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【 防空識別圏について考える その1】 [中国]

【 防空識別圏について考える その1 】

中国の易経に「羝羊(ていよう)藩(まがき)に触れてその角に羸しむ(くるしむ)」という言葉があるそうです。 これは牡羊が垣根に突進して、木の枝に角が絡まった結果、にっちもさっちもいかなくなって動けなくなった状態を指します。

実は旧約聖書の創世記にも、木の枝が角に絡まって動けなくなった牡羊をアブラハムが生贄として捧げるという逸話があり、その共通点に驚きます(誰も指摘しませんが・・・)。

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ところで、人間も短慮に走って、後先考えずに行動し、その結果、進退極まった状態になる事がありますが、まさにこの言葉はそれを戒めています。

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今回、この言葉を捧げたいのは、中国政府です。彼らが宣言した防空識別圏なるものは、首を傾げる点が多く、実に理解に苦しむものです。おそらくは日本への嫌がらせでしょうし、各国にそれを認めさせることで、尖閣諸島の領有に関してなんらかの既成事実か、有利な状況を作り出そうというものですが、愚かなアイデアです。 実際、日米を含む各国に無視され、今更、振り上げた拳を下ろすこともできず、対応に苦慮しています。こんなことなら、防空識別圏の宣言などしない方がましだったのです。

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一体誰が言いだしたのか?と思っていると、フジテレビが解説してくれました。中国の共産党系の新聞「環球時報」に掲載された羅少将の論文が発端だそうです。この人物、領土問題などに関して、しばしば威勢がいいというか、中国人読者には耳に心地よい、勇ましい(そして荒唐無稽な)発言をする退役軍人としてインターネット上では有名な人物です。

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環球時報の記事を私は読んでいませんが、フジTVのニュースのバックに映った文面を見ると、「防空識別圏の設定は日本人だけの特権ではない」という文章があります。

ははぁ、「日本もすなる防空識別圏なるもの、支那もしてみんとて・・」という土佐日記みたいな発想で、自分もしたかった・・ということなのか・。

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それにしても、新聞に書かれた東シナ海の地図を見る限り、中国の宣言した内容はむちゃくちゃです。ちょっと思い当たるだけで、たくさんの問題点が見つかります

1. 領海と排他的経済水域(EEZ)を混同しているのか?

本来、防空識別圏は領空を侵犯する恐れのある航空機に対処するために設定されるものです。むろん、飛行機は高速ですから、領空のさらに外側に防空識別圏を置く訳ですが、両者はそれなりに対応します。

しかし、中国の設定した識別圏はEEZ(いわゆる200海里)に侵入する外敵または不明機に対応するための線引きのように見えます。これでは他の国には通用しませんし、第一、そんなに広い空域を警戒警備するとなると、空軍も大変です。

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そもそも、中国のEEZなるもの、その根拠がデタラメです。 普通、2つの国の間の海の幅が400海里以上無い場合は、中間線で区切って、同じ幅のEEZを持ちます。 英仏海峡などがそうです。 しかし東シナ海では、中国は独特の論法を持ち出します。すなわち、大陸棚と大陸棚斜面は陸地の延長であり、その陸地を持つ国のEEZになるべきであり、境界線は海溝の最深部で引かれるべきというものです。この論法であれば、浅い東シナ海の大半が中国のEEZになり、境界線は沖縄(南西諸島)の近海になってしまいます。

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中国の発想はユニークですが、その論法で一貫していれば、まだ理解できます。しかし中国は南シナ海では中間線を境界にすべきだ・・と、違う主張をしています。 その時々で自分に都合のいいルールを持ち出すというのは、中国で仕事をしているとしばしば経験するのですが、国家レベルでもそうなのです。

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もっとも、最近はさらに主張が変化し、南シナ海を中国の領海であると主張しだし、沖縄も中国のものだと言い出していますから、ある意味で整合性は取れていますが・・。 防空識別圏の根拠となるEEZも中国の領海である・・と言い出すかも知れません。

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ところで脱線しますが、このスタイルは湾岸戦争前のイラクの主張に似ています。

サダム・フセイン率いるイラクがイランと戦争していた頃、戦費に困ったイラクはクエートから借金をしています。しかし、その戦争は勝利者のないまま終結し、返せなくなったイラクはクエートに借金の棒引きを求めます。

結局、クエートはイラクの要求を呑みます。

次に、イラクはクエートの油田は国境をまたいで地下でイラクにつながっており、クエートはイラクの石油を盗んでいる・・という言いがかりをつけます。クエートはイラクの言いがかりを渋々みとめ、金をイラクに払います。

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次にイラクは、戦車部隊をイラクとの国境線に集め、「イラクとクエートの国境線はかってに英国が引いたもので認める訳にいかない。そもそも我々はクエートという国家を認めない」と言って侵攻しました。殆ど軍隊を持たなかったクエートは一瞬にして占領されましたが、これを弱いものいじめと判断した米国が参戦し、イラクは敗北しました。これが湾岸戦争です。

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最初は借金も国境線も認めていたのに、だんだん図々しくなって、要求がエスカレートし、国境線どころか国家そのものを認めないとするところが、中国の周辺諸国への対応に似ています。

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2. レーダー波が届かない。

地上にあるレーダーの電波は直進しますから、水平線までしか監視できません。その向こう側まで探知しようとすれば、OTHレーダー(Over The HorizonRaderという特別なレーダーか、早期警戒機(AWACS)という航空機を飛ばして調べるしかありません。 しかし中国ではその種の装置がまだ充実していません。高性能のOTHレーダーが中国にあるとは思えませんし、中国の早期警戒機「空警2000」という飛行機のレーダーはせいぜい半径400km程度しか、探索できません。それにその数も4機だけとされています。

日本の早期警戒機(E-767)も4機ですが、それ以外にE-2C機がたくさんあり、防空識別圏をカバーしています。中国の場合、海岸から500km以上も先まである防空識別圏を24時間、くまなく監視できる体制があるのかはなはだ疑問です。

人工衛星で監視する方法もありますが、小型で高速でかつ電離層を乱さない航空機の場合、人工衛星がすべてを捕捉することはできません。

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NHKの解説委員は、中国もようやく防空識別圏を24時間監視してアラート任務(空軍の戦闘機がスクランブル発進する体制)が整ったと発言しましたが、疑問です。

実際、水平線の向こう側まで常時監視するといっても簡単ではないのです。

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先日、米軍のB52 2機が、中国が設定した防空識別圏の東端を飛行した際、中国側の緊急出動(スクランブル)はありませんでした。中国は、最初の段階から米国の爆撃機の存在を把握し注視していた・・と説明していますが、それは嘘でしょう。

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その後、自衛隊機と海上保安庁の航空機、米軍機に対してスクランブルをかけたと中国当局が発言していますが、これも嘘でしょう。中国大陸の沿岸から沖縄本島近くの不明機に駆けつけるには、超音速でない限り数十分かかります。それでは間に合いません。

以下 次号


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夏炉冬扇

こんばんは。
識別圏の件はもうむちゃくちゃですね。素人目にも。
by 夏炉冬扇 (2013-12-05 17:41) 

笑うオヒョウ

夏炉冬扇様 コメントありがとうございます。

かつて、中国は平和勢力であり、覇権主義ではなく、日本こそが軍国主義で帝国主義に向かっている・・と主張する人が多くいました。 最近の中国の行動で、それらの親中国の人達は、立場を失い、沈黙を強いられています。

そのことが、中国にとって大きなマイナスであることに中国は気づきません。識別圏の設定で、彼らが失うものの大きさを、理解できないのだとしたら、愚かなことだと思います。

またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2013-12-06 06:18) 

今川弥吉


笑うオヒョウ さまへ。

こんにちは。
偶々、このブログを知ってから、オヒョウさまの博識に
舌をまき、時宜を得た話題に興味が尽きず、いつも
愛読させて頂いております。
(尚、この記事の表現:「..耳障りのいい..」は、乞ふ、ご訂正。)
小生、70歳代半ばを過ぎての楽しみの一つは、
気にいったブログを、朝から拝見することです。

是非とも、このブログが末永く続くことを希望しております。
                          弥吉 拝
by 今川弥吉 (2013-12-07 10:55) 

笑うオヒョウ

今川弥吉様

コメントありがとうございます。50代の私から見れば大先輩の今川様にお読みいただくのはうれしくもあり、緊張もする次第です。 分かったように昭和の時代のことを書くのがちょっと恥ずかしくもあります。

今川様のブログを拝見すると村山聖のゆかりの土地を訪問されたとのこと。 あの悲運の天才棋士のファンであられるとは驚きました。
現役のまま、世を去った将棋指しといえば、山田道美、熊谷達人、大山康晴を思い出しますが、ああ、もう少し生かして活躍させたかったと思わせる点では、村山が一番です。今度、大阪に行き、時間がある時に私も訪れたいと思った次第です。実際には、その時間が無いのですが・・・。
またのコメントをお待ちします。
by 笑うオヒョウ (2013-12-10 12:50) 

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