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【 Papa & Mama’s Store 】 [アメリカ]

【 Papa & Mama’s Store

 

今は昔、平成の時代の話です。私が1990年代の初めに米国にいた頃の話です。私達一家が暮らしたのは、シカゴの北の郊外にある町Glenviewです。町といっても小さな自治体ですが、それなりに繁華街というか、目抜き通りがあります。そこには、大手のスーパーマーケットが3軒ありました。Jewel-Osco(スーパーのJewelと薬局のOscoの合弁)、Walgreen(世界最大の小売店チェーンのWalmartのグループ)、Dominic’sの3店で、食料品や日用品はその3店で全て揃います。しかし、それ以外にも小規模な小売店が何軒かありました。夫婦二人で切り盛りする家族経営の小規模なお店で、店内でお惣菜をつくったりパンを焼いたりする店でstoreというよりshopという感じの店です。

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米国では、その種の家族経営のお店を、親しみを込めてPapa & Mama’s Store と呼んでいました。大資本の大規模スーパーに対抗するのは大変で、小回りの利くサービスに努め、地域密着型というか、顔見知りのお客に支えられて、なんとか店を維持する訳です。

米国には、大企業に雇われるのを潔しとせず、小規模といえども、事業主としてお店を経営する人を、それなりに尊敬します。だから小規模小売店も生き残っていけた訳です。

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もし、大規模小売店の安価で合理的なシステムと、Papa & Mama’s Store の地域密着型のサービスの良いところ取りをした、新しいビジネスモデルを作成し、店舗展開できれば、成功するのではないか? 世界初のフランチャイズ型のコンビニエンスストア、セブンイレブンを始めた人は、そんなことを考えたのではないでしょうか?

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そのセブンイレブンをアメリカで見た鈴木敏文氏は、それを日本に導入し、いろいろなノウハウを追加して、日本独自のコンビニエンスストアのシステムを作り上げ、大成功させたのだと思います。本家本元の米国のセブンイレブンが傾くと、逆に日本が応援しています。

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実に多くのものが、米国から導入され、それが日本で改良され、そして米国に里帰りしています。私の出身分野の鉄鋼業の技術もそうですし、QCと呼ばれる品質管理の手法や小集団活動もそうです。そしてコンビニエンスストアのノウハウもその一つです。

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日本でコンビニが普及し成功したのには、幾つも理由があります。その一つは時流に乗ったということです。昭和時代の末、日本でも米国同様、大規模小売店(全国展開するスーパーマーケット)が小売業の世界を席巻し、旧態然とした小規模な小売店は変革を迫られていましたが、資金もなければノウハウもありませんでした。そこにセブンイレブンがフランチャイズシステムを紹介すれば、渡りに船というものです。セブンイレブン側は、酒類の販売免許と駐車場があり通りに面した場所を手に入れることができ、小売店側は少ないお金で店舗を改造し、経営の安定を図れたのでWin-Winの関係ができたのです。

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しかし事態は変化します。コンビニの増加とともに、サービスの質も変化します。また新しいオーナー達が登場します。

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昭和の末期、高度成長が終わった後、民間企業のサラリーマンは一種の閉塞感を感じるようになります。脱サラという言葉が生まれ、勤め人を辞めたい衝動に駆られますが、簡単ではありません。脱サラをして飲食店などを開業しても順調にいくとは限りません。街には「泳げたい焼き君」の歌が流れ、TVでは木下恵介の「二人の世界」が高視聴率を上げていた時代です。

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そこにコンビニエンスストアの本部が、フランチャイズを募集すれば、脱サラ希望者には魅力的に映ったはずです。資金の多くは本部が貸与してくれ、ノウハウも提供する。そして店のオーナー様として祭り上げられ、一国一城の主になれる訳です。

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流通業界で平成の時代に大成功したビジネスモデルを2つ挙げろと言われたら、私は、製造コストが低い中国で生産する一方、日本の厳しい品質管理基準を適用し、そしてブランドイメージの構築に成功したユニクロ(ファーストリテイリング)のビジネスモデルと、フランチャイズ制を導入して、大規模小売店と小規模小売店の長所を融合したコンビニエンスストアのビジネスモデルを挙げます。

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しかし、いい時代は長く続きません。ライバル会社が現れ競争は激化し、そしてコンビニの店舗数は、地域によっては飽和しました。それでも店舗は増え続けます。大資本の論理では、ライバルとの競争でマーケットシェアをいかに奪い、ヘゲモニーを獲得するかが重要です。とにかく店舗数を増やしてライバルに負けないようにすること。そして差別化するには、価格以外でサービスの質を高めること・・・例えば24時間操業の導入です。

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あれっ? セブンイレブンというのは、午前7時から午後11時までの営業という意味ではないのか?と思いますが、いつの間にか24時間開店が当たり前になりました。

昭和の終わり、ステージの三波春夫は感極まって、「お客様は神様です」と口走りましたが、顧客満足度を追求する小売業界では、これはスローガンとしてピッタリでした。お客様の利便性を考えるなら、当然24時間でなければなりません 。時任三郎が「24時間戦えますか?」という声の中でリゲインを飲むCMが流れたのはその後です。

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しかし、それらのサービス強化のしわ寄せは全てオーナー側の負担となりました。店舗数の拡大方針と、現場のサービス強化・・・・本部の無茶な作戦で、いたずらに戦線を拡大し、兵をガダルカナルに送り込んだのはいいが、補給がままならず、最前線の兵士が苦しんだ太平洋戦争のようです。コンビニオーナーの過労死や自殺は、南方戦線で亡くなった日本軍兵士に通じます。

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小売業の最前線では、若年労働力の不足が深刻化し、人手不足がコンビニを襲います。学生アルバイトだけでは対応できません。外国人実習生、専業主婦、リタイヤしたサラリーマンなどを動員して何とか凌ぐことになります。

しかし平成の中頃、景気はさらに悪化し、就職氷河期となります。企業に正社員として就職できなかった若者達は、派遣の非正規社員になるか、腰掛のつもりでコンビニの店員となりました。これが禍根となります。

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昭和の時代、大企業だろうと小企業だろうと、就職すれば終身雇用の保証のもと、勤労者は技術やノウハウを身に着け、自分自身が成長し、生産性が上がり、地位も待遇も上がっていきました。その後、定年退職したあとも穏やかな老後を過ごせたのです。

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しかし、平成時代の非正規雇用の人々、とりわけコンビニの店員はそうではありません。マニュアル通りに仕事することを求められますが、忠実にそれに従ったところで、技術が身に付く訳ではありません。給料が上がる訳でもなく、オーナーになれる訳でもなく、本部に行って昇進する訳でもありません。やがて40代を迎え、自分の子供と同年齢の店員と同じレベルの仕事をし、同じ給料を貰い続ける訳です。彼らの老後の生活を誰が負担するのか?

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この事実に暗澹とする人は多いはずです。コンビニだけの問題ではありませんが、日本経済が抱える時限爆弾の一つはコンビニエンスストアのカウンターの向こう側で時を刻んでいます。

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ではどうするべきか? 私は原点に帰って考えるべきだと思います。原点とはアメリカの片田舎にあったセブンイレブンです。顔見知りのお客と世間話をしながら、子供にキャンデーやソーダ水をサービスし、営業は午前7時から午後11時までのPapa & Mama’s Store です。行き過ぎた日本式が常に正しいとは思えません。日本のコンビニも午後11時までで十分です。

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もっとも、外国を参考にしろ・・と言っても、韓国のコンビニは参考になりません。韓国は絶望的な就職難で、名門大学を出てもコンビニの店員にしかなれないといった話が聞こえてきます。そこで大衆におもねる文政権は、最低賃金を一挙に50%も引き上げましたが、今度はコンビニの人件費倒産が相次ぎます。潰れなくても店員数を絞り込み、店員とオーナーの労働強化は過酷を極めます。一方で失業者はますます増える・・という有様です。

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シカゴ郊外の小さな町、Glenviewの小さな繁華街キャリロンスクエアにあった小さなお店の店主に日本や韓国のコンビニ地獄の話をしたら、何と言うでしょうか? 

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世の中は常に進歩しているけれど、もし平成の時代に間違った方向に進んだことがあるなら、それは昭和の時代に立ち帰って考えるべきです。そして見直しは急ぐべきです。

ぐずぐずしていると昭和を記憶している人はどんどんリタイヤして、いなくなってしまいますからね。


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【 毒薬 その1 】  [アメリカ]

【 毒薬 その1 】 今回はロイター通信の記事について考察します。

 

今は昔、バブルが弾けて間もない頃、円が安くなり、日本企業は海外からの買収・乗っ取りに怯える日々を送りました。新日鉄や住金(当時)の経営陣は、日本国内での競争や需要家との交渉以前に、アルセロールミッタルからの買収(M&A)に備えることばかり考えていました。

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対策には、いろいろな方法があり、敵対的な株の買収に対してはWhite Knight(白馬の騎士)に助けてもらうとか、買収した側が後で「こんなはずではなかった」と臍(ほぞ)を噛むPoison Pill(毒の錠剤・・・日本人だったら独饅頭の方がピンとくる)といった対策が検討されました。結局、NKKと川鉄、新日鉄と住金の合併で海外勢に対処した訳ですが、どうでもいいけれど、株屋というのは、センスの無い名前をつけるなぁ・・と少し嗤った記憶があります。

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後で「こんなはずじゃなかった」と思わせるPoison Pillとは、既存の株主に、相場より安い価格で大量に株式を売りさばく方法です。乗っ取った側は、株価は下がるし、発行株式の増加で価値は希薄化するし、過半数が取れなければ経営の主導権を取れず・・・となり、乗っ取りは失敗となります。シイタケだと思って食べたら、ツキヨタケだった・・・という訳です。(脱線しますが、私が武田泰淳の「ひかりごけ」を読んだ時は、これはツキヨタケのことかと思ったのですが、ひかりごけは「ヒカリゴケ」であり、全く違いました)。

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その懐かしい名前であるpoison pillが、米商務省のRoss長官の声明に登場しました。

https://jp.reuters.com/article/trade-nafta-china-idJPKCN1MD053

https://www.reuters.com/article/us-usa-trade-ross-exclusive/exclusive-u-s-commerces-ross-eyes-anti-china-poison-pill-for-new-trade-deals-idUSKCN1MF2HJ

これは、M&Aとは全く無関係で、中国包囲網を築くための措置です。即ち、NAFTAの同盟国であるカナダとメキシコに対し、「人権抑圧、不公正な貿易や知的財産権の侵害を行う中国と、個別の貿易協定を結んだら、米国が罰則を科すぞ(NAFTAのちゃぶ台をひっくり返すぞ)」と脅す内容です。

「うっかり、中国と貿易協定を結んだ後に、米国とのNAFTAの条約が障害になることに気づき、慌ててももう遅いよ。君は毒薬を飲んだのだよ」とRoss長官が笑う訳です。

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TPPを拒否し、2か国間協定(FTA)に拘る米国が、中国との2か国間協定を妨害するとはまさに矛盾です。昔、小学校の教室で、ガキ大将が自分に従わない児童を村八分にするために、子分の児童達に脅しをかけたのと似ています。さらに、米政府はこれをEUにも申し入れる見込みです。

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米国単独の経済制裁では限界があると考え、新しいABCD包囲網を築こうという考えです。実際のところ、米中の貿易戦争は、中国に勝ち目はないとされています。米国は輸入額が大きいだけに、まだ課税を追加する余地がありますが、中国にはもうありません。しかし中国はプライドの国です。打つ手が無くなったからと言って、米国に頭を下げる可能性はありません。貿易戦争は泥沼化します。

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以上のように説明すると、中国が善玉で米国が悪玉のようですが、事情はやや複雑です。中国が知的財産権を軽視し、他国の顰蹙をかっているのは事実だからです。

典型的な例として日本の新幹線があります。新幹線を導入する条件として、JR東日本は中国への技術移転を求められ、中国国内の使用に限って知的財産を提供した結果、中国は海外でその技術の売り込みを図り、日本のライバルになっています。

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中国側はいろいろ抗弁しますが、基本的に彼らが知的財産権を尊重していないのは事実です。米国や日本、ドイツの技術を盗んで、それを世界中で売りまくるとなると、複数国間で連携して、中国の暴挙を抑え込む必要があります。それには、この毒薬は案外有効かも知れません。

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それはともかく、中国包囲網が北米だけでなく、EUにも及ぶとなると、さすがの中国も孤立し、貿易は大幅に減る可能性があります。米中貿易戦争の勃発で、他の国も一斉にブロック経済に進み、自由貿易化の流れは逆行するでしょう。その場合、日本だけが無傷でいることは現実的ではありません。

https://www.reuters.com/article/us-usa-trade-ross-autos-exclusive-idUSKCN1MF2IE

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日本は、洞ヶ峠を決め込んで、自分から動く様子はありませんが、中国は積極的に打開策を練っています。それについては次号で。


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【 造船業と安全保障 その2 】 [アメリカ]

【 造船業と安全保障 その2 】

 

戦前、山本五十六がワシントンの大使館付武官として駐在し、仮想敵国となりうる米国を調査旅行した際、彼は石油産業や航空機産業に注目して現地を訪れ、詳細な報告を作成しています。しかし、製鉄産業や鉄鉱石の鉱山を無視し、調査していません。造船所についてもあまり調査していないようです。

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実際には、当時の米国の粗鋼生産能力は、日本のそれの10倍で、軍艦建造能力も、日本のそれに比して桁違いに大きなものでした。軍艦に関して言えば、日本の攻撃によって失う量より多くの艦船を建造したため、開戦時以降、軍艦の数はどんどん増える一方で、戦力は充実していきました。開戦時の空母や戦艦、巡洋艦の数だけを念頭に置いて、作戦を練った日本海軍の戦術と戦略はたちまち破綻しました。一方、日本はミッドウェイ海戦以降、軍艦を建造する速度より、失う速度の方がはるかに速く、終戦時にはろくな軍艦が残っていなかったことは、皆さんの知るところです。開戦時の戦力比較ばかり考慮し、消耗戦の中での継戦能力を決定する工業力について、日本はあまり頓着しませんでした。

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当時の米国の造船能力を示す特徴的なものは、リバティー船と呼ばれた規格化された1t級の輸送船です。性能面や品質面には多くの問題があったものの、量産に適したブロック構造の船体や、溶接工法の採用などで、最盛期には、1日に3隻のリバティー船が竣工したそうです。また1隻を建造するのに要する期間はたった42日だったとか。

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太平洋戦争について語る日本人は、しばしばアメリカの物量に負けたと言いますが、具体的に、何を生産・供給する能力に於いて、米国が優り日本が劣ったかを分析しなければ、意味がありません。その中で艦船の建造能力の差は最も極端なものでした。

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今、米国と対峙しようとする中国は上海や大連に大型の造船所を複数持ち、空母の建造能力を比較した場合、米国に優ります。米国では正規空母の建造には概ね10年かかります。 だから、ニューポートだけで建造するなら10年に1隻しか空母はできません。

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一方、中国の空母は米国の空母と比較するとかなり貧弱な存在ですが、4年以内に建造可能です。しかも空母を建造可能なドックは3箇所以上あり、3隻同時に建造できます。概ね23年に一隻の空母が誕生する計算です。

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米中、もし戦わば・・という子供じみた空想をした場合、人類の破滅につながる核戦争は、両方とも望まないでしょう。そして核兵器を使わない戦争で、兵員と兵器の消耗戦になれば、航空機と軍艦の建造能力が鍵になります。

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飛行機やミサイルはともかく、継戦のための軍艦の供給能力では、米国は中国に既に敗北しています。造船所以前の問題として艦船用の鋼材を生産する製鉄所を比較した場合、中国の粗鋼生産能力は、既に米国のそれの8倍にも達しています。

あのアメリカが「中国の物量には敵わない」とボヤく時代になるのです。

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誤解と錯覚と知ったかぶりの塊であるトランプ大統領のメッセージの中で、安全保障上の理由で米国の造船業を保護しなければならない・という部分はそれなりに正しいと言えます。ただし、遅すぎた感はありますが・・。

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米国だけではありません。イギリスも、そして日本も安全保障上の理由で造船会社を維持する必要があります。 日本の場合、1970年代末に倒産しかかった佐世保重工を残したのも、艦船の建造補修能力を重視したからです。 21世紀の現代、三菱重工の神戸造船所を残すべきか否かは議論の対象になりますが、三菱重工と川崎重工の神戸造船所は潜水艦を建造するただ2つの造船所なので無くす訳にいきません。

最近、三菱重工は神戸造船所の仕組みを新しくすると発表しましたが、生き残りのためには、何でもありです。

https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400234/082400002/?n_cid=nbpnbo_mlpum

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一方で水上艦の方は、多くの造船所で建艦可能ですが、問題は多くあります。日本の艦船建造で非常に重要な役割を果たしていたIHIも造船事業を縮小しています。愛知造船所を閉鎖したのです。

https://www.nikkei.com/article/DGXLZO15694920U7A420C1TI1000/

駆逐艦建造では、世界的に有名だった住友重機浦賀ドックは、15年も前に閉鎖しています。

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安全保障のために、造船業を残すというなら、軍需だけでなく、民間船舶も一定量建造し、そしてそれで足りない分を、政府が応援するしかありません。

今のところ、それがうまく機能しているのは、中国ぐらいですが、中国の強みは生産コストだけです。 日本の造船業が生き残るには、これまでに培った技術力で、他国に差別化できればいいのですが、これが難しいのです。

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私が米国の製鉄業の衰退を眺めていた頃、その現象を解析しました。産業の衰退の過程で最初に発生するのは、人材が集まらなくなるという事態です。

その国を代表する名門大学(例えばハーバードのビジネススクールやMIT)の卒業生がUSスチールを見向きもしなくなりました。やがて人材が枯渇すると、技術開発力が衰え、製品の競争力が無くなります。そして市場を失い、売り上げが低迷し、資金繰りに苦しむようになり、経営破綻します。

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日本でも、その産業の将来を占うには、日本を代表する学校の卒業生がその産業を目指すかどうかで占えます。

 

日本の場合、1学年1000人以上いる、東大の理科Ⅰ類(主に理学部と工学部へ進学するグループ)の学生の希望学科を見れば分かるのです。船舶工学科は、1980年代の造船ショック以降、底なし学科(つまり希望者は誰でも進学できる不人気学科)に転落したままです。

これでは、日本の造船業も、軍艦建造技術も危うくなります。米国で起こっている事態は決して他人事ではないのです。

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あっと、もうひとつ底なし学科がありました。 冶金金属学科です(今は名称が変わりましたが・・)。 製鉄産業も将来は危ういかも知れません。


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【 クラブハウスの時計 】 [アメリカ]

【 クラブハウスの時計 】

 

オハイオ州クリーブランドからミシガン州デトロイトまで、飛行機で飛ぶには近過ぎるので高速道路を車で移動するのが普通です。その途中、オハイオ州の西端にトレドの街があり、そこで昼食をとります。車を運転するフランク・マシニャック氏が、「オヒョウ君、ここのゴルフ場のことを知っているかい?」と尋ねます。そのゴルフ場はInverness Clubという名門コースです。

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「スコットランドでもないのにインバーネスとは面白いですね」と私が言うと、マシニャック氏が肩をすくめて「この町だって、スペインじゃないけれどトレドだぜ」と混ぜっ返します。

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「ここのクラブハウスには有名な時計がある」

そこで彼が話し始めたのは、伝説の名ゴルファーであるウォルター・ヘーゲンのことです。戦前に活躍したヘーゲンはジャックニクラウスと肩を並べる優勝回数を誇りますが、同時にプロゴルファー、あるいはプロスポーツ選手全体の地位向上に尽力した男です。

https://en.wikipedia.org/wiki/Walter_Hagen

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1910年代、プロゴルファーはゴルフ場のクラブハウスに正面玄関から入ることを許されませんでした。そしてクラブハウスにあるいろいろな設備、シャワーとかロッカーなどを使うことも許されませんでした。ダイニングルームやラウンジを使えなかったのです。

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それはプロゴルファーの地位が低かったからです。レッスンプロは、アマチュアからギャラを貰って指導する立場です。トーナメントプロは、つまり賞金稼ぎです。どちらも趣味としてゴルフをたしなむアマチュアに寄りかかって生計を立てている訳で、会員権を持つアマチュアより、地位は低かったのです。

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それに加えて、クラブというものは、もともと人を選びます。英国などで盛んだった、社交の場である倶楽部とは、立ち入れる人を制限することで、周囲と差別化し快適な空間を保証する仕組みです。

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ゴルフ場のクラブハウスもその延長にあり、プロゴルファーは入れなかったのです。

それに反発したヘーゲンは、抜群の成績を上げると同時に、地位向上のためのアピールというかデモンストレーションを行いました。実際、彼は人品骨柄卑しからざる紳士で、彼を見る限り、プロを蔑む理由など無い・・・ということになり、1920年の全米オープンのトレド大会から、プロ選手もクラブハウスに正面玄関から入る事が許されました。それに感激したプロゴルファー達がお金を出し合って、クラブハウスに大きな柱時計(Wikipediaでは鳩時計となっていますが)をプレセントしたのだそうです。

https://en.wikipedia.org/wiki/Inverness_Club

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今でも、その柱時計は時を刻んでいます。そして、この時計はアメリカに於ける、プロスポーツ選手の地位向上の象徴でもあるのです。

しかし、これはヘーゲン選手だけのエピソードではありません。時代の転換点というか、20世紀の前半に起こった世界的な潮流の象徴です。地位の低かったプロスポーツ選手を高く評価するようになった変化です。

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そしてもう一つは、同時期に世界の中心が英国から米国に移ったということです。とりわけ、それまで英国主体のスポーツだったゴルフが米国主体のスポーツに変わったということです。以下に少し詳しく述べます。

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19世紀まで、スポーツとは遊びや趣味の対象であり、楽しむものでした(今もそうですが)。

そして他人が遊びとして興じることを生業とするのは、ヤクザなことで誇れる事に非ずとされていました。(ここでいうヤクザとは、社会のために価値生産をしない人のことで、反社会勢力のことではありません)。本当に誇れる仕事とは、地味であっても実直に価値生産する活動である・・という思想です。

しかし、20世紀に入り、人々を楽しませ、熱狂させることも立派な生産活動ではないか?という発想が主流になります。プロスポーツだけでなく、全ての興行ビジネスに光が当たるようになったのです。

プロゴルファーの地位の向上はその流れの中にあります。

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もうひとつは英国と米国のプロスポーツに対する考え方の違いです。英国の貴族社会はアマチュアリズムを崇高なものとしました。スポーツは体育の一環の純粋な競技であり、スポーツマンシップもそれに依拠するという考えです。金儲けの為にこれを行うのは卑しい行為である・・・という考え方は今もあります。しかし、そうなるとスポーツを楽しめるのは、生活の心配の無い有閑階級の人々だけになります。スポーツは、広く一般大衆が楽しめるものではなくなります。

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一方、貴族のいない国、アメリカには違う考えがあります。研鑽を積み、高い技量を持つプレーヤーは尊敬されるべきだし、それに金銭で報いるのは当然だという考えです。

1920年というのは、英国発祥のスポーツであるゴルフの主導権が、英国から米国に移った時期であるとも言えます。

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ゴルフだけではありません。経済でも第一次世界大戦で消耗した英国から米国に世界の中心が移動した時期と言えます。そして欧州の貴族社会も次第に没落していったのです。

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繰り返しになりますが、トレドのインバーネスクラブのクラブハウスの時計は、時代の転換点と、主導権が英国から米国に切り替わった事の象徴なのです。そして先人達が苦労してプロゴルファーの地位を向上させてきたことの象徴なのです。

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その先人達の苦労を知ってか知らずか、片山晋呉プロがプロアマの大会で、無礼な態度で招待したアマを激怒させたという事件が発生しています。

https://diamond.jp/articles/-/172170

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無礼な態度・・といっても、相手を無視して、自分の練習を続けたとか、口のきき方が悪かった・・というくらいでしょうから、それで激怒して帰るというのも大人気無い気もします。

プロアマ大会に呼ばれるのは、スポンサーの大企業の重役でしょうから、普段から周囲にかしずかれ、大切に扱われるのが当たり前になっていたのでしょう。そこに、プロ選手が無礼な態度で接したので、激怒した・・ということでしょう。

もっとも、私自身がそこにいた訳ではないので、正確なところはわかりませんが・・・。

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ところで、地位が向上したとは言え、プロ選手はアマチュアのサポートあっての存在です。

プロアマ大会に呼ばれるアマはただのファンではなく、皆、プロゴルフ界にとって5億円~6億円のスポンサーなのです。いや、スポンサーでなくてもファンは大事な存在です。プロ選手が見下してよい存在ではありません。

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TBSのスポーツ実況アナウンサーでスポーツ評論家の石川顕氏は、講演の中で、「一流のプロ選手は誰がお金を出してプロスポーツを支えてくれているかをよく理解している。だからファンを大切にする。片山晋呉の振る舞いは実に残念だ・・」と語っています。片山晋呉は一流のプロ選手の条件に合致していないようです。

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片山晋呉選手に言いたい。

先人が苦労してプロ選手の地位を上げ、その一方でアマチュアを大切にしてゴルフ界を盛り上げてきた歴史を学ぶべきだ。一度、その象徴であるトレドのインバーネスクラブのクラブハウスにある時計を見に行ってはどうか?プロでも中に入れてくれるぜ。

あっ、念のために注意しておくけれど、トレドといっても、スペインじゃないぜ。米国のオハイオ州だからね。


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【 The grapes of wrath わが心のルート66 その2 】 [アメリカ]

【 The grapes of wrath わが心のルート66 その2 】

 

今、廃れつつあるルート66はハイウェイパトロールのドル箱になっています。米国にはダブルニッケル(つまり時速55マイル)という速度制限があるのですが、ルート66を訪れる観光客はしばしばスピード違反をしてつかまります。懐かしのTVドラマをイメージして走っていると、とんでもない災難に会うのです。 そして日本人旅行者も例外ではないようです。

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そう言えば、“ルート66”と同じ頃に、“ハイウェイパトロール”というドラマもTVで放映していました。 このドラマに登場する警官は格好良くて正義漢で、ネズミ捕りなんかしなかったけれどなぁ・・。

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そして、もうひとつアドバイスを・・。

ルート66を走るのなら、やっぱりスポーツカーに限ります。それもオープンカーがいいです。理想を言えば、コルベットの1964年型が最高です。いくら故障が少なくて米国での評判が良くても、トヨタカムリやニッサンアルティマではダメです。それらは高速道路のドライブに向いており、それなら、日本の高速道路でもいいのです。

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走っている間のBGMは、ナットキングコールのルート 66”です。 松任谷由美の“コルベット1964”もいいかも知れません。

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では、オヒョウもいつか、米国のルート66を旅する事があるのか?と訊かれたらどう答えましょうか? 私にその予定はありません。

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人生には、時間に余裕はあるけれどお金に余裕が無い時期と、お金に余裕はあるけれど時間に余裕が無い時期の両方があると言いますが、人それぞれです。

仕事をリタイアして、人生の収穫の時期を迎えた人には、幸運にしてお金と時間の両方に余裕を持つ人がいて、温めていた計画を実行できます。それはご同慶の至りですが、しかし、オヒョウのごときプロレタリアートには、お金と時間の両方とも余裕が無い時期ばかりが続きます。リタイアした後の旅行を算段することはできません。

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しかし、それでも私がルート66を旅行することをイメージしてみます。 その時は、スポーツカーではなく、壊れかけたオンボロの農業用のピックアップトラックに乗り、破れた麦わら帽子を被り、ヨタヨタと南部の砂漠地帯を走ることになるでしょう。

そして、その時のBGMはナットキングコールのルート66ではなく、リパブリック讃歌の“権兵衛さんの赤ちゃんが風邪ひいた”になると思います。

私がイメージするルート66はそういう世界です。


【 The grapes of wrath わが心のルート66 その1 】 [アメリカ]

【 The grapes of wrath わが心のルート66 その1 】

 

<今回のブログは、以前書いたものと少し重複していますがお許しください>

 

現役を退かれた先輩諸氏が、かねてから楽しみにしていた計画を実行されるようです。その計画とは、昔の仲間と車を駆ってアメリカのルート66を走破する旅行だそうです。

ルート66というなら、少しばかり私にも思い入れがあります。

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もうずいぶん昔の話ですが、私の初めての海外出張はアメリカでした。その出張の途中、シカゴからインディアナ州にある製鉄所まで、その製鉄所の品管部長だったO’Neilさんの車に乗せて貰いました。その途中、高速道路を下り一般道を走っていると、国道66号線つまりルート66の看板が見えました。

「ああ、これがルート66ですか、日本でも有名ですよ」と、運転しているO’Neil氏に私が下手な英語で話しかけると、彼は「アメリカでも有名ですよ」と答えます。

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年配の方ならご存知かも知れません。TVドラマで「ルート66」という作品があったのです。二人の青年がルート66を旅するストーリーでした。話の内容は忘れましたが、格好いいスポーツカー、豊かな暮らし、広大な大地・・・どれを取っても日本には無いものばかりで、そのTVドラマを見てアメリカにあこがれました。

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「ドラマもいいですが、ナットキングコールの歌もいいですね」と私。ドラマの主題歌は、シカゴからロサンゼルスへ向かうルート66の道沿いの町を順番に並べています。

O’Neil氏は「でも今は、インターステーツ(高速道路)が発達したので、旧道のルート66は廃れて分断され、全部は繋がっていないはすだよ。昔のようにロサンゼルスまでは行けない」と答えます。

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そこで会話が終わってしまいそうだったので、私は知ったかぶりをして、話を進めました。

「しかし私がルート66を知ったのは、TVドラマではありません。スタインベックの小説「怒りの葡萄」を読んだ時に登場したのです。あの小説に登場するルート66も印象的でした。TVドラマとは全く違うアメリカですね」と私。

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O’Neil氏は黙って頷き、「僕も学生時代にスタインベックの「怒りの葡萄」は読んだ」と言いましたが、そこで彼は私の重要な間違いを指摘しました。

”The grapes of anger”ではなく、“The grapes of wrath”だよ。意味は同じだけれどね」

「えっ?wrathという単語があるのですか? Angerとは何が違うのですか?」

O’Neil氏は少し黙っていましたが、「wrathとは、多分、神の怒りなのだろう」とつぶやきました。

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私は混乱しました。「神とは怒るものなのか? 西洋の神様はひたすら優しく許すのじゃないか? 人々は神の怒りを畏れるべきなのか?」

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その少し後、帰国する前の日の夜です。ホテルのTVでは、黒人の合唱団が賛美歌を歌っています。

リパブリック讃歌もその中に入っています。私には歌詞は分からず「権兵衛さんの赤ちゃんが風邪ひいた・・・」というふざけた替え歌しか、思い浮かびません。ところが突然、その中にgrapes of wrathという言葉が登場しました。その部分は聞き取れました。O’Neil氏と同じ発音です。

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ああ、やっぱり、キリスト教の世界でも、神の怒りを人々は畏れなければいけないのか・・と思う半面wrathとは何だろうか?と思いました。なぜ怒りという単語が2つあるのか? ちょうど、罪という言葉にSinCrimeの2つがあるようなものなのか?

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種あかしをしますと、聖書では、人が持つ7つの原罪(Seven Deadly Sin)の3番目にWrathを挙げています。

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アダムとイブの時代にご先祖様が犯した原罪(Original Sin)とCrimeの違いについて高校時代の英語の恩師である岩城谷先生は、説明されませんでした。おそらくは宗教的な内容に踏み込むことになるからだと思います。

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そこで私は勝手に考えます。Sinは残念ながら生まれた時から備えている罪であり、悪しき性質(vice)にもつながります。そしてその悪しき性質が高じるとcrimeを犯すに至るのではないか・・・。しかし神の目にはsincrimeも同じかも知れません。ちなみに東洋の思想には、Original Sinにあたる概念は無いようです。だからSinを表す適当な漢字は無く、苦し紛れに原罪という単語を創作したのだと思います。

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ではWrathAngerの違いはどうでしょうか? 私には何とも言えませんが、聖書の諺には、wrathangerの両方が登場する文章があります。

箴言の第15章の第一節には

“A soft answer turneth away wrath, but grievous words stir up anger“ とあります。 

日本語の意味を示せば、「怒りを込めた表現で話せば、相手も怒りの感情を持つ」というもので、日本を含め各国の政治家に聞かせたい内容です。日本語でもっと簡潔に言えば「物は言いよう」でしょうか? WrathAngerは似ていますが、微妙に違います。しかし、Wrathに相当する概念も東洋には無いのか、うまくあてはまる漢字がありません。だから、WrathAngerも同じ“怒”という言葉をあてたのかも知れません。

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では“grapes of wrath“の意味は何でしょうか? これはヨハネの黙示録に登場する話で、神に選ばれなかった人間をブドウになぞらえ、神の怒りの元に踏みつぶされる・・というものです。なぜブドウが踏みつぶされるのか? 日本では葡萄と言えば、生食用を思い浮かべますが、西洋では基本的に葡萄酒の原料です。葡萄の実は収穫され、人々の足で踏みつぶされて、果汁となるのが当たり前なのです。

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では、神の怒りを受ける人間ですが、それに相当する言葉が東洋にはあるか?と考えると思い浮かびません。あえて言えば、中国の書経に登場する、孽(ニエ:わざわい)という漢字が相当します。東洋には天罰という発想はあっても、天が意図的に人間を苦しめるという発想が無いのかも知れません。この中国の書経についての検討は別稿で述べたいと思います。

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スタインベックの「怒りの葡萄」では、旱魃で農業を継続できなくなった中西部の農民が、カリフォルニアを目指して、オンボロのトラックで旅をします。苦労してたどり着いた後も、地主や国家権力によって搾取されるという運命が待っており、なかなかハッピーエンドにはなりません。 しかしこれが搾取される農民の苦しみやルサンチマンを扱っただけの小説であれば、実に平板なプロレタリア小説になるのですが、スタインベックの場合はそうではありません。人間社会の不条理も描きますが、天のなせる災いについても平等に描き、翻弄される人間の悲しさを冷静に描きます。独特の宗教観を背景に書かれた彼の作品には深みがあります。 やはり”The grapes of wrath”なのです。

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ここで話をルート66に戻します。

では、せっかくルート66を走るのなら、何に気を付けるべきか? それについては、次号でご案内します。


【 メキシコと自動車産業 】 [アメリカ]

【 メキシコと自動車産業 】

 

トランプ次期大統領がツィッターで、「トヨタ自動車がメキシコに工場を作るなど怪しからん」と吼えたのに対して、豊田社長は「メキシコに工場を作る計画に変更はない。一方で米国にも今後5年間で100億ドルの投資を行う」と答えています。

http://jp.reuters.com/article/idJP2017011001000844

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常識的なまともな回答ですが、まてよ・・と言いたくなります。そもそも、何で米国に怪しからんと叱られなければならないのか? 日本の会社がどの国に工場を建てようが、その会社の勝手ではないか? 米国政府にとやかく言われる必要はありません。

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「どうせメキシコで作って米国で売るのだろう?」と言われても、NAFTAが現実にあるのだから、その域内のどこで売ろうがトヨタの勝手です。NAFTA(北米自由貿易協定)は米国も合意して締結された協定であり、現に存在する以上、利用しない手はありません。同じ自動車なら製造コストの安いメキシコで作るのは当然ですし、敢えて製造コストの高い米国で作るとなると、トヨタの株主から見れば背任行為となります。

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一方、トヨタは「米国でも企業市民(奇妙な言葉です)として、納税義務を果たし、地域に貢献し、雇用を維持していく」と言いますが、こちらはちょっと歯切れが悪いところがあります。

豊田章男社長が胸を張る「米国で1兆円以上の投資額・・」というのはそのまま雇用の創出に繋がるとは言えません。米国トヨタの本社機能をテキサスに集めることに要する費用もありますし、IT関連の子会社の設立もそれほど雇用創出に寄与するとは思えません。

ケンタッキーなどの既存の工場にも投資しますが、それにはロボット化などの投資も含まれ、雇用の拡大という点ではむしろ逆かも知れません。

テキサスへの本社移転だって今のカリフォルニア州トーランスにある本社の従業員にとっては雇用の危機となるものです。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3990

「米国での雇用を守る」と正面から言えないので、金額を言ってごまかしている・・・というところでしょう。

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そもそもトヨタには、言葉は悪いのですが、前科があります。その昔、愛知県に閉じこもっていた大企業トヨタが北米の生産拠点として最初に築いたのが、カリフォルニア州のNUMMIです。これはGMとの合弁でピックアップトラックやカローラを作っていましたが、GMが手を引いて、トヨタ単独になったあと、トヨタはこれを閉鎖してしまいました。

若き日の豊田章男氏が幹部として勤務したのもNUMMIで、思い入れのあるはずのその工場を彼は閉鎖し、従業員は解雇されました。今、NUMMIはどうなっているかと言えば、電気自動車メーカーのテスラが買い取り、その生産ラインを活用しています。少し皮肉です。 だからトヨタは米国の雇用を最優先にするとは言えないのですが、まだましです。

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一方、GMやフォードは、トランプ氏の要請に屈する形で、米国内に生産ラインを作ることになりました。メキシコへの莫大な投資、地元へのコミットメントはどうするのでしょうか? トランプ氏のツィッターに、大企業が振り回されるのを見て、首を傾げたくなりますが、トランプ氏が優勢で企業側が劣勢のようです。ではなぜそうなるかと言えば、トランプ氏が本音で喋るのに対し、企業側が本音を言えないからです。

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その本音とは労働組合UAWの存在です。 米国は資本主義の王道を行く国ですが、一方で強力な労働組合を持つ国です。 全米自動車労組(UAW)もその一つですし、全米鉄鋼組合(USW)もその一つです。

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1980年代以降、五大湖沿岸の重厚長大産業が不振となり、「錆びついた地域」になった理由は、いろいろありますが、一つは強力な労組が支配する地域だったことです。

いち早くデトロイトを抜け出して、労組の無い会社「サターン」を実験的に経営したGMは一定の成果を挙げました。 遅れてきた日系の自動車各社は敢えて労組の強いミシガン州を避けて工場を建設しました。

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自動車各社は、単純に賃金が安いだけでメキシコを選んだのではなく、労組の影響をなるべく排除したかったのです。しかし、正直にそのことを言えません。なぜなら相手がトランプ氏だからです。

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トランプ氏が選挙に勝利した理由の一つは、プアーホワイトと呼ばれる、労働者階級の白人を味方につけたことです。 それまでは民主党支持者だった彼らを取り込んだのです。 本当はトランプこそ大金持ちの共和党員ですから労働者や組合から嫌われても仕方ないのですが、逆に民主党のヒラリークリントンの方が、お金持ちで高学歴で頭のいい鼻持ちならない女性というイメージを持たれて、支持者を失いました。

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GMもフォードも労働者を味方につけたトランプ氏相手に、組合の影響を除くためにメキシコに逃げた・・とは言えないのでしょう。

しかし、エルモシージョやアグアスカリエンテスにできつつある自動車産業の一大生産拠点を今更、放棄することはできません。 裾野が極めて広い、自動車産業では、組立メーカーの下に、部品メーカー、下請け、孫請、素材メーカーといった多種多様な企業が集まります。 既にメキシコには幾つもそれらの工場群が進出しており、更に発展中です。日系、米国系を問わず、この大きな流れを変えることはできません。 いかにトランプ氏といえども無理でしょう。

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この問題の対応を誤ると、日米の自動車産業だけでなく、日米墨の経済が落ち込む可能性があります。 TPPどころかNAFTAも崩壊してしまいます。それだけは避ける必要があります。

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せっかく出来上がった自動車の組立工場も部品工場も空き家になり、メキシコ人の失業者が街に溢れるようになれば・・・最悪です。麻薬がはびこり、それがやがて米国に流れ込み、米国はしっぺ返しを食らうことになります。

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では米国企業に逃げられたメキシコはどうするか? それに代わるテナントを探すしかありません。 実は労働組合に手を焼いている自動車会社が他にもあります。韓国のヒュンダイ(現代自動車)。韓国の労働組合もまた強力で、しばしば獅子身中の虫となって、企業経営を圧迫します。

現代自動車の場合、組合の賃上げ要求は激しく、今や若いブルーカラーの年間賃金は日本円で軽く1000万円を超えます。他産業や他の企業との格差も大きくなり、韓国国内で問題となっていますし、高過ぎる製造コストは、海外市場で現代自動車の競争力を大きくそぐ形となっています。

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組合の影響の及ばない土地に新しく工場を作って自動車を生産したい・・という思いはデトロイトの米系自動車会社以上かも知れません。 現代自動車はメキシコの工場を居抜きで買って、生産するかも。 でもそれとてトランプ次期大統領に一喝されたらどうなるか、分かりませんが・・・。


【 プルートー的人生 】 [アメリカ]

【 プルートー的人生 】

太陽系で一番面白い星は何か?と訊かれたら、「それは冥王星(プルートー)です」と答えてきました。 太陽系で一番遠くにある僻遠の惑星で、当然ながら窒素も凍る極寒の暗い星、そして海王星と交錯する不思議な軌道と、物理学的計算でその存在と軌道が予想された後で発見されたというエピソード。それに加えて月よりも小さい小型の星なのに大型の衛星カロンを持つ不思議さ。これほど興味深い魅力的な星はありません。

http://style.nikkei.com/article/DGXMZO05135850S6A720C1000000?channel=DF130120166020&style=1&n_cid=DSTPCS020

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ああ、それなのに、10年ほど前に、冥王星は太陽系第9惑星の地位を剥奪され、準惑星の地位に格下げとなりました。 理由はさまざまに報道されていますが、要は下記の2点です。

1.冥王星と同等、あるいはそれ以上に大きな天体が太陽系の辺縁部に多く発見され、それらを準惑星のままとして、冥王星だけを惑星とするのは公平性に欠く。太陽の周りを公転する天体は実は無数にあり、古典的な9惑星という概念は意味を持たない。

2.他の太陽系惑星と比べて小さく、本来の惑星としての資格・要件を満たさない。

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でも、この考え方はどうみても不可解です。特に2です。冥王星は小さいながら、地球型の惑星で、固体の大地の上には大気を持ちます。南極と北極には白い氷の大地が広がります。大気を持たない水星と比較すれば、よほど惑星的です。どうやら、冥王星を惑星グループから外したのには別の理由がありそうです。

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前述の通り、冥王星には、他の惑星の軌道計算からその存在が予想され、計算上予想された場所を望遠鏡で探索して見つけた・・というエピソードがあります。もっと言えば、面白い順番があります。 最初に天王星の軌道がいびつであることから、天王星の外側の天体の影響が予想され、海王星の存在が認識されました。そして、海王星の軌道にも摂動があることから、その外側の天体が予想され、そしてトンボーが冥王星を見つけたのです。

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小学校の頃、太陽系の惑星の軌道図面を見て、冥王星の軌道だけが、大きく偏芯していて、ある時期は海王星の軌道の内側に入ることを不思議に思いました。図鑑の解説には、それは海王星の引力の影響を受けるから・・とされていました。

(実際には冥王星の公転面はかなり傾いていて、冥王星が太陽と海王星の間に入るということは無いのですが・・)。

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しかし、どうもこの考え方は正確ではなかったようです。海王星の軌道のずれを説明するために必要な外側の天体(惑星X)は、冥王星よりかなり大型でなければ説明できません。これは複雑な天体計算をしなくても、海王星と冥王星の大きさが極端に違うこと、軌道は隣と言っても、両者の距離は非常に離れていることを考えると子供でも理解できることです。

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つまり、冥王星はたまたま予想地点の近くにあって誤認逮捕された天体であり、本当の惑星Xは別にあったということです。おそらく非常に暗い天体であるために、光学式天体望遠鏡では発見できなかったのだろうと思います。

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おそらく、この誤認逮捕は、天文学の世紀のスキャンダルとも言うべきもので、長らく研究者以外には伏せられていて、研究者達はひそかに本物の惑星Xを探していたはずです。その結果、惑星Xどころか、膨大な数の準惑星群を発見し、その後ろめたさに耐えきれなくなった研究者達は、ある日、白状したのです(最近はカミングアウトと言うようですが)。

その結果、冥王星は惑星の地位を剥奪され、トンボーは惑星発見者の名誉を剥奪されただけでなく、間違った天体を指定したという不名誉を受けたのです。

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当然ながら、アメリカのトンボーの遺族たちは猛反発しましたが、米国の天文学会そのものは冷静でした。一つの理由は多くの準惑星の発見はハッブル望遠鏡などを使った米国の研究者によってなされ、米国自体は名誉を挽回できたからです。

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20世紀の時代、物理学の世界では、車の両輪である、理論と実験・観測の融合や結果の一致が尊ばれました。理想は理論的に予想された事柄が実験で検証されることです。湯川秀樹博士がノーベル賞を受賞した中間子の予想も、アンダーソンとネダマイヤーが実験と宇宙線観測で存在を確認したことで、高く評価されノーベル賞の対象になりました。

しかし本当は、湯川博士が予想した中間子と、アンダーソンやネダマイヤーが発見した中間子は別物でした。両方とも中間子というグループの中には入りますが・・。

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このように理論解析の予想と実際の観測結果には、しばしば錯誤があるのですが、冥王星の例もその一つでしょう。

冥王星が惑星の地位をうしなった頃、米国では「プルートる」という造語が流行りました。 つまり、これまでの資格を失ってグループから外されたり陥落するという意味だったり、経歴詐称で本来その資格が無かったことが暴露されるという・・はなはだ不名誉なことを意味する動詞です。具体的には野球選手が1軍から2軍に落ちたり、免許更新できなくて資格を失う・・といった場合です。

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「そんな気の毒なことをしなくてもいいではないか? 冥王星も惑星の地位に残してやればいいのではないか? 一体何の意味があるのだ?」と疑問に思う私に対して、

「いや、意味はある」と答えるのは、物理学を専攻するある学生です。

「正確には、太陽系の惑星や衛星の物理現象は、地球物理学の研究対象となる。 一方、惑星や衛星以外の天体は天文学の研究対象となる」

なんだ、学者達の縄張りの問題か・・・。

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冥王星の資格剥奪は主として、アメリカの事件として報道されました。 資格を権威付けするのが好きで、公正さや平等さにこだわるアメリカ人らしいとも言えます。

それに対して、仲間意識が強く、情に篤い日本の村社会では、仲間はずれにすることを嫌います。一度、資格を与え、地位につけたら、その地位を奪う事に慎重です。

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例えば、地方自治体の北海道赤平市や夕張市、福岡県の飯塚市は、現在、人口が減少し、1万人前後と「市」であることの要件を満たしません。でも一度市になったら、そのままです。

大相撲では一度大関になったら、96敗が続いても、カド番をクリアし続ければ大関の地位にとどまれます。 横綱に至っては陥落の規定がありません。

容赦なくレギュラーから外し、2軍に陥落するアメリ式の野球とは違います。もし、冥王星が発見されたのが、アメリカでなく日本だったら、多分惑星の地位にとどまったのではないかな?・・と私は思います。

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しかし、日本もだんだんアメリカに近づいてきました。 かく言うオヒョウも、今年で定年を迎え、会社の雇用契約が変化してしまいました。毎年更新する雇用形態です。

なんだかこれまでの正社員とは違います。 なんとなく、冥王星の気持ちが分かる気がします。


【 プアーホワイトとは 】 [アメリカ]

【 プアーホワイトとは 】

なぜ、トランプ候補のような人物が大統領候補として人気を得るのか、分からない人が多くいます。私もその一人です。

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彼は良識ある人なら口にするのをためらう発言 つまり人種的な偏見(bigot)や憎悪(hate)、暴言を普通に口にします。ある意味でタブーに敢然と挑戦している候補者です。しかも、それを分かりやすい平易かつ下品な英語で、語ります。

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そしてその不躾で率直な発言を歓迎する人が多いのも事実です。

かつてリーダースダイジェストの小噺にあった、「素晴らしいものとは、法律で禁止されているか、不道徳であるか、食べると体に悪い」という内容の内、彼は一つを実行し、 本音を言いたくても言えない人々の溜飲を下げているのです。しかし、支持者達の気持ちを代弁して、支持者達に爽快感を与えるだけの大統領候補者でいいのか? それは究極のポピュリズムではないのか?

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アメリカ人の考えにも、日本人と同様、本音と建前があります。そして、いつも本音を言うことがいいこととは限りません。本音を語ることをためらわせるのも一つの文化と言えます。本音を言って何が悪い・・と開き直る人は、文化の破壊者です。

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そして、彼の英語は、よく言えば分かりやすい平易な英語、悪く言えば幼稚な英語です。日本人の私にはその方が、都合がいいのですが、これはどうしてか?と思っていたら、それを解説するレポートがありました。

http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20160527-OYT8T50012.html?from=ytop_os1_txt

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何も幼稚な言葉を用いるのはトランプ氏だけでなく、ヒラリー・クリントンなどの他の候補者も同じだというのです。 しかし、国務長官時代のヒラリー・クリントン氏の発言を聞いていると、決して幼稚な英語とは思えません。高い知性を備えた女性候補者が、敢えて有権者と同じレベルに立って訴えるために、幼稚な英語を用いているというのが実態でしょう。 それは当然なのかも知れませんが、そこにアメリカの問題があります。政府が高い能力を備えたリーダーやテクノクラートを揃えている一方で、あまり教育を受けられなかった多くの有権者がキャスティングボードを握っているという矛盾です。

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では、トランプ氏を支持している層とは、どういう人なのでしょうか? 彼の支持者は、全国、各階層に広がりつつあるようですが、一番はっきりしているのは、プアーホワイトと呼ばれる、どちらかというと南部の、そしてどちらかというと都市部ではなく農村に多く住む、まじめで質素に暮らす、お金持ちではない白人達です。

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では彼らはどういう人々なのか?

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私は最初にプアーホワイトと聞いた時、「大草原の小さな家」に暮らす、インガルス一家のことを考えました。 敬虔なキリスト教徒で、素朴に暮らす農民のイメージでした。

そして1980年代、バブル時代の日本企業は、北米への進出を盛んに進めましたが、彼らが現地に工場を建てる時の、キーワードもプアーホワイトでした。

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米国の場合、シカゴからペンシルバニアにかけての五大湖の地域は、工業地帯として早くから開けました。所得水準も高く、工場に勤務する人達の権利意識も高く、新しく進出する企業には敷居の高い地域でした。

デトロイトを中心とする全米自動車労組(UAW)や、全米鉄鋼労組(USW)は強力な力を持ち、組合員の生活の向上に実績を挙げていました。

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一方、その恩恵を受けられない貧しい人達が、主に南部の地域に暮らしていました。 日系の自動車会社は、UAWの影響を受けない、そして低賃金で真面目に働く、プアーホワイトの労働力を目当てに、南部に工場を建てました。 日系企業だけではありません。米国で成功しつつあった電炉ミニミルは全米鉄鋼労組(USW)の支配を受けない南部で新しい製鉄所を建設し、それぞれ成功しています。

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しかし、純朴でまじめな人達が、いつまでもそのままか?というとそうではありません。

貧富の格差が増大する米国で、貧しいままでとりのこされている実態、そして移民や海外の企業に奪われていく雇用、それらを感じた時、プアーホワイトの人達に、不公平感や不満が募ります。 トランプ候補はそれらの、一種のルサンチマンを上手に取り込んでいるのです。不平不満を持つ人達の怒りをそらすには、外部に敵を求めるのが好都合です。 彼の場合、メキシコやイスラム教徒、そして日本や韓国、中国を悪者にして、国民の怒りの向け先にしようとします。

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幼稚な言葉で、見当違いの主張を繰り返すこの男は、実は非常に頭がいいのかも知れません。

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では、プアーホワイト以外の人達はどうなのか? 米国の労働者階級の白人が皆、トランプ候補を支持する訳ではありません。

一般論では議論しにくいのですが、もともと労働者階級はどちらかというと民主党支持でした。527日付のAMM (American Metal Market)紙によれば、全米鉄鋼労組(USW)は、ヒラリー・クリントン氏を支持することに決めたそうです。

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そもそも保護貿易を主張し、国内雇用を守るために、輸入を規制せよ!という主張は民主党の主張でした。 しかし、今は共和党の異端児、トランプ候補がちゃっかり、そのスローガンを頂いています。 共和党候補が敢えてこういう主張をするということは、米国内で、安価な輸入品の流入や不法移民に対する危機意識が従来にも増して強くなったということでしょう。

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問題はトランプ氏が無思慮で、無知であることです。彼はひょっとしたら、日本・韓国・中国の違いを理解していないのではないか?そう思うことがあります。もっとも日本人だってアルジェリアとナイジェリアの区別ができる人はそう多くはありませんが・・。問題は、アメリカの大統領になろうかという人物がそれでいいのか?ということです。これは大きな問題です。

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アメリカ国民が世界の情勢や地政学に無知な人をあえて選ぶとは思いたくないのですが、彼を支持する人々も、また無知であれば、この問題に気付かないかも知れません。

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20世紀の歴史を見れば、経済が低迷した時期、国民が絶望したり、不平不満が溜まった時、過激でストレートで単純なスピーチをする政治家が、有権者に歓迎されます。あのアドルフ・ヒットラーがそうであったように。

だからトランプが当選するか否かよりも、彼が多くのアメリカ人に支持される事が意味する、米国の現状を憂慮すべきです。

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でもね、過激で単純で下品なスピーチをする政治家がのさばる・・という点では、日本も同様です(プアーホワイトはいないけれど)。 アメリカ以前に、日本の現状を憂うるべきかも知れません。

でもまあ、そんなことは、トランプ候補を引き合いに出す前から分かっていたことですが。


【 オバマの英断 】 [アメリカ]

【 オバマの英断 】

米国のオバマ大統領が、被爆地広島を訪問することが確定し、各方面で反響を呼んでいます。ニューヨークタイムスとワシントンポストも関連記事を出しています。

http://www.nytimes.com/2016/05/11/world/asia/hiroshima-atomic-bomb.html?hp&action=click&pgtype=Homepage&clickSource=story-heading&module=first-column-region&region=top-news&WT.nav=top-news&_r=0

https://www.washingtonpost.com/graphics/world/hiroshima-nagasaki-illustrated/?hpid=hp_no-name_graphic-story-a%3Ahomepage%2Fstory

米国の在郷軍人会は、大統領の広島訪問に基本的に反対です。

原爆の悲惨さが再確認されることで、彼らが太平洋戦争で行った活動の正当性が揺らいだり否定されるのを恐れているのです。彼らは、大統領の広島訪問が謝罪と受け取られるのを心配しています。

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極端な意見では、大統領が広島に行くのなら、日本の首相は真珠湾を訪問して哀悼の意を表すべきだ・・というトンチンカンな意見もでているそうです。「お互い様だ」という事でしょうか。

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太平洋戦争での米国の被害は殆ど軍人だけに留まっています(例外もありますが)。無辜の非戦闘員が犠牲になった原爆の災禍と比較・相殺できる被害は、米国には無いのです。だから、彼らの心の傷になっている真珠湾攻撃を引き合いに出すしかないのでしょう。

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さびしい限りですが、世界には、哀悼よりも謝罪を、謝意よりも賠償を重視し、それを要求する人がたくさんいます。日米ともに並んで、戦争の犠牲者に哀悼を捧げる行為を、米国から日本への謝罪と解釈するのはナンセンスですが、そう思う人も現実にはいます。

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悲劇があれば、必ず責めを負うべき加害者と謝罪を求める被害者がいる・・というのは本当なのか? オバマも安倍晋三も戦後生まれです。もはや戦争の加害者も被害者もなく、等しく、過去を悼み、将来を考えるべき時期ではないのか?

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菊池寛の作品の題名にある、「恩讐のかなたに」という言葉を英訳しようとして、適当な訳が見つからず、ちょっと考えました。なぜ適切な訳が無いのか?相互に許しあう・・というのは、欧米に普遍的な美徳のはずなのですが、現実にはあまりないのか?米国の大統領の広島訪問は、「恩讐のかなた」に実現したことなのに。

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全く、奇妙なことに、オバマ大統領の広島訪問について、中国と韓国のマスコミが懸念を表明しています。この2つの国(北朝鮮も合わせれば3カ国)は、20世紀の前半の戦争の被害者であったことをひたすら強調し、半世紀以上、それを拠りどころとして、なんとか国をまとめている奇妙な集団です。一方、20世紀の後半まで戦争で痛めつけられたベトナムは、自分達が戦争の被害者であることをことさらに声高に叫ぶのは、自分達の主義に反するとしています。全く好対照です。

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基本的にはオバマ大統領の広島訪問は、中国・韓国には無関係なことなのですが、彼らにとって、日本は常に加害者でなくてはならず、日本が被害者であることが堪えられないのでしょう。但し、実際には、日本国民として被爆し犠牲になった韓国・朝鮮人はたくさんおられます。

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日本の被爆者団体はおしなべて歓迎の意向です。これは重要なことで、米国大統領の被爆地訪問は、核兵器の悲惨さを世界に訴えている日本の諸団体が本物であるか否かを占う試金石でもあるのです。これはどういうことかと言えば、反核兵器団体の中には、反核を隠れ蓑に、反米・反日を訴えることを主目的とする団体が多くいました。

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実際に核兵器を使用したのが米国だけですから、反核は米国非難には好都合だったのです。かつての原水禁(社会党系)、原水協(共産党系)は、その点が露骨でした。集会では人類の悲劇である原爆の災禍を訴えるはずなのに、赤旗が並び、反米イデオロギーを訴える場となっていました。当然ダブルスタンダードが発生し、共産党系の人は、「ソ連の水爆はきれいな水爆、米国の水爆は汚い水爆」といって憚りませんでした。

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真に核兵器を憎むのではなく、反米活動の道具として原爆投下を利用していた人達には、オバマ大統領の広島訪問は実に都合が悪いはずです。だから、彼らは大統領訪問に反対するだろう・・と思っていたら、あては外れました。 オバマ大統領の広島訪問に反対する声は聞こえません。もうイデオロギー論争の時代ではなくなったようです。何であれ、原爆の犠牲者を悼む人は歓迎されるべき存在です。

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では、米国の大統領が広島を訪問するまでに70年以上もかかったのはなぜか?ということを考えます。 これは冷戦の存在が大きいと私は思います。20世紀後半の冷戦時代、両陣営はありあまる核兵器による報復攻撃を拠りどころにして恐怖の均衡を保ってきました。その状況下では、核兵器を否定できず、両陣営の指導者は、なかなか核兵器の悲惨さを訴えることができなかったのです。

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やがて核兵器のデタントが始まり、ベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦は終わりました。現在、米ロは核弾頭を継続的に減らしています。国連で核保有国として認められている5カ国の中で、現在もせっせと核弾頭の数を増やしているのは中国だけです。更に言えば、国是として核兵器の数を増やしているのは、中国と北朝鮮だけです。 言葉を換えれば、冷戦を引きずっているのは、この2カ国だけであり、極東の一部地域だけで冷戦が残っているのです。 核兵器を常に肯定するこの2カ国には、人々の広島での追悼の意味が分からないはずです。

原爆の悲惨さを訴える一方で、中国や北朝鮮を礼賛していた人達は、この状況にどうコメントするのでしょうか?

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やっと冷戦を卒業したアメリカですが、オバマも大統領をあと8ヶ月で卒業です。彼の任期中、いろいろな課題がありましたが、進捗のあったもの、無かったもの、様々です。国民皆保険の医療制度やTPPでは、いろいろ苦労しながらも前進しましたが、シリア問題では無能とそしられ、涙を流して訴えた銃規制は全く進展がありません。

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核兵器問題については、オバマ大統領は、就任後まもない時期に、「核兵器を使用した唯一の国の責任」に言及して、ノーベル平和賞を受賞しました。しかし、その後の行動に移すのに、7年かかったのです。広島に卒業旅行に行くことで7年越しの宿題がやっと少し進むことになります。

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おっと忘れてはいけません。広島に行くのなら、長崎にも行かなくては、平仄が合いません。今回は無理でも次回の訪日の時に必ず出かけて欲しいものです。

もうひとつ、オバマが大統領に就任した時、お祭り騒ぎでお祝いしたあの町、福井県小浜市をお忘れなく。

小浜市の人々も、7年間、オバマ大統領の訪問を待っています。きっと歓待するはずです。


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