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【 泰緬鉄道 その2 】 [鉄道]

【 泰緬鉄道 その2 】

 

映画「戦場に架ける橋」はそのストーリーそのものより、軽快で朗らかなテーマ音楽「クワイ河マーチ」または「ボギー大佐マーチ」の方が有名です。そして、日本では、あまりこの映画は人気がありません。

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人気が無い理由はいくつもあります。現実とかけ離れた映画の設定が、日本人観客からそっぽを向かれた一因かも知れません。実際にインドシナ半島で地獄の戦争を経験した人には、映画の嘘くささが堪えられないのでしょう。

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映画のストーリーをご承知の方には失礼ですが、無粋を承知で申し上げます。「戦場に架ける橋」は、太平洋戦争中のビルマ戦線の話です。

日本軍はインドに侵攻するために、タイのバンコクからビルマのラングーンに向けて鉄道を建設しようとします。そこで、捕虜収容所にいるイギリス軍人とアメリカ軍人を酷使し、クワイ河に橋を架けようとします。しかし日本人技術者の技術は拙劣で、英国人捕虜の力を借りなければなりません。ジュネーブ協定に違反する捕虜虐待で英国人捕虜と米国人捕虜の反発は高まり、サボタージュや虐待が起こる中、日本軍人と英国軍人の中には奇妙な友情も芽生え、鉄道橋は完成しますが、工作員の爆弾により、橋は破壊され、登場人物の多くは亡くなる・・と言う結末です。

せっかく建設した鉄道を爆破するなど愚かな事ですが「アラビアのロレンス」でも、鉄道爆破は英雄的行動とされています。 鉄道ファンとしては、ちょっと理解できません。

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タイとビルマの間に日本軍が泰緬鉄道を作ったのは事実です。そして国境の河に橋を架けたのも事実です。しかし、英国人技術者の技術サポートなどは必要ありませんでした。捕虜は動員されましたが、単純な肉体労働でした。 橋は映画に登場するちゃちな木造の橋ではなく、コンクリートの橋脚に鉄骨の橋桁を持つ頑丈なもので、今でも残っています(爆破はされていません)。全体に英国側は実態より格好よく描かれすぎています。

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それ以外にも、登場する武器や車輛が英国のもので、日本のものでないこと、斉藤大佐を演じる早川雪舟の英語が上手すぎる・・とか、いろいろ引っ掛かる点があります。

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この作品がアカデミー賞を受賞し、米国や英国で高く評価されたのは、英国人にとっても日本人にとっても、悪い思い出しかないあの戦争で、憎しみ合いながらも、相互にある種の理解と友情を見出したことと、戦争の不条理・無意味さを強調することで、英国人にある種の寛解とカタルシスを与えるからでしょう。 ジョンウェインの戦争映画のように、日本人を単純な悪役とする訳ではなく、一定の理解を示すことで、ある種の寛容さを示すことになり、映画に奥行きを与えた・・とも言えます。

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しかし、問題はその後です。 現在、クワイ河鉄橋(現地では別名です)は存在しますが、泰緬鉄道は国境付近で不通となっており、線路は錆びつき、草が繁っています。

折角の国際鉄道なのに、これはどういうことか? 戦争は馬鹿げた浪費で、何も残さなかったけれど、せめて残された鉄道は有効活用すればいいのに・・。

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島国である日本では理解できないことですが、大陸には国境を跨いで線路はつながっているのに、政治的理由から列車が運行されていない路線がたくさんあります。

韓国と北朝鮮の間の京義線はその代表ですが、北ベトナムと南ベトナムの間の鉄道もベトナム戦争が終結するまで、通じていませんでした。タイとビルマの関係も長年微妙でした。

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東南アジアは、第二次大戦で大混乱した後、終戦で混沌のまま放り出された形です。責任の一端は日本にもありますが、敗戦国である日本には戦後の東南アジアをどうすることもできませんでした。一方、戦勝国は東南アジアの戦後処理について、全く無責任であったと言えます。 独立運動を牽制・弾圧し、独立を認めた後も、東西冷戦の代理戦争をインドシナ半島で行いました。 太平洋戦争は1945年に終結したのに、インドシナ半島での戦火は一部で21世紀まで続きました。

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かつて用意された交通インフラは充分に活用されず、朽ちたままです。この責任は日本にはありません。しかし現在、東南アジアのインフラ整備は、「日本にできる事」であり、「日本に期待される事」でもあります。だからインドシナ半島に平和な時代が来た今、日本は彼の地のインフラ整備に取り組むべきなのです。まずは手始めに泰緬鉄道の再開から始めるべきでしょう。

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東南アジアの交通インフラの整備に、日本以上に関心を示しているのは中国です。

この国は、ASEANの経済発展の為に、インドシナ半島の交通網整備が重要であることを熟知しています。そして自国の権益確保にも貪欲です。

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まずはS-S線と称して上海-シンガポールを結ぶ南北縦断鉄道と道路建設を目指しています。私にはS-S線と言えば、応力-歪み曲線以外にはありえないのですが・・。

さらにベトナムとミャンマーを結ぶ、インドシナ半島東西横断ハイウェーも建設中です。

インドシナ半島を南北と東西に十字型に結べば効果は絶大ですが、さらに中国はマレーシアの東側の海と西側の海を結ぶ運河を計画中です。マラッカ海峡を経由せずにインド洋と南シナ海を結ぶ計画です。

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経済効果は絶大でしょうし、異論反論は全くありません。しかし、かつて日本が考えて取り組んだ東南アジアの交通インフラ整備が、忘れられ、朽ち果てていくのは残念です。日本は泰緬鉄道の復活を図るべきです。広軌でも狭軌でもいいから。

 

<以下、余談です>

話は元に戻りますが、「戦場に架ける橋」に想を得た(と思われる)大島渚の「戦場のクリスマス」もそれなりに業界では評価されています。 英国人捕虜を収容した日本軍の捕虜収容所が舞台・・と言う点はそのままです。 そして、捕虜と日本軍人の間に奇妙な感情が芽生える・・と言う点も似ています。でも、一部の大島作品にみられる、奇をてらうためとしか思えない、異常な環境下での同性愛の描写は、「戦場に架ける橋」には無い設定です。

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そして、坂本龍一が颯爽とジープに乗って現れる場面は興ざめです。第二次大戦中まで、日本には四輪駆動車はなかったのです。大島渚監督は、そういう細かい点には気付かなかったのか・・・。 まあ、「戦場に架ける橋」でも日本軍は英国製の機関銃を撃っていたけれど・・。


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