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【 成田屋の嫁 】 [雑学]

【 成田屋の嫁 】

 

元気だった頃より病を得てからの方が有名になったり、注目を浴びる人がいるようです。古くは敗血症で亡くなった九条武子とか・・・・例えが古いですね。

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今回、夫に看取られて息を引き取った、市川海老蔵の奥さんの小林麻央もその一人かも知れません。私は彼女がアナウンサーだった時代を知りません。(日本にいなかったのです)。その後、市川海老蔵に見初められ、梨園の妻になったこと、海老蔵が危ない連中と喧嘩して大怪我をした時に献身的な看護をしたことなどは、芸能ゴシップで知っていましたが、それ以上の興味はありませんでした。

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しかし、彼女がガンを患っていることを告白し、しかも非常に深刻な容体の中、必死に闘病をしていると知り、そしてブログを書いていると聞き、興味が湧きました。実はガン患者またはその家族のブログは非常に重要で、ブログのひとつのジャンルになっています。

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同じ病に苦しんでいる人には「あなたは孤独ではない。同じ病に苦しみ闘っている人はここにもいる」と訴えることで、大変な励ましになります。治療方法や薬の副作用に悩む人には、患者が受けている治療内容をそれぞれ公開しあうことで、参考になります。

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乳ガン患者であれば、タキソールをどの段階でどれだけ処方され、それによる副作用はどうだったか・・といった情報は、これから投薬を受ける患者の不安を解消するのに役立ちます。患者には、医師からの情報だけでなく、同じ病と付き合う患者同士の情報も貴重なのです。

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小林麻央のブログには、その種の技術的な内容は少なく、かろうじて疼痛対策のためにガンマナイフの治療を受けたことが紹介されたぐらいですが、でもそれを超えて余りある内容がありました。家族への愛情、未来への希望、死に至る病に敢然と立ち向かう勇気などが、飾らずに自然体で語られ、他の患者だけでなく健康な読者をも勇気づける内容でした。

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想像を絶する苦痛、回復を期待できない絶望感、幼い子供を残して逝くことの無念、それらを乗り越えて、明るくポジティブな内容のブログを書き続けた彼女の強さを思うと、ひたすら首を垂れるだけで言葉もありません。

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気の毒なのは夫の海老蔵も同じです。同じように肉親を失った人でも、親を亡くした子供、あるいは夫を亡くした妻に対しては、まだ言葉をかけられます。しかし、子供を亡くした親、あるいは妻を亡くした夫には、どんな慰めの言葉があるのか?気の毒すぎてかける言葉もありません。

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しかし、海老蔵は多弁過ぎます。妻の死の翌日には、臨終の様子を詳細にマスコミに語っていますが、余計なことです。最後の言葉が「愛してる」だったと説明しましたが、これは下手をすれば「お涙頂戴」にしかならず、全体を安っぽくします。夫婦の間の愛情の機微などは、本来、外部の人に言うべきことではありません。露骨な愛情表現は結婚式だけで、後はあからさまにしないのが日本流です。

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愛妻を失った悲しみを文章表現で示し、文学とする人もいますが、それらの人は深い悲しみをベラベラと話したりしません。作家で評論家であった江藤淳は、愛妻を失った悲しみで強い抑うつ状態になり、仕事もできなくなりました。大声で悲しみを語ることはありませんでしたが、彼の悲痛は周囲の人にはよく理解できたそうです。ついに彼は妻の後を追って自殺しますが、その遺書には、彼の心情が語られ、最後は「諸君、諒とせられよ」と書かれていました。

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しかし、彼の作品を慕う読者からは、「冗談じゃないよ。『諒とせられよ』と言われても納得できないよ。どうして彼は奥さんの死を乗り越えられなかったのか?」という声がインターネット上に溢れました。

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では妻を亡くした悲しみを、男はどう語ればいいのか? 経験の無い私には分かりませんが、ひとつ思い出すのは映画「東京物語」での笠智衆のセリフです。

彼は長年連れ添った妻(東山千栄子)が亡くなっても、声をあげて泣くこともなければ、涙も見せません。そして、翌朝、浄土寺の境内から海を見下ろし「きれいな夜明けだったなぁ。今日も暑くなるぞ」とポツリとつぶやきます。そこに連れ合いを亡くした老境の男の無限の悲しみが表現されています。昭和時代の観客はその台詞を聞いて、彼の気持ちを理解しました。

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しかし平成時代の役者である海老蔵にその機微が分かるか?そこは不明です。それはともかく、悲しみの表現は控えめで、そっけなくてもいいのです。

「妻は、昨日の夜、家族に見守られて他界いたしました」という一行だけでいいのです。そっけない表現でも、深い悲しみを表現できなければ、本物の役者ではありません。 もし海老蔵がそこを心得、悲しみを秘めながら、たんたんと妻の死を語れるようになれば、成田屋の演技もきっと一皮剥けたものになるはずです。合掌。


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