【 アンナ・ネトレプコ 】 [雑学]
【 アンナ・ネトレプコ 】
2005年のザルツブルグ音楽祭で衝撃的なデビューを飾ったロシア人ソプラノ歌手アンナ・ネトレプコのファンは日本にも多いはずです。私もその一人です。
その当時、私は中国に暮らしており、彼女が演じたヴェルディの「椿姫」をリアルタイムにTVで観ることはできませんでした。その後、日本で彼女の「椿姫」をブルーレィの映像で観て、素晴らしい歌手が現れたものだ・・と感心したのを記憶しています。
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「ザルツブルグかぁ・・・・」私がその昔、欧州駐在員だった頃、 オーストリアにはしばしば出張しましたが、それは製鉄所のあるリンツやウィーンに限られ、ザルツブルグに行く機会はありませんでした。 一方、万年赤字だった某製鉄所の所長は出張にかこつけて、駐在員を伴わずに、何度かザルツブルグを訪れていました。 大のオペラファンだった彼がザルツブルグに出張した目的は分かりませんが、赤字の中で、その製鉄所で働く人達が爪に火を灯すような合理化に取り組んでいることを知っていた私は、なんだか複雑な気持ちになったのを思い出します。
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豊かな声量、正確で張りのある発音、そして誰もが惹きつけられる美貌の持ち主として紹介され、2005年のオペラ界の話題をかっさらったアンナ・ネトレプコ。「彼女の本物の舞台を何時か見てみたいものだ。チケットは随分高いだろうけど・・」私はそう思いました。 実際、彼女はその後何度か来日して、小澤征爾の指揮するオペラなどで歌っています。しかし、私は観る機会がありませんでした。 私は日本に帰国後も、新潟県や愛知県で勤務し、彼女のオペラを観る機会は無かったのです。
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そして2011年にも彼女のマノン・レスコーが日本で演じられるはずでした。しかし、彼女は日本には来ませんでした。 来日予定の直前に東日本大震災が発生し、福島の原子力発電所が爆発したからです。 未曾有の大震災の後、日本の人々を勇気づけるために、わざわざ日本公演を敢行した海外のアーティストもいたのに、逆に彼女はキャンセルしたのです。
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日本のファンの中には落胆した人も多く、彼女を非難する声もインターネット上に上がりました。 そこで彼女を呼ぶ予定だったプロモーターは
「アンナ・ネトレプコはロシア人としてチェルノブイリの原発事故を知っている。だから、原発事故への恐怖心は人並み以上なのだ。どうか理解して欲しい」と苦しい弁明をしました。
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「チェルノブイリの事故と福島原発の事故は、全く性格が異なるのに、どうして?」と私は思いましたが、当時は情報も限られ、本当の情報にアクセスできる人以外は、どれくらい危険な状況かも分からないので、これは止むを得ないことでした。
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やがて、彼女は突然舞台に出なくなりました。 どうして?と思ったら、「おめでた」で、妊娠育児休暇に入っていたのです。しかし、間もなくその時の交際相手とは別れ、別の男性と結婚したとか・・・。まさに椿姫の如く、恋多き派手な人生を送っているようです。 それでも21世紀のオペラ界の最高のソプラノとして高い評価を得ています。
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そんな彼女が2015年の暮れに演じたオペラが、NHKのBSで放映されました。「椿姫」と同じヴェルディの「ジャンヌ・ダルク」です。 私は再び録画したブルーレィで鑑賞したのですが、彼女はこの10年間の間に驚くべき変貌を遂げていたのです。
「これが同じアンナ・ネトレプコか?」 彼女はふくよか・・というかまるまると太っていて、別人のようです。劇の途中で髪の毛を切り、おかっぱ頭にした後などは、まるで足柄山の金太郎のようで、熊に跨った方が似合う有様です。
「オルレアンの少女・・ってのはこんなにふくよかだったのかい?」
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声量は相変わらず豊かで素晴らしい声なのですが、以前の天に届くようなハイトーンのソプラノではなく、少しメゾソプラノに近づいた感じです。
「君は変わっちゃったね」という森田童子の古い曲名を思い出しながら、彼女の変貌に私は落胆しました。 考えてみれば、他人の事は言えません。この10年で更に体重が増加したのは私も同じです。それでもねぇ・・・。
NHKのアナウンサーは2005年の「椿姫」では「今をときめく美貌のソプラノ歌手」と彼女のことを紹介しましたが、2015年の「ジャンヌ・ダルク」では、「今、円熟期を迎えたソプラノ歌手・・」という微妙な紹介をしています。なるほど確かに円熟期だなぁ。
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少し、がっかりした私はその数日後に、会社のSさんにその話をしました。 その昔鹿島製鉄所にいたSさんは、今は呉の製鋼工場でシステム制御の仕事をしています。しかし、システム制御の技術者というのはSさんの仮の姿で、本当のSさんはプロ顔負けのテノール歌手なのです。私は彼に、アンナ・ネトレプコのファンとして愚痴めいた事を話しました。
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私「美貌の歌手だったアンナ・ネトレプコが、あんなに太ってしまうとはねぇ」
Sさん「ソプラノ歌手はふくよかな人が多いですね。彼女もその一人になったということでしょう」
私「ロシア人の女性は、ある年齢に達すると、急速に太ると言いますが、彼女も例外ではなかったのですね?」
Sさん「たしかにロシア人の女性は太りますね。彼女も例外ではありませんね」
私「それどころか、彼女はソプラノだったのに、少し音程が下がり、メゾソプラノに近づいたように聞こえましたが・・?」
Sさん「女性も男性も年齢をとると、高音がでにくくなります。 男性もテノールだった人がセカンドテナーぐらいに音が下がります。よほどボイストレーニングに励まないと、ソプラノやテノールは維持できません。 でも歌劇の華はソプラノとテノールですからね。メゾソプラノでは詰まりません。主役をするオペラ歌手には、ソプラノやテノールを維持して欲しいですね」
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Sさんは、何もかもお見通しのようです。華やかなオペラ歌手もその全盛期を維持するのは大変なようです。
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でも理解できないなぁ。 体が太ると、どうして声が低くなるのか? 声帯が縦に伸びれば、声は低くなりますが、横に伸びる分には、低くはならないはずです。やはりSさんが言う通り、声が低くなるのは加齢のせいかな? それともボイストレーニングの不足のせいかな?
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かってなお願いですが「彼女には肥満を解消して再び昔の美貌に戻って欲しい、そして昔と同じ張りのある高い声で歌って欲しい・・」と思います。私は彼女の公演をまだ見ていないのですから・・。
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私が「椿姫」のブルーレィを見た時に思ったのですが、ひょっとして現在、彼女の右に出るソプラノ歌手はいないのでは? そして、過去を通じて、彼女に比肩しうるのはマリア・カラスぐらいではないか? そう時代的にはズレますが、彼女のライバルはマリア・カラスだ・・・と考えます。
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そう言えば、マリア・カラスも肥満に悩んだそうです。 そして彼女が採用した究極のダイエット方法と言えば・・・、ご承知の方も多いでしょうが、寄生虫ダイエットです。彼女は生きたサナダムシのカプセルを呑み込み、それで劇的に痩せたのです。
それならば、アンナ・ネトレプコにもサナダムシを呑んでもらうしかないのか?
でも一体誰が彼女にそれを勧めるのか? うーむ、これは問題です。
でも、そもそも、私がこんな事を考えていると分かると、皆様から「ネトレプコの前に、お前がサナダムシを呑んでダイエットしろ!」と叱られそうですが。
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