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【 メキシコと自動車産業 】 [アメリカ]

【 メキシコと自動車産業 】

 

トランプ次期大統領がツィッターで、「トヨタ自動車がメキシコに工場を作るなど怪しからん」と吼えたのに対して、豊田社長は「メキシコに工場を作る計画に変更はない。一方で米国にも今後5年間で100億ドルの投資を行う」と答えています。

http://jp.reuters.com/article/idJP2017011001000844

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常識的なまともな回答ですが、まてよ・・と言いたくなります。そもそも、何で米国に怪しからんと叱られなければならないのか? 日本の会社がどの国に工場を建てようが、その会社の勝手ではないか? 米国政府にとやかく言われる必要はありません。

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「どうせメキシコで作って米国で売るのだろう?」と言われても、NAFTAが現実にあるのだから、その域内のどこで売ろうがトヨタの勝手です。NAFTA(北米自由貿易協定)は米国も合意して締結された協定であり、現に存在する以上、利用しない手はありません。同じ自動車なら製造コストの安いメキシコで作るのは当然ですし、敢えて製造コストの高い米国で作るとなると、トヨタの株主から見れば背任行為となります。

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一方、トヨタは「米国でも企業市民(奇妙な言葉です)として、納税義務を果たし、地域に貢献し、雇用を維持していく」と言いますが、こちらはちょっと歯切れが悪いところがあります。

豊田章男社長が胸を張る「米国で1兆円以上の投資額・・」というのはそのまま雇用の創出に繋がるとは言えません。米国トヨタの本社機能をテキサスに集めることに要する費用もありますし、IT関連の子会社の設立もそれほど雇用創出に寄与するとは思えません。

ケンタッキーなどの既存の工場にも投資しますが、それにはロボット化などの投資も含まれ、雇用の拡大という点ではむしろ逆かも知れません。

テキサスへの本社移転だって今のカリフォルニア州トーランスにある本社の従業員にとっては雇用の危機となるものです。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3990

「米国での雇用を守る」と正面から言えないので、金額を言ってごまかしている・・・というところでしょう。

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そもそもトヨタには、言葉は悪いのですが、前科があります。その昔、愛知県に閉じこもっていた大企業トヨタが北米の生産拠点として最初に築いたのが、カリフォルニア州のNUMMIです。これはGMとの合弁でピックアップトラックやカローラを作っていましたが、GMが手を引いて、トヨタ単独になったあと、トヨタはこれを閉鎖してしまいました。

若き日の豊田章男氏が幹部として勤務したのもNUMMIで、思い入れのあるはずのその工場を彼は閉鎖し、従業員は解雇されました。今、NUMMIはどうなっているかと言えば、電気自動車メーカーのテスラが買い取り、その生産ラインを活用しています。少し皮肉です。 だからトヨタは米国の雇用を最優先にするとは言えないのですが、まだましです。

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一方、GMやフォードは、トランプ氏の要請に屈する形で、米国内に生産ラインを作ることになりました。メキシコへの莫大な投資、地元へのコミットメントはどうするのでしょうか? トランプ氏のツィッターに、大企業が振り回されるのを見て、首を傾げたくなりますが、トランプ氏が優勢で企業側が劣勢のようです。ではなぜそうなるかと言えば、トランプ氏が本音で喋るのに対し、企業側が本音を言えないからです。

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その本音とは労働組合UAWの存在です。 米国は資本主義の王道を行く国ですが、一方で強力な労働組合を持つ国です。 全米自動車労組(UAW)もその一つですし、全米鉄鋼組合(USW)もその一つです。

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1980年代以降、五大湖沿岸の重厚長大産業が不振となり、「錆びついた地域」になった理由は、いろいろありますが、一つは強力な労組が支配する地域だったことです。

いち早くデトロイトを抜け出して、労組の無い会社「サターン」を実験的に経営したGMは一定の成果を挙げました。 遅れてきた日系の自動車各社は敢えて労組の強いミシガン州を避けて工場を建設しました。

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自動車各社は、単純に賃金が安いだけでメキシコを選んだのではなく、労組の影響をなるべく排除したかったのです。しかし、正直にそのことを言えません。なぜなら相手がトランプ氏だからです。

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トランプ氏が選挙に勝利した理由の一つは、プアーホワイトと呼ばれる、労働者階級の白人を味方につけたことです。 それまでは民主党支持者だった彼らを取り込んだのです。 本当はトランプこそ大金持ちの共和党員ですから労働者や組合から嫌われても仕方ないのですが、逆に民主党のヒラリークリントンの方が、お金持ちで高学歴で頭のいい鼻持ちならない女性というイメージを持たれて、支持者を失いました。

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GMもフォードも労働者を味方につけたトランプ氏相手に、組合の影響を除くためにメキシコに逃げた・・とは言えないのでしょう。

しかし、エルモシージョやアグアスカリエンテスにできつつある自動車産業の一大生産拠点を今更、放棄することはできません。 裾野が極めて広い、自動車産業では、組立メーカーの下に、部品メーカー、下請け、孫請、素材メーカーといった多種多様な企業が集まります。 既にメキシコには幾つもそれらの工場群が進出しており、更に発展中です。日系、米国系を問わず、この大きな流れを変えることはできません。 いかにトランプ氏といえども無理でしょう。

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この問題の対応を誤ると、日米の自動車産業だけでなく、日米墨の経済が落ち込む可能性があります。 TPPどころかNAFTAも崩壊してしまいます。それだけは避ける必要があります。

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せっかく出来上がった自動車の組立工場も部品工場も空き家になり、メキシコ人の失業者が街に溢れるようになれば・・・最悪です。麻薬がはびこり、それがやがて米国に流れ込み、米国はしっぺ返しを食らうことになります。

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では米国企業に逃げられたメキシコはどうするか? それに代わるテナントを探すしかありません。 実は労働組合に手を焼いている自動車会社が他にもあります。韓国のヒュンダイ(現代自動車)。韓国の労働組合もまた強力で、しばしば獅子身中の虫となって、企業経営を圧迫します。

現代自動車の場合、組合の賃上げ要求は激しく、今や若いブルーカラーの年間賃金は日本円で軽く1000万円を超えます。他産業や他の企業との格差も大きくなり、韓国国内で問題となっていますし、高過ぎる製造コストは、海外市場で現代自動車の競争力を大きくそぐ形となっています。

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組合の影響の及ばない土地に新しく工場を作って自動車を生産したい・・という思いはデトロイトの米系自動車会社以上かも知れません。 現代自動車はメキシコの工場を居抜きで買って、生産するかも。 でもそれとてトランプ次期大統領に一喝されたらどうなるか、分かりませんが・・・。


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夏炉冬扇

おもしろく読みました。
by 夏炉冬扇 (2017-01-16 18:22) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様

コメントありがとうございます。
ドタバタしていて、なかなかブログの更新ができませんが、
書き掛けの文が幾つか溜まっています。
少しずつ掲載していきますので、お読みいただければ幸いです。

またのコメントをお願いします。

by 笑うオヒョウ (2017-01-17 22:14) 

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