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【 天文12年のビスチェ 】 [雑学]

【 天文12年のビスチェ 】

昨今は海賊ブームのようです。 海賊映画をヒットさせたジョニー・デップのお陰か、或いは漫画「ワンピース」に登場する麦わらのルフィーのお陰か、はたまたソマリア沖に出没する本物の海賊のせいか・・それは分かりません。

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本物の海賊は悪逆非道の強盗集団な訳ですが、何となく格好いいイメージがあります。権力にまつろわず、自由に海を移動し、お金持ちから財宝を奪う義賊的な存在として描かれるからでしょうか?

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話は脱線しますが、日本を海賊の国だと思っている人たちがいます。中国浙江省や福建省では、中世の時代、日本の海賊である倭寇に襲われて、ひどい目にあった記憶が連綿として語り継がれ、日本とは海賊の国だ・・ということになっています。

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しかし実際には、倭寇を名乗る中国の海賊集団が大半だったという説もあり、現代の日本人を海賊の末裔と考える極端な意見には苦笑いするばかりです。「知的財産権を全く顧みず、違法コピーを平気で売っている中国こそ海賊王国ではないか?」と皮肉を言いたくもなります。

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では、実際のところ、中世に存在したという日本の海賊は、どういう存在だったのか?瀬戸内海に存在した村上水軍について調べたくなり、勤務先のAさんと、しまなみ海道の大三島と大島にでかけました。

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村上水軍は、私の理解では海賊とは言えません。反社会的な犯罪集団でも、権力に逆らう反逆者集団でもありません。本四連絡橋尾道今治ルート(しまなみ海道)が架かる芸予諸島から塩飽諸島を中心に活躍した武装集団ですが、敬虔な浄土真宗門徒であり、陸上の大名の勢力と、時に対立し、時に服従した正規の政治勢力であり、アウトロー集団ではないのです。時の権力者に反逆した海上勢力という点では、村上水軍の前に存在した藤原純友の方を挙げるべきでしょう。

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村上水軍は、能島、来島、因島の3勢力に分かれますが、最終的に瀬戸内諸国の大名の傘下に入ります。その当たり、最初は反権力の集団だった梁山泊の人々が、最後は仇敵だった高俅に懐柔されて、権力側についてしまった水滸伝に似ています。

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実際のところ、村上水軍はどういう存在だったのか?それを知りたくて、大三島の大山祓神社と、大島の村上水軍博物館を訪問したのです。

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大山祓神社は、島の内陸にあり、周囲を楠木が囲っています。御祭神が、天照大神の兄である大山積大神ということですから、始まりは神話の時代に遡ります。境内には樹齢2600年という皇紀の年代に近い楠木もあります。歴史的に証明が可能な年代のものとしては斉明天皇が奉納した葡萄鏡もありますから、やはりかなり古い国幣大社です。

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場所柄、海軍や海上自衛隊、海上保安庁ともゆかりが深いようですが、気になることがあります。海賊の始祖とも言うべき、前述の藤原純友は、この大山祓神社と縁が深いのですが、それに関する記述も資料も全くありません。やはり、逆賊とされた以上、何も残してもらえないのか・・・。

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そしてもうひとつ、私には、村上水軍についてもっと下世話な興味がありました。

小説にもなった村上水軍のお姫様、鶴姫伝説について知りたかったのです。小説の惹句では「日本のジャンヌ・ダルク」だとか「海賊を率いた悲劇の少女」とかいろいろ書かれていますが、その存在を裏付ける具体的な史実が乏しいのです。本当に水軍を率いた勇ましいお姫様がいて、大活躍の後に悲運の一生を終えたのか?

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調べていくと、鶴姫伝説の発端は、たった一つの女性用の鎧の存在だったと気づきます。あるアマチュアの歴史家が、女性用と思しき鎧を見て、そこから想像をたくましくして、鶴姫伝説を作り上げた・・というのが本当のエピソードのようです。

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大山祓神社の宝物館に入ると、ヒントとなった鎧が確かに陳列してあります。(館内写真撮影禁止なので、入館時のパンフレットにある写真を添付します)。

turuhime002.jpg

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説明には日本唯一の女性用鎧・・と説明があります。しかし、この鎧を女性用と判断する根拠は何か?かなり小柄にできていることと、胸の部分が広がって凸になっていることが根拠のようです。「うーむ、確かに胸の部分が膨らんでいるように見えるけれど、それで女性用と言えるのか?」

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日本の鎧は大なり小なり、少し胴が膨らんでいます。でもはっきりとはしていません。しかしこの鎧は、その膨らみがはっきりしている上、かなり上部の乳房の位置が膨らんでいます。現代の女性用衣類の名前で言えば、キャミソールというよりビスチェのイメージです。 しかし、当時の日本の女性は胸の膨らみを強調する衣類を好んだろうか? 私にはそうは思えません。

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日本では、洋服が登場するまで、胸の膨らみを強調する衣類を好みませんでした。それが、中国や韓国と違うところです。 胸の大きな女性は、和服を着る際、胸を締め付けることでそれを目立たなくしたくらいです。

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衣服のデザインとは、緩くて活動的な着やすさと、締め付けによるシルエットの確保のバランスです。 バストについては、かつての日本では締め付けの対象だったのです。 わざわざ、鎧の胸を膨らませるデザインを採用したとは思えないのです。

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そもそも、鶴姫が実在したとして、彼女が戦場で自分が女性であることを、強調したがったとは思えません。むしろ男装して、自分を男性と認識させようとしたのではないでしょうか? そして戦場では、乳房は邪魔ではなかったのか?

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神話に登場する女性戦士であるアマゾネスは弓を弾く時の邪魔になるからといって、片方の乳房を切り落としたとのことです。鶴姫にとっても、邪魔な存在だったのではないか? それなのに、特別に胸を膨らませた鎧をわざわざあつらえさせるだろうか?

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どうも、陳列してある鎧がうさん臭く見えて仕方ありません。宝物館にはいろいろなものが展示してありますが、武蔵坊弁慶が寄進したナギナタ・・なんてものもあります。ほとんど錆が無く、ピカピカしています。あれえ?武蔵坊弁慶・・・って、実在していたのかな? 他にも実在が怪しまれる人物からの寄進品があります。

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そんなものを並べるくらいなら、藤原純友に関した品物を並べた方がいいのに・・・。これじゃ鶴姫自身の存在が怪しまれる。

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そんなことを考えながら、外に出ると、鶴姫祭りのポスターが貼られています。 実在するか否かはともかく、この島とこの神社にとって、鶴姫は存在しなければならないもののようです。 そうだ、確かに鶴姫は存在する。 あのギャグ漫画の天才、土田よし子先生が作品で証明されているではないか!

(最後の落ちは、1970年代に少女漫画を読まれた方以外には、難しいかも・・)


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