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【 泰緬鉄道 その1 】 [鉄道]

【 泰緬鉄道 その1 】

広島電鉄の路面電車がミャンマーに輸出されるそうです。

http://toyokeizai.net/articles/-/77522

http://www.msn.com/ja-jp/news/money/%e5%ba%83%e5%b3%b6%e9%9b%bb%e9%89%84%ef%bd%a4%e3%83%9f%e3%83%a3%e3%83%b3%e3%83%9e%e3%83%bc%e3%81%b8%e8%bb%8a%e4%b8%a1%e3%82%92%e8%ad%b2%e6%b8%a1%e3%81%99%e3%82%8b%e7%8b%99%e3%81%84-%e6%97%a5%e6%9c%ac%e3%81%b3%e3%81%84%e3%81%8d%e3%81%ae%e7%8f%be%e5%9c%b0%e3%81%af%ef%bd%a4%e4%b8%ad%e5%8f%a4%e8%bb%8a%e4%b8%a1%e3%82%92%e5%a4%a7%e6%ad%93%e8%bf%8e/ar-AAde45I?ocid=LENDHP

路面電車の例は珍しいのですが、東南アジアでは日本の中古の鉄道車両が大人気です。TVで、インドネシアで地下鉄東西線(首都圏)の車輌を見た・・という話を、驚きの対象にしていましたが、そんな事は今や当たり前です。

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なぜ、日本の中古の鉄道車両が東南アジアを走っているのか?理由はいろいろありますが、昭和20年代の一橋大学の研究が発端であると、私は考えます。話は明治から昭和までの、鉄道の広軌(標準軌)と狭軌の論争に遡ります。

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昭和20年代のある夏休み、東京商大(一橋大学になっていたかも)の公開講座が金沢でありました。東京より地方のほうが、食糧事情が良いという理由もあって、先生達は金沢へ来られたのですが、その中に板垣與一教授がおられ、当時まだ、ジャンルとして確立していなかった交通経済学についての講義があったそうです。(勿論私自身が聴いた訳ではありません。聴講した母からの伝聞です)。

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その交通経済学とは鉄道に関する解説だったのですが、どの切り口から議論を始めても、すべては鉄道の広軌化が必要である・・という結論に帰着する、面白い講義だったそうです。 鉄道の最高速度を上げるにも、輸送量を増やすにも、大型貨物を運ぶにも、安全性を向上させるにも、広軌化こそが重要で、それなくしては、日本の産業も経済も発展しない・・と唱えたのです。

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当時、鉄道省が改革されて日本国有鉄道公社になったばかりでしたが、国鉄内にも広軌論者と狭軌論者の両方がいて、鋭く対立していました。 大陸の南満州鉄道で特急あじあ号を走らせた人達、或いは内地の弾丸列車計画に関わった島親子や十河信二は広軌派の筆頭です。一方、莫大な投資の必要性や、作業の困難さから狭軌の維持にだわった守旧派もいました。 初代国鉄総裁だった技術系の下山氏は調停役となるべきでしたが、奇怪な死を遂げます。そのように、国鉄内部が混乱している中、外野席にいた大学の経済学の研究者も、日本の鉄道をどうすべきか・・について考えていたのです。

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日本は明治時代の文明開化にあたって、幾つかの失敗をしていますが、その一つに鉄道の軌道に狭軌を選んだことがあります。 明治の初め、お金と時間が無かった日本政府は、英国から狭軌の鉄道を購入しました。ちょうどインドでキャンセルされた狭軌の鉄道一式があるので、それを買うなら、安くそして早く開通できるよ・・という英国の甘言に、井上勝や大隈重信が賛成したのです。

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明治新政府にお金が無かったか・・は何とも言えません。それについては別稿に譲ります。 しかし、当時政府内には鉄道にお金を使うくらいなら、失業した士族への手当や、西郷隆盛の征韓論に基づいて朝鮮を侵略する費用に・・という考えがあったのも事実で、あまりお金を掛けられなかったのです。

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日本は国土が狭いし、国民も小柄だから、狭軌の鉄道でいいではないか?という屈辱的な意見もあったそうですが、1m6cm7mm幅という狭軌は、本来、英国の植民地用の鉄道だったのです。無論、英国本国は標準軌である1m43cm5mmを採用しています。

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日本の鉄道省は狭軌を採用した愚にすぐに気付きましたが、既に遅く、敷設された鉄道のゲージ交換は、非現実でした。以来、長く広軌論者と狭軌論者の議論は続き、広軌論者の後藤新平らは、大陸の南満州鉄道で、夢を実現していたのです。そして日本列島を縦断する弾丸列車も広軌であるべき・・と考えていました。

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日本の復興と発展のためには、鉄道の広軌化が必要という強い思いは新幹線として実現しますが、終戦後間もない頃、鉄道を広軌にするための膨大な費用をどうするのか?あるいは要らなくなった狭軌の鉄道をどうするのか?という問題が真剣に論じられました。 実は、この2つの問題は、70年後の現在でも問題なのですが・・。

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この費用捻出と、要らない鉄道の処理について、板垣與一教授が、金沢の公開講座でユニークなアイデアを示しています。

それは要らなくなった狭軌の中古の鉄道全体(車輛も線路も転轍機も)を、東南アジア各国に売り払い、それで空いた土地に広軌の鉄道(新幹線)を敷こうというものです。

無論、中古の鉄道ですから、高くは売れませんし、新幹線建設費用を全て賄うことはできません。戦争で迷惑を掛けた若い国々への賠償金の一部として鉄道を寄贈するという考え方もあります。

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板垣教授がそう考えた理由の一つは、西欧の植民地であった東南アジア諸国の鉄道は狭軌が多く、しかも路線長も短く、車輛も少なく、全く不十分であったことです。彼は戦前にその状況を調査研究していました。

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結局、東海道新幹線は、在来線との置き換えではなく、在来線と並行する形で完成し、直近の北陸新幹線に至るまで、在来線の廃止と引き換えで新幹線を建設するというプロジェクトはありません(今後は不明ですが・・)

その一方で、一橋大学には、インドネシア、マレーシア、ビルマ、ラオス等、多くの国から官費留学生が訪れ、帰国後に閣僚や高級官僚という要職に就いています。彼らの内の幾人かは、日本の中古の鉄道を導入することで、交通インフラを整備しようという板垣教授(またはその弟子)の思想を学んでいます。

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その経緯を知っている者にとっては、インドネシアに東西線の地下鉄車両が走ろうと、ミャンマー(ビルマ)に広島の路面電車が走ろうと、何らニュースではなく、当たり前のことです。 ああ、70年前に日本の広軌論者の学者が考えたことが今実現しつつあるな・・・と、一種の感慨を持つだけです。

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しかし、喜んでばかりはいられません。時代は変化しつつあります。 アジア全体に覇権を求める中国は、日本が東南アジア諸国のインフラ整備に協力するのを好ましく思っていません。来年から動き出す、AIIBの資金を用いて、新たな交通インフラの整備を各国に持ちかけることは必定です。中国は

「皆さん、日本から中古の狭軌の鉄道などを押し付けられて、ありがたがってはいけません。あれは日本で要らなくなった廃品を押し付けられているだけで、狭軌の鉄道など、いまさらアナログのブラウン管TV受像機を押し付けられるようなものです」

「皆さん、中国製の高速鉄道『和諧号』を導入しましょう。今ならAIIBが融資しますし、利息はジャパネットタカタ・・・じゃなかった、中国政府が負担しますから」と言うに決まっています。

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実際には、東南アジア諸国に必要なのは、都市間の長距離高速列車などより、大量輸送が可能な通勤電車なのですが、中国の提案は魅力的で説得力があります。しかし、東南アジアの鉄道インフラには、なんとしても日本の力で成し遂げなければならない路線があります。 それが泰緬鉄道です。 それについては次号で。


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横川の釜めし

横川 - 軽井沢は、長野新幹線ができたときに在来線は廃止され、横川駅での釜めし販売量は激減しましたが、これは「直近の北陸新幹線に至るまで、在来線の廃止と引き換えで新幹線を建設するというプロジェクトはありません」には含まれないのですか? 金沢に詳しい筆者らしからぬご意見ですが...。
by 横川の釜めし (2015-07-28 22:17) 

笑うオヒョウ

横川の釜めし様

コメントありがとうございます。これは1本取られました。全くおっしゃる通り、横川=軽井沢間は新幹線と引き換えに廃止されました。私は、昭和30年代、単線でアブト式だった碓氷峠を通って横浜から金沢へ行きました。釜めしも好きでした。今でも国道沿いの釜めし屋で買う事もあります。アブト式がなくなっても、私は人碓氷峠を特急白山で通りました。それなのに、この区間の鉄道が無くなった事を失念していたのは、できた新幹線が長野までで、金沢人とはあまり関係がなく、金沢人は当時、越後湯沢から直江津に抜けるほくほく線を利用していたからです。

いや弁解はやめましょう。ただご指摘に深謝するばかりです。
次回のコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2015-07-29 00:11) 

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