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【 わが青春のマリアンヌ 】 [映画]

【 わが青春のマリアンヌ 】

私には、酔っ払って家に帰る途中、DVD屋とアイスクリーム屋に立ち寄るという悪い癖があります。これは中国で暮らしていた時に身についた癖ですが、日本に帰ってからも酔うと途中下車してレンタルビデオ店に入ったりします。

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そこで、先日「わが青春のマリアンヌ」という古い映画を見つけました、ああ、これは懐かしい・・。確かにわが青春の映画です。ただし、誤解がないように申し上げますが、この1951年封切りの映画をリアルタイムで見たのではありません。これは私が生まれる前です。この映画を初めてみたのは、中学生の頃でNHKのテレビで放映したものを見たのです。 ヒロインのマリアンヌ・ホルトの顔が、小学校時代の同級生木津川園子さんによく似ていたので、びっくりした記憶があります。

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ヒロインの美少女の顔だけでなく、この映画には興味深い点が多くあります。例えば、幻想的でロマンチックなストーリーです。 無粋を承知でネタばらしさせていただきます。湖のほとりの全寮制の学校に通うひとりの少年が、湖の対岸にある古城にとらわれている不思議な美少女に恋をします。 彼女が城主の男爵から結婚を迫られていて助けてくれ・・と頼まれるのですが、結局、助けることはかなわず、彼女は男爵のものになります。後になってその城に駆けつけると、もはやそこはもぬけの殻で、人が住んでいた気配さえありません。ただ1枚残った肖像画に彼女の顔が残っていた・・というもので、最後までその美少女がこの世の者なのか、幽霊なのかが分からないというストーリーです。

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お城に美しい女性、それに醜男や大男となると、欧州の昔ばなしにしばしば登場するパターンで、敢えて名づければ、「美女と野獣型」の話です。ディズニーのアニメになりそうですが、その彼女がこの世の者ではない・・となると、話が変わります。

幽霊の女性に恋する話は、日本の雨月物語、或はその原型の中国の聊斎志異に見られるパターンであり、どちらかと言えば、東洋的です。

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しかし、世界的にみて、一番幽霊が多く、幽霊譚が多いのは英国だそうですから、東洋の専売特許とも言えません(ちなみに「わが青春のマリアンヌ」は、ドイツおよびフランスの話です)。

それはともかく、私の感覚では、幽霊譚の代表は、日本の謡曲だと思います。世阿弥が完成させた夢幻能、または幽玄能は、幽霊が主人公で、現実の人間と過去に世を去った人間が掛け合うパターンです。余談ですが、夢幻能という呼び方と幽玄能という呼び方のどちらが適切なのか、私にはわかりません。ネットで調べると、金沢大学の西村聡教授の解説が読めますが、彼の説明では夢幻能という言葉が使われています。

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ストーリーだけを考えると、「わが青春のマリアンヌ」は、謡曲に通じるところがありそうです。でも私がこの映画を面白いと思うのはそれだけではありません。

この映画は、フランス版とドイツ版の2編が同時に作られているのです。

主役の2名は、そのままで脇役を入れ替え、フランス語のバージョンとドイツ語のバージョンの2つを作ったのです。 ちなみにロケはオーストリアの湖で行ったそうです。

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ひとつの映画を別の国でリメイクすることはしばしばあります。でも同時に、同じ主役で2種類作ったのは私の記憶では「わが青春のマリアンヌ」だけです。

ちなみに私が昔TVで観たのはドイツ語版、今回レンタルビデオ店で見つけたのはフランス語版です。 恥ずかしながら、両方とも、もとの言語では理解できませんから、字幕スーパーを追いかけることになります。 ドイツ語とフランス語では言い回しも微妙に違い、日本語の字幕スーパーも違うそうです。でも、私はまだ両者を比較する機会を得ていません。

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2つの版は、セリフの言語だけでなく、微妙に場面が違い、ちょっとした差があるそうです。 本物の映画ファンはそこに着目しているはずです。

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ところで、どうしてそんな複雑なことをするのか?

作者は何等かの事情で、国籍不明のこの物語のフランス語版とドイツ語版の両方を作りたかったのでしょう。

その場合、今なら、一つの言語で作成し、音声だけは各国語版を作って、重ねればいいのですが、当時はそれができなかったのです。

理由は幾つかありますが、当時は今のテレビやDVDのような多重音声の技術が無く、映画の音声は古典的なサウンドトラックだったことも一つの理由でしょう。

デジタル映像が当たり前の現代では理解しがたいことですが、1951年の頃、映像はアナログでした。

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電気工学上の技術的な事情だけではありません。昔は声優という職業もなく、アテレコも下手でした。日本の場合、声優が職業として確立し、アテレコの技術が進歩したのは、1960年代で、外国映画をTVで盛んに上映するようになってからです。

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脱線しますが、先日私は戦時中の日本のプロパガンダ映画を見ました。題名は「マライの虎」で後のTV映画「怪傑ハリマオ」の原型です。 無論、それには敵役として英国人が登場するのですが、もちろん日本語でセリフを語ります。白人の会話の部分に日本人声優(当時は声優という職業はなかったはず)がアテレコで音声を重ねるのですが、それが全く棒読みというか、ひどい出来で口の動きともあっていません。昔はとにかく技術がひどかったのです。

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だから、フランス語版を作ろうと思えば、フランス人の俳優を揃えなければなりません。ドイツ語版を作ろうと思えば、ドイツ人の俳優を揃えなければなりません。 でも「わが青春のマリアンヌ」の場合、主演の男優と、ヒロインの女優は同じ人物です。これは実に不思議なことに思えますが、後年その謎は解けました。

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ドイツとフランスの国境付近であるアルザスロレーヌ地方の人々はみな、上手にドイツ語とフランス語を話します。バイリンガルの男優と女優はどこにでもいるのです。

ドイツ語とフランス語だけではありません。

スゥェーデン出身のイングリット・バーグマンもベルギー出身のオードリー・ヘップバーンも実に上手に英語を話します。フランス人のカトリーヌ・ドヌーブも英語が上手です。

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欧州では、言葉の壁は大したことはないのでしょう。

でも、アジアではそうはいきません。 韓流映画がアテレコなしで、韓国人俳優が日本語のセリフを話すことはあり得ないでしょうし、中国の抗日ドラマで、悪役の日本軍人が日本語を話すことはありえないでしょう。 中国の抗日ドラマに登場する、獰悪で卑怯で臆病な日本軍人は、なぜか皆、中国語で会話するのです。

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しかし、音声吹き替え技術が発達し、全てがデジタル化され、録画メディアがDVDBlurayになった今、それを問題視する必要はありません。

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かつて、映画の世界では、奇妙なことがよくありました。米国で制作されたパール・バックの「大地」の主人公王は英語でセリフを話しました。米国で制作された「ジャンヌ・ダルク」では主人公のフランス娘が敵国後である英語を話していました。

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それを私は奇妙なことと思い、そしてフランス語版とドイツ語版の二つのバージョンがある映画を奇妙に思いましたが、それは全て20世紀のことです。

これからは、こんな映画は登場しないでしょう。


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今川弥吉

オヒョウさまの博識に感嘆しつつ、いつも愛読させて頂いております。

内外の映画鑑賞が趣味の一つである小生にとって、往時茫々乍、巨匠ジュリアン・デュヴィヴィエの「わが青春のマリアンヌ」を観た当時のことが蘇ってきました。

昭和31年の日記で調べると、4月2日(ロードショー開始2日目)に東京・スカラ座(東京宝塚劇場)で観ておりました。日記には評はなく、-わが感戟深き映画なり-とのみ記しておりました。公開されたのは、フランス語版でした。

尚、余談乍、日記によると当時は毎日のように映画館に入り浸りで、4日前の3月29日には、帝劇でCINERAMA第2弾「シネラマ・ホリディ」を観ておりました。余りにも高額な映画だった所為か入場券も残しており、値段は驚く勿れ400円でした。
詰まらぬことを書き連ね失礼しました。      弥吉 拝
by 今川弥吉 (2014-03-07 11:15) 

笑うオヒョウ

今川弥吉様 コメントありがとうございます。返信が遅くなり大変申し訳ありません。 大先輩の映画のお話をうかがい、驚くことばかりです。
昭和31年のロードショーが400円とは驚きです。 私はその20年ほどあとに、東京や横浜で映画を観ておりましたが、3本立ての名画座が多く、渋谷の全線座では、3本300円でした。 汚い映画館で、デートなどには勿論使えませんでした。 誘う相手もいませんでしたが・・・。 私のブログに書ける、映画の話題は、たくさんあります。時間が無くて、みんな書き掛けですが・・・。 外国映画、日本映画、その他もろもろ書き散らそうと思います。その際、またコメントを頂ければ幸いに思います。




by 笑うオヒョウ (2014-06-22 04:58) 

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