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【 凶器と狂気 農薬は凶器か 】 [雑学]

【 凶器と狂気 農薬は凶器か 】

 

米国で銃の無差別乱射事件が起こるたびに議論されるのが、銃所持規制です。たちまち多くの反対意見が出て、この銃規制は、なかなか前に進まないのですが、反対する人はさまざまな理屈を唱えます。中には、憲法に保証された権利を奪うから反対という意見もありますし、「銃は悪くない。悪いのはそれを悪用する人間だ。罪のない銃を規制するのはおかしい」という意見もあります。この詭弁中の詭弁は、もし詭弁についての教科書を作るなら、筆頭で挙げられる論法です。

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確かに、現代の刑法では、犯罪の動機とか実行を決断した者の責任を重視します。そして銃には意思や判断能力は無い訳ですが、道具を擬人化して責任論を展開するナンセンスさは幼稚さそのものです。それを言い出すと、核兵器や生物・化学兵器も含め、全ての兵器や武器に罪は無く、解禁していいことになってしまいます。

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犯罪の抑止、社会防衛の観点から考えると、(犯罪を起こすかも知れない)人を取り締まることができない以上、手段を規制し、凶器となりうる武器を取り上げるのは対策として当然です。 こんなことは、日本では16世紀の秀吉の刀狩りの時に決着が付いた議論なのですが、米国ではいまだにこんな議論をしているのです。

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では、それなら凶器とは何か?どこで線を引くか?となると、米国にはそれなりにガイドラインがあります。 即ち、その道具・装置の存在理由というか、何を目的に作られたものか・・が重要になります。

その結果、例えば、殺傷能力としては鉄砲に対してはるかに劣る日本刀が禁止されています。つまり、持ち込み、所持、売買、使用ができないのです。

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その理由と言えば、日本刀は紛れもなく、人を殺傷するために作られた道具であり、人を殺傷する事に特化し、それ以外に使いみちが無い。すなわち凶器であり、禁止の対象になる・・ということです。

日本刀で他人を殺傷したり、自殺・自傷する例は近年ではごく稀で、拳銃による殺害事件や自殺に比べれば圧倒的に少ないことや、日本刀は優れた美術品であることを説明してもダメです。

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一方で、鉄砲はどうか?というと、銃の種類にもよりますが、必ずしも人殺しの道具ではないという回答が来ます。 つまり、銃の用途の多くは狩猟用であり、猛獣(北米なら灰色ヒグマやガラガラヘビ)から身を守るためにも必要。 犯罪者から身を護るための護身用としても有用であり、護身用としては考えにくい日本刀とは違う・・という見解のようで、こちらは詭弁としては少し上等な論理です。

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凶器か否かを識別する方法として、本来目的や開発理由を考えるのは一つの考え方としては理解できます。 しかし、それがいつも正しいとは思えません。文明社会にある多くのものは、社会に対して、メリットとデメリットがあり、その比較で存在すべきか否かが議論されます。 武器や兵器もその対象です。

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では、化学薬品はどうか?という点について考えます。こちらは、兵器として開発された毒ガスなどを除き、多くは社会に役に立つものとして祝福されて世の中に登場しました。 しかしメリットとデメリットの比較は常に必要です。

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1970年代、日本では過激な新左翼がテロを頻繁に引き起こしていました。爆弾など、普通の人には作れるはずもないのですが、実は窒素肥料に使う硝酸塩などがあれば、誰でも作れます。時限爆弾の作り方を解説した「ハラハラ時計」などという物騒な書物も登場しました。 一市民でも爆弾製造を可能にする窒素肥料とは、はなはだ物騒ではないか?ということになりますが、農業や園芸をする上で不可欠な窒素肥料を禁止する訳にもいきません。 その結果、爆弾の製造方法を極力秘匿することで、爆弾が世の中に出回ることをかろうじて防いでいます。

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本来、なしで済むならそれに越したことはないけれど、どうしても必要なものというものがあります。 そのものが存在するメリットとデメリットを比較して、仕方なしに使うという訳です。 原発もそうでしたし、交通事故を起こす自動車もそうかも知れません。そして農薬もその一つです。現時点ではどうしても必要な存在です。

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いわゆる自然原理主義者達は、農薬や人工肥料、食品添加物を忌み嫌い、農薬なしで作った「奇跡のリンゴ」などという話を尊びますが、現実を直視する必要があります。農薬を全く使わなかったリンゴは、1年経ってもしなびないし腐らない・・という宗教がかった話は論外としても、「奇跡のリンゴ」がいかに非常識な存在かは明らかです。

現実のリンゴ農家は農薬を使わざるを得ません。

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一方で幾つかの農薬が凶器になるのも事実です。平凡な農村で暮らしていたとします。誰かを殺したいという暗い情念にかられた時、身近にあって犯罪を容易にするのは農薬です。 それが現実になった最も有名な例が「名張毒ぶどう酒事件」です。

農薬さえなければ、犯罪は起こらず、犠牲者も加害者もでなかったかも知れません。

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犯罪を誘発するだけでなく、多くの自殺者に手段を与え、誤飲による悲劇も多く起こっています。農薬が無ければ悲劇は防げた。・・それなら、農薬を禁止してしまえ・・・とはなりません。農薬が存在しているのは、下記の3条件の検討を経た結果です。

 

1.     農薬に代わる無害なもの(手段)が世の中に無いか?

2.     農薬によってもたらされる利益が害悪よりも、大きいか否か。

3.     意図的に悪用しない限り問題は起きないか?過失で事故が起きる可能性がないか?

 

以前、私は防腐剤を禁止すべきかについて書いた時、防腐剤原因で病気になる人より、防腐剤なしで食中毒やカビの害で病気になる人の方が多いと書きました。

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同じように、農薬を無くした場合、病虫害で失われる収穫量の低下や作物の品質の劣化が、農業経営を維持できないほど深刻なものになると私は予想します。

タイでは田んぼの収穫の内、実に1割が、動物(昆虫からネズミまで含む)によって失われるといいます。 そのような環境下では、農薬は不可欠です(ネズミには殺鼠剤ですが・・)。

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しかし、農薬が不可欠なものだと認めたうえでも、農薬の改善は進められるべきです。 上記の3条件のうち、2.の害悪を軽減する必要がありますし、さらには1.の可能性も追及するべきです。

私は有機リン系の農薬に代わる有望な農薬としてネオニコチノイド系農薬が出現したことを念頭に置いて、有機リン系農薬の退場を考えた訳です。

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それがミツバチの大量死や脊椎動物も含めてアセチルコリンへ害をなす薬剤だと知ったのは最近です。 詳しくは拙稿【 ミツバチはどこへ行った 】をご覧ください。

私の不明を恥じる次第ですが、これからは有機リン系とネオニコチノイド系の相対比較の議論です。

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有機リン系農薬とネオニコチノイド系農薬のどちらが人体に有害か、あるいはどちらが環境に対する負荷が大きいかは、時間をかけて慎重に調べる必要があります。

ただ、一つ言えることは・・、両方が共存するのは最悪の状態だということです。

有機リン系とネオニコチノイド系を併用すれば、最も凶なる結果が得られると私は思うのです。 確たる自信はありませんが、化学なんて大抵そんなものです。

どちらか一方に限定すべきでしょう。

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では最上の対策は何か?有害な鳥獣、病害虫から農作物を守る、最上の方法は隔離だと私は思います。 これはアフリカの猛獣がいる国立公園と同じ理屈です。

セレンゲティ国立公園では、人間の行動範囲とライオンの行動範囲が重なります。甚だ物騒な話ですが、かといってライオンという種を絶滅させることはできません。そこで人々はトゲのある樹木の生垣で住居を囲い、ライオンの侵入を防止します。一方で夜間の水場など、猛獣の出没する場所への接近を慎みます。そうしてマサイ族とライオンは共存します。

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日本の農業でも同じです。ニカメイガもツマグロヨコバイも入って来ない工場で稲を育てれば、或は花粉の媒介時以外には虫が入らない空間でバラ科の果樹を植えれば、殺虫剤や農薬は要りません。 夢のような話ですが、無農薬の農産物に高い代価を支払う日本の消費者には理解され、一定の市場を確保できる可能性があります。

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他にも手段はあります。有害な虫や病原体の天敵を大量に環境に放つ方法もひとつです。 さらには電磁的、光学的な方法もあります。

例えば、病害虫が、境界線を通過した瞬間にレーザー光線を発射して焼き落とす方法もあります。 ピレトリンを使わなくても、蚊取り線香を使わなくても蚊を撃墜できます。

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一方で、優れた農薬の濡れ衣を除いてやる必要もあります。シラミなどに劇的な効果がある優れた農薬DDTは現在禁止されていますが、その科学的根拠は薄弱です。逆にDDTを使えなくなったことによる損害は莫大です。

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そのあたりを、一種の宗教である自然原理主義に染まっていない、冷静なマスコミが報道すべきなのですが、全くしません。サイエンスライターが不足しているのか、それとも左派系マスコミ人の脳がネオニコチノイドで汚染されているからなのか、私には分かりませんが。


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