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【 アート・ガーファンクルを聞く その1 】 [アメリカ]

【 アート・ガーファンクルを聞く その1 】

今年の春の事です。20世紀を代表するフォークデュオのサイモンとガーファンクルの一人、アート・ガーファンクルが来日するという話を聞きました。その瞬間、「これはぜひコンサートに行きたいものだ」と思ったのですが・・・、その頃、私は広島県の会社への転職を考えていました。

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「ああ、東京にいれば彼の歌を聞きに行けるけれど、それは無理だな」しかし、彼のスケジュールの詳細を調べてみると、広島公演が組まれているのです。ありがたいことだ・・。

広島公演の127日は日曜日ですが、私の勤務先は出勤日です。電力を大量消費する電炉工場は、日曜日に出勤して仕事をするのです。ちょっと困りましたが、

「これは、半日お休みを貰って広島公演に行くことにしよう・・」

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「明日に架ける橋」や「サウンドオブサイレンス」「スカボローフェア」などで有名なサイモンとガーファンクルは、私が中学生の時に解散してしまいました。その後も時々、再結成して「マイリトルタウン」などのヒットを飛ばしていましたが、何時しか二人は別行動を取り、ソロのアーティストになっていきました。

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男性デュオが何十年も長続きするのはなかなか難しいことです。(男女のコンビなら結婚してしまえばそれでいいのですが・・・)。アーティストは誰も個性的で自我が強いですし、兄弟のデュオであってもいずれ分かれます。

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サイモンとガーファンクルの場合、2人には共通点も多かったのですが、違う点も多かったのです・・・特に性格が違いました。

草枕風に言えば、ポール・サイモンは「智に働けば角が立つ」方であり、アーサー・ガーファンクルの方は、「情に掉させば流される」方です。結局2人は分かれました。

別れた後は、「グレイスランド」などのアルバムを次々に出したポール・サイモンの方が目立っていましたが、アーサー・ガーファンクルの活躍も注目されるべきでした。「シザースカット」や「ブライトアイズ」などはソロになった後の彼の傑作です。

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私は、以前にポール・サイモンが来日した際、東京ドームでの公演を聞いたことがあります。 しかし、アーサー・ガーファンクルの公演は聞いたことがありません。

「何とか、アーサー・ガーファンクルの歌声を聴きたい。今回が最後になるかも知れないし・・」

アーサー・ガーファンクルの年齢は72歳、年齢的にも世界ツアーをするのは最後かも知れませんし、彼は一度、マリファナ使用で逮捕されたことがあります。日本の政府が恣意的に彼の入国を拒否すれば、彼はもう入国できないのです。これは行くしかあるまい・・・。

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私は以前、サイモンとガーファンクルには、お世話になったことがあります・・と言っても大したことではありませんが。

米国駐在をしていた頃、訪問先で初対面の米国人との会話の話題に困ることがあります。先輩の駐在員は野球やアメリカンフットボールの話題から打ち解けていきましたが、私には無理です。当時、私はスポーツに興味はなく、スポーツ関係の知識も全く無かったのです。そこで、私は考えました。私より10歳ほど年上の人に対しては、「あなたはビートルズ世代ですか?」と尋ね、音楽の話題で盛り上がりました。私より5歳ほど年上の人に対しては「あなたはサイモンとガーファンクル世代でしょう?」と話しかけると・・・ほとんどの人が頷き、体を乗り出して、唾を飛ばしながら「君もそうか?」と話して握手を求めてきました。彼らの話題のお蔭で私はずいぶん助かりました。

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実は、10歳以上の人達には、「エルビスプレスリー世代」を用意し、他にも「ピーターポールアンドマリー世代」や、「ボブディラン世代」版も用意したのですが、ほとんど登場しませんでした。

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なぜ、サイモンとガーファンクルは特別で、多くのアメリカ人に支持されたのか?

それは、彼らが20世紀後半、ベトナム戦争以降のアメリカの苦悩や哀しみを体現する歌を多く歌い、大多数の若いアメリカ人が、その歌と同じ思いを持ったからだと私は思います。

ボブディランや、ジョーンバエズほどのメッセージ性はなく、カーペンターズほど楽天的でない真面目な歌は、同じく真面目で悩みながら生きていたアメリカ人の共感を得ました。

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第二次大戦後、空前の好況と物質的な豊かさを享受する一方で貧困は存在し、キリスト教的博愛主義を標榜する一方で、インドシナ半島では戦争を行い、冷戦下で共産主義を憎みながらも、行き過ぎた資本主義の歪みを感じ、民主主義と平等主義を唱えながら、人種差別問題を抱えた、あの大国に暮らす人々の苦悩が、二人の飾らない歌に表現されていました。

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サイモンとガーファンクルの初期の歌には、ニューヨーカーというより「ニューヨークアイツ」の思いを歌った作品が多く、やがて「アメリカの歌」の頃には全米を代表する思いになり、アート・ガーファンクルの「LAから99マイル」では西海岸の歌になっています。「20世紀のアメリカを好きな人も、そうでない人も彼らの歌を聞くべきだ」

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私はコートの襟を立てて、午後の呉線の電車に乗って広島へ向かいました。

しかし、一抹の不安がありました。

72歳のアート・ガーファンクルの歌声はどうだろうか?」

彼の声は透き通るようなハイトーンが魅力でした。サイモンとガーファンクルは、ポールの作詞作曲と、アートの歌声で持っていたのです。「しかし、その声も衰えているかも知れない・・」。私がふだん聴くCDは、彼らの全盛期の声です。その声が枯れていたら興ざめです。

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最近70代になった男性歌手の声の衰えに悲哀を感じた事があります。もともと音域の広い歌手ではなかったOK.の場合、「生前葬」と名付けた奇怪なコンサートをTVで見ましたがさっぱりでした。 高音は出ないし、音は外すし、声量は乏しいし、かすれてしまい、がっかりしたのです。

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もし、アート・ガーファンクルがそうだったらどうしよう。 自分の青春時代の思い出までがスポイルされたようで悲しいだろうな・・

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やがて、私は広島駅で市内電車に乗り換え、平和公園に近い、アステールプラザに

着きました。 冬の陽は既に暮れかけています。

以下 次号

アートガーファンクル001.png


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