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【 大久野島とウォーターシップ・ダウン 】 [広島]

【 大久野島とウォーターシップ・ダウン 】

読者諸兄は、瀬戸内海に“ウサギの島”と呼ばれる小さな島があるのをご存知でしょうか? 広島県竹原市の忠海の沖合にある大久野島です。かつて第二次大戦前に毒ガスのイペリットを製造した島で、当時は軍事上の機密から地図に無い島と呼ばれたとのことです。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%B9%85%E9%87%8E%E5%B3%B6

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戦後、進駐したオーストラリア軍によって、施設は解体・処分され、今はレンガ造りの廃墟というか残骸だけが残っていて、天空の城ラピュタを彷彿とさせます。 この島で製造された毒ガスは古典的なイペリット(マスタードガス)が主です。糜爛性の毒ガスであるイペリットの困った点は、適切な解毒剤や中和剤が無いことです。だから、この島には毒ガスの痕跡が残っているはずで、立ち入り制限区域もあります。対策として、地表下に厚さ3cmのカルキを敷き詰めた・・とのことですが、それで十分なのでしょうか?少し疑問ですが、しかし島の土壌が無毒化されたことを示す説得力のある証拠があります。

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それは島の至る所に棲息するアナウサギです。ヒトより毒ガスに弱く、ヒトより地表に近い位置で暮らし、ヒトより土に接しているウサギが、健康に暮らしている島なら、OKであると言えます。21世紀の大久野島は野生のウサギの島なのです。

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しかし、そのウサギが野生なのか、飼育されたものなのか?と言えば、野生とは言いがたい・・と言えます。もともと、ここのウサギは、戦後に人間が持ち込んだものが、野生化したものと言われますが、ウサギの食料事情を考えると、人間が飼育していると言うべきです。 この小さな島に700羽以上ものウサギを養えるだけの天然の植物があるとは思えません。 年間10万人の観光客が与える餌で生きていると考えるべきです。

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そしてもうひとつ、野ウサギと人間が、普通にスキンシップできるということが、普通の野生動物と違う点です。本来なら、野生のウサギには野兎病(そのまんまの名前です)に感染する危険があり、みだりに触れることはできません。これはウサギだけでなく、多くの齧歯目の野生動物について言えることです。

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そして日本ではその可能性は非常に低く、ウサギでの例も少ないのですが、狂犬病(恐水病)の可能性もあります。だから、本当の野ウサギにはみだりに触れてはいけないのですが、この島のウサギ達は安全です。小島という隔離された環境にあって、観光客などの外来者は犬や他の動物を持ち込まない等、管理が行き届いているから安全なのであって、どこでも実現する世界ではありません。 つまり換言すれば、この島のウサギ達は、管理されていて、野生ではない・・ということです。

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ところで、アナウサギなら、英国には普通にいます。特急列車がロンドンのビクトリア駅やパディントン駅に近づき、速度を落とすと、線路脇の土手にたくさんの巣穴があるのに気づきます。そして列車に驚かない野ウサギ達が顔を出しています。RabbitではなくHareです。そして、多くのウサギが登場する英国の寓話といえば、「ウォーターシップ・ダウンのウサギ達」です。ウサギを擬人化し、集団の中でのリーダーシップや確執、英雄の一生と死などを寓話的に示した作品です。

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この小説は、独特の宗教観があり単純な子供向けの童話とは言えないこと、動物の擬人化が中途半端で不自然なこと・・などが引っ掛かり、私にはしっくりときません。

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そして一番引っ掛かったのは、集団の中にリーダーとなるエリート階級が存在することです。 英国は厳然とした階級社会であり、リーダーシップを期待されるエリート階級が存在します。だからウサギの世界にもそれを持ち込んでいるのですが、どうもピンときません。確かに動物の中にもニホンザルのようにリーダーが存在する種がいますが、ウサギの場合は果たしてどうか?大久野島の大規模なウサギの集団を見る限り、リーダーも階層も無いように見えます。

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集団で暮らしていても、リーダーもいなければ序列や階級も無いという動物があります。 鳥類はだいたいそうで、南極のペンギンにも、渡り鳥の集団にも、リーダーはいません。その為にアナーキーで無秩序な社会ができるかというとそうではなく、夫婦=番(つがい)単位の平和で落ち着いた社会を維持しています。(もっとも、本当のところはペンギンにならなくては分かりませんが)。

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話が脱線しますが、鳥山明の漫画”Dr.スランプ”の舞台はペンギン村ですが、これは変なリーダーや支配者がいないという意味かな?なんて考えたことがあります。

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「ウォーターシップ・ダウンのウサギ達」は童話ではなく寓話(fable)ですから、人間社会を反映した寓意(allegory)があります。

強いリーダーに率いられた集団は、多くの危機に出くわし、苦難に遭遇し、裏切りや邂逅、和解を経験します。描写されるのは、不安の中でさまよう集団です。これは人間社会そのものです。特に、英国や欧州、北米に暮らす人たち全体に共通した世界です。

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そしてこれは、氏族(クラン)や、一族(キン)が「約束の土地」を求めて移動した古代や中世までの話か?と言えば、そうではなく、現代にも共通する世界です。

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今、英国に求められているのは、強烈なリーダーシップを発揮して、EU脱退後の英国の進むべき方向を明示してくれる首相です。しかし、今のところいません。 英国も米国も欧州各国もポピュリズムが流行ります。その根底には、一種の反知性主義とも言うべき思想があり、大衆受けのする過激で排他的な言説がもてはやされます。

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それでいいのか?と問えば、外国の事情を知る人、広い視野を持つ人は「否」と答えます。でも大衆民主主義では、被害者意識の強い大多数の庶民の意見が通ります。本当はポピュリズムではないリーダーシップが必要なのですが、それがありません。

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英国の政治家には、「ウォーターシップ・ダウンのウサギ達」の主人公のような、能力が求められるのに、実際には平和に暮らす大久野島のウサギ達のような人物しかいません。 本物のウサギはリーダーシップとは無縁で、臆病でひたすらおとなしいのです。

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おっと、考えてみたら、これは英国だけの問題ではありませんね。日本の政治家にも真のリーダーシップを持った人など、いないようです。 「ウォーターシップ・ダウンのウサギ達」以下の人々です。

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それはそれでいいのかも知れないけれど、日本には解決すべき問題がたくさんあります。 それで大丈夫なのかな?と思いながら、島を歩いていると、毒ガス資料館なるものを見つけました。早速入ってみます。

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そして、その展示物を見ると、内容がデタラメなのです。 「一体これは何だ?」

それについては、稿を改めてまた申し上げたいと思います。


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