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【 地下鉄の問題 】 [鉄道]

【 地下鉄の問題 】

かつて五月蝿い場所の代表として、地下鉄の車内が挙げられたことがあります。飛行場近くに暮らす人は頭上を低く通過するジェット機を見あげて、「まるで地下鉄の車内のようだ」と例えました。

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実際には、航空機の騒音と地下鉄の騒音とでは、かなり音の性格が違いますが、人の神経を苛立たせ、精神衛生に良くない・・という点では共通します。飛行場近くの航空機騒音の場合、特別にその悪さ加減を表現するのにWECPNLという指標を用います。これは音量、発生頻度、持続時間、音程等を考慮して、等加重平均した値で、いわば騒音の不快指数です。 しかし、これで地下鉄の騒音を評価しても、あまり意味は無いようです。

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余談ですが、昔は音の大きさを表すのにホンという単位を用いました。今では、音とは即ち、信号なのだから、その強弱の比率で音の大きさを評価すべきいう観点から、デシベルが単位として用いられます。 そして空港周辺地域の騒音に関しては、ホンでもデシベルでもなく、複雑な計算で変換したWECPNLが用いられます。 

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厚木基地や普天間飛行場の騒音レベルを評価するにも、WECPNLが使われますが、民間機と軍用機で騒音の質も微妙に違うので、従来のWECPNLで・・・良いのか、ちょっと疑問です。 いずれにしても、放射線レベルや騒音レベルは、住民の人権や生活の脅威と密接に結びついた重要な物理量なのですが、単位が難解で、その意味がよく分からないのが、問題です。

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そもそも、地下鉄はなぜ五月蝿いのか? 地上の鉄道のトンネルと比べて、地下鉄の騒音がなぜひどいのか? この点について考えられた読者はいらっしゃるでしょうか?

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理由のひとつは、地下鉄のトンネルが狭く、窓とトンネルの壁が接近していることです。このため、トンネル内の反響音が、通常の鉄道のトンネルより、地下鉄の方が多く車内に侵入してくるからです。 この傾向は、トンネル径が小さいロンドンの地下鉄や、東京の大江戸線で特に顕著です。

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もうひとつの理由は、その急カーブゆえです。

ご承知の通り、初期の地下鉄は、地上の路面電車を代替する形で、建設が進み、ケーソン工法で大通りの下に建設されました。 当然、地下鉄のカーブは地上の交差点を走る路面電車の線路に近い大きな曲率のカーブとなります。

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そうなると、ステアリング機構を持たない、ボギー(台車)では、車輪の踏面がレールにせり上がり、車輪のフランジが、レールの側面に接触して、大きなキーキー音が発生します。 地下鉄でも古い方の銀座線や日比谷線、丸の内線で、キーキー音が特に大きいのはそのためです。

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では新しい地下鉄はどうか?といえば、こちらは大深度をシールド工法で掘削します。地上の道路とは関係ないので、自由に線路をひいて、曲率の小さい(曲率半径の大きい)線路となります。 だから、新しい地下鉄ではキーキー音は小さいのです。

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しかし、では既存の古い地下鉄はどうするのか? 急なカーブに台車や車輪が対応できるようにするために、台車にステアリング機能(つまり鉄道車輪がカーブの方向に舵を切る機能)をつければいいではないか・・と誰もが思いますが、構造が複雑です。

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しかし、東京メトロと住友商事、新日鉄住金がこれを実現させ、銀座線に導入しました。

http://www.nikkei.com/video/888195778002/

これで東京の地下鉄はより静かになります。 

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さらに大きな騒音原である、電動機もインバーター制御のVVVFあるいはGTO方式が一般になり、騒音はどんどん小さくなります。 ロングレール化でレールのつなぎ目の騒音も減ります。

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全体的に地下鉄は静かになりつつあり、もうやかましい環境の例えに地下鉄の車内という表現は使わせないぞ・・・ということで、めでたし、めでたし・・となるのですが、個人的にはひっかかる点があります。

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地下鉄の車輌が目指すのは、低騒音化と同時に車体の軽量化です。地下鉄の場合、軽量化が省エネに一番効果があり、塗装のいらないステンレス化などで、対応してきました。

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新日鉄住金(旧住金)は軽量化対策として、ボルスタレス台車を提案しました。 しかしボルスタレス台車は、直線区間では没問題ですが、急カーブ、若しくは曲率が大きく変化する区間(つまり曲線を2回微分した値が大きい区間)では問題があります。脱線しやすくなるのです。 曲率変化率が大きいカーブや、狭い場所でポイント切り替えを行う東京の地下鉄には向いていません。

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今から15年前に発生した地下鉄日比谷線中目黒駅付近で発生した脱線事故は、ボルスタレス台車ゆえに発生した事故だと、私は思いますが、旧住金は否定しています。

技術的背景が分からない、多くのマスコミは台車の溶接に細かいひび割れがあった事など、全く頓珍漢な点をとりあげていましたが、ボルスタレス台車そのものの問題に言及したマスコミはありませんでした。

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余談ですが、あの事故では17歳の麻布高校の生徒が亡くなっています。ボクシングの選手で、史上初の東大出身のプロボクサーを目指す逸材でした。

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ボルスタレス台車を問題視したのは、オヒョウだけではありません。独自の鉄道技術を持つ京浜急行電鉄も、ボルスタレス台車を疑問視し、今も導入していません。 京浜急行は地上を走る民鉄(私鉄)ですが、横浜以南の線路には急カーブが多く、地下鉄と共通する問題を抱えています。

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(話が)脱線しますが、急カーブに対応するため、京浜急行の車輌は地下鉄と同じく16m車輌となっています。これは通常の地上の電車より、短い仕様です。京浜急行は都営地下鉄と相互乗り入れする前から、地下鉄に近い仕様なのです。

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話を元に戻しますが、東京メトロと新日鉄住金が、地下鉄銀座線用に導入したステアリング機能付き台車(操舵台車)にはボルスターがあります。・・ということは、とうとう住金もボルスタレス台車の看板を下ろしたのか・・な? でもそれなら、それに代わる軽量化対策はどうするのでしょう?

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鉄道台車(ボギー)に関して旧住金のライバル会社である川崎重工は、「ボギー!俺も男だ」とばかりに、複合材料(つまり一種の強化プラスチック)製のボギーを提案してきました。 確かに大幅な軽量化につながりますが、電車の台車がプラスチックで大丈夫かな?と・・・素人の私は心配しますが、今は飛行機の翼や胴体も複合材料の時代ですから、杞憂なのかも知れません。

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それにしても、「地下鉄の事を思うと夜も眠れない・・」と、昭和の昔の春日三球照代の漫才を思い出します。 照代さんの冥福を祈ります。


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