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【 テトロドトキシン その2 】 [金沢]

【 テトロドトキシン その2 】

スーパーに入ってすぐ、レジの店員に「フグの卵巣はあるか?」と尋ねますが、要領を得ません。奥のベテランの店員に繋いでもらうと、すぐに彼女は冷蔵食品のコーナーに我々を案内しました。そこにあったのは、真空パックしたゴマフグの卵巣です。明太子などと比べるとかなり大型で、もともとのフグもかなり大型だと推測されます。

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そう言えば、これと同じものを以前TVで見ました。東京農大の名誉教授で、醗酵学の権威にして食通である小泉武夫教授が教育TVの市民大学講座で、このフグの卵巣を見せていました。彼は教壇の上で、フグの卵巣には猛毒があると説明したうえで、この食品を紹介し、学生の前でパクリと食いつき、「うまい、うまい」と言って食べてしまったのです。

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本来、私は大学の講義でのパフォーマンスをあまり好きではありません。授業に興味を示さず、退屈している学生を惹きつけるためでしょうが、そうまでして学生に媚びる必要もなさそうです。或いは授業内容の底の浅さを気付かれないよう、糊塗するための、パフォーマンスかも知れません。しかし今回だけはフグの卵巣を食べる演出も仕方ありません。小泉教授は、専門家を目指す学生達だけを相手にするのではなく、TVを視ている一般大衆に対しても語り掛けているのです。だから適度なパフォーマンスはいいのかも知れません。

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それはともかく小泉教授の説明自体も、どこか納得できないものでした。 彼は発酵という現象の神秘さを語るために、猛毒のテトロドトキシンが、発酵によって消滅したことを例として取り上げたのですが、そのメカニズムについては、実は未解明なのです。何等かの酵素によってテトロドトキシンが分解して無毒化するのか、或いは長期間の塩漬けの過程で、毒素が流れ出して失われるのか、他の無毒な物質に変質するのか、判明していないのです。 醗酵現象はミステリーだ・・という点は理解できますが、自然科学としては、メカニズムが不明な分だけ、ちょっと物足りなさを感じます。

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あの小泉教授が食べたものと同じものが、スーパーの商品棚に3個だけ置いてあります。私は、とっさにお土産に幾つ買おうかな?と考えました。 一種の肝試しですが、フグの卵巣をお皿に載せて出した時、私を信用して食べる人、信用せず箸を付けない人、何人か思い浮かべて、棚にあった3つを全部買おうと決めました。

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そこへ、晴耕雨読の人となったT君が「俺も、一つ食べたいな」と言って、一つを自分の籠に入れてしまいました。 私は、結局2つを買って帰り、お土産にしました。 その後暫く経ちますが、まだ私の周りで、亡くなった方はいません。T君も元気なようです。無論、小泉教授もお元気な様子です。

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そこで私はフグ毒について考えます。ご承知かと思いますが、フグの毒はフグ自身が合成するものではありません。フグが摂取するプランクトンなどの他の生物が持つ毒が体内に蓄積されるものです。 だから養殖もののフグは一般に無毒です。またフグの種類によっては、天然物でも無毒なものもあります。

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そこで、一種の特区を設けて、そこでは無毒のフグだけを扱い、免許を持たない料理人にも調理を許可し、かつ絶品と言われるフグの肝(肝臓や卵巣)を食べられるように法律を改正しようという提案が出されましたが、行政から却下されました。

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表向きは、有毒なふぐが、もし特区に混入すれば、大事故になる・・という理由ですが、ふぐの調理師免許を持つ料理人や、ふぐ料理店の既得権を守るため・・というのが本音のようです。

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しかし、実際には、石川県の一部で「ふぐ特区」が成立しているとも言えます。

特殊な醗酵処理で内臓を無毒にする「ふぐ子」は加賀だけのもので、他の土地では作りません。許可が下りないのか、誰も作ろうとしないのか、それは分かりませんが、実質的に石川県だけでフグの卵巣が食べられるのです。伝統的な食文化を尊重して、法律の方が妥協したということでしょうか?

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私は無毒の養殖ふぐがもっと普及すれば、やがて他の地域でも「ふぐ特区」が実現すると考えます。万一の事故を防ぐために、テトロドトキシンをその場で測定・検出できる装置もあります。それを必ず使用する条件付きで特区を認定するのです。

http://www.city.kobe.lg.jp/life/health/lab/kih/kenkyu_shohou/2011/img/2011_HP08.pdf#search='%E3%83%86%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%89%E3%83%88%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%B3%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E8%96%AC

具体的には、ふぐちりの鍋に内臓を入れる直前にこの装置で分析すればいいのです。ちょっと面倒ですが・・。

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狂言の曲目にある「附子」は、おいしい黒砂糖を食べられまいとして、主人が家来達に猛毒である・・と嘘をつくのですが、それがばれて食べられてしまうという話です。今も昔も、おいしいもの、すばらしいものは、しばしばお上から禁止されている訳ですが、私は法律が禁じている「おいしいもの」の筆頭がフグの肝だろうと思います。

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もっとも、これは嘘ではなく本当に猛毒なのだから仕方ありません。 でもおいしいのなら、法を犯しても食べてみたい・・という輩が必ずいます。 彼らは加賀の「ふぐ子」だけでは満足しないでしょうから、禁断の料理を食べたくなります。そして時々、それは事件になります。

http://www.tokyo-sports.co.jp/entame/entertainment/525786/

この種の事故あるいは犯罪をなくすためにも、「ふぐ特区」を早く認めるべきだと、私は思います。 一方で水産学や食品化学を研究する人達は、無毒のフグの普及拡大を図るべきです。やがて「ふぐ子」について「ふぐの卵巣を食べるために、なんであんな複雑な醗酵処理を必要としたのかね?」と不思議がられる時代が来ます。

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その頃には、弊ブログ「笑うオヒョウ」も毒の無い文章になっていると思います。多分


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