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【 400℃ について考える その1 】 [雑学]

【 400℃ について考える その1 】

 

原発が全停止した後の電力のやりくりは、亭主が失業した一家の家計のやりくりに似ています。

家族全員で節約を心がけますが、やっぱり足りません。 でも、家計を預かる大蔵大臣は、みんなになるべく窮屈な思いをさせないように、その深刻さや愚痴を口に出さずに、賄おうとします。やがて家族はアルバイトなどで、少額ずつながら、家計の足しにとお金を稼ぐようになります。

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東日本大震災の後、深刻な電力不足が語られ、多くの大企業や一般家庭が節電に協力しました。 しかし、結局、大規模な停電も、電力不足トラブルも起こらなかったではないか? 電力危機は電力会社と原発推進派が誇張して宣伝したデマではないか? という意見があります。 それは本当でしょうか?

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実はギリギリ、カツカツで回しているのは事実です。 火力発電所は余力の全くない状態でフル稼働しており、いつ発電所が故障して停電になるかわからない状態です。

これに対して地熱発電に注目せよ・・と訴えるのは大前研一氏です。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20131002/367514/?rt=nocnt

面白い考えですが、地熱発電にはいろいろな問題があります。

日本で実験的に運転された地熱発電所で、どういう問題があったかを検証したうえで、実現可能性を論じるべきなのですが、誰もそれをしません。克服すべき課題を考えたうえで、地熱発電を提案すべきです。

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地熱発電に限らず、いわゆる新エネルギーとか再生可能エネルギーに対して、発電の専門家は一種の偏見を持っています。小規模で低効率だからです。

それは、つまり火力発電があまりに高効率であるというのと同じです。熱機関の常識として、作動流体をなるべく高温・高圧にしてタービンを回す方が、効率があがります。

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そのために、火力発電では、超超臨界圧という、高温高圧環境を実現し、再熱再生という無駄のない熱機関を、時間をかけて開発してきました。

高温を安定的に維持するためには、断熱性に配慮する必要がありますが、そのためには設備を大型化し、相対的に表面積を減らす方が高能率です。

能率を追求した結果、火力発電所は大規模で超高温・超高圧のボイラーを持つようになりました。

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実は高温の実現・・という点では、原子力発電はさっぱりダメです。

軽水炉を安全に運転できる温度は意外に低く、そこから取り出せる蒸気は300℃程度です。 化石燃料を燃やして得られる火力発電では600℃~650℃の蒸気を利用できるのに、原子力はその半分の効率しかないのです。

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なんだ、原子力発電は優れた発電方法と言いながら、熱効率は悪かったのかい・と言われればその通りです。

これは、以前私がブログで疑問を呈したジルカロイを、燃料棒の被覆管に用いているからです。そして熱効率を改善するには、開発中の高温ガス炉などの登場を待たねばなりません。 しかし、今の日本では新型の原子炉の開発は全く絶望的です。

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でも、これは原子力発電に限った話ではありません。再生可能エネルギーの多くが、大規模化が困難で、しかも温度差を利用する方式では、低温しか確保できません。つまり熱効率は非常に悪いのです。 唯一高温を確保できるのは太陽熱発電ですが、これも安定的に高温を確保することは困難です。光を媒体に用いる場合、集光することで、温度を高くすることはできるのですが、大規模な設備が必要になります。そしてその割に効率が低いのです。

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地熱発電の場合も確保できる熱源は400℃ぐらいです。これでは、世の中の発電屋はあまり乗り気になれません。この温度でも原子力発電くらい大規模なら使えるのですが、一般に地熱発電は小規模です。何かいい方法はないか?

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それ以外にも地熱発電には問題はあります。例えば・・

温泉湧出地帯であるため、腐食性のガス(硫化水素や亜硫酸ガス)が雰囲気中にあり、設備が早期に腐食してだめになる。

あるいは、熱源を発電所に冷却されてしまうため、お湯の温度が下がったり、あるいは温泉が枯れるかも知れない。

自然の美しい風景を売り物にする観光地で、人工物の象徴のような発電所があるのは無粋の極みである・・とか。

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しかし、これらの対策は困難ではありません。

地熱発電は、噴出する水蒸気を利用する方式と、高温の岩盤に熱媒体を接触させて、熱を直接取り出す方式の2種類がありますが、確かに腐食性ガスの雰囲気ができる可能性はあります。また、ガス中の凝固成分が凝縮してパイプを詰まらせる可能性もあります。それらの対策は必要なのですが、近年、日本の金属工学は耐食性の優れた鋼管や鋼材の開発に成功しています。材料を選べば問題ありません。

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温泉が枯れたり、温度が下がるのでは?という疑問はありますが、高温物体を効率よく冷却することと、効率よくエネルギーを取り出す(温度差を取り出す)方法は矛盾します。地熱発電は高温岩盤を勢いよく冷やすことを目的にするのではなく、効率よくエネルギーを回収することが目的なので、問題はあまりありません。

ただし、比較的短期間で岩盤が冷えて発電できなくなる可能性もなくはありません。

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最後の、発電所が風景を損なう・・というのは考え方次第です。確かに地熱発電の候補地の多くは国立公園内にありますが、必ずしも人工物が風景を損なう訳ではありません。 日本の観光地では、神社仏閣、橋梁等、多くの人工物が自然の風景に馴染んで、観光地の価値を上げています。 つまり、センスのよい発電所を作ればいいだけの話です。

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地熱発電所ができれば、温泉・観光地が台無しになるというのは、迷信です。要は地元をどう説得するかです。

しかし、最後に温度が400℃以下と低く、熱効率が悪いという問題は残ります。原子力発電と同じです。誰も言いませんがこれが本質的な問題であることは明らかです。

 

ではどうすべきか? については次号に述べます。


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笑うオヒョウ

夏炉冬扇様

コメントありがとうございます。 続編をすぐに書きたいのですが、ある先輩の名前を出す必要があり、その了解を得るのにグズグズしており、遅れております。申し訳ありません。次のコメントをお待ちします。

by 笑うオヒョウ (2013-10-15 03:11) 

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