させた訳ですが、結果的に非常に似た器官ができた訳です。それはなぜか? 高校時代の生物学の恩師玉鉾先生は、「それは、光あふれる星に生まれた動物が、それぞれに目を持ちたいと必死に願ったからではないか?」と言われました。自然科学の授業で突然、科学的でないコメントが登場したことに驚いたことを覚えています。
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実際には、人間の目とダイオウイカの目が似ているとしても、おおもとは違います。脊椎動物の場合、目は神経が変化したものなのに対し、軟体動物の目は皮膚が変化したものだとか。
でも眼球の生成過程でやはり透明な組織は必要で血管の排除も不可避です。ちなみにイカの血は青い色だそうですが・・。
動物がどのようにして透明な組織を手にいれたのか、興味は尽きません。
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透明にこだわるのは、薄型ディスプレイの世界も同じです。技術者は明るく鮮やかな画面を追究しますが、その場合、足をひっぱるのは電極や配線の問題です。TFTのトランジスタを並べた液晶や有機ELの場合、電極がどうしても画面上に現れ、その比率が大きいほど画質は劣化します。また、スマホなどのタッチパネルの場合、画面上に透明電極を敷き詰める必要がありますが、それに使うITO(インジウムとスズの酸化物)には問題があります。
1.希少金属のインジウムを用い、スパッタリングで膜生成するため高価。
2. 導電性と透明度がトレードオフの関係にあり、大電流や高電圧に対応させる場合、画面が暗くなる。
3. 硬くて脆いため、破損しやすいし可撓性も無い。
だからディスプレイ業界では、ITOに代わる透明電極素材を探していますが、なかなかいいものがありません。直近ではカーボンナノチューブが有望だそうで、これが技術的にうまくいけば、一挙に薄型TVの性能が向上すると同時に価格が下がる可能性があります。
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植物も動物もIT業界も透明な組織にあこがれて進歩してきましたが、しかし、何と言っても“透明な組織”が求められるのは政治の世界です。一強体制に胡坐をかき、驕り高ぶれば、民主主義の本分を忘れ、周囲を気にせず、やがて密室でものごとを決めるようになります。透明性を欠いた政治です。 さらにその傲慢さがつのれば、有権者の支持を失い、選挙で大敗することになります。
「そんな簡単なことも見通せないとは、この国のリーダーの目玉はビー玉か?」と言いたくなります。 うーむ、ビー玉か・・・
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やっぱり“ガラス体”でいいや。彼の場合は。
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