【 アニサキスが一杯 】 [医学]
【 アニサキスが一杯 】
先日、東京駅横のクリニックで胃の内視鏡検査を受けた際、事前のアンケートに「胃の中にアニサキスが見つかった場合、除去しますか?」という質問項目があり、驚きました。
そんな寄生虫が見つかれば、すぐに取ってほしいと思う人が大半でしょうが、若干の出血を伴うので、迷う人もいるのでしょうか?
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そもそも、アニサキスが胃壁に噛みつくと七転八倒の痛みだそうですから、内視鏡で見つけるまで自覚症状なしというのは、現実にありうるのでしょうか?
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それにしても、前回受診時にはこんな質問項目は無かったはずです。アニサキスも有名になったものだ・・と思います。私がこの寄生虫の名前を知ったのは、今は亡き森繁久彌のインタビュー番組です。ある時、彼は急に猛烈な胃の痛みに襲われ、医者に担ぎ込まれたとのこと。内視鏡で胃を見てみたら、小さな虫が胃壁にかじりついており、それを内視鏡のピンセットで取り除いた途端、ケロッと痛みはおさまったというのです。原因は?といえば生魚を食したことだそうで、よくよく聞いてみるとこれは彼のグルメ自慢でした。
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普通は生で食べないお魚、あるいは珍しい料理をいただいた結果、とんだ災難にあったと言いますが、なんのことはない、ちょっとした自慢話だったのです。昭和の大美食家であった魯山人が生肉を食したためにジストマ(古い名前です)に罹っていたようなものです。
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しかし、最近はなぜかアニサキスの話題をよく聞きます。お笑い芸人のおなかの中には8匹もアニサキスがいた・・とのこと。大変な痛みだったろうに・・と思う反面、これもやっぱり大変な目にあったというお笑い芸人の自慢話だな・・と気づきますが、それだけアニサキスが人々に知られてきたということで、それはなぜだろうか?とくだらないことを考えます。
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理由の一つは胃カメラというか内視鏡の普及です。
明治時代までなら、強い胃痛を感じても原因不明のままでした。「持病の癪が・・」という症状の幾らかは、小さな寄生虫が原因だったかも知れません。
もう一つの理由は冷蔵技術の発達や輸送技術の発達で生魚あるいはそれに近い魚を食べる機会が増えた事です。
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話は飛躍しますが、私は駅弁として有名な富山の「鱒の寿司」が大好きです。感覚的には、もう少し酢が薄い方がおいしく頂けると思うのですが、そうは問屋が卸しません。衛生上の理由であまり酢を薄くできないのだそうです。「鱒の寿司」はそのギリギリの線でおいしく、かつ衛生的な食品となっているのだそうです。しかし、酢で〆ることでサナダムシなど他の寄生虫は殺せても、アニサキスはそうはいきません。何と言っても、pH=1.0~1.5の胃酸の中でも元気なアニサキスですから、酢飯ぐらいでまいるはずはないのです。
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ではアニサキスを防ぐにはどうすればいいのか? 高温で処理するか、冷凍で4時間以上保持するしかありません。だから「鱒の寿司」では敢えて、マスを冷凍してから使用しています。本当は生の方がもっとおいしいのでしょうが・・・。
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「鱒の寿司」はともかく、生の食品を尊び、なるべく火を加えずに食べる方がおいしいのだという考え方は根強くあります。前述しましたが、昔は無理だったけれど、今は輸送方法や保存方法の発達で珍しい生の料理が食べられるようになり、それがアニサキス増加の原因だとする説があります。
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なまじ、技術が発達したために、寄生虫が生き残って悪さするというのは皮肉な話ですが、外国人から見れば、生魚など食べるからだ・・ということになります。 このまま行けば、伝統的な日本のお刺身文化や寿司文化が危機にさらされます。
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しかし、私は別のことを考えます。アニサキスの増加は、内視鏡の普及や生魚を食べる機会の増加以外にも原因があるのではないか? 誰も言いませんが、私が思うのはクジラの個体数の増加です。以前、調査捕鯨で捕らえて解体したクジラの胃の内壁にビッシリとアニサキスが付着していたという話を聞いたことがあります。そのクジラはさぞかし胃痛に悩んだろうな・・なんてことを考えますが、もっと大きな問題があります。実はアニサキスはクジラやイルカの消化器の中で繁殖し、その糞便とともに海洋に排出されるのです。
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商業捕鯨が禁止され、クジラの個体数が増えているのは事実です。しかし、その弊害について報告するのは、なぜかタブーのようです。サンマのような回遊魚の漁獲量の急減の理由の一つは、クジラによる捕食の増加が考えられます。またオキアミの減少もクジラの増加によると思われ、オキアミを捕食する魚類もその影響を受けて減少したと思われます。
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それに加えて、アニサキスを撒き散らすクジラの増加は、日本人のアニサキス症を増やしているのではないか?と私は思います。クジラの糞便は、一種の海洋汚染です。それに加えてクジラのオナラは、温室効果ガスを大気中に放散することになります。クジラの増えすぎは、環境に大きな影響を与えるのです。
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反対する国も多いのですが、日本は調査捕鯨を続けるべきです。クジラの個体数の増加がもたらす影響を詳しく調査すべきです。 そして捕獲した個体を調べる時には、胃袋の中のアニサキスの有無も必ず確認すべきです。
これは、クジラを食べるか否かではなく、日本の素晴らしいお刺身文化と寿司文化を守るためです。 そう考えれば、胃痛を抱えて亡くなったクジラも浮かばれるというものです。
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