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【 満天の星 】 [雑学]

【 満天の星 】

12月は星空を見上げる季節です。 既に終わりましたが、12月中旬と言えば、赤穂浪士の討ち入り(12月14日)、ベートーベンの誕生日といった記念日が思い当りますが、12月中旬は私にとって、ふたご座流星群の季節です。

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今から10年以上前ですが、20年以上勤務した会社を辞職し、新しい会社に移ることになりました。 12月末での退職を前に、来し方行く末・・というか、いろいろなことを考えて眠れない日が幾晩かありました。 その時、寝室の窓から鮮やかな流星群を見たのです。 巨大なパラボラアンテナの影の上を、太平洋の方角に飛ぶ、幾つもの明るく鮮やかな流れ星に、なんだか勇気づけられた記憶があります。あれは、不思議な、そして鮮やかな記憶です。流星は人の心に何か影響を与えるようです。

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流星群を見て、感動したり、心境の変化があった・・という話は、私以外にもあります。 作家、関川夏央の短編集「砂のように眠る」の中にある「ここでなければどこでも」にも登場します。この中には、故郷を脱出したいと思う田舎の青年が、ペルセウス座の流星群を見て、思いを強くする話がありました。 この主人公が関川夏央本人であることは言うまでもありません。 彼はジャコビ流星群も観察に行ったそうで、流星群には特にこだわりがあるようです。

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それに加えて今年は彗星の当たり年です。 12月中旬にはラブジョイ彗星が接近しました。 彗星にしても、流星群にしても、ありがたいことに天体望遠鏡などの大げさな道具は必要ありません。 彗星については双眼鏡ぐらいはあった方がいいかも知れませんが、流星群は、広角の視野が必要ですから、単に地面に寝転がって、大空を見上げるのがいいのです。でもこの12月は空を見上げる機会がありませんでした。

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冬は空気が澄んでいて、そして水蒸気も少ないので、満点の星は降る如く迫ります。  鹿島にいれば、星を見る機会もあるのですが、東京ではそうもいきません。 思えば、私の人生は、冬の星空を鑑賞できる時と鑑賞できない時が交互に訪れます。

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少年時代の北陸の冬は、雪雲と雨雲の世界です。太平洋側に来て、晴れ渡った透明な冬の空を見ましたが、夜空については、都会は明るくていけません。鹿島の土地に暮らし始めて、初めて、澄んで透明な夜の大気の向こう側に、鮮やかで明るい星、そして天穹を横切る雄大な銀河を見ました。私は、なんとなく、この町で暮らすことが楽しみになりました。

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その後に暮らしたシカゴも美しい夜空の町でしたが、冬は寒すぎていけません。ロンドンの冬は、日本の北陸と同じ曇天の日々であまり星は見えません。 中国の沿海部は、今ほどではないものの、スモッグの世界でした。星空は全く見えず、蒼穹ではない白っぽい天が広がります。 

「工業化が進んだ沿海部はだめでも、内陸では星空が広がるのだろうね」と中国人の友人に言うと、

「とんでもない。内陸の方が空は曇っていますよ」。 「四川省成都の犬は太陽に吠える・・というのを知っていますか? 曇天が続く成都では太陽が見えません。たまに姿を現した見慣れない太陽を見て驚いた犬が吠えるというのですよ」

なるほど・・・月に吠えるのなら朔太郎だけれど、太陽に吠えるというなら、四川の犬は石原裕次郎か・・と中国人には分からないことを呟きました。

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星を見て感動したり、感傷にふけるのは、日本人なのか、西欧人なのか、それとも草原の羊飼いなのか・・誰がふさわしいのか私には分かりません。

星空を歌った歌といえば、中学校で習う「冬の星座」を思い出します。 「月なきみそらに横たう光・・・」で始まる唱歌(「冬の星座」または「星の界」)は、冬の夜空の美しさを歌っていますが、元の讃美歌「いつくしみ深き」の英語の歌詞には夜空も星座も登場しません。 ただ主を讃えている歌詞が登場するだけです。 そうか・・日本人の思い入れで、冬の星座を詠みこんだというわけか・・。

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そして、夜空の星を讃えた人物といえば、やはりカントを考えなくてはなりません。 彼の墓碑銘にある、最後の言葉

Zwei Dinge erfüllen das Gemüth mit immer neuer und zunehmender Bewunderung und Ehrfurcht, je öfter und anhaltender sich das Nachdenken damit beschäftigt: der bestirnte Himmel über mir und das moralische Gesetz in mir.

「我が仰げる満天の星、我が内なる道徳律」は、ドイツの冬の夜空を見上げて得た感慨に違いありません。 やはり、夜空の星は西欧人にぴったりです。

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余談ですが、緯度の高いドイツや英国で夜空といえば、冬です。夏の夜はあまり暗くならず、そしてあまりに短いのです。 シェークスピアの「真夏の夜の夢」とは、あまりに短いはかない幻であることを意味します。

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ああ、流れ星も彗星もなくてもよい。ただ威圧感をもたらすほどの多くの星と天穹を跨ぐ銀河を見たい・・・。

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そういえば、何年も前ですが、クリスマスの頃、Y教授とM医師と3人で食事をしたことがあります。あの食事の後、晴れた金沢の夜空に、西に飛ぶ流れ星を見た記憶があります。

「あの星は、ひょっとしてベツレヘムの方角に飛んだのかな?それなら聖なる御子が誕生するのだが・・・」

おっと、残念、こちらは3博士というわけにはいきません。私オヒョウだけは博士号がないのです。


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