SSブログ

【 防空識別圏について考える その2 】 [中国]

【 防空識別圏について考える その2 】

中国の設定した防空識別圏には、それ以外にも問題があります。

3.飛行機の航続距離が足りない。

戦闘機スホーイSu-27(中国名 殲撃11)の航続距離は約4000Kmです。作戦行動半径は、航続距離の1/3程度ですから、作戦半径は1000Km以上となり、防空識別圏をカバーするのに十分なようですが、それは違います。 スクランブルの場合、一定時間、相手の飛行機と対峙して飛び続ける必要があります。また現地に駆けつけるのにも超音速で飛べば、あっという間に燃料はなくなります。

沖合500Kmまでの防空識別圏をカバーするのに、ロシアや中国の戦闘機ではやや無理があります。

・・・・・・

過去に樺太(サハリン)上空で旧ソ連の領空を侵犯した大韓航空機が、スクランブルで飛び立った戦闘機に撃墜されたことがあります。 最初に飛び立ったMig-23は、オホーツク海上で燃料が続かずに引き返し、それを引き継ぐ形で追跡したSu-15によって、最終的に撃墜されたのですが、ミサイルを発射する直前にパイロットが「もっと早ければよかったのに」と呟いています(ロシア語で)。

・・・・・・

これは、ぐずぐずしていると大韓航空機が領空を脱して日本海へ抜け、拘束する機会を失うという意味もありますが、Su-15型機の燃料が続かず、着陸誘導する時間が無いために撃墜せざるを得なかった・・という解釈もあります。

旧ソ連ではムルマンスク付近で大韓航空機が凍結した湖に強制着陸させられた例もあり、時間的な余裕があれば、強制着陸させるのが旧ソ連の考えだったと思われます。 しかしSu-15の滞空時間は限られていました。

・・・・・・

高速で目標地点に到達し、追尾し、一定時間並行して飛行する必要があるアラート任務に使える飛行機は限られ、防空識別圏を広くとれば、対象の飛行機はさらに制限されます。

空中給油機を使う方法もありますが、ナンセンスです。たとえば、緊急出動した消防車が火災現場に到着する前にガソリンスタンドで給油することをイメージしてください。

4.IFF(敵味方識別装置)をどうするのか?

防空識別圏を管理する場合、飛来する航空機や艦船の敵味方を迅速かつ正確に区別する必要があります。電波を使って一定のプロトコルの通信をし、敵味方を確認する訳ですが、その装置は西側と東側で違います。

西側はSIFと呼ばれる高性能識別装置がありますが、それでも時にはミスがあります。かつて米海軍のイージス艦がイラクの民間の旅客機を撃墜したことがあります。

まして東側のIFFは遅れており、敵味方の識別も、軍用機と民間機の区別も簡単ではないはずです。 防空識別圏の東端付近を飛ぶB52を仮にOTHレーダーで確認できたとしても、それがB52爆撃機なのか、B747旅客機なのかを知ることはできません。

・・・・・・

防空識別圏でのアラート任務は、秋のキノコ狩りに似ています。目標を見つけるのにも一苦労ですが、それが有害なのか無害なのかを知る為には、別の能力が必要です。 IFFの技術が貧弱な中国が、防空識別圏を設定して運用するのは、はなはだ危険なのです。

5.日本だけを対象にすることはできない。

中国が、反発したい相手は台湾でも韓国でも米国でもなく、日本です。今回の防空識別圏も日本を念頭に置いており、日本を封じ込めて尖閣を窃取するために設置したのです。しかし、防空識別圏は、この空域を飛ぶ全ての航空機を対象にするため、各国の民間機がひっかかってしまいます。オーストラリアや英国が反対の急先鋒に立つとは中国は予想していなかったようです。

・・・・・・

伝統的に中国は日本に対抗する時は、真正面から抵抗するだけでなく、他の国に働きかけて搦め手(からめで)から日本を攻撃しました。つまり多数派工作ですが、20世紀の日中戦争では、宋三姉妹やパール・バック等の中華民国の工作員が米国に働きかけ、見事に日本の孤立化に成功しました。

・・・・・・

その手法は戦後も続き、日本を孤立化させる政策は、江沢民、胡錦濤、習近平まで続いています。それなのに、今回は見事に失敗し、日本の味方は増える一方で中国自身が孤立してしまいました。

・・・・・・

中国は今回の防空識別圏の設定には何年もかけて準備してきたと発表しています。

しかし、それは‘空警2000’という早期警戒機の開発や、殲撃10や殲撃11といった迎撃戦闘機の数の充実に時間を掛けたというだけで、日本以外の諸外国への根回しは全くできていないようです。中国お得意の工作ができていません。

・・・・・・

これは防空識別圏の設定が、文官の政府主導ではなく、人民解放軍の主導で行われたことの証左です。 前述の通り、中国政府は、他国の懐柔と、外交での多数派工作が得意です。一方で軍隊は他国と喧嘩することが仕事ですから、外国と仲良くすることは苦手です。

・・・・・・

今回、防空識別圏で四面楚歌になってしまったのは、人民解放軍がイニシアチブをとったからだと私は推測します。そして、これは周辺諸国にとって、防空識別圏などよりはるかに大きな災いです。

・・・・・・

中国でシビリアンコントロールが機能しなくなったら、あるいは諸外国の事情や外交に疎い軍人が主導権を持ったら、危険この上ないことになります。

・・・・・・

牡羊は自分の角を意識しないまま、藪に突っ込んで、枝と角が絡まり、身動き取れなくなります。一方、牡鹿も角を持ち、枝に絡まりますが、彼らは無暗に藪に飛び込んだりはしません。

しかし、鹿と馬の区別がつかず、鹿なのに自分は馬だと錯覚して藪に飛び込む愚かな鹿もいるようです。中国の人民解放軍が、鹿と馬との区別がつかない‘バカ’でないことを祈るだけです。


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。